038_静かな苛立ち
「素晴らしいものを頂きましたわ。では早速交渉ですが、まずはそちらの条件からお願い致しますわ。」
話を切り出すのはラビリお姉様だ。だがその前に、
「はい、その前にメニュー表を見せて貰っても宜しいでしょうか?」
僕のその言葉にラビリお姉様は疑問に思いながらも笑顔のまま、僕にメニューを渡す。
実はこの店についてはエレフさんが前もって調査をしているのだけど、その時聞いた話に一つ気になる事があったのだ。
「う~ん、なるほど。スイーツの相場はおおよそ2000フルールより上と言ったところでしょうか。
やっぱりお砂糖代が高くつくんでしょうか。紅茶は700フルール、輸入物だからでしょうかね。」
そう、この世界のスイーツは軒並み高い。おそらく客層は富裕層のみだろう。
おやつと飲み物だけで2~3000フルール超えは庶民にはキツイ。まぁ、機械による大量生産とか出来ないから仕方無いけど。
クッキーで1800フルールってちょっとだけ気になるけど、きっと日本のひと箱100円のクッキーの方が美味しいんだろうな。だってこっちってバターとか無いから。
そんな事を考えながら更に言葉を続ける。
「あの~、ちなみにラビリさんはこれをいくらで売り出すつもりですか?」
「そうですね…一つ3000フルールでしょうか。取り分は私どもが1000でそちらが2000です。」
この言葉に僕の顔はきっと思いっきり引きつっただろう。
でもそれは僕だけみたい。エレフさんは妥当だろうって顔してるし、パフィさんとゼブラさんも納得の表情だ。
そんな僕の様子に対して、ラビリお姉様は何を思ったのか、
「やはり安過ぎましたよね。これほどのものなら5000は取れるかと、でも認知度が低い内は余り高く売るのも…」
などとのたまい出した。ちげ~んだよ!スイートポテトぐらいで5000フルールとかぼったくりバーかよ!ザッケンナヨ!貧乏人は一生スイーツにありつけない世界とかマジありえね~んだよ!!
僕は全ての持たざる者の憎しみを背負いながら、それでも冷静に声を絞り出す。
「えっと、高すぎます。僕が考えていたのは、取り分は半々で一つ1500フルールです。」
「はぁ!!」×3
この言葉にラビリお姉様とヒヨリさんとエレフさんが声を上げる。
いや、エレフさんは僕の味方ですよね。なんであなたがそんなに驚いた声を上げるの?
驚きの余りフリーズする3人に僕なりの考えを説明する。
「いいですか。まず、このスイートポテトなんですけど、お砂糖を一切使ってないので原価が恐ろしく安いんです。」
そう、これの原価ってまず僕のお芋0フルール、乳製品は牛乳代のみで一つ当たりに換算した場合50フルールくらい。
あのミルさんのチートスキル、牛乳と同じ重さの乳製品が手に入るんだよな。本来の方法でバターを作った場合、牛乳の重さの20分の1ぐらいしかとれないって言うのに。あのスキル、マジで大概だから。
よって、僕らの儲けって一つ当たり700になるんだけど、そこから僕に100、エレフさんに300、ミルさん一家に200、ゼブラさんが100くらいの割合で分配してそれを毎日100個売ればかなりの現金収入になる。
ちなみに分配率は完全に適当なので応相談だね。もっとも僕はこれ以上下げる気はないけど。
お店側にしても別に外から買って来たものをそのまま横流しするだけって言い方は違うかも知れないけど、店で作らない分負担も小さいはずだし、一日当たりで750×100で75000儲けが増えると考えればそんなに悪い事じゃないと思うんだけどな。場所代とか客単価とかその辺りは分からないけど。
それからこの店でもう一つ気になる事があるんだよね。
「それからもう一つ提案したいんですけど、スイートポテトを頼んだお客様が紅茶を注文した場合、セットで2000フルールに出来ませんか?」
「はぁ!!」×3
そう、飲み物とのセット割引がない。これでは客単価の伸びもいまいちだろう。
この発言にまたしても、ラビリお姉様とヒヨリさんとエレフさんが声を上げる。
だからエレフさんは僕の味方ですよね。あなたは驚かないで下さい!
全く、ここでも思考の開示が必要そうだな。
「えっとですね。僕が目指すところは庶民の小金持ちの方々が月に一度ご褒美として食べられる価格なんです。
スイーツのお店って基本的にターゲットがお金持ちじゃないですか。それだと客層が限られるし少ないお客の取り合いになると思うんですよ。
例えば、このお店と目の前のスイーツ店のように。」
「!!!!!」×3
この考えにラビリお姉様とヒヨリさんとエレフさんが驚愕の表情を浮かべる。だからエレフさんはいちいち驚かない。
実はこのお店、少し前に出来た目の前のスイーツ店と客の取り合いになっていて現在劣勢にあるらしい。情報の出所はそう、エレフさんあなたですよ。
実は昨日、ラビリお姉様が僕に声を掛けてきたのも、『甘納芋』を使ったスイーツ開発が出来ないかと思ったからだろうとエレフさんは推測していた。
その情報を知った僕らはスイートポテトの売り込みを考えたのだけど、ターゲットを変えるという発想はみんな持っていなかったようだ。
「エレフさん。ちなみに向かいのお店は大体どのくらいの値段ですか?」
「向こうがやや高めだけど、見た目が派手でお客を引き付ける感じだったね~。味はこっちの方がいいけど~、お金持ちで味にそれほど敏感じゃない人なら向こうを選ぶかもってくらいの差だったよ~。」
「つまり、向こうの方がお金持ち受けするという事ですね。
そこで僕が考えた戦略は目玉商品としてスイートポテトを安値で販売し、客をこちらに集めると共に新たな客層を開拓すると言うものです。
そうすると紅茶とセットで2000フルールぽっきりというのは強烈なインパクトを与えられると思うんですよ。」
「………」
安ければ店に客が集まる。前世で僕を散々苦しめてきた呪いだけど、それは採算度外視だったからだ。
今回は採算で言えば完全に黒字だし、100個売れれば僕に10000フルール入ってくる。しかも競争相手がしょぼいからぶっちゃけ勝ち戦。
さて、ここまで説明したけど、ラビリお姉様はどの様な反応を示すかな?なんかめっちゃ肩が震えているけど。
「凄いです…よくそんな発想を…でもどうして紅茶とセットで2000フルールまでとお考えに?」
「それはここの紅茶が物凄く美味しかったからです。」
「えっ!!」
この時、静かに僕の話を聞いていたラビリお姉様の横で、小さいながら驚愕の声を上げるヒヨリさんの姿があった。
「例えスイートポテトが売り切れていても、ここの紅茶なら他のスイーツと合わせてでも飲みたい、そう思わせるだけの力がある。
だから、より多くの人に飲んでもらう事でこの店全体の利益が上がると考えたからです。」
………
たっぷり1分間ほどの沈黙、ラビリお姉様は深く考え込む。
そして次の瞬間、発した言葉は、
「ねぇ、あなた。ウチで働きませんこと?」
なんとまさかの勧誘、僕の返答は当然、
「お断りします。」
「何故ですの?報酬なら満足いく額をご用意いたします。」
このラビリお嬢ちゃんの言葉に僕はため息をつきたくなる。
「答えは簡単です。僕が大きすぎる報酬を望んでいないからです。
それに今回の事を功績というなら、その功績は僕に優秀なビジネスパートナーがいたからです。
僕一人を雇ったところで同じ事を出来るかと言えば答えはNoです。」
「では、「そしてなにより、その金で人の心を買うような物言いが気にいらないからです。今あなた、金で僕のビジネスパートナーも一緒に雇うと言おうとしたでしょう。」」
そう、彼等には彼等の考えがある。一人一人説き伏せて味方につけるならまだしも、金を僕に投げつけて思い通りにしようするその性根が気に食わない。目の前にいる彼等を無視するな。
それに僕に必要なのはお腹いっぱいになる事と平穏である事、それ以上は要らないんだ。
そしてそれを与えれくれたあの集落の人達に借りを返す為に今の僕があるんだ。
さて、お嬢ちゃんのせいで話が横道に逸れてしまったけど、強引に元に戻すかな。
「ところで、僕の提案はOKという事で宜しいでしょうか?」
「……はい、その提案、慎んでお受けいたしますわ。」
「では、交渉成立です。これからはビジネスパートナーとして宜しくお願いします。」
そう一礼して、僕らはその場を後にした。あんなに偉そうな事を言っておいて、怒られるのが怖いからさっさと逃げたいとは誰にも言えない、小っちゃい僕なのであった。




