021_許されざる大罪人ミル
「被告人ミルさんに有罪を言い渡す。」
「えっ!いきなり何なん?被告人って何のこと?」
僕はエレフさんが連れて来たミルさんに早速有罪判決を言い渡した。
被告人はまだ白を切るようだ。自分が如何に罪深い事をしたのかをまだ理解していない様子。
義憤に燃え上がる僕に対して、何故かパフィさんとエレフさんの目が冷たい。
何故だろう、正義はこちらにあるはずなのに完全にアウェイだ。
「ちょっと、コンヨウさん!いきなりそんな事言っても意味が分かるわけないじゃないですか!」
「そうだよ~。まずは事情を説明しないと~。」
あっ!言われてみれば全然事情の説明をしていなかった。でもいいのかな。これ説明するとミルさんが自分の罪深さに自我を失ったりしないかな。
えっ!はよ話を進めろって、分かりました、分かりましたよ。ここで僕はミルさんのスキル『乳製品加工』について説明をする。
「え~と、つまりウチのスキルはその乳の加工品を作る為のものなわけなんかな。
ウチ、前に牛乳に触った時に酸っぱい塊にしてしもうたさかい、てっきり牛乳を腐らせるスキルやと思ったんやけど。」
なに、酸っぱい塊、それってもしかして…
「ミルさん…ちょっとこのコップの牛乳にスキルを使ってもらってもいいですか?
その酸っぱい塊を作った時と同じ方法で…」
「えぇけど。そんなもん何に使うん?まぁええけど。んじゃいきますわ。スキル『乳製品加工』。」
すると牛乳はみるみる内に白い固体と透明な液体へと形を変えていく。
それを見た瞬間、僕は目を見開き、震える手でその白い固体をスプーンで一掬いし、口へと運ぶ。
この爽やかな酸味は間違いない…
「ミルさん…いや、ミル様。これを作る時、どんな感じでスキルを使いましたか?」
「何や、コンヨウはん。いきなり怖いわ。牛乳に触れてスキルを使うと頭の中に文字が浮かぶんよ。
確か『よーぐると』『ばたー』『ちーず』『なまくりーむ』『れんにゅう』『にゅうさんきんいんりょう』やったっけな。」
ヤベェ、ここに真のチート能力者が存在した。だってヨーグルト発酵させるってどれだけ時間がかかると思ってるの?しかも菌なしでそれを一瞬だよ。他のやつもきっと乳以外の材料なしで一瞬でやっちゃうんだよね。今まで散々ボロカス言ってごめんなさい。これからはあなたの事を崇め奉りますのでどうかお許しください、ミル様。
そんな事を考えながら尊敬と打算に満ちた目でミルさんを見ていると、みんなドン引きした様子で僕に蔑みの視線を向けて来る。
そんな事されたら僕泣くよ、いいの?はよ説明しろって、はい、すみません。説明しますね。
「えっと、ですね。ミルさんの能力は牛乳を使ってお料理を美味しくする為の新たな食材を作るスキルなんです。
例えばヨーグルトはこれ単体だとただの酸っぱい何かですが、ここに甘味やフルーツを加えるととても美味しいデザートになります。」
「と、言う事は他のやつもそうなん?」
「どれも凄く優秀な食材です。今から使い方を書き上げていきます。
エレフさん、すみませんが書くものを貸してください。」
「うん~、どうぞ~。」
そして僕は思いつくままに乳製品の特徴や使い方、レシピを書き綴っていった。
きっと僕は凄まじい形相でペンを走らせていたと思う。こっちの言葉で書いているにも関わらず日本語で書くのと同じくらいの速度だったから。
やっぱりみんなはドン引きしているけど、僕はそんな事気にならない。この村では貴重品である紙を使い切る勢いで文字を刻み込む。
「こんなもんでしょうか。」
「うっ!怖かったです。コンヨウさん、超怖かったです。」
「僕も食いしん坊だけど~、コンヨウ君の食に対する執念は常軌を逸しているよね~。」
「ホンマやわ。こんなん人を殺せそうな眼光で文字を書く人初めて見たわ。」
なんかボロカス言ってるけどいいのかな?君達はこの後このレシピに感謝する事になるんだよ。
なんせこの中にはあのド定番のスイーツ…スイートポテトも入っているのだから。このスキルを手に入れて以来、食べたくて仕方がなかったスイーツだ。
では早速エレフさんにレシピを渡して試作して貰おう。はい、お願いします。
「うんうん~。しかし文字を習い始めてまだ10日くらいなんだよね~。よくここまで完璧に文章が書けるよね~。このレシピだね~。材料はお芋にバターに生クリームで分量が…で、それからお芋をふかして、潰して、材料を加えて、成形して、石釜で焼く…」
おっ!流石エレフさん。レシピをちょっと読んだだけですぐに作れちゃうなんて。使っているお芋が『絹甘スイート』なところが流石だよね。
よし、今回の事でお芋をたくさん消費するだろうから追加しておこう。それ『食物生成(生芋)』…なんか頭の中で声が…
『業務連絡。スキル強化が可能になりました。今、行いますか?後にしますか?』
えっ!このタイミングで!後だよ、後!今、僕の脳みそと口の中はスイートポテトの事でいっぱいなんだよ。
『分かりました。それでは次に眠った時にスキル強化を致しますので、お忘れなくお願いします。』
うん、分かった、今夜だね。おっとエレフさんが外に出た。そうか、石窯は外だったね。
あの石窯って確かスキルで作ったものだったよね。火加減も自在らしいしあの人も大概チートだよね。
なんか僕のスキルの影薄くなってない。まぁ、いいか。近くに有能な人がいる分には。
おっと、話が逸れていたね。エレフさんが戻ってきた。どうやら焼き上がったみたいだ。
甘いお芋と乳製品の香りがエレフさんを中心に広がってくるよ。ヤバい、涎がヤバい。あとついでにパフィさんとミルさんの顔もヤバい。
きっと僕もあれと同じ表情をしているんだろうな。なんかちょっとやだな。
などと余計な事を考えているところへエレフさんのお声が掛かる。
「よし~。試作品1号完成だよ~。みんな食べてみて~。」
そこには念願の甘味、掌サイズより少し小さいスイートポテトが4つ並んでいた。
もうさっきの香りだけで口の周りが涎だらけなのに、これを今から食べると思うと…
「では…いただきます。」
「いただきます。」×3
僕の音頭を合図にみんなが一斉にスイートポテトに噛り付く。
…『絹甘スイート』の繊細な甘さを濃厚なバターと生クリームが包み込み、更なる高みへと導く。
そこに石窯で焼いた表面の香ばしさが加わり、甘味と香りを更に引き立てる。
まさにサツマイモと牛乳が織りなす絶妙なハーモニー。
「これ!凄いです!全然お砂糖とか使ってないのに、あのとっても甘いお芋を超える甘味と満足感を感じます。」
「多分、単純な甘さならあの甘いお芋の方が上やと思うけど、牛乳の感じが甘味を引き立てているからやと思うわ。」
「……」×2
この世界においては未知のうま味にパフィさんとミルさんが感嘆の声を上げる。
だが僕とエレフさんはこれを食べた瞬間、渋い顔で思わず黙り込む。
その事に対して、パフィさんが不思議そうな顔で覗き込んで来るので、それに僕が答える。
「えっとね。確かにとても美味しいよ。きっとこれを売りに出せば間違いなく流行るとは思うけど…」
「うん~…これは完璧ではないね~。」
「えっ?何でですか?」
「せや、こんなに美味しいのに?」
まあ、当然の疑問だよね。このスイートポテトはとてつもなく美味しい。だがそれ故に僅かな欠点がより鮮明に浮かび上がってしまう。エレフさんはやはり凄い。僕は前世でスイートポテトを食べていたから分かるけど、初めて食べたエレフさんがこの事に気づけるだなんて。
「多分焼き時間を間違えたんだろうね~。僅かにパサつく感じがするんだよね~。」
「やはり気づきましたか?それは焼き時間や分量に関しての僕の記憶が曖昧だったからだと思います。」
「うん~、それは仕方ないよ~。ここからは料理人である僕の仕事だからね~。今度は完璧に仕上げて見せるから。」
こうしてエレフさんの研究の為、この日から集落の夕食にサツマイモスイーツが出るようになった。
まずはスイートポテトから始まり、それが終わると今度はサツマイモパイにサツマイモケーキと次々に新しい研究に取り掛かるエレフさん。
結果、集落の人達の栄養状態は更に改善され、みんな凄く血色がよくなり少し肉もついて来た。
ただし、スキルの使い方が見つかり、今までただの困ったオカンだったミルさんが、乳製品加工の為のマシーンとして馬車馬のように働かされる様になり、若干くたびれてしまった事を除けば。




