012_初めての動物性たんぱく質
「よし、それじゃエレフさんのところにお肉の交渉に行こう。」
僕らがこれから向かうのはエレフさんの所だ。
ドクさんとネイチャンさんが僕の先生になった後、パフィさんも彼等の生徒になる事を希望し、お肉の占有権を手放したからだ。
どうやらパフィさんは文字の読み書きが出来ないらしい。そこで2人に先生になってもらう事にしたそうだ。
そうなると気になるのが今回のお肉の配分。今一番お肉の占有権を持っているのはドクさんとネイチャンさんでその次がエレフさん達だ。
ドクさんは集落のみんなに均等にお肉が行き渡る様にしてくれると言ったが、やはりどのくらい手に入るかは気になる。
なんせ焼き芋以外の初めての食材だ。もっとも僕らは調理の術を持っていないので、料理については完全にエレフさん頼りだけどね。
あぁ、僕も鍋とか包丁とか竈とか欲しい。でも僕って完全に現代っ子だから火起こしとか薪での料理とかできないな。この辺も解決しないといけない問題だな。
出来れば火を使わずに食べられる加工食品をいくつか分けて欲しいところだね。
そんな事を考えながら歩いていると、すぐに解体作業をしているエレフさんの下へとたどり着いた。
そこには集落中の人達が集まっていて、とても活気にあふれていた。とても一昨日みんなが餓死し掛けていたとは思えない。
逆さに吊るされたイノシシの内臓とか見えているのが少しグロくてウッとなるけど、これはお肉が僕らの胃袋に入る前の神聖な作業なんだ。
その光景に僕は圧倒されながらもエレフさんに話し掛ける。
「エレフさ~ん、調子はどうですか?」
「わぁ!凄いです。こんなに大きなイノシシが綺麗に解体されてます。あっちで作っているのは腸詰ですか!」
「おッ~。来たね、英雄2人~。今は保存食の腸詰と塩漬けとベーコンの下準備をしているところだよ~。2人も見ていくかい~。」
「はい!!」×2
こうして僕らは保存食作りの見学をする事になった。ちなみに僕もパフィさんもお肉の解体経験はないので邪魔にならない様に隅っこに待機。
エレフさんが熟練の包丁さばきで綺麗に解体したお肉を村の男性陣が次々に運び出し、女性陣が下拵えをしていく。
そして重さ1トンくらいあったイノシシだったものはみるみる内に食料へと姿を変えていく。
腸詰、塩漬け、ベーコンに…アッチは今から食べる為のお肉かな。何やら香草をまぶしている様だけどおそらく臭み消しだろう。きっとネイチャンさんの提供なんだろうな。
香草からは鼻を抜ける様な爽やかな香りがする。野生動物の肉は臭みが凄いって言うし、こういうのは必要だよね。
そして保存食作りが終わり、いよいよ本日のお昼ごはん、イノシシ肉の焼肉を焼き上げていく。
肉のタンパク質と脂肪が焼ける匂いに香草の香りが食欲をそそる。そして仕上げにエレフさんが塩を適量振って完成。
その焼肉がみんなに振る舞われていく。さて僕も家賃を支払うとするかな。
『食物生成(焼き芋)』
僕はスキルを発動させ、焼肉の付け合わせの焼き芋を生成していく。
今回生成するのは鳴子銀時、上品な甘さでお肉の邪魔にならないホクホク食感が美味しい、僕が作れる焼き芋の中で最も主食向きの品種だ。
今回はあくまでもお肉がメインだからお芋は取り敢えずひとつずつ渡して足りない人はおかわりという形にした。
皆に食べ物が行き渡った所で僕もお肉を受け取り、昼ご飯を頂く事にした。
僕はお肉と焼き芋の前で手を合わせる。
「では…いただきます。」
「???」
僕がいただきますをするとパフィさんが何やら困惑した顔、僕の顔を覗き込んでくる。
どうやらこちらにはいただきますの習慣はないようだ。まぁ、周りのみんなが食べ物を受け取った瞬間にがっついているので、何となくそうかなとは思ったけど。
僕はパフィさんの疑問を晴らすべく、説明を口にする。
「これは僕の住んでた国の習慣で、食べ物とそれを作ってくれた人への感謝を込めた言葉なんだ。
これを口にすることで食べ物を大切にし、作ってくれた人やそれを支える全てのものへの感謝を忘れない様にする為のものなんだよ。」
「へぇ~、なんか素敵な習慣ですね。」
僕の言葉にパフィさんは素直に感心しているようだ。僕はこういう反応ができるパフィさんの方が素敵だと思うよ。
だってこの言葉の意味を分かっている日本人ってほとんどいないと思うんだ。
あの国は食べ物を物凄く粗末にする国だったから。食品ロスは年間約600万トンと言われている。一人当たりの食品ロスが約50キロ。こんなの食べ物を大切にしている人間がやるような事じゃない。
えっ?僕?その食品ロスで1年間命を繋いでたんだよ!ダボが!!こんだけロスを出すなら僕に全部寄越せってんだよ!クソが!!!
おっと、今はそんな話じゃない。僕がパフィさんの言葉に感銘を受けたという話だ。僕は心が洗われる思いでパフィさんに一つの提案をする。
「気に入ってくれたのなら一緒にやろうか。」
「はい!せ~の!!」
「いただきます!!」×2
笑顔でいただきますをしたのをきっかけに、僕とパフィさんも貰ったお肉と焼き芋に喰らいつく。
ジューシーな肉汁と脂身の甘味。それを引き立てるほどよい塩加減。イノシシ肉特有の臭みはハーブによって見事に打ち消され、その香りが肉のうま味をさらに引き立てる。
少し歯ごたえのある肉質も食べ応えを演出し、これはこれで食べる者に『食っている感』を味あわせてくれる。
端的に言えば…
「うま~~~~い!!!!!!」×2
そしてお肉で少し口が脂っこくなったところに焼き芋を放り込む。
控えめの上品な甘さとホクホク食感が肉のうま味と一体となり、炭水化物の満足感と共に口からお腹へと流れ込んでいく。
日本人なら白飯が至高という考えもあるだろうがこれはこれで悪くない…むしろいい。
端的に言えば…
「…ふぅ~~~ッ!うまい…」×2
肉、芋、肉、芋……
この後、僕とパフィさん、それから集落のみんなは久しぶりのお肉を満足いくまで堪能した。
僕の焼き芋もみんなおかわりをし、皆が久しく味わっていなかった満足感に包まれていた。
そして最後に、
「ごちそうさまでした。」
食べ物に感謝の心を捧げる締めの挨拶。今日の食事はこの言葉の本当の意味を知る事が出来る最高のものだったと思う。
この後、パフィさんにごちそうさまの意味も聞かれて、それに答えるとまたパフィさんが目を輝かせていたのが微笑ましかった。
そして当然二人で、
「ごちそうさまでした。」×2
同じ食卓で同じものを食べ、同じ幸せを共有する。笑顔のパフィさんを見ながら、僕はずっと昔に失ったものを取り戻せた様な気がして少し涙が零れそうになった。




