023_陽気な兄貴分とお出かけ準備
「よぅ!コンヨウっち!頼まれたモン、買ってきてやったぜ!」
これはこの集落で僕が暮らすようになってひと月が経とうとしてた時の事だ。
ちょっとテンション高めなあんちゃん、配達人のシマウマ獣人ゼブラさんに声を掛けられた。
「アッ!ありがとうございます!これで僕もようやく街に行けますね。」
ゼブラさんに渡されたものはこの世界ではごく一般的な服と靴とポーチだった。素材は動物の毛だろうか。古着だが着心地はそんなに悪くない。靴は革製で丈夫そうで結構いいものみたいだしポーチも使い勝手が良さそうな作りだ。
実は今まで着ていた服が昔学校に通っていた頃に使っていたジャージとスニーカーだったので、そのまま街に行くと目立つから買い替えた方がいいとドクさんから言われていたんだよね。
僕がお礼を言うとゼブラさんが得意げに服について語り出す。
「まぁ、そうだな。その服なら目立たないし、丈夫だから動き回っても平気だ。
それを探すのに俺っちも結構苦労したんだぜ。新品だと目立つし高いから古着屋をあちこち見回ってな。
でもそのおかげでコンヨウッちの貯金の範囲内で揃える事が出来たんだから、感謝していいんだぜ。」
「勿論感謝していますよ。しかし、いつの間に僕の貯金なんて作ってたんですか?」
実は、集落のみんなが僕が知らない間に僕の貯金なんてものを作ってくれていたんだけど。
どうもドクさんが言うには、お芋の一つ当たりの値段はこちらのお金で50~100フルール(1フルール=1円くらい)だそうなんだけど、僕の焼き芋だとその3~5倍つまり一つ50フルールとだとしても150~250フルールぐらいの値段になるらしい。
それを毎日300個以上集落の為に作っているわけだから、1日当たりに換算すると4.5万~7.5万フルールほど、月で言うと135万~225万を集落に支払っている事になる。
この世界の一般庶民向けの家の家賃が大体月で2万くらいで月収が15万くらいだから、お肉代や家庭教師代を差し引いても貰い過ぎだと言われた。
実際のところは集落にいる事による安全保障費や家具代、肉以外の食費(塩とかハーブとか乳製品とか)なんかも含まれているんだけど、その辺についてはまるっとスルーされてしまった。
この集落の人達はおおらかで人が良いからこの辺の計算が苦手なんだろうね。
まぁ、くれるって言うものを拒むのも失礼だし、お金は必要だからありがたく頂戴する事にした。まだこの集落から出る予定もないし今後ゆっくり返していけばいいかな。
僕に貯金が出来た経緯はこんな感じなんだけど、お金の出所が分からないのでその事について訊ねてみると、ゼブラさんが呆れながら答えてくれた。
「コンヨウっち…こないだお前とパフィちゃんが狩ったイノシシ、グレートボアがいただろう。
あれの牙と毛皮の売却金額なんだけどな…100万フルールなんだぜ。」
「へっ!そんなにですか?」
これには流石の僕もビビった。それに対してゼブラさんが肩をすくめながら説明を追加してくる。
「それだけじゃねぇだろうがよ。お前とパフィちゃんが集落の周りの危険なモンスターをガスで抹殺しまくってただろう。その素材がいい値段してるんだよ。
本来モンスターってのは国の騎士とか賞金稼ぎとかが徒党を組んで退治するもんだからな。経費は掛かるしタコ殴りにするから素材も傷んでいることが多い。
それを無傷の状態で手に入れられるってんなら、値段も上がるのは当然だろう。」
そう言えば肉欲しさにパフィさんを連れ出してそんな事してたっけな。あらかじめドクさんからおおよその場所を聞き出して、僕が焼き芋でおびき出して、パフィさんが仕留める。あれは見事なコンボだったなぁ。でもあれってそんなに高く売れるんだ。という事はこの村で一番のお金持ちはパフィさんという事になるのかな。よし、今から媚びを売っておこう。
その事をゼブラさんに話したら何故だか苦笑いをされてしまった。まぁ、いい。一応そのお金の使い道についても聞いてみよう。
「ところでそのお金ってどんな使い道をしているんですか?それから僕の貯金って今どのくらいありますか?」
「お金の使い道だけど、まずは村で使う大工道具とか釘とかの購入費だな。
ほら、今の家ってボロ屋ばっかだろう。スミス爺さんのスキルは木材しか扱えねぇし、爺さんだから力もそんなにない。家の修繕は村の男衆でするしかねぇんだ。
ウチは『大工』スキル持ちがいねぇから、素材をコツコツそろえて一からやるしかねぇ。そうすると今の内にやっておかねぇと冬に間に合わなくなっちまうだろ。」
うん、道理だね。僕だって寒いのは嫌だからね。それにこういう文明が発達していない世界での死因でトップクラスに挙げられるのは冬の凍死だしね。
「次に、村の人数分の布団だな。みんな今まで板の間で寝てたから疲れも取れていなかったみたいだし、それに冬場の対策には必須だ。
今日中に全員に配布される予定だから楽しみにしてな。もっともせんべい布団だからちょっとはマシってくらいだけどな。」
いえいえ、十分ありがたいです。やった~!これで夜明け前の寒い時間に起きなくて済むぞ~!目指せ24時間惰眠!
「そして最後は小麦とか卵とか野菜とか調味料とかこの村では手に入らない食料だな。
食料はルクちゃんに『防腐・殺菌』してもらった後、エレフさんの家に運び込まれたから。
今日の夜から料理が更に豪勢になると思うぞ。」
マジですか!!よし!!エレフさんの家に突撃して作ってほしいレシピを教えないと。
「それから、お前の貯金だったな。元々20万あったけど、服と下着それぞれ3着ずつと靴を2足とポーチを買って残りが2万だ。どうだ、結構お安く済ませただろう。
ほら、残りは渡しておくから受け取りな。」
うっ!高い…でも仕方無いよね。こっちにはウニ黒とか服の量販店ってないから。どうしても単価が高くなっちゃうよね。
新品だと一式そろえると10万が当たり前って言うし、これだけそろえて貰って18万で済んでいるっていうのはありがたい話だよね。
そんな事を思いながら、僕はゼブラさんからお金の入った革袋を受け取る。中には小銀貨が2枚。どうやら一つで1万フルールらしい。
ちなみに貨幣は金、銀、銅、鉄とあり、それが更に大と小の2種類ある。そして小鉄貨が1フルール、大鉄貨が10フルールと言う具合に価値が10倍ずつに上がっていき、大金貨に至っては1000万フルールになる。
大体庶民は銀貨までで生活をし、金貨を持つことはまずない。何故なら使い勝手が悪いからだ。
この世界、一応お釣りは返ってくるが、大量のお釣りを出さないといけなくなる金貨は店の人達から嫌われる。それに硬貨だから当然無くすことだってある。他の貨幣ならまだしも金を失くした時のダメージは計り知れない。そう言うわけで僕も今後、金を持つ予定はない。
さてだいぶ話が横道に逸れてしまったがそろそろ元に戻そう。
僕はこの会話で一つの疑問を口にする。
「ゼブラさんって随分と大量の荷物を運んでますけど、そういうスキル持ちなんですか?」
まぁお行儀の良い質問ではないんだけど、もうすでに僕のスキルは明かしているし、聞いても問題ないだろう。ゼブラさんも特に機嫌を損ねる事なく、飄々とした様子で返事を返してくる。
「おッ!流石コンヨウっち!良い勘してるな。俺っちのスキルは二つ『高速移動』と『マジックバッグ100倍100分の1』だ。」
「なんか凄そうなスキルですね。『高速移動』はそのままでしょうけど、『マジックバッグ100倍100分の1』っていうのはあれですか?バックの広さを100倍にして重さを100分の1にする、みたいな。」
「正解!ちなみに俺っちのバッグには本来10キロくらいしか物が入らないんだけど、スキルを使えばなんと!」
「なんと?」
「10000キロまで入れる事が出来るんだ!スゲーだろう!!」
…ゼブラさん…計算、間違えているよ。10キロの100倍は1000キロだから。っと思いつつも、
「そうなんですか…凄いスキルだと思います。」
「そうだろう、そうだろう。あ~~はははっははっははぁ~~~~~~!!!」
嬉しそうに自分のスキルを自慢するゼブラさんに野暮なツッコミを入れる事が出来ない小市民の僕なのであった。




