035_委託販売
「では、焼き芋屋台の成功を祝して!!」
「かんぱ~~い!!」×4
今、僕らはナプールのとある居酒屋で、焼き芋販売成功の打ち上げ真っ只中だ。
僕が乾杯の音頭を取ると全員が飲み物が入った木のジョッキを打ち鳴らす。
まぁそれぞれ入っている飲み物は僕とパフィさんとスフィーダさんがリンゴジュース、ゼブラさんとエレフさんがエールなんだけどね。
僕とパフィさんは未成年でスフィーダさんは下戸らしくお酒は受け付けないそうだ。
ちなみにこの世界の成人は18歳だそうで、スフィーダさんは19歳で成人はしている。
そして、ゼブラさんが26歳でエレフさんが35歳。何となくそうだろうなとは思っていたけど、ゼブラさんも僕から見たらそれなりにおじさんだった。
ちなみに僕は死んだ時は16歳だったので、今世の年齢もそれを採用している。僕ってよく考えたら16で餓死って色々ひどくない。ちょっと今からクソ親父をコロコロしてきてもいいかな?
いかん、めでたい席なのにまたクロキコンヨウが出そうになっている。ダメだ!右目が!僕の邪気眼が疼く!あぁ、やっぱり頭が残念な事考えると一気に怒りが収まるな。
さて、どうでもいい事は置いておいて楽しい打ち上げだ。ちなみに打ち上げの費用は割り勘ね。みんなさっきあの腐れ受付から搾り取った賠償金10万フルール持っているから大丈夫だよね。
この世界ってお店屋さんのご飯は一食300フルールぐらいだし、1000フルールもあれば豪勢に出来るし、3000フルールも出せば宴会だって出来ちゃう。その分スイーツは高いけど。
目の前に並んでいるのは主食のふかしたジャガイモ、豪快に焼いた人の頭ほどの大きさがあるお肉の塊、魚の乾物を焼いたもの、レタスとトマトに半熟卵が乗っかったサラダにゆでた枝豆と食後にフルーツの盛り合わせで飲み物は飲み放題。
メインの肉料理は豚だろうか、味付けは塩とハーブで滴る肉汁の甘味がたまらない。魚はホッケに似た感じでお酒を飲む人にはいいかもしれない。サラダは新鮮で味付けは植物油と塩といたってシンプル。フルーツはリンゴやかんきつ類が中心。
どうやらこちらには醤油とか味噌とかお酢とかはないようで、味付けは大体塩と香草だ。それから当然マヨネーズやケチャップもない。この世界の食材は新鮮で美味しいのだけど、いまいち調理技術が発達していない感じだよね。その内余裕が出来たら調味料も作ってみたいな。
そんな風に食べながら考えているとパフィさんが同じく食べながら話を切り出す。
「ここの料理ですけど、確かに美味しいですけど、ちょっと味が濃いですよね。ぼくはエレフさんの料理の方が好きです。」
「パフィさん、こういうお店で他と味を比較するのは野暮だよ。」
「そうなんですか?すみません、ぼく知らなかったもので。」
「別に怒ってるわけじゃないけど。ほら、ここの料理が好きで食べに来ている人もいるわけだし、そういう話は店を出てからするべきかなって。」
「言われてみればそうですね。ちょっと反省です。」
うん、気持ちは分かるよ。こういうところの料理って不味くはないけどお酒を飲む人に合わせているからどうしても味が濃くなるんだよね。
16歳の未成年がなんでそんな事知ってるかって?前世のクソ親父の客がそんな事を言いながらクソ親父を褒め称えてたんだよ!僕自身はこういう店で食べるのは初めてだからそれを実感したのは初めてだよ!文句あるかよ!ボケがァ!!!
ちっ!新しい発見に少し気分が良くなってたのにいらん事思い出してしまった。その内脳改造でもしてもらって記憶消してもらわないと。やめろ~〇ョッカー!ぶっ飛ばすぞ!!みたいな。(お前いくつだよ。)
さて、素直に反省できるパフィさんに感心していると、今度はエレフさんが話を振ってくる。
「そういうコンヨウ君はどう考えてるんだい~。さっきから、ちょっと物足りないって顔しているけど~。」
「あぁ、顔に出ちゃいましたか。確かにここの料理は美味しいですけど、ちょっと調味料が物足りないと思いまして。」
「ん~?調味料~?」
「はい、ここの料理って基本的に塩と香草で味付けしてますよね。醤油とかお酢とかマヨネーズとかケチャップとか無いのかなって?」
「えっ!お酢は分かるけど~、残りは何だい~?」
やべ~!僕って懲りないな。またパンドラボックスがオープンされそうだよ。この世界はどうやら向こうに比べて食に貪欲じゃないみたいだ。そのせいで食品加工技術がそれほど発達してないみたいだね。
そりゃそうか。こっちにはルクちゃんの『殺菌・防腐』みたいな保存系って呼ばれるスキル保持者がそれなりにいるから、調味料や加工技術を工夫する必要性が向こうより低いんだ。あのスキルって有用ではあるけどレアスキルじゃないみたいだし。僕から見たら破格のスキルなんだけどな。
思考が逸れかけたけど、前世の立ち読みで得た調味料の知識をエレフさんに説明をするか。
「えっとですね。醤油は大豆と塩と麹菌を原料とした調味料で細かい作り方は分からないですけど、恐ろしく手間のかかったと思います。味は大豆の旨味と塩味、それから独特の香りがあります。
次にケチャップはトマトにお酢と塩と香辛料、それから玉ねぎとニンニクだったかな。それを煮込んで作る調味料で味はトマトの酸味と野菜のうま味、香辛料の香りがして煮込み料理やソースに使われたりもします。
マヨネーズは一番簡単で材料は卵黄と塩とお酢と食用油をかき混ぜて作ります。まろやかな酸味が特徴で様々な料理の味付けに使えます。ただ原料が油ですのでたくさん使い過ぎると太ってしまいますけど。」
「………」
この説明にエレフさんは呆然とした表情で黙り込み、そして暫く間を置き口を開く。
「凄いね~。そんなレシピ、聞いた事が無いよ~。調味料って言うのは砂糖と塩とお酢と香草、それから香辛料だけだと思っていたけど~、まさか他の食材を加工して調味料にするだなんて~。」
確かにこの世界ならそうなるかもね。お酢は多分お酒を造った時の副産物だろうね。他は原料を意図的に加工しないと作れないし。
どうも食に対する考え方が根本的に違うみたいだ。きっとキノコも食卓には上らないんだろうな。キノコ料理見た事ないもん。でも僕もキノコの見分けは出来ないからそういうスキルを持っている人が見つかるまではお預けだね。
いけない、どうも僕は考えが余所に逸れやすいみたいだ。エレフさんに返事をしないと。
「取り敢えず帰ったら僕が知っているレシピをお教えしますので、再現が出来そうなものは試してみて下さい。それから、買い物のリストにお酢と調味料も追加ですね。」
「そうだね~。なんか君と会ってからワクワクしっぱなしだよ~。」
なんかエレフさんが嬉しそうだけど、喜んでくれたならなによりだ。
そして話には加わらず、お肉に喰らいつくスフィーダさんと、そのスフィーダさんをエロい視線で眺めながら、お酒をちびちび飲み、干物を摘まむゼブラさん。
割り勘だから少しでも多く食べようとしているのだろうか?こういう時一番小食の僕は損をするな。お酒飲む人には多めに請求しようかな?飲み放題だから関係ないけど。
そんな事を思いながらゼブラさんをゴミを見る様な目で眺めていると、それを察したのかゼブラさんが慌てて話に参加する。
「そう言えば、コンヨウっち、って色々な事知っているけど、酒とかも造れたりするのか?」
「う~ん、それはちょっと出来ないですね。未成年ですし。ちなみこちらではどんなお酒があるんですか?」
「そうだな。大麦を使ったエールにブドウやリンゴを使った果実酒、後は芋や小麦を使った穀物酒だな。」
「へぇ~。お酒って変な匂いがするし、あんまり美味しそうに思えないんですけど。」
「かぁ~!これだからおこちゃまは~。この旨さが分かるのが大人だってのによ~。」
「自分の酒量を弁えるのが大人だという話は聞いた事がありますけど。ゼブラさんは少し酔って来たようですね。」
顔を赤らめて僕の肩に手を回し絡んでくるゼブラさんを冷たくあしらう。
どうやらお酒の文化は地球とそんなに大差ないのかも。もっとも地球のお酒の文化すら把握しきれていない僕には分からない事だけど。
さて、僕もお肉を食べるとするかな。っと思っていたらスフィーダさんとパフィさんでほとんど食べてるし!僕は慌ててお肉を確保しながらスフィーダさんに話を振る。
「ところでスフィーダさんって、すっごく食べますけど、やっぱりスキルの関係ですか?」
「もぐもぐ、はい。そうですね。わたくしはスキルのせいで常にカロリーを必要とする体になっておりますので。」
「その様ですね…」
そう同意して、今まで注文した者のお皿に目を向ける。山盛りだったジャガイモも、人の頭ほどの大きさがあったお肉も、皿に積まれたお魚も、こんもりと盛りつけられたサラダももうほとんど残っていない。その事に恨めしそうな目でスフィーダさんを見ていると、彼女が慌てて話を逸らす。
「そのせいで食費も馬鹿にならなくて。今回の臨時収入は本当にありがたいです。
わたくし、元々孤児院でお世話になっていたんですけど、食費のせいで迷惑かけてましたので、成人してからは少しでも孤児院のお役に立てればと思いお手伝いをしていたのですけど。」
「それで自分の食費切り詰めて倒れたんじゃ世話ないですね。」
「全く、返す言葉もございません。今回はどうにかなりましたけど、今後の事を考えると安定した収入が欲しいところですね。」
なるほど、これはなかなか大変そうだな。よし、こういう他人の弱みに付け込むのが僕のやり口だ。
ちょっとさっき思いついた事を持ち掛けてみよう。上手い事行けば僕も不労収入持ちだ。僕は下衆い笑みを押し隠しながら話を切り出す。
「スフィーダさん。それでは僕の商売に協力するというのはどうですか?」
「商売…ですか?」
僕の言葉にキョトンとした表情を浮かべるスフィーダさん。僕はおもむろにポーチに手を入れ、『食物生成(干し芋)』を実行し、あらかじめ4等分した状態で生成する。
使用した品種は『絹甘スイート』だ。
「僕が売り出したい商品はこれです。」
するとスフィーダさんは勿論、パフィさん、エレフさん、ゼブラさんの視線もこちらに集まる。まぁ、分かってたから4等分したんだけどね。
特にパフィさんの視線が肉食獣が獲物を狙っているみたいに鋭い。僕は苦笑いをしながらみんなに一つずつ干し芋を渡す。
そしてみんなの反応はというと、
「美味しいですわ。これってお芋なんですよね?」
「これ、凄く甘いです!干してるだけあって甘味が濃縮されている様です!」
「しかもこの手の保存食にありがちな硬さや筋張った食感がないよ~。これは『絹甘スイート』だね〜。」
「干し芋だから軽いし、保存性も高い。コンヨウっち、お前もしかして。」
どうやらゼブラさんだけは僕の意図を察したようだ。流石我が集落の兄貴分。今日初対面の女性にエロい視線を向けて、酒をかっ喰らうだけのダメ人間じゃないね。あんなあからさまな視線に気づかないスフィーダさんもなかなかだけど。
おっといけない。説明、説明っと。
「実はスフィーダさんにはこの干し芋を売り出して欲しいんです。エレフさん、値段はどのくらいが妥当だと思いますか?」
「そうだね~。300フルールでもいいかも知れないけど、認知度なんかを考えると200フルールくらいかな。」
「分かりました。ではスフィーダさんには200フルールで販売して貰って、売り上げはお互い100フルールずつという事で。
所謂委託販売ってやつですね。まず僕らが商品を納入し、売り上げから僕らにお金を支払って頂きます。」
「それってわたくし達が食べたりした場合はどうなりますか?」
「その場合は一つ食べたら100フルール支払って頂きます。在庫を確認して減った分を払って頂く形を取りますので。だから盗難等についても気を付けて下さい。
腐敗については『殺菌・防腐』スキルを使ってもらいますので、3ヶ月くらいは平気でしょうし、一か月以上売れない様でしたら、その干し芋は引き上げますので。」
「売る場所はどうしますか?」
「今日、使った場所を格安で借りられる様にギルドマスターに取り付けます。スフィーダさんならそんじょそこらの奴が相手なら問題ないでしょうし。
その辺の手続きはゼブラさんにお願いしてもいいですよね。」
「おい!コンヨウっち。俺っちあんまり難しい事は出来ないぜ。それによぉ…」
ここで僕は煮え切らない返事をするゼブラさんをみんなから少し離れた場所まで連れ出して耳打ちする。
「ゼブラさん。あなた、スフィーダさんに惚れてますよね。」
「どうしてそれを!!」
「そりゃ分かりますよ。あんだけエロい視線送ってれば。いいんですか?スフィーダさんにゼブラさんが視姦してましたよ、って言っても。」
「コンヨウっち!テメェ悪魔か!!」
「それに悪い話ばっかりじゃありませんよ。これを機にスフィーダさんと話す機会が増えますから。本当にワンチャンあるかも知れませんよ。」
「コンヨウっち!あなたは神ですか!!」
よし、下半身で動くクズの操縦は無事に完了した。後はスフィーダさんの説得だけだ。
僕とゼブラさんは笑顔でみんなの元に戻り話を続ける。なんかパフィさんとエレフさんの視線が冷たい気がするけど気のせいだろう。
「お待たせしました。ゼブラさんは快く引き受けてくれるようです。ねぇ、ゼブラさん。」
「あぁ、俺っち、お腹を空かせた孤児院のガキンチョ達を放っておけないしな。」
「まぁ、お優しいんですね。わたくし感激しました。」
「ははァ!!それほどでもねぇっての。俺っちに出来る事なら何でも協力するから大船に乗った気で頼っていいんだぜ。」
えっ!本当ですか?それじゃ、ゼブラさんが街に行くときにパシリとして十全に活用させて頂きますのでよろしくお願いします。
「さて、ゼブラさんのやる気については分かってもらえたと思いますので、後はあなたの決断だけです。スフィーダさん。」
ここで決断を促す僕に、意を決した表情でスフィーダさんが口を開く。
「是非とも、わたくしにやらせてください。」
この言葉を聞いて僕は口角がつり上がるのを感じる。
「では交渉成立です。書類については明日中にお渡しします。これからよろしくお願いしますね。スフィーダさん。」
こうして僕らはナプールの委託販売員スフィーダさんと契約を結ぶ事となった。
握手はしないよ。この人にこちらからそういう事しようとすると痴漢扱いされるから。




