105_女神との再会、少年の決意
「コンヨウさん。お久しぶりですね。この前より顔色が良さそうで安心しましたよ。」
僕は今、少し前に見た夢の内容を思い出していた。
それは真っ暗な世界だった。そこで僕は銀髪銀目の美少女女神様と久しぶりに再会した。
「女神様がいるって事はここは夢の中ですね。」
「はい、あなたは今クズミ神父の教会の懺悔室で眠っています。」
「うわぁ~、罪の告白をして泣きつかれて眠るなんて、ちょっと恥ずかしいですね。」
僕がおちゃらける中、女神様の瞳はどこまでも優しい。
「良かったですね、コンヨウさん。ちゃんと泣けて。」
現実世界で散々泣いたのにまた涙腺緩むのを感じる。
「我慢する必要はありませんよ。あなたくらいの子には分かりにくいかも知れませんが、泣けるっていうのは素晴らしい事なんです。」
「……はい。」
女神様の慈愛に満ちた言葉に、穏やかで温かい雫が僕の頬を伝う。蹲る僕の背中に女神様の小さな手のひらが温かい。
「落ち着きましたか?」
「はい、もう大丈夫です。ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「…父さんは、母さんは、僕を許してくれるでしょうか?」
「……あの二人はあなたに許しを乞うていました。置いて行ってごめんなさい。辛い思いをさせてすまない。一人にしてゴメンって謝ってました。」
「……」
「どうかお願いします。あなたはあなた達を許してあげて下さい。あなた達家族はもう十分すぎるほど苦しみました。」
「僕は…どうしたらいいですか?」
歪む景色の中、見上げた女神様の笑顔は今まで見た何よりも美しかった。
「真剣に幸せになって下さい。あなたはもう、幸せになっていいんです。」
「…はい。」
僕の頬から涙が零れる度、体の中にあった黒い靄のような感情が薄れていくのを感じる。
この瞬間、僕は自分が許されたのだと感じた。そして残された感情は感謝。
僕を叱り、正しい道を示し続けてくれたドクさん。
僕の身体を気遣い、僕に知識を授けてくれたネイチャンさん。
一緒にバカやって、楽しい思いを共有してくれたゼブラさん。
一緒に美味しい料理を研究して、美味しい食卓を囲んでくれたエレフさん。
未熟な僕を陰になり、日向になり、支えてくれた集落のみんな。
誤った道に進みそうな僕を怒号と共に無理矢理引き戻してくれたお人好しのクズミ様。
そして、この世界に転生してずっと一緒にいてくれたパフィさん。
どれくらい泣いただろうか。真っ暗なはずの目の前の風景も、頭の中も、女神様の顔も、今はとてもクリアに見える。
生まれたばかりの様なまっさらな気持ちの中、僕は女神ノーラ様に問いかける。
「ありがとうございました。ノーラ様。まだお時間は大丈夫ですか?」
「問題ありません。この空間は時間が経過しませんので。何か聞きたい事があるのでしょう?」
「はい、実は…」
ここで僕はノーラ様に聖者教について質問してみる。
僕がこれから生きていく以上、聖者教との関わりは切っても切れないだろう。
敵になるか味方になるかは分からない。でも相手を知らなければ対処のしようがない。
では何故ノーラ様に聞いたのか。それは、
「ノーラ様、僕の推測が正しければ、『聖者様』は僕と同じ日本人の転生者ですよね。」
「はい…彼は私が転生させた日本人です。」
「やはりですか。彼が与えたと言われるスキルは全て地球の、それも日本では割とありふれたものだった。しかもこの世界には元々ない概念のものが多数含まれている。これが指し示す所は一つ………スキルは日本からやって来た。」
「それを知ってあなたはどうしますか?」
僕は決意の瞳で真っ直ぐノーラ様を見据える。
「ウチの集落をこの世界最強にします。味方を増やし、スキルを学び、文化を発展させます。みんなと僕自身の平穏の為、そして何より美味しいモノをお腹いっぱい食べる為に。」
「それがあなたの出した結論ですね。リンガの悪徳商人や権力者、それに聖者教の司教。外敵となりうる様々な要素に対抗しながら、訳ありのあの人達と一緒に幸せを掴む為の。」
「はい、ですので僕はもう自重しません。無理のない範囲で全力で突き進もうと思います。」
「ふふっ、それだと周りが大変そうですね。少しはのんびりしてもいいんですよ。」
先ほどのシリアスな空気から一転、冗談めかした言葉でノーラ様が僕を諫める。
でもそういう訳にはいかない事情もあるんだよね。
「きっと周りがそれを許してくれません。特にあの性悪ビッチ司教は。」
「よく話もしていない人間相手に、よくもまぁそこまで言えますね…」
「それにあの変態狐の事も気になります。アイツ絶対に生きてますから。」
「そうですね。これは大サービスですけど、ゲッスは今も生きてリンガの田舎町に潜伏しています。何か良からぬ集団と結託して悪だくみをしているようです。」
「あれ、良いんですか?神様が現世の事情に介入しても。」
「これは神託です。直接介入は禁止されていますが、信者を少しくらい優遇するのは許されています。」
「ご神託、ありがたく頂戴します。我が親愛なる女神様。」
お互いから飛び出す軽口の応酬に思わず頬が緩む。
「それでは僕はそろそろ起きますね。あんまり寝てるとみんなが心配しますから。」
「そうですね、私の信者さん。あなたに『良き出会いと旅の安全を』。」
僕は弾ける様な笑顔のノーラ様に見送られて目を覚ます。
………
窓から覗く、夕焼けにはまだ少し早いお日様を眺め、肩にかかる毛布を畳みながら立ち上がる。
すると表の方からドタバタと慌てたような足音が近づいて来る。これは良く知っている足音だ。
「コンヨウさん!迎えに来ました!」
「あっ!パフィさん。おはよう。」
僕の気の抜けた返事に拍子抜けした様な表情を浮かべるパフィさん。
そう言えば、あの腐れビッチ司教と対峙した後、いきなりへたり込んで、その上何も言わずにここまで走ってきたっけ。
「どうやら心配を掛けたみたいだね。僕はこの通り、もう大丈夫だから。」
「そう…ですか?」
なおも呆けるパフィさんに僕は(これは本当に)朗らかな笑顔で話し掛ける。
「パフィさん。これから食事の準備をするけど手伝ってくれるかな。」
「…はい!!」
僕の言葉を受け、笑顔で隣に立つパフィさん。二人並んで向かうのは商店街。
急いで夕飯の買い物をしないとね。今日はルクちゃんへのお詫びも兼ねて奮発した夕飯にしようかな。
『新しいスキルが追加されました。』
・『運命神の祝福』…運命神ノーラは信者の皆さんを徹底的に贔屓します。あなたの人生と言う名の旅路に『良き出会いと旅の安全を』。
効果その1:特殊スキル『運命神の加護』の強化。あなたの旅路により良き出会いがあるかも。




