030_的外れな反省
「厄介な荒くれものの逮捕にご協力頂きありがとうございます。」
これはパフィさんとスフィーダさんがシマトラ組の皆様をコロコロした後の話だ。
近くにいた黒猫の衛兵さんが騒ぎを聞きつけやって来たのである。そう、『シマトラ組の皆様が倒された』という騒ぎを聞きつけて。
そんな仕事熱心な衛兵さんに僕は笑顔で応じる。
「衛兵さん、お勤めご苦労様です。ところであなた、さっき僕らが襲われている時に遠巻きで見ていましたよね?どうして助けてくれなかったんですか?」
そう、こいつはさっき逃げて行った使えねぇ衛兵だ!
この質問をした瞬間、腐れ衛兵は冷や汗を流しながらしどろもどろに答える。
「いえ、相手が6人だったもので、応援を待っておりました。」
「なるほど、応援ですか?その人達って、そろそろつく頃ですよね。もう少しここで待ってみましょうか?」
この言葉の瞬間、獣人の顔色の見分けが下手な僕でもはっきり分かるくらい腐れ衛兵の顔色が青くなる。これは明らかにやましい事がある顔だ。少し揺さぶりをかけるか。
「そういえば、シマトラ組の組員さんって全員猫の獣人さんですよね。もしかして衛兵さん、何かこの人達と繋がりがあったりします?」
ここで若干ドスの効いた声でにじり寄る。相手も流石に組長さんを倒した凄腕スフィーダさんがいるところで僕に危害は加えまい。脂汗を流す腐れ衛兵に僕は安全地帯から更に追い詰める。
「そうじゃなければきっと袖の下だ。だっておかしいですもんね。いくら応援を呼んでいるとは言え、全く時間稼ぎをしないだなんて。」
何故僕がネチネチと腐れ衛兵をなじっているのかというと、勿論ゼブラさんがナツメさんを呼んでくるまでの時間稼ぎなのだが、相手も僕の様子に危機感を感じたらしく、慌てた様子で開き直る。
「いえ!自分は職務を忠実にこなすだけの一衛兵であります!これは荒くれもの逮捕に協力していただいた謝礼です!どうぞお受け取り下さい。」
そう言って僕に小銀貨1枚握らせて足早にその場を去っていった。倒れているシマトラ組の皆さんを置き去りにして。
よし、これって贈賄だよね。ご丁寧に証拠まで残してくれて。あの汚職衛兵は豚箱送り確定だ。
僕が街のゴミが一つ片付くことに対して、爽やかな笑顔を浮かべていると何故か隣でパフィさん、エレフさん、スフィーダさんが震えている。
あぁ、きっとシマトラ組の皆様や汚職衛兵が怖かったんだな。まぁ、前世で野宿とかしている時にヤの付く自由業の方々に時々絡まれて耐性がついている僕よりかは辛いだろうね。
でもそのヤのつく自由業の方々も僕がメンチを切るとビビっていたのが不思議だったけど。
さて、そんなどうでもいい事を考えているとゼブラさんがナツメさんを連れて戻って来た。
「お~い!コンヨウっち!ナツメっち、連れてきたぞ…ってもう終わってんじゃねぇか!!」
「おい、ゼブラ。なんで絡んできたはずのシマトラ組が全員倒れてるんだ?」
そうだよね。僕がゼブラさんにお願いしたのってパフィさんが子分さん達をコロコロするちょっと前だもんね。そりゃ困惑もするか。では状況説明をしますか。
「…お前ら、無茶のし過ぎだ。特にコンヨウっち!」
「えっ?僕ですか?」
「あぁ!お前だ!スフィーダさんが居なかったらエレフさん、シマトラ組にやられていたかも知れないんだぞ!」
「アッ!」
ゼブラさんの言う通りだ。本来なら時間稼ぎをしてナツメさんの到着を待つのが定石だったのに、パフィさんの強力なガススキルに頼って手早く解決しようとした。
これは明らかに僕の失策だ。その事に思い至り項垂れる僕にゼブラさんは更に畳みかける。
「もし、仮にエレフさんがやられたとしてだ。そしたら次は誰が狙われると思う?それはこの中で一番見た目が弱っちそうなお前だ!」
あっ!それ結構傷つくんだけど。確かに見た目弱っちいけど。でもなんでこんなに怒ってるのかな?失策についてはちゃんと反省してるんだけどな?
頭の上に疑問符を浮かべている僕にゼブラさんが追撃をかける。
「お前はまだ事の重大さが分かってないみたいだな!!お前はな、集落の生命線なんだよ!もっと自分の立場を自覚しろ!!」
そうか、僕は集落の食料供給の中心だったんだ。確かに今の集落の食料事情を考えると僕に何かあったら困るよね。これはちょっと反省だな。
あれ?違った。なんか今度はゼブラさんの様子がおかしいけど。
「すまん。今のは…違うんだ。俺っちが言いたいのはそういう事じゃないんだ。」
ゼブラさん、なんか声が震えてますけど、そんなに怒らなくても。そういえばちゃんと謝ってなかった。いけないいけない。
「すみません、軽卒でした。今後は注意しますから。」
「いや、だから…すまん、ちょっと頭冷やしてくる。ナツメっち、ちょっと付き合ってくれ。」
「あぁ、分かった。」
ゼブラさんが、らしくない歯切れの悪い声で呟きながら、ナツメさんを連れてその場から歩き出す。そこで僕は慌てて声を掛ける。
「ゼブラさ~ん!今から休憩入って下さい!休憩終わりは一時間後なのでそれまでに戻ってきてくださいね!!」
僕のこの言葉にみんな呆けた表情でこちらに視線を送ってくる。
そして僕に対してゼブラさんが弱々しい笑みを浮かべながら返事をする。
「…分かった。一時間後だな。俺っち、ちょっと飯食って気持ち切り替えて来るわ。」
「はい、お気をつけて。」
僕がいつも通りの笑顔で見送ると背中を向けながら手を振るゼブラさん。どうやらゼブラさんも少し疲れているみたいだね。
ここで休憩を取らせた僕の判断はナイスだと自画自賛したい。ところでシマトラ組の皆さんってどうすればいいんだろう…あっ別の衛兵さんが運んで行ってくれた。おそらくナツメさんの手配だろう。
そして平穏が戻り再び商売だ、っと考えていた矢先、隣からパフィさんが遠慮がちに声を掛けて来る。
「あの~、ゼブラさんが言ったことですけど。」
「うん、分かってるって。ゼブラさんの言った事は全部正しいよ。僕も反省しないとね。」
「…いいえ、コンヨウさんは何も分かっていません。」
笑顔で答える僕に対して何やら呟くパフィさん。
よく聞き取れなかったけどその呟きがとても寂しく思えたのは僕の気のせいではないと思う。




