037_パーフェクトスイートポテト完成
「ラ~ビ~リ~ちゃ~ん、遊びましょ~う~。」
「いきなり何なんですの?あなたは。」
コービット商会にやって来た僕は、早速茶目っ気タップリの挨拶をしたのだけど、ラビリお嬢さんはドン引き。全く、冗談も分からない様じゃ商売人なんてやってられないよ。
話を進めろ?すみません。すぐに進めます。
「どうも、ラビリさん。昨日ぶりです。今日は商売の話をしにやってきました。」
「そう、せっかくだから奥で話しましょう。お茶ぐらい出しましてよ。」
そう言って、笑顔で店の奥に向かおうとするラビリさんを僕が制止する。
「いえ、せっかくですので、コービット商会が経営する喫茶店で話しませんか?まだ営業時間前ですよね。」
実はコービット商会が喫茶店を経営している事とその内容についてはエレフさんが調査済み。
僕のこの言葉だけでラビリお嬢さんの目つきが変わる。どんなものを売り込んでくるのか、おおよそ予想できたのだろう。
ラビリお嬢さんは少し堅い表情でこちらに振り向く。
「宜しくてよ。参りましょう。」
短く僕の提案に応じた後、無言で僕らを先導すべく前を歩き出す。
僕らもおとなしくついていくのだが、その時にパフィさんがコソコソと僕に話し掛ける。
「何なんですか?あの凄い美人のお姉さんは!出来る女の匂いがプンプンするんですけど。」
「えっ!そうなの?僕って獣人さんの見分けがあんまり出来ないから。」
嘘!子供じゃなかったんだ。小さいしてっきり。そう呟くとゼブラさんが呆れながら僕に耳打ちする。
「コンヨウっち。お前、あのナイフみたいな女を子供だと思ってたのか。確かに美人だけど俺っちはああいうキツそうな女はちょっと。」
「そうですね。ゼブラさんはスフィーダさんみたいな可愛い系のお姉さんが好みですもんね。ずっといやらしい目で見てましたし。」
「チョッ!パフィちゃん。公衆の面前でそういう事言うの止めてくれない。俺っち変質者扱いされるだろ!」
「自業自得だと思うよ~。」
ゼブラさんとパフィさんの遣り取りに呆れながらジト目でツッコむエレフさん。エレフさんにしては珍しく声が少し冷たい気がする。
ラビリお嬢さん改めラビリお姉さんに付き従いながら、コービット商会の経営する喫茶店『スイーツショップ_ラビアンローズ』までやって来た。
「どうぞ、こちらにおかけになって。」
僕らは勧められるがままに席へと移動。
それからラビリお姉さんはエプロンドレス姿のキリッとした感じのウサギの従業員のお姉さんに2、3指示を出す。そして全員が席に着いたところで話が始まる。
「では早速ですけど、商談を始めましょうか。その商品はお茶と一緒の方が宜しいのでしょう?」
今まで、凛とした中にもどこか柔らかい雰囲気のあったラビリお姉さんの様子が、ゼブラさんの言った通りナイフの様に鋭くなる。これはあれだ、ラビリお姉様だ。
ラビリお姉様の指摘に僕は頷きながら、視線をエレフさんに向ける。
「ご明察です、ラビリさん。エレフさん、例のモノをお願いします。」
「う~ん、分かったよ~。」
そう言うとエレフさんは手元から大きさ20×10cmくらいの木箱を取り出し、その蓋を開ける。すると、
「これは…初めて見るものですけど、スイーツ…で宜しいですわよね。」
中には掌サイズよりも少し小さなスイートポテトが4つ並んで入れられている。
ちなみにこれは、もしかすると街でスイートポテトを売り込むかも知れないので一応用意したもので、その機会が無ければ僕らのお腹の中に入る予定だった。
木箱はスミスのジジイの『木工』スキルによって作成して貰った運搬用のもので、スイートポテトにはルクちゃんの『殺菌・防腐』スキルが掛かっている。
箱から漂う、甘い匂いにラビリお姉様と従業員のお姉さんの鼻がヒクヒクするのを感じる。
「すみません。ここにいる人達全員に食べてもらうには少し数が足りませんね。すみませんが僕らの食べる分はこの場で半分に切っても構いませんか?」
「えぇ、構いませんがどうしてですの?」
僕の指示にラビリお姉様は怪訝な顔をする。この場で切るって事に難色を示したのかな?でもOK出してるしなぁ、っと考えているとそれが顔に出たのか。エレフさんが理由を説明してくれる。
「こういう場所の場合、普通従業員の分は考えないものなんだよ~。だから数としてはラビリさんとコンヨウ君の分があれば十分なんだ~。」
「なんですか?それ。別にエレフさん達は従業員ってわけじゃないんですけど。」
この言葉に僕は表情は不機嫌なものになったのだろう。だってそうでしょう。パフィさんもエレフさんもゼブラさんも対等なビジネスパートナーだ。勝手に序列をつけて貰っては困る。
そもそも僕がやってる事ってお芋を出す事とちょっと交渉の矢面に立つ事くらいだ。対等ならまだしも偉そうに上に立つなんてありえない。
それにこの場でお茶を用意してくれる従業員のお姉さんを無視して食べるというのもいささか気が引けるし、売り込む商品を現場に知ってもらう必要もある。
なので、僕は僕ら4人は半分でラビリお姉様と従業員のお姉さんに一個ずつって思ったんだけど。その事を説明したら可笑しそうな顔をしたラビリお姉様が、
「フフッ、ごめんなさい、ヒヨリ。お茶は6人分に変更してくれるかしら。」
「畏まりました。お嬢様。」
と言ったのをきっかけに従業員のお姉さんことヒヨリさんがその場を退場する。
もしかしてこれってお茶を用意するヒヨリさんの負担になったかな?そんな事を考えていると、
「まさか、交渉相手の従業員の事まで考える人がいるなんて、正直驚きましたわ。」
等とラビリお姉様が愉快そうにコロコロと鈴を転がしたような声で語る。それに対して僕はこう答える。
「別に普通だと思いますけど。僕は経営者じゃないのでこういう言い方をすると不快に思う人もいるかも知れませんけど、経営者も従業員も等しく人ですから。
違いはあくまでも役割であって、お互いの感情を配慮する事はとても重要な事だと思います。
経営者側の報酬が高いのはあくまでの責任の重さに起因するもので、経営者が偉いからではありませんし、上下関係と言ってもそれは仕事上の役割に過ぎません。」
「だから、ウチの従業員にも商品の試食を勧めたと?」
「それもありますが、より多くの人達に商品を知ってもらう事が肝要だと思ったからです。立場が違えば意見も変わってきますから。
商売とは突き詰めれば利益の追求。そしてそれが長期的、恒久的であれば尚良いと思ったまでです。
端的に言ってしまえば、より多くのモニターが欲しかっただけです。」
そう、僕は優しさなんかで行動しない。あくまでも利益の追求、その為に行動する。
偉そうに経営者だけで商品の意見を出すより、多くの人達に食べて貰った方が絶対に良い結果になるはずだ。
その思いを僕が語るとラビリお姉様が愉快そうな笑みを更に深める。
「あなたは本当に面白いですわ。そろそろお茶も入る頃でしょうし、切り分けて頂けるかしら。」
「分かりました。エレフさん、お願いします。」
「うん~。分かったよ~。」
そう言うとエレフさんはその場にキッチンテーブルとまな板と包丁とお皿を生成する。
そこまで出来るの!この人マジで凄くない!僕が目を見開きながらそれを見ていると同じ感想を持ったのか、ラビリお姉様も驚愕の表情を浮かべる。
そしてエレフさんが配膳を終えるとちょうどのタイミングでお茶がやって来る。
「お嬢様、お客様。お茶になります。」
「…えぇ、ありがとう。あなたも席について頂きなさい。それからよく味わって感想を報告する様に。」
「畏まりました。お嬢様。」
ラビリお姉様の言葉を受けたヒヨリさんは僕らとは別のテーブルに腰掛ける。
それを確認した僕は試食を促す。
「では、ご試食下さい。きっと驚きになると思いますよ。」
「えぇ。頂くわ。」
「はい、じゃあみんなも頂こうか。」
「はい、せ~の。」
わぁ、パフィさん、ここでもそれやるんだ。まぁ悪い事じゃないからいいけど。僕もその方が好きだし。
「いただきます。」×4
僕らのいただきますにラビリお姉様とヒヨリさんは目を見開く。確かにこの習慣が無い人から見れば奇異に映るかな。
ちょっとフォローを入れておくか。
「どうぞ、お気になさらず召し上がって下さい。今のは僕らの集落での習慣で食べ物への感謝を捧げるモノです。」
「…えぇ、そうなのね。では……パクッ!!!!」
ラビリお姉様の一口を合図に皆が一斉に試食を開始する。
ラビリお姉様が目を見開いて固まっているけど、気持ちは分かるな。
だってこれって、僕が恋焦がれたスイートポテトの完成形なんだもん。その味はというと、
「なに…これ…サツマイモの甘味とよく分からないけど、乳かしら?そのうま味が混然一体となって口の中で広がったかと思うと儚く消える。」
「これほどの強い甘味とうま味なのに全くしつこくない。そして食べた後スッと溶ける様な口当たり。」
「凄いですよ!エレフさん!あれから更に進化を遂げてます。これはまさしく完成形。」
「凄すぎます。これって本当にお砂糖使ってないんですよね。この甘味、まさに神の一品です。」
「あぁ、甘いモノがそれほど得意じゃない俺っちですら、この旨さには驚嘆の一言だ。」
「ありがとう~。これは確かに完成形だけど~、その先の発展形が今、僕の目指しているところだよ~。」
「恐ろしいまでの向上心ですね。流石エレフさんだ。
ではお茶を一服…ふぅ、いい香りと優しい舌触り、本当に良い紅茶ですね。茶葉だけじゃなくて入れ方も素晴らしいです。最も高級茶なんて飲んだ事ありませんけど。」
「そうなんですか?ぼく、紅茶って初めてなんですけど口の中がスッキリしてとってもいいですね。」
「うん~、茶葉はグレプのマスカ産だね~。あそこはいい茶葉がお手頃価格で手に入るからね~。入れ方もしっかりゴールデンルールを守っている~。ここまでのものを淹れるのには相当練習が必要だっただろうね~。」
「へぇ~、流石エレフさんだな。俺っちには美味いって事しか分かんねぇや。」
「お褒めにあずかり、誠に恐縮です。」
「あら、あなたがそんな表情をするなんて珍しい事もあるものね。」
スイートポテトも紅茶も絶品で食べ終わった後、みんなの表情がとろけていた。
それを見たエレフさんの表情は誇らしげで、でも決して満足しておらず、紅茶を入れたヒヨリさんはどこか無表情だったその顔を赤らめてはにかむんでいた。
そして全員が試食を終え、いよいよ交渉という場面になった。ここからが商人の戦いだ。もっとも僕は商人じゃないけどね。




