003_少女の正体
「では、スキルについて説明しますね。」
僕とパフィさんは焼き芋をかじりながら話を始める。
それにしてもこのお芋、本当に石焼き芋屋台の味だ。さっきより味は断然いい。
おっと話が逸れたね。ここからの話題は先ほど僕が質問したスキルについてだ。
パフィさんが僕の質問に答えてくれる。
「まず、人、獣人はある一定の年齢を迎えるとスキルと言われる特殊能力に目覚めます。
手に入れる時期はまちまちですが、どなたでも例外なく10歳までに1つはスキルを獲得します。
ちなみにスキル習得に上限はなく、経験や才能にもよりますが歴代最多で10個のスキルを身に着けたという方もいたみたいです。
スキルの効果も様々で、有用スキルを持っている人はそれだけで国の重役になるくらい、スキルと言うのは重要な物です。
もっともスキルが役に立たないからと言って、即役立たず認定されて迫害されるって事もないんですけどね。
基本的に有用スキルを持っている人の方が少ないですし。」
「なるほどですね。ちなみに有用スキルって言うのはどんなものがあるの?」
「そうですね。例えばこのリンガ共和国の騎士団長の『剛力』とか大司祭様の『癒し』とかでしょうか。
ちなみにコンヨウさんの焼き芋を作る力もある意味では有用スキルですよ。」
「そうでしょうね。食べ物を作れる力とか、使い道はいくらでもあるからね。」
「ちなみにぼくのスキルなんですけど、『ガス操作』っていうよく分からないスキルで使い道も分からないですよ?」
なに!『ガス操作』だと!そういえばこの子の特徴。毛むくじゃらで大きな尻尾があり、全身の毛の色が黒で眉間と背中の部分は白で、熊か猫っぽい顔。
この姿ってどこかで。でも待て。この特徴を持ってしかもスキルが『ガス操作』。この子の種族がクマではなくあの種族だとしたら…
「あの…パフィさん。これから凄く失礼な質問をするけど怒らないで聞いてくれるかな。」
「えっ…はい。いいですよ。」
よし、本人からの了承も得られた。僕は覚悟を決めて自分の疑問を口にする。
「パフィさんってクマ獣人なんだよね。でも親がいなかったりしない?」
「えっ!なんで分かったんですか?確かに親はいないですし、見た目が熊っぽいからクマ獣人って名乗っているだけですけど。」
「じゃあ、もう一つ質問。凄く失礼なんだけど…君のおならって凄く匂ったりしない?」
この質問はパフィさんも恥ずかしかったのか。人間だったら顔を真っ赤にしているような慌てた様子で若干狼狽えながら答える。
「どうして分かったんですか!!ぼく、みんなにおならが臭いっていじめられて、それでここに逃げて来たんです。」
あっ!確定だ。この子はクマ獣人なんかじゃない。この子の種族は…
「実は君の種族に心当たりがあるんだ。おそらくだけど君の種族はスカンクだ。」
「えっ?スカンク…って何ですか?」
どうやら彼女はスカンクを知らないようだ。でもヤバいな。スカンクに『ガス操作』のスキル。これって最強の組み合わせじゃないか。
まぁそれは置いておこう。今は出来るだけ彼女の名誉を傷つけない形でスカンクについて説明するかだ。
「スカンクと言うのは自分の体内で特殊な気体…匂いのする空気を作ってその空気で敵を倒す戦士の一族の事だ。」
「えっ?ぼくって戦士だったんですか?」
「おそらく君の親がね。そして『ガス操作』スキルはその気体を自在に操るものなんだ。
つまり君は戦士としての才能があるという事だ。」
「…ぼくが…戦士…」
よし、何とか彼女の尊厳を守りつつちゃんと能力を教える事が出来たぞ。
でも『ガス操作』ってどこまで操作できるのかな。
ガスを好きな場所にピンポイントに誘導出来たり、匂う成分を圧縮して即死級の威力を出せる様に出来たらマジで無敵だよな。
よし、この子とは仲良くなっておこう。ついでに『ガス操作』の使い道もそれとなく教えて…そうだ!この子に護衛をしてもらうっていうのもいいな。
僕はお芋をあげて、この子は護衛をする。お互いのスキルで助け合う、見事なギブアンドテイクだ。
「パフィさんは行く当てとかあるの?」
「いえ、ありませんが。」
「僕もだよ。だからお互い協力関係を結ばない。僕がスキルでお芋を出して食べ物を確保するから、パフィさんは水を汲んで飲み物を確保する。
僕が君のスキル『ガス操作』の使い道を考えるから、君は僕に世の中の常識を教える。どうかな?」
「つまり、ぼくとコンヨウさんはお友達と言う事ですか?」
友達…か。その関係は嫌だな。何故なら、
「う~ん…ちょっと違うかな。僕はお友達とか友情とかってあんまり好きじゃないんだ。
僕の記憶の中にこんな言葉があるんだ。友情って言うのは友の心が青臭い、つまり甘えているってね。
友情を語っている内はお互いに甘えて本当の信頼関係を築けないって意味なんだと思うんだけど。」
そうだ。中学校まで友達をしていた連中も僕が学校に行かなくなった瞬間、相手にもしなくなった。
あいつらクソ親父の飯をタダで食うために僕と付き合っていやがったからな。
クソ親父もいい恰好したがりだから『息子の友達ならサービスするぜ』とか言いやがって、マジで虫唾が走るんですけど!つか死ね!
いけない、いけない。暗黒面が発露していた。今はパフィさんとの話に集中しないと。
「えっと~…ぼくはちょっと聞いた事ありませんね。コンヨウさんは遠い国の人なんでしょうか?」
「それはちょっと分からないね。だから僕らは友達じゃなくて協力者って感じで行きたいかな。
お互いに対して果たすべき義務をしっかり果たす。ただしそれ以外でも可能な限り協力する。嫌な事は絶対にしない。そんな関係がいいな。」
「なるほど…コンヨウさんはとっても誠実な人なんですね。分かりました、ぼく達はこれから協力者、仲間です。」
そう言ってパフィさんが右手を差し出してきたので、僕もそれを掴む。こっちでも握手の文化ってあるんだ。するとパフィさんは満面の笑みを浮かべこう続ける。
「コンヨウさん。これからよろしくお願いしますね。」
まぁ、ヒロインがスカンク獣人と言うのは置いておいて、こういうのも悪くないかな、っと思う僕であった。