018_お勉強の時間だよ(ドクさん編)
「では今日はこの辺の世情について話していくよ。」
今日は昨日に引き続き、午前中はお勉強。今回の先生はドクさんだ。
どうやら日本の学校で言うところの社会科の先生を担当してくれるようだね。
もっとも今は紙もペンも無いし、教材も無いので本当にドクさんと会話をしながらの勉強になる。
「まずはこの集落がある森だけど、ここはどこにも管理されていない所謂無主地というやつだね。
理由としては森の中に多数のモンスターが生息している為、管理するコストとリターンが見合わないからだよ。
モンスターというのは野生生物が狂暴化して非常に強力になったもので、通常であれば騎士団の部隊か英雄と呼ばれる戦闘スキル持ちの達人にしか倒せない。
先日、コンヨウ君とパフィさんが倒したイノシシ、正式名称はグレートボアなんだけど、これも本来は騎士団の一個中隊を動員しないと倒せないくらいの強敵なんだ。」
えっ?そうなんだ。結構あっさり倒せたと思うけど。でもよく考えてみればそうだよね。
僕達は目に見えないガスで暗殺したけど、普通は姿を晒しながら巨体で動く奴と戦わないといけないんだから。
正直、あれの体当たりを喰らったら一発でおシャカだよね。
おっと、ドクさんが話を続けるぞ。
「まぁ、ここが無主地だから私達はこうして空き家を不法占拠出来ているわけだけどね。
そう思えばモンスターも憎いだけの存在じゃないってのがなんとも皮肉だけどね。
では次は周りの国についてだね。この森は周囲を3つの国に囲まれている。
まずコンヨウ君とパフィさんがやって来た南の方がリンガ共和国。
この集落から一番近い国で季候が穏やかな平和な国だね。肥沃で広大な平野と海に面した地形で主な産業は農業と水産業。
食べ物が豊富で豊かな食文化が特徴。
次に森の北西にあるグレプ王国。
ここは鉱物資源の加工と貿易、それから馬の生産が盛んな国でここで出荷される馬はその足の速さとスタミナの高さから高級馬として高値で取引をされている。
この国も平野が中心だけど、リンガ程は土地が豊かではなく、農業には向かない。
その代わり鉱物が多く産出され、それを加工し馬で運ぶ事で国の産業が成り立っているんだ。
最後に森の北東に位置するヤーゴ帝国。
ここの帝都は山岳部の厳しい地形にあり、そこの鉱山資源を使って武器を作り、他国を侵略する軍事国家だ。
現在この国の北東の国境、森から見ると反対なんだけど、そこでは絶えず戦禍が巻き起こっているそうだ。
この国がリンガ、グレプを侵略しようとした場合、必ずこの森を通るから注意が必要だね。もっとも軍隊が来たら私達は逃げるしか手が無いんだけどね。
この森の周りについては以上だけど、何か質問はあるかい?」
え~っと、質問ね~。取り敢えず、パフィさんの方を見てみる。なんか頭の上に疑問符が浮かびまくった顔してるし。なんか全然分かってないって感じだね。まあ僕は覚えちゃったし、後で教えておけば問題ないか。じゃあ僕から、
「えっと、それぞれの国の人族と獣人族の比率、それからどのように扱われているかを教えて下さい。」
「う~ん…それは…」
おっと、ドクさんが口籠っちゃった。もしかしてマズイ質問だったかな。
ドクさんは少しの間、眉間を指で揉みながら考え事してから僕に言葉を投げかける。
「コンヨウ君はそういった一般的な記憶が欠けていると聞いてはいたけど、どうして今の質問を?」
「いえ、種族が違えばそこから軋轢も生まれると思いましたので。」
その答えにドクさんは一瞬表情を曇らせたけど、すぐに元の人が良い笑顔に戻り話を続ける。
「なるほどね。確かに種族間の軋轢はないわけじゃないね。
まずリンガ共和国では人族と獣人族が混在している。その比率は2対8くらいかな。
これは獣人側が犬、猫、鳥など様々な種族を合わせた総数なので、むしろ一番均等だとも言えるかな。
ここでは種族間での軋轢は特になかったと思うよ。」
あっ、言われてみれば獣人族って一緒にしちゃったけど、犬獣人と猫獣人は別物なんだ。
もしかしてその辺の配慮が足りないからさっきの表情だったのかな。これはちょっと反省だね。
「次にグレプ王国だけど、ここはほぼ全員が獣人で人族は稀だね。
別に人族差別をしているわけじゃないけど、人数が少ない分肩身が狭い思いはしてるみたいだ。
実際、国の仕事をしている者の中に人族はまずいないね。」
なるほど、積極的に差別とかは無いけど、そもそも人族が少ないからちょっと人族には辛いかもってくらいか。
「最後にヤーゴ帝国だけど、ここは人族至上主義国家だね。人族による獣人差別が酷い国だよ。
軍事侵略を行った国の獣人はほとんどが捕らえられて奴隷として扱われる。
正直こことは関わり合いになりたくないね。」
うわぁ~。来ちゃったよ。人族至上主義。こういう国に関わるとろくなことにならないからな。
獣人と仲良くしている人族は人じゃない、みたいな事言って僕も狙われたりするんだろうな。
よし!ここには絶対に近づかないぞ。そうしよう。
これで大体知りたい事は知れたかな。僕が安全に行けそうなのはリンガくらいだね。
スイーツ販売もこっちをターゲットに考えるかな。
「コンヨウ君。他に質問はあるかい?」
「では最後に。リンガでは開発中のお芋スイーツは売れそうですか?それからサツマイモも?」
「…多分大丈夫なんじゃないかな。あの国は甘いモノ好きの人多いから。」
なんかドクさんが気の抜けた様な顔してるけど、呆れられちゃったかな。
まあかなり欲まみれの質問だったから仕方ないね。でも安全なところで商売が出来そうでホッと一息だね。
「では質問もないようだし、今日の授業はここまでだよ。
また何か聞きたい事があったら聞きに来るといいよ。」
「はい、ありがとうございました。」
「…ありがとうございました?」
あっ!パフィさんが今までの話についていけずに頭がショートしてる。
こりゃパフィさんに頭脳労働は厳しそうだね。頭の回転は悪くないはずなんだけど暗記が苦手なタイプなのかな。
でも今回の授業で自分の置かれている立場が大体分かったのは大きな収穫だったね。
今後の展望も見えてきたところで、フラフラのパフィさんを引き連れて家路につく僕であった。




