026_コンヨウ、変質者疑惑
「すみません、お仕事の前にちょっと相談があるのですが。」
これから焼き芋の宣伝を始めようとした矢先、スフィーダさんからそんな言葉が飛び出してきた。
「えっと、どういった内容ですか?」
僕が先を促すとスフィーダさんは少し申し訳なさそうな顔で応じる。
「実はわたくし、孤児院のお手伝いをしているのですが…」
ここでスフィーダさんが再び言い淀む。なるほど、つまりそういう事か。
スフィーダさんの言いたい事を察した僕はその求めに応じる事にした。
「分かりました。ではその孤児院まで案内して下さい。」
「いいんですか!ありがとうございます!」
僕の返事を聞いたスフィーダさんが深々と頭を下げ、そして孤児院までの案内をすべく先行する。
そこへ頭に疑問符を浮かべたパフィさんが僕に質問してくる。
「コンヨウさん、今の遣り取りは一体?」
「あぁ、要するにスフィーダさんの部下も一緒に雇ってくれって事だよ。」
「???」
僕の答えにパフィさんは更に分からないというような顔になる。
ここで僕は改めてかみ砕いて説明をする。
「今回、スフィーダさんに宣伝をしてもらうんだけど、一人だけじゃ効果は限られてくると思うんだ。それならどうするか?答えは簡単、人を増やせばいい。だからスフィーダさんは孤児院の子供を僕に紹介しようと思ったんだよ。ついでに宣伝の時にお芋も食べられるから食費も浮いて一石二鳥だしね。」
「なるほど、つまりコンヨウさんはお腹を空かせた孤児院の子供達にお芋を食べさせたいわけですね。」
…う~ん、それはだいぶ違うんだけどな。なんかパフィさんがすっごい笑顔でこっちを見て来るし。
僕って基本的に自分に利益が無い事はしない主義だよ。今回だって、明日の売り上げの為の先行投資なんだから。
別に無償の愛とかあのクソ親父みたいに褒められたいからやってるわけじゃないからね。むしろそういうのは反吐が出るタイプだし。僕はちゃんとペイが見合っていると判断したまでの事なんだ。パフィさんは人が良いから時々こういう誤解をして困る。
そんななんとも言えない気分で歩いていると孤児院にはすぐに辿り着いた。
どうやら裏路地を少し入った所にあったようだ。小さな教会に併設されている感じのツギハギだらけの見るからに貧乏そうな建物だ。
「ただいま~!みんな!スフィーダお姉ちゃんが帰ってきましたよ~。」
「…あぁ、姉ちゃん、おかえり~~。」
「…お腹空いた~~、なんか甘い匂いするけど~~。」
スフィーダさんがちょっとテンション高めでご帰還なのに対して、5人いる子供達は全員テンション超低い。種族はイヌ、ネコ、ウマ、ヒツジ、クマ。あれはお腹が空き過ぎて、無気力状態になっているな。
まったく……たるんでるな、このクソガキども。
自分達は家でゴロゴロしていたくせに、食べ物を調達しに行ったスフィーダさんを労いもしない。
本当に今の集落の獣人さんは大人も子供もいい人ばかりだから忘れかけていたけど、久しぶりにガキをぶん殴りたくなった。いや、殴った事は無いけど。
こいつらガキは自分が食べさせてもらえる事を当たり前だと思っている。かく言う僕も母さんが生きてた頃はそんなクソガキだったから余り責められたもんではないんだけど。
だがそれは一生懸命働いて来た者への感謝を忘れてもいいと言う免罪符にはなり得ない。ここは教育的指導だな。だからパフィさん、そんなにビビらなくてもいいからね。パフィさんには何もしないからね。
「おい!ガキども、喜べ!テメェらに仕事を持ってきてやったぞ!」
「エッ!!!」×5
僕のいきなりの発言に面食らうガキども。そして同じく面食らったスフィーダさんと呆れた表情のパフィさんがヒソヒソと何か話している。
「ねぇ、パフィちゃん。なんかコンヨウ君の様子が変なのですけど?」
「あれは本人曰く、クロキコンヨウという別人格らしいです。」
「…彼はちょっとカワイソウな子なのかしら?」
何か凄い失礼な事を言われている気がするけど、今はスルーだ。ガキどもへの教育が先決だ。
そう言いつつ僕は一旦ガキどもを置いておいて、スフィーダさんに質問をする。
「えっと、スフィーダさん。ちょっと聞きそびれていたんですけど、何で行き倒れていたんですか?」
「エッ!姉ちゃん倒れたの!」
「大丈夫なの?休んだ方がいいんじゃない。」
おッ!これは意外。このガキども、一応スフィーダさんの事心配しているみたいだ。これはガキどもの評価を0.1だけ上方修正だな。そんなガキどもをスフィーダさんが宥めながら返答をする。
「うん、コンヨウ君にお芋を貰ったから大丈夫だよ。」
「えっ、この悪そうな兄ちゃんがものをくれたの!」
「大丈夫なの?おっぱい揉ませろとか言われなかった?」
「おい!やめろ!ガキども!パフィさん!しないからね!」
こいつらマジで危ねぇわ~。お前らの風評被害のせいで僕がパフィさんにガス殺されたらどうするつもりなんだよ。まったく!
おっと、スフィーダさんが理由の説明を始めたぞ。
「実は、この孤児院あまり予算が無くって、神父さんが頑張って金策をしているんですけど、間に合わなくて。そこでわたくしも近所の人達に余った食材とかを分けて貰いに行っていたんですけど、一日何も食べていなかったのでそれで…」
「うわぁ~、泣けるわ~。自分はお腹を空かせながら食べ物を探していたのに、帰って来たらガキどもはスフィーダさんじゃなくて飯の心配とか。このガキども、ホンマに血も涙もありゃしませんぜ。」
「うぅ…」
「しかもそのスフィーダお姉さんの恩人に対して、変質者扱い。こりゃもう人として色々どうかと思いますわ~。」
自分でもどうかと思うくらい、ねちっこい感じでガキどもを煽る僕。それに半泣きのガキどもが反論。
「うぅっ、仕方ないだろう!俺達まだ働けるような歳じゃないんだから!」
ガキどもからのこの一言に僕は虚を突かれてしまった。何故なら、
「えっと…パフィさん。それ本当?」
「はい、ちなみに普通はぼくの歳でも働いていませんよ。」
「そうなんだ…ちなみにパフィさんっていくつ?」
「えっ!今更ですか!今年で11です。そして働けるのは12からです。」
これってもしかしてヤバくない。労働基準法とか児童福祉法とかに引っ掛かってきたりしない。
そんな感じでブルっている僕にパフィさんが呆れた様子で補足説明をする。
「これはあくまでも親がいて、学校教育を受けている場合です。ぼく達みたいな孤児や、家が貧しくて働かないといけない場合についてはこの限りではありません。
もっとも酷い環境だったりして、それを衛兵さんに見つかったりするとしょっ引かれますけど。」
「それって僕もヤバくない。」
そうだよ、だって僕、パフィさんをモンスターにけしかけたり、護衛をさせたりしてるよ。これって危険労働に当たるんじゃないかな。そう考えているとこれまたパフィさんがため息をつきながら答えてくれた。
「コンヨウさんのはそれに当たりませんよ。モンスター退治は安全なところからスキルで倒すだけですし、護衛と言っても近くにいるだけで特に危険な事はなかったですし。
それに今回の依頼だってただ街中で焼き芋を食べるだけでしょう。」
なるほど、そういうのはセーフなんだ。取り敢えず一安心だね。
僕がホッと一息ついていると所に今の話を耳聡く聞いていたガキどもが目を輝かせながらこちらに詰め寄ってくる。
「なぁ!兄ちゃん。焼き芋を食べる仕事ってなんだ。」
「私達、焼き芋食べられるの?」
「やった~~!ご飯だ~~!!」
「うるっせぇ!ガキども!!これから説明するから静かにしろ!」
こうして、僕ははしゃぐガキどもを相手に今回の仕事の話をするのであった。まったくガキの相手は疲れるから嫌だよ。




