106_自重を捨てたクッキング
「わたくし、こんなたくさんの食材、初めて見ました。」
「コンヨウさん。随分と買い込みましたけど、本当にこれ全部使って料理をするんですか?」
「うん、今回の僕は本気だからね。パフィさんもしっかり見ておくんだよ。」
さて、これから夕御飯作りだ。
僕が買ったのは鳥のミンチ、魚の干物、玉ねぎ、キュウリ、ニンジン、青ネギ、卵、小麦粉、大豆2キロ、リンゴたくさん、砂糖、酒、塩、お酢、胡椒。それから調理道具としてフライパン、小鍋、網を購入。
それを見て呆けるパフィさんとスフィーダさん。まぁ、二人からすればかなり散財しているように見えるだろう。砂糖と胡椒なんか特にそうだし、大豆を2キロも買うなんて意味が分からないだろうね。
さて今日作るメニューは、サツマイモと鳥そぼろの煮物、魚の干物と野菜のサラダ、サツマイモと野菜の天ぷら、豆腐のお味噌汁、デザートにリンゴだ。
このメニューなんだけど、お察しの通り醤油に味噌に豆腐が必要なんだよね。今まではこれらの大豆加工食品が無かったから手が付けられなかったけど、今は違う。こちらにはチートスキル保持者クズミ様がいる。僕は今回色々と自重せずに料理をしていこうと思う。
今回は基本的に僕一人で調理してパフィさんは見習い、スフィーダさんはお客さんだ。まぁさっき心配を掛けたお詫びという事でね。
まずは下拵えからだ。煮物用と天ぷら用のサツマイモを生成。
「『食物生成(焚火焼き芋)』『調理工程の詳細設定』『調理進捗0%焚火準備済み』『生成場所指定』『鳴子銀時』。
『食物生成(茹で芋)』『調理工程の詳細設定』『調理進捗0%水準備済み』『生成場所指定』『鳴子銀時』。」
「えぇ~~~~!!!」
生芋生成の際、『焚火焼き芋』+『調理工程詳細設定』で生成する事(『芋ファイア』と命名)で、あらかじめ竈に火を入れて置く。
それと同時に、『茹で芋』+『調理工程詳細設定』で水を作り(『芋アクア』と命名)、鍋とついでに備え付けの水がめにも水を入れて置く。
この光景にパフィさんが度肝を抜かれ、口をパクパクさせるが無視。
次は包丁作業だ。煮物用サツマイモは一口大に切り水に晒し、サラダ用の玉ねぎを薄切りに、キュウリを細切りに、お味噌汁用のネギは小口切りにする。
てんぷら用のサツマイモは1センチほどの厚さで輪切りにしてこちらも水で晒し、玉ねぎとニンジンは細切りにしてかき揚げ風に、ニンジンの葉っぱも食べやすい大きさに切り分けておく。
それから魚の干物の下処理。まず骨と身を分けた後、身の方はほぐしてから、乾煎りしたフライパンであらかじめ炒めておく。骨については水を張ったお鍋に投入して火にかけて出汁を取る。
「凄い手際です。もしかしたらエレフさん並みかも…」
「ちょっと、大袈裟かな。流石にプロのあの人には勝てないよ。」
パフィさんは僕の作業に驚いているみたいだけど、これでも定食屋の倅で小さい頃はそれなりに料理もしてたんだ。だからまぁ、このくらいはね。
さて、下準備は概ね済んだけど、まだ材料が足りないね…と思っていた矢先。
「ただいま…おぉ、なにやら色々やっておるようじゃのぅ。」
「ただいま~。」×6
待ってました!クズミ様とルクちゃん…とついでにガキどもが帰って来たみたいだね。
あれ?なんかクズミ様が少し疲れているみたいだけど。
「お帰りなさい、クズミ様とルクちゃんとついでにガキども。
クズミ様、お疲れのようですね。これでも飲んで一息ついて下さい。」
僕が手渡したのはリンゴの搾り汁とお酢と砂糖を混ぜて作った特製リンゴジュースだ。
ちなみにリンゴの搾り方だけどスフィーダさんに握り潰してもらいました。お客様だって言ったのにちゃっかり使ってるって。クズミ様へのご機嫌取りの方が大事なんだよ!文句あっか!!
「おぉ、これはすまんのぅ。甘いのにすっきりしていて美味いのぅ。」
「あぁ~!神父様だけズル~い!!」
「俺達にも飲ませろよな~!!」
「うるせぇ!テメェーらはこれでも食ってろ!!」
そう言って僕はリンゴを8等分してウサギにしたものをガキども、パフィさん、スフィーダさん、ルクちゃんに渡す。よし、これで少しは静かになるだろう。
さて、続き続き、っと。
「クズミ様、帰って来て早々申し訳ありませんが、スキルお願いしてもいいですか?」
「…あぁ、勿論じゃよ。何を作ればいいかのぅ。」
僕はいつもの素敵な笑顔でクズミ様に揉み手ですり寄りながら大豆油、豆腐、醤油、味噌を作ってもらう。クズミ様が若干引いているけど気にしない。
よし、これで材料が全部揃ったぞ。これからが調理本番だ。
まずはサラダ作りから。これは至って簡単。まず砂糖、お酢、塩、大豆油、胡椒を混ぜてドレッシングを作り、下拵えした干物の身と野菜と一緒に混ぜ合わせるだけ。
次は煮物。まず鳥ミンチを鍋で炒めてそぼろにし、そこにサツマイモを投入し、水、砂糖、醤油、酒を加えて煮込む。
その次はお味噌汁。魚の骨をだし汁から取り出し、賽の目に切った豆腐を投入。味噌を溶かして完成。小口に切った青ネギは食べる直前に入れる。
それからリンゴを全員分切って色止めの砂糖水につけておく。色止めで塩水につける人もいるけど別に砂糖水でもいい。塩気を嫌うならこっちなんだけど、この世界では砂糖は貴重なので普通はやらないね。
最後に天ぷら。小麦粉、卵、水を混ぜた衣を、素材に纏わせてフライパンに熱した大豆油の中にシュート!サツマイモは160℃の油でじっくり、かき揚げとニンジンの葉っぱは170℃くらいで油に落とし、そこから火を強め180℃くらいでカリっと仕上げる。
ちなみに火加減だけど『芋ファイア』は弱火から強火まで結構幅広く調整可能。ぶっちゃけガスコンロと同じレベル。おかげで僕はもう薪を使わずにいっちょ前に料理が出来る様になってしまった。これってエレフさん程じゃないけど結構ヤバいよね。
天ぷらの味付けは塩か醤油だね。醤油はコップに作って貰ってスプーンで取ってもらう。
では完成したので配膳しましょうかね…とテーブルの方に視線を移すと、
「コンヨウさん、運ぶの手伝いますよ!!」
「うん!早く食おうぜ。」
「私、こっち持ってく~。」
「パフィお姉さん。そっちは重いから僕が持ちますよ。」
「ちょっと、グレイ!口動かしてないでさっさと運びなさいよ!」
「喧嘩はダメだよ。僕はこっち運ぶね。」
「ウチ、コップとか持っていくさかい。」
見習いのパフィさんと美味しそうな匂いに釣られてやって来たルクちゃん、ガキどもが涎を垂らしながら凄まじい勢いで料理と食器を運んでいく。
さて、僕が運ぶものが無くなっちゃったけどまぁいいか。
「コンヨウさ~ん!!早く来てくださ~い!!」
「うん!今行くよ~!!」
これは急がないと怒られるパターンだな。僕は急ぎ足でテーブルへと向かう。
どうやら僕が最後のようだ。僕が席に着くとクズミ様が食事の音頭を取る。
「凄いご馳走じゃのぅ。冷めないうちに頂くとするかのぅ。では…」
「いただきます!!」×10
僕、パフィさん、スフィーダさん、クズミ様、ルクちゃん、ガキども×5の合計10人の賑やかな食事が始まった。
しかも、主食が焼き芋である事を除けばほぼ和食。ようやく転生後初、念願の和食が食べられる。
今日は色々大変だったけど、この食事のお陰で全て報われた様な気がする。
まずはアツアツの内に天ぷらだね。ちなみに僕は天ぷらには醤油だ。
「ハフハフ~!…ホクホクのサツマイモの甘味がたまらないね。」
「この表面の小麦粉が素材と油の美味しさ閉じ込めているんですね。お野菜もサクサクで美味しいです!」
「このニンジンの葉っぱもサクサク感と同時に香りが口いっぱいに広がって実に美味いのぅ。」
「パクパク!わたくしこのショウユって黒い調味料好きです。大豆の旨味と塩加減がお料理に絶妙に合ってます。」
「ウチはお塩やね。そっちの方が素材の味が活きてる気がするさかい。」
「ルクちゃんは結構渋いね。私はどっちも好き!」
「俺は黒い方かな。」
「パフィお姉さんはどちらが好きですか?僕は美味しそうに食べているあなたが好きです。」
「あぁ~、ウザイ!グレイ!あんた黙って食べれないの!」
「パフィさん、グレイの言う事は無視していいですからね。」
やっぱり揚げたて天ぷらは最強だね~。
次はサツマイモと鳥そぼろの煮物。
「はぁ~。煮込み時間がちょっと心配だったけどしっかり染みてるね~。」
「お芋のホクホク感とおショウユの塩加減が絶妙です。」
「それにお肉のうま味もしっかりサツマイモに溶け込んでおるのぅ。」
「パクパク、モグモグ!これは食べ応えがあっていいですね。」
「スフィーダお姉ちゃん、食べるの早いわぁ~。ウチらもキープしとかんと無くなってまうわ。」
「大丈夫だよ。姉ちゃん、ちゃんと調整して食べてる…はずだよな。」
「いつもはそうだけど…」
「今回はヤバいかも!パフィお姉さんも凄い早さだよ!でもいっぱい食べているパフィお姉さんも素敵だ。」
「あんたぶれないわね。それから私はあんたの専属ツッコミじゃないのよ!」
「コンヨウお兄ちゃんがおかわりあるって言ってたから大丈夫だよ。」
ふぅ、煮物は多めに作っておいて正解だったみたいだな。
では次はちょっと箸休めにサラダかな。
「おっ!久しぶりにドレッシング作ってみたけど、上手くできてるね。」
「お砂糖とかお酢とか結構たくさん素材を使ってましたから、どんな味になるか気になってましたが凄く美味しいです。」
「魚の干物と生野菜の組み合わせも初めてじゃが、味付けの複雑さと相まって絶品じゃのぅ。」
「ムシャムシャ!味付けが野菜のシャキシャキ感を引き立てていてとっても美味しいです。」
「ウチ、お魚ってあんまり食べた事無いんやけど、これは好きかも~。」
「スゲェ~、生の野菜がこんなに美味いなんて。」
「しかも魚で食べ応えも足されてるから満足感もあるわ。」
「あぁ~、小気味の良い音を立てながら野菜を咀嚼するパフィお姉さんも素敵だ。」
「こいつ…ちょっと筋金入り過ぎやしない。」
「疲れたならツッコミ止めたら~。」
なるほど、クズミ様はこういうさっぱりしていて味が複雑なのが好み、と。
じゃあ次はお味噌汁だ。
「はぁ~、よかった。うまく出汁が取れてるみたいだ。」
「なんか、ホッとする味ですね~。」
「ワシ…もしかしたらこれが一番好きかもしれんのぅ。」
「ごくごく!わたくしはもう少し食べ応えがあったほうが。」
「ウチはこのおトウフ好きやけどな~。」
「スフィーダ姉ちゃんの判断基準はカロリーの高さだからな~。」
「こら!女の人に失礼でしょう!!」
「スープを飲みながら表情を緩ませるパフィお姉さん…まことに尊いです。」
「これって死ぬまで治らない系の奴かしら。」
「ツッコミキツイね。気持ちは分かるけど。」
大喰らいリス以外はみんなまったりしてる。あのリスには今度豚汁でも作ってやるか。
この後全員が食事を食べ終わり(煮物のおかわりはパフィさんとスフィーダさんにより消滅)、最後にデザートのリンゴを出す。
シャリシャリ……
「ごちそうさまでした~~!!」×10
やっぱり甘い果物があると満足感が違うね。全員デザートを食べ終わりご満悦。僕も椅子に身を預け一休み。この満腹時に何にもしないで脱力している時間が一番幸せかも。
そんな事を考えながら周りを見回すと、全員同じ気持ちだったみたいだ。完全に弛緩した空気が部屋を支配する。こういうのがあるなら料理を作るのも悪くないと思う。
父さんがなんで料理人なんてやっていたのか、母さんが父さんの料理を食べてどうして幸せそうだったのか、この光景がその証明の様な気がして、少し切ない気持ちになってしまった。




