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011_ギブアンドテイクとは

「スゲー、本当に仕留めてきちまったんだな。」


「これは私もちょっと予想外だわ。怪我人が出なければ御の字だと思っていたけど。」


「ネイチャンさんの塗り薬、無駄になりましたね。」


集落に戻って来て最初に僕達を出迎えてくれた、ゼブラさんとネイチャンさんとドクさんがそれぞれに感想を口にする。

そりゃこんなデカいイノシシ見せられたら誰だって驚くよね。しかし獣人の皆さんって力持ちなんだね。重さ1トンはありそうなイノシシを10人足らずで運んじゃうだなんて。

よし、ここで僕も一仕事だ。


「皆さん。見ての通りこの腐れイノシシはパフィさん(・・・・・)の活躍により無事仕留める事が出来ました。

早速新たな英雄の誕生を祝しつつ、イノシシ肉で祝杯を上げましょう。」


………


よし、肉料理を要求しつつパフィさんの手柄を主張する。我ながら見事だ。

でも何故だろう。僕に向けられる周りの視線が余所余所しい気がする。ここはパフィさんに対して拍手喝采になる場面だよね。

あっ、なんかパフィさんまでみんなと一緒に僕になんとも形容し難い視線を送ってくるのはどうしてだろう。まあいい、ここはスルーだ。大事なのはお肉を食べる権利を得る事だ。

その気持ちが届いたのか、お料理象さんであるエレフさんが前へと進み出る。


「祝杯はともかく~、まずはお肉の解体と保存食作りからですね~。ドクさん、広場と人手をお借りしても~。」


「あぁ、勿論だよ。手の空いている者はエレフさんを手伝って下さい。

それから、コンヨウさんとパフィさんとネイチャンさんは私の家に一緒に来てくれるかい。」


「…はい、分かりました。」×2


「……」


エレフさんがお肉の解体を行う中、ドクさんに呼ばれ僕とパフィさん、それからネイチャンさんがその後を追う。

一体なんだろうね。パフィさんの大活躍に対する報酬なら別に僕は要らないし、ネイチャンさんが呼ばれた理由も分からない。

まぁ、別に悪い事はしていないし行けば分かるか。そういえばお肉パーティの事うやむやになってる。でも保存食を作ってくれるって言うし、僕らにもいくらか回ってくるだろう。

なんせこっちには英雄パフィさんがいるんだから。よし、取り敢えず目の前の事を片付けよう。

そんな事を考えているとドクさんの家にはすぐに着いた。

家の中に入り、みんなが座ったのを確認したドクさんが神妙な顔つきで話を切り出す。


「実は、あのモンスターを狩った君達と医者のネイチャンさんにお願いがあります。」


「はい、なんでしょうか?」


それに対して僕はよく分からないと言った表情で話しを促す。


「ネイチャンさん…あなたの医者としての知識を見込んで一つ確認したいのですが、モンスターの内臓から傷薬、ポーションが作れるというのは本当ですか?」


えっ!この世界、ポーションなんてあるの?なんかドクさんには珍しい凄い勢いだけど。


「えぇ…可能よ。勿論私にだって作る事は出来るわ。」


「では「ちょっと待った!」」


どうやらドクさんはネイチャンさんにポーションを作って欲しいらしい。

でもそのお願いをネイチャンさんは制止する。


「ドクさん、私にお願いする前にやるべき事があるでしょう。

私は確かにポーションを作れるわ。でも材料が無いと作れない。まずは材料を用意してくれるかしら。」


「もしかしてあのモンスターでは作れないのですか?」


「いえ、あのイノシシで大丈夫よ。でもあれはあなたの物でも私の物でもない。だからコンヨウ君とパフィちゃんを呼んだんでしょう。」


なるほど、話が見えてきた。でも一つ分からないのはどうして僕が呼ばれたか、だ。

あのモンスターの占有権はパフィさんと解体をするエレフさん達にあるはずだ。僕はお芋の物々交換で少し分けてもらえるくらいなのに。

まさか、僕に内臓の物々交換をさせる気か!それは断固拒否だ!そんな事したら僕が食べられる肉が減ってしまう!

僕の黒い食欲のオーラが届いたのか。ドクさんは申し訳なさそうな顔をしながら僕らに話を振ってくる。


「ネイチャンさんの言う通りですね。すみません、話す順番を間違えていました。

まずはイノシシの占有権を持つコンヨウさんとパフィさんに話を通すのが筋でしたね。」


「へっ?僕ですか?パフィさんじゃなくて。」


僕は思わず声を上げる。我ながら素っ頓狂で間抜けな感じの声が出てしまったが今はそれでどころではない。何故なら僕の発言にみんなが『何言ってんだよ、この馬鹿は?』みたいな表情を浮かべているからだ。

おかしい。どこでどう間違えたのだろうか?なんかドクさんがため息をつきながら話掛けて来る。


「えっと…いいですか?今回イノシシを倒した功績がもっとも大きいのはコンヨウさんなんですよ。」


「そうです。あのイノシシはコンヨウさん無しでは絶対に倒せませんでした。」


「いや、僕がやった事って焼き芋で奴をおびき出した事だけだよ。」


「………」×3


僕の発言に全員が沈黙する。本当におかしい。もしかしてイノシシをおびき出した事じゃないのかな。でも他に僕の功績なんて特にないし、もらえるお肉も焼き芋数個分だから500グラムくらいだろうし。僕が悩んでいると今度はネイチャンさんが眉間に指で揉みながら口を開く。


「いい、コンヨウ君。今回のあなたの大きな功績はまずイノシシ討伐の作戦の立案。作戦実行の的確な指示。それにより全員が無傷でイノシシの討伐に成功した事。

それ以外にも細かいものはたくさんあるけど、あなたが今回一番の功労者である事は全員が疑わない所よ。」


「うんうん。」×2


えっ!…そうなんだ~…ってこれは由々しき事態だ。この僕がギブアンドテイクの天秤を見誤った。危うく自分から搾取される側に回ろうとした。これは非常事態だ。

どうやら僕はあのクソ親父に搾取される事に慣れ過ぎたせいで世間一般の価値観が分からなくなっているみたいだ。やべぇ~あのクソ親父、今からでも直接コロコロしてぇ。

おっといけない。みんなの目つきが怯えた小動物みたいになってる。またクロキコンヨウが外に漏れたみたいだ。落ち着け、僕、KOOLになれ。


「すみません。ちょっと考え事をしていたもので。実はこれは既にパフィさんには話している事なんですけど、僕、少し記憶に欠落があるんですよ。」


「えッ!それって…」


あっ!なんか凄い驚かれちゃった。これって実は嘘だから悪い事している気分になるんだよなぁ。本当に僕の事を気遣ってくれてるみたいだ。

でもこの人達ならもしかしたら……よし、この人達にお願いしちゃおう。


「あっ!別にその事は気にしないでください。それよりもこれからの事です。

僕にない記憶は主に常識の部分で、その事を教えてくれる先生を探していたところなんです。良識があり、相応の知識量を持つ人を。」


「それを私達にお願いしたいと。少し買いかぶり過ぎじゃないかしら。」


おっ!ネイチャンお姉さんは話が早くて助かるな。やはり僕の目に狂いはなかったみたいだ。

では僕の思考を開示するとするかな。


「それは謙遜です。あなた達はきちんと僕にイノシシの占有権について教えてくれました。

この一点だけとっても判断材料としては十分ですけど、気になるのは何故ポーションを欲しているかです。

おそらく僕が想像している通りでしょうけど、理由を伺っても?」


この質問については少し難しい顔をしたドクさんが答える。


「先日モンスターの襲撃で怪我をした狩人達の治療に当てたいと考えていました。

彼らは私達を守ってくれた英雄です。それを放っておくなど私達には出来ません。」


うん、予想通り。じゃあ僕の答えも決まっている。


「そうですね。守ってもらったのに怪我の治療をしないだなんてギブアンドテイクの精神に反します。」


そう、自分達は美味しいモノを食べて飢えている子供を見殺しにするクソどもとこの人達は違う。


「そんなあなた達を見込んで取引をしたいと思います。

僕のイノシシの占有権を使ってポーションの材料を確保しあなた達に提供します。

あなた達はこれから僕の先生として知識と常識を提供してください。

これはそういう契約です。」


「…分かりました。私の知りうるすべての知識と常識をあなたに教える事をここに約束します。」


「その取引、慎んでお受けするわ。」


ドクさんとネイチャンさんが子供の僕に最大限の礼節をもって頭を下げる。

世の中にはこんな誠実な人達もいるんだ。それだけで僕の瞳から涙が零れそうになる。

だがここは涙を見せる場面ではない。僕は笑顔で彼らに応じる。


「交渉成立です。これからどうぞよろしくお願いします。ドク先生、ネイチャン先生。」


そう言って僕が差し出した右手を取ってくれた彼らの手はとても温かかった。

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