032_爽やかな笑顔とウサギのお嬢さん
「よっ、コンヨウっち。そっちの具合はどうだ?」
「おかえりなさい、ゼブラさん。今は落ち着いたところで、パフィさんとエレフさんにも休憩を取ってもらっているところです。」
休憩からゼブラさんが戻って来たけど、なんだかスッキリした感じの顔してるな。やっぱり疲れてたんだね。
僕らは先ほど整理札を受け取ったお客さんへの対応が終わり、店に来るお客さんも数もまばらになって来たとこだ。
まぁそれでも1時間で100個売れるんだから大したものだけどね。今の時間が午後1時だから、ピークは2~3時のおやつ時だろうね。
それまではまったり店番かな。そう思っているとゼブラさんがドヤ顔で僕に話を振ってくる。
「コンヨウっち。実は俺っち、とびっきり情報を手に入れたんだぜ。」
「ほぅ、とびっきりの情報ですか?」
「あぁ、実はこの場所なんだけど、普段商業ギルドが貸し出していない場所らしいんだ。」
「はぁ?どういう事ですか?」
「さぁな?でもおかしいだろう?なんで貸出されていない場所をあの人族の女は貸し出したんだろうな。
それからここはシマトラ組の事務所のすぐ近くでここで商売をすると高確率で奴らに絡まれるらしいぜ。」
この瞬間、僕はゼブラさんが何を言いたいのかが理解できた。
そして怒りと共に口元がつり上がるのを感じる。
「つまり、あの女に落とし前をつけさせる必要があるって事ですね。」
「ひぃ!!」
僕が満面の笑みでゼブラさんに応じると、何故か隣にいたスフィーダさんが悲鳴を上げる。ちょっと失礼じゃねぇ。
まったく、目の前で僕と同じような笑顔で応じてくれているゼブラさんを見習ってほしいもんだね。
あっ!なんかお客さんも逃げてる気がするけど気のせいだよね。
「じゃあ、コンヨウっち。後で一緒に商業ギルドに寄るって事で、今は焼き芋売りに集中しようや。」
「そうですね。本当に楽しみです。」
「ひぃぃぃいいいい!!!!この2人怖い!!!」
コラコラ、スフィーダさん。客商売は笑顔が命だよ。何に怯えているのか分からないけど、そんな悲鳴を上げてるとお客さんが逃げちゃうよ。
おっと、大半のお客さんが逃げ出したところに果敢にこちらに突撃してくる少女が一人。
ウサギのお嬢さんかな。最近僕も獣人さん達の見分けが少しだけどつくようになってきた。いい服を着ていて毛並みもいい。あれは絶対に美味いモノを喰っている奴だ。
ちっ!テメェで働いてもいねぇくせに親ガチャでSSR引いたお陰で人生勝ち組かよ。だめだ、まだ一言も話していないのにそんな偏見を持っちゃ。もしかしたら自分の才覚で成り上がった勤労少女の可能性だってある。
それに金持ちでも貧乏人でもお金を払えばお客様だ。でも舐めた口聞いたらその口の中に干し芋ぶち込んで、口の中の水分全部吸い取ってやるけどな。
いけない、あの腐れ受付のせいで思考がダーク寄りになっている。今は接客に集中だ。
「いらっしゃいませ、焼き芋は如何ですか?」
「なんか、午前中凄い人だかりでしたけど、焼き芋屋さんだったのね。」
「はい、今は閑古鳥が鳴いてますけど。宜しければおひとつ如何ですか?」
「そうね、二種類あるのね。じゃあ、それぞれ一つずつ頂こうかしら。」
「はい、ありがとうございます。スフィーダさん、紅1、甘1。」
「は~い、ただいま~。」
僕が焼き芋を勧めるとウサギ少女は鈴が転がるような声で応じる。
そして僕はウサギ少女に笑顔で接客をしつつ、スフィーダさんに商品の準備を指示する。
実のところ、ウサギちゃんとの会話はスキル発動までの時間稼ぎだったりするわけだけどね。
ほら、スフィーダさんには僕のスキルの事話してないし、焼き芋箱は空になっていたから、僕がいきなり焼き芋を取り出したら不自然に思われてしまう。
だから、さっきの会話は焼き芋箱からスフィーダさんを始め、周りの人達から目を逸らすという意味もあった。
無事スフィーダさんにバレることなく、焼き芋を補充したところでウサギさんが僕に質問をしてくる。
「店員さん。焼き芋が二種類あるのはどうしてなの?普通は一種類だけ売るものじゃないかしら?」
「あぁ、それについてはウチの焼き芋について説明する必要がありますね。
しっとり甘めでお手頃価格の『紅音姫』と、ねっとり激甘高級スイーツの『甘納芋』。
この二種類をお好みとお財布事情で選んで頂けるようにと考えたからです。」
「ほぅ、スイーツ…ね?噂をすればやって来たわね。」
「はい、『紅音姫』ひとつ、『甘納芋』ひとつお待たせしました。」
「どうもありがとう。美味しそうね。」
ウサギ少女はスフィーダさんに渡された焼き芋に目を落とし、満面を笑みを浮かべながら代金を手渡す。そしてウサギ少女は僕の方に向き直りこう言い放つ。
「もし宜しければ、この場で頂いても宜しいかしら。勿論お邪魔でなければ、ですが。」
「構いませんよ。どうせ今はお客さんいませんから。」
どうやら早く食べてみたかったけど、店の迷惑を気にしていたようだ。
僕としてはちょっと避けて食べてくれれば、店の宣伝にもなってちょうどいいと思ったんだけど。
そういうところ気遣えるとは、この子はきっといい子なんだろうな。なんか初対面で失礼な事を思ってすみませんでした。
そんな僕の脳内なんて知らないであろうウサギ少女が満面の笑みで『紅音姫』にかぶりつく。
「うぅ~~ん。甘くてしっとりしててとっても美味しい。この街にまだこんな上質なサツマイモがあったなんて!」
目を丸くしながら『紅音姫』を称賛するウサギ少女。そして無言のまま食べ進め、瞬く間に焼き芋一つが完食される。
そしていよいよ本命『甘納芋』に手をかける。
「なにこれ!割った瞬間に蜜が出てきたわ!どんな味がするんでしょう。では早速…甘い!ねっとり濃厚な甘さ!…これって本当にお芋なの!!」
そう口にした瞬間、先ほど『紅音姫』を食べた以上の速度で『甘納芋』を食べ進める。
そして食べ終わった瞬間、満足そうな寂しそうな表情を浮かべる。
「はぁ、美味しかったわ。もうなくなってしまいましたわね。でもこれ以上はお腹に入りきれませんし。でもまだ食べたいような…」
あぁ、分かるよ。美味しいモノって満腹でもつい食べたくなっちゃうんだよね。そして食べると後悔するんだよね。腹痛とか女性なら体重とか。えっ!僕?むしろ体重は増やしたいし、食い過ぎで腹痛なら望むところですが何か?
ウサギ少女は暫く悩んだ挙句、今回は諦める事にしたようだ。がっくりと肩を落としながら僕に問いかけて来る。
「もし、この屋台は明日もこちらで営業していらっしゃるのかしら?」
「いえ、今日限りで次があるとしても予定は未定です。」
「そうなのね?残念だわ。じゃあ、このお芋の入手先とかは?」
「それは企業秘密です。今後これで商売をするかも知れないですから。」
「そうですわよね…ところであなた、お名前は?」
「えっと、コンヨウと言います。」
「では、コンヨウさん。もしこのサツマイモで商売をする気があるのでしたら、コービット商会のラビリにお声がけ下さいませ。きっと素晴らしい取引が出来ると思いますわよ。」
コロコロと笑いながら、ウサギ少女ラビリはその場を後にした。
その様子を見送った僕は、おもむろに今まで背景と化して、黙り込んでいたゼブラさんに声を掛ける。
「ゼブラさん、コービット商会ってご存じですか?」
「確か大通り沿いにある大店だったはずだ。真っ当で堅実な商売をしている良店だったと思う。」
「…そうなんですね。」
こうして意図せず大商会とコネが出来てしまった事に呆然とする僕なのであった。




