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039_ウサギ獣人のラビリお嬢様と従業員のヒヨリ

「お嬢様、お茶のおかわりは如何でしょうか?」


「えぇ…頂くわ。」


これはコンヨウ達との交渉が終わった直後の事。ヒヨリの申し出に力なく答えるラビリ。

そんな主人に気づかわしげに言葉をかけるヒヨリ。


「お嬢様、あのスイートポテト、とても美味しかったですね。」


「そうね。でも次食べた時には苦く感じそうだわ。」


「…お嬢様、お茶が入りました。」


「ありがとう…ねぇ、二人っきりの時はその呼び方やめなさい。」


「じゃあ、なんとお呼びすれば?」


「分かってるでしょう。お姉ちゃんって呼びなさい。ヒヨリちゃん。」


実はこの2人、腹違いの姉妹だったりするのだが、その事は本人達を含めたごく一部の人間にしか知らされていない。

二人きりになると甘えてくる姉に思わずため息をつく妹。


「…はぁ、姉さんは何時まで経っても甘えん坊ですね。」


「コラ、そこはお姉ちゃんでしょう。」


「嫌です。そんな子供っぽい呼び方。」


「ブーブー、可愛くないぞ~。」


「はぁ、全くしょうがないお姉ちゃんですね。」


「うん、あなたのそういうところ好きよ。」


拗ねる姉のご機嫌取りをする大人な妹。その事に気を良くしたラビリを見ながら呆れ交じりの声でヒヨリが話を切り出す。


「どういたしまして、それよりどうしました。今回はだいぶ参っているようですが。」


「そんな事分かっているでしょう。私は失恋しちゃったのよ。」


「見事にフラれちゃいましたね。お姉ちゃんの誘いをあそこまでバッサリ切る人、そうはいませんよ。」


「ちょっと、その言い草。私のガラスのハートが傷つくんだけど。」


「そのガラスって『硬質化』スキルでもかかっていますか?」


「ヒヨリちゃん、いい加減お姉ちゃん怒っちゃうぞ~。」


「はいはい、茶化してごめんなさい。でも本当に気にしているのはそこじゃないでしょう。」


姉が話を逸らそうとした事をやんわりと指摘する妹。全くどちらが姉なのか分からないという気持ちでヒヨリが話を促す。


「そうね。こっちが本心を隠しているのに本気で付き合えだなんて虫のいい話ね。だからかしらね。あんなにこっぴどくフラれたのは。」


「はい、おそらくあの方には本気の言葉しか届かないのでしょう。」


「そうね。素直に助けて欲しい、って言えたらどんなに楽かしらね。」


「向かい側の店のオーナーがコービット商会の後継者争いをしている叔父君だとは流石に言いづらいですよね。」


そもそも今がどういう状況であるかを思い返しながら、2人は苦い表情を浮かべる。


「父様はちゃんと後継者に私を指名したのにあのジジイが難癖をつけてきたのがそもそもの始まり。

そして父から受けた恩を忘れた腰巾着共があのジジイに金で買収された事で後継者争いはぐちゃぐちゃの泥沼状態。

結局、出た結論はスイーツ喫茶店による売り上げ競争。向こうはこちらの優秀なパティシエを金で買収したり、従業員に嫌がらせをしたりとやりたい放題。

もうダメかと思った時に出会ったのが、あの途轍もなく甘いサツマイモとそれを売る少年。

あのサツマイモを使ったスイーツがあれば一発逆転出来ると思っていたら、その少年がスイーツの売り込みにやって来た。

そのスイーツは驚愕の美味しさだったのに加え、あの革命的な発想。正直あの少年が生まれ変わりを司る運命神に思えたわ。」


「無理もありません。今こちらにいるパティシエも優秀ですが、起死回生の策を打ち出せるほどの者はおりませんでしたので。」


「でも一番嬉しかったのはヒヨリちゃんの紅茶を美味しいって言ってくれた事。

あの紅茶は疲れた私をいつも癒してくれる世界で一番美味しい紅茶だったから。」


「お姉ちゃん…」


今までの中で一番優しい表情を浮かべる姉に言葉を失うヒヨリ。だがその姉の表情が次の瞬間、みるみる曇っていく。


「でもそんな彼に私がした事はあのジジイと同じ事だった。

『金で人の心を買うような物言いが気にいらない』…っか。あの言葉は正直堪えたわ。」


「…お姉ちゃんは必死だっただけ。本当はそんな事思ってなかったんでしょう。」


「そう思いたいけど、実際はどうなんでしょうね。ちょっと自信無くなってくるわ。」


「でも彼はお姉ちゃんをビジネスパートナーと認めてくれています。今から挽回すればいいだけですよ。」


「そうね。でも難しいかも。あの子の周りにいた3人だけど、私の想像が正しければ全員化け物だわ。」


「えっ!お姉ちゃんがそんな事言うなんて珍しいですね。」


常に凛とした完璧超人の姉が発する弱気な言葉にヒヨリは驚きの声を上げる。

そんな妹の様子にラビリはその理由を語り出す。


「言いたくもなるわよ。まずあのシマウマ獣人だけど、彼はゼロス=ブラームスだわ。」


「えっと、あの『奇跡の配達人』ですか?」


「次にあの少女はスカンク族よ。」


「それって、絶滅したっていう毒の空気を使う暗殺者一族の…」


「そして極めつけはあの象獣人、彼は・・・・・・・・・よ。」


「はぁ!あり得ません!彼は死んだと公表されています。」


「でも彼のユニークスキル『調理道具生成』を使っていたのよ。」


「もしかしてお姉ちゃんのスキル『ワード検索』に引っ掛かったんですか?」


「えぇ、そして最後にあのコンヨウさんなんだけど。」


「…(ごくんっ)」


「全く何も引っ掛からなかったのよ。」


「はぁ!それこそあり得ません!だってお姉ちゃんのスキルはこの世界の知識にアクセスする超一級のレアスキル!それに僅かでも引っ掛からないなんて!」


「つまりこの世界は彼の事を知らないという事。そして彼が関わったもの、あのスイートポテトも検索不能だったわ。」


「それってつまり。」


「あのスイートポテトはこの世界にはない、異界の知識で作られたって事よ。」


「……」


姉のトンデモ発言に思わず黙り込む妹。


「いい、この事は絶対に秘密よ。」


「分かってますよ。そんな事言ったら変な人扱いを受けるだけです。」


「そうね、私のスキルって世間的にはよく分からないスキルだからね。」


「そうでしたね。お姉ちゃんは世間では使い勝手の悪い『鑑定』スキル持ちって扱いでした。」


「……」


妹のその言葉に微妙な表情で沈黙するしかない姉であった。

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