013_スイーツ革命序章
「じゃあ、確かにイノシシの肝は頂いたわ。ポーションは明日には出来るから。」
焼肉パーティーが終わってみんなが満腹になった所で、イノシシの肝を回収するネイチャンさん。
食べてすぐなのにもうお仕事とはお医者さんは忙しいんだなぁ。
後で甘納芋の差し入れにでも行くか。完熟甘納芋で作った蜜タップリの蜜芋。
これを食べればネイチャンさんのテンションも急上昇するだろう。
これはまだパフィさん以外には食べさせていないとっておきだ。きっと喜ぶだろう。
さて、ネイチャンさんを見送った所で今回の本題、エレフさんとの交渉だ。
上手い事言いくるめて少しでも多くの肉を手に入れなくては。
そんな下衆い考えのもと、僕は若干穢れた笑顔を浮かべながらエレフさんに声を掛ける。
「お疲れ様でした、エレフさん。お肉とっても美味しかったです。」
「うん~、どういたしまして~。そう言ってもらえると~料理人冥利に尽きるよ~。」
よし、掴みは上々。まぁ、嘘もお世辞も無しに本当に美味しかったので問題ないだろう。
僕の横にいるパフィさんも笑顔で同意してくれている。さて、場も温まって来た事だし交渉開始だ。
「ところで残りのお肉とかってどうなるんですか?」
「そうだね~。取り敢えずは集落で一括管理すると思うよ~。
生で食べられる分は2、3日中に食べてしまって残りは保存食行きかな~。
節約して食べれば集落全体でも1ヶ月は持つだろうから~。
ちゃんとみんなに均等に行き渡る様にするから心配しなくてもいいよ~。」
「…エレフさん、お言葉ですが均等ではいけません。」
「エッ~?」
僕の言葉にエレフさんは驚いているようだけど、今回一番働いたのはエレフさんだよね。あぁ、占有権を譲渡した僕らは除いてだよ。
みんなが食べられる様にするのはいい。だけどそれでも一番お肉を手にすべきなのはエレフさんのはずだ。
塩だってきっとエレフさんの手出しだし、調理器具だって彼の手持ちだ。
それらを準備する経費を考えると均等では割に合わない。ここは一つ注意しなくては。
「いいですか。今回エレフさんはお肉の運搬から調理と全体の指揮、調味料の準備に道具の準備と、一番働いているうえに出費も一番多いんです。
みんながご飯を食べられる様にするのは結構ですが、それでも一番たくさん報酬を受け取るのはエレフさんであるべきです。
どうか配分についてもう一度検討してみて下さい。」
そうだ。僕の目の前で搾取される人間がいてはいけない。それはギブアンドテイクの精神に反する。
この集落は全員が生きる為に働いているから当然みんな食べる権利がある。でもその中でも貢献度に応じて報酬は変えていくべきだ。
柄にもなく熱くなってしまったかも知れない。僕の勢いにパフィさんが若干引いているみたいだし、エレフさんも及び腰になっている。
少しの間を空け、僕の言葉に対してエレフさんが表情を緩めながら返事を返してくれる。
「ありがとうね~。コンヨウ君は僕の心配をしてくれたんだね~。
でも大丈夫だよ~。まず塩は集落で用意した共有の資産だし、僕にはスキル『調理道具生成』があるんだ。」
えっ?スキルってそんなものもあるの?じゃあさっきイノシシのトドメを刺した包丁もスキルで作ったものなんだ。
そんな事を考えて目を丸くしている僕にエレフさんはおっとりとした笑顔で話を続ける。
「僕のスキルは食材に対してのみに効果を発揮するものなんだよ~。だから料理にしか使えないんだけどね~。
まぁ、そういうわけで調理道具に関しては出費0だし、僕って料理が好きだから~。
それにイノシシのお肉はみんなに均等に分けるけど、他の食べられない素材の売却金については少し僕にも入る予定なんだ~。」
そうか、イノシシの毛皮とか牙とかを売ってお金にするんだ。それがエレフさんに入れば確かに正当な報酬になる。
ここの人達って本当によく考えているな。などと僕が感心しているとエレフさんが更に言葉を続ける。
「そのお金が手に入ったら今度はお砂糖を買いたいな~。ここに来てから甘いモノとか全然食べていないから~。もっとも貴重品だからあんまり手に入らないだろうけどね~。」
この言葉を聞いた瞬間、僕の脳内シナプスが一斉に活性化した。
この世界では甘味は貴重品なのか。これはビジネスチャンスかも知れない。
「エレフさんは甘いモノがお好きなんですか?」
「…うん~。そうだけど~、なんか今のコンヨウ君の顔、怖いよ~。」
おっといけない。僕の邪悪な企みが外に漏れているようだ。でもこれで荒稼ぎができれば、ふふふっ…いけない、いけない。まずはお話だ。
「あの、まず確認なんですけど、この国では甘いモノは貴重なんですか?」
「うん、お砂糖なんて高級品だし、お菓子なんて庶民の口には入らないよ~。
僕は自分で少しだけ作れるからまだマシだけど、一生クッキーを食べれないって人もざらだと思うよ~。」
うん、予想以上だ。でもこれなら…いけるかも。
「では僕のスキルでこんなものが作れるんですけど、ちょっと味見して貰ってもいいですか。」
そう言って僕が取り出したのは完熟甘納芋で作った蜜芋。生成した瞬間にエレフさんとパフィさんの鼻がヒクヒクしているのを僕は見逃さなかった。
僕は蜜芋を半分に割り、それぞれエレフさんとパフィさんに手渡す。
「これは…凄く甘い匂いがするけど~、お芋…なんだよね~。」
「えっ!ぼくもいいんですか。」
「うん、2人の感想を聞きたいから。」
「はい、ではいただきま~す。」
「うん~…いただきます~。」
パフィさんが笑顔でいただきますをするのに倣い、エレフさんもいただきますをしてからお芋のかぶりつく。
その瞬間、パフィさんの顔はとろけ、エレフさんは目を見開く。
「う~ん。やっぱり甘くてとってもおいしいです。ぼく、これ大好きです。」
「…驚いたよ~。そんじょそこらのお菓子よりずっと甘いし、いい香りだ~。」
良し、反応は上々。これならいけるかも。
「エレフさん。プロから見てこれは売れそうですか?」
「売れるどころじゃないよ~。こんなのが売りに出されたら店が繁盛しすぎて大混乱になるよ~。」
「えっ!そんなにですか?それじゃ、これを使ったスイーツを作ったらどうなりますか?」
「へっ?これでスイーツだって~。そんな事をしたらもう本当に街中が大騒ぎになるよ~。」
これを聞いた僕の口元が思わずつり上がり、邪悪な笑みが浮かぶ。
「じゃあ、僕らで街に騒ぎを起こしませんか?」
「…それって~。」
「はい、この芋で一緒にスイーツ作りをしましょう。」
「!!!!」
先ほどまで大きく開いていたエレフさんの目が更に大きく見開く。
そして震える声で涙ぐみながら、僕にその大きな職人の右手を差し伸べる。
「…お願いします~。どうかこのお芋でスイーツを作らせて下さい~。」
その右手を僕は力強く握り返す。ここに異世界におけるスイーツ革命が始まるのであった。




