034_預金口座を作っただけで神扱い
「すみません、マイトさん。あんな話の後で恐縮なんですけど、ちょっとご相談があります。」
「えっと…一体どのような相談でしょうか?」
腐れ受付に天誅を下したすぐ後、僕はせっかくなのでマイトさんにお金の管理の相談をする事にした。少し疲れた表情をしながら、それでも毅然とした態度で僕の質問に応じるマイトさん。この人、マジで尊敬するわぁ~。
「実は……」
「…なるほど、商売で稼いだお金を預ける方法を知りたいのですね。しかしよくあの区画でそんなに稼げましたね。」
「まぁ、それは企業秘密という事で。それよりいい方法はありませんか?」
そう僕が質問すると、マイトさんはすぐに笑顔で答えてくれた。
「では預金口座をお作りになる事をお勧めします。預金口座についてはご存じでしょうか?」
その質問からか。この世界の文明レベルを考えると口座を作るのは一般的じゃないんだろうな。
勿論預金口座については知っているが、それはあくまでも日本での話なので一応説明を聞いてみる事にした。
「当ギルドではお金を預けていただいたお客様に『暗号化』スキルでパスワードを付与したカードを配布し、それを使ってお金の預け入れや引き出し、振り込みや小切手の決済などを出来るようにするものです。
お金の遣り取りについては各街にございます商業ギルドでしたら、どこでも行う事ができます。
カード発行料として1000フルールほど頂きますが、安全と利便性を考えればかなりお安い買い物だと思います。如何でしょうか。」
なるほど、カード発行料がかかる代わりに当座預金の機能も付いた銀行口座みたいなものか。『暗号化』スキルっていうのはおそらく不正防止の為のスキルだろう。
確かに機能を考えると1000フルールはお手頃だな。でも今の質問でパフィさんとゼブラさんの頭から湯気が上がってるんだけど。もしかして今ので分かったのって僕だけ?なんかマイトさんも不安そうだし。きっとこっちの人達には一般的じゃないから説明が難しいんだろうね。
「確かに、街を行き来する商人の人とか、大金を持った人にとっては非常に便利なサービスですね。
『暗号化』スキルの信頼性が少し気になるところではありますが、何か不正があった場合は勿論賠償して頂けるんでしょうか?あとカードを紛失、盗難にあった場合はどう対処すればいいでしょうか?」
「不正等については『暗号化』とは別に帳簿管理もしておりますので、そこで差異が生じた場合やお客様に申告があった場合は原因を追究し速やかに対処させて頂きます。
紛失、盗難につきましては当ギルドにお越しいただいて再発行の流れになります。その際には『暗号化』に使用したパスワードと再発行料が必要になりますのでお忘れなきようお願いします。」
なるほど、まだ色々とシステム上の穴はありそうだけど、大金を持って襲われるリスクとかお金を持ち歩く不便さを天秤にかけた場合、作っておいて損はなさそうだな。
「分かりました。取り敢えず、僕とパフィさんとゼブラさんとここにはいませんがエレフさんの分、それから集落の分も作っておいた方が良さそうですね。
ちなみに口座開設は本人しか出来なかったりしますか。」
「はい、預金口座に関する事は全て本人のみとさせて頂いております。ご不便かも知れませんが安全性の為です。何卒ご了承下さい。」
「まぁ、当然ですね。それじゃ取り敢えずここにいる人間全員分お願いします。」
「えっ??」×2
「ありがとうございます。ではお手続きの用紙を用意させて頂きますので、少々お待ち下さい。」
そう言って、マイトさんが嬉しそうに席を立つ。一方何のことか分からないパフィさんとゼブラさんがキョトンとした表情で僕に質問をぶつける。
「あの?コンヨウさん?さっきの話の意味、分かったんですか?」
「なんかスゲー頭の良さそうな話してたけどよ。」
「預金口座の話ですよね。簡単に説明するとギルドにお金を預かって貰って、必要な時にお金を引き出せるようになるって事ですよ。大金を持ち運ばなくていいから安全ですし、ギルドがある所ならどこでも引き出せるから便利でしょう。
それに今回貰う予定の賠償金もそこに振り込んでもらえますし。」
「はぁ~。」×2
そう説明はしたものの、二人はおそらく半分くらいしか理解できてないよね。まぁ、一緒に使いながら説明した方が早いかな。あっ!マイトさんが足早に戻って来た。
「ではこちらに記入をお願いします。」
そう言って記入用紙を手渡されたので中身を確認すると、内容は住所とかが無い以外は日本の口座開設の用紙とほとんど変わらなかった。
ただしパスワード設定は数字のみではなく、文字でも可能みたいだ。みんなそれぞれに暗号を記載していく。
暗号の内容はマイトさんには分かるらしく、何故か顔を引きつらせていた。
それから数分後、無事に預金口座が開設出来て僕はご機嫌だ。
やっと僕自身の自由にお金が使える口座が出来た。あのクソ親父の呪縛からまた一つ解放されたようで胸が高鳴るのを禁じ得ない。しかも入っている額が60万フルール。文無しからちょっとした小金持ちになった事が嬉しくてたまらない。これも『食物生成(焼き芋)』様様だね。
そんな風に浮かれている僕を余所にちょっと離れた場所ではこんな会話が繰り広げられていた。
パフィ、ゼブラSide
「ねぇ、ゼブラさん。コンヨウさんって一体何者なんでしょうね?」
「さぁな。あんな難しい説明を一発で理解して、しかも質問までしてたしな。少なくともただの平民の小僧ではないだろうな。」
「ある日、突然、何かの拍子でいなくなったりしないですよね…」
「分かんねぇ…でも俺っち達にはそうならない事を祈るしか出来ねぇな。」
コンヨウの持つ知識の異常さに彼がどこかに行ってしまうのではないかと言い知れぬ不安を感じるパフィとゼブラであった。
一方、マイト、アズラSide
「マスター。凄いですね、あの人。ほとんどの人が説明を理解できずに開設を渋るのに一発でこのシステムの利便性に気づくだなんて。」
「アズラ君、今の話を聞いていたんだね。立ち聞きは良くないと注意したいところだが君の感想はごもっともだ。
だが本当に凄いのは、彼はこのシステムの利便性だけでなく、欠点も理解し質問してきたところだ。
そして不正や保障についても確認し、利便性と危険性を天秤にかけた上で開設を決断した点だね。
それにキャシーの不正に対して、理路整然と脅迫を交えて賠償を請求したあの辣腕。
彼はきっとデカくなる。君はコンヨウ殿の動きを逐一把握し、何かあれば私に伝える事。これは最重要任務だ。いいね。」
「はい、分かりました。」
こうして人知れずコンヨウは商業ギルドでもVIPとして扱われるようになったという。
蛇足
コンヨウのパスワード『四食昼寝付き』
パフィのパスワード『甘納芋最高』
ゼブラのパスワード『スフィーダさんとワンチャン』




