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104_性悪司教の再襲来

「あなたがクズミ神父でございますか?」


「そういうあなたはフリージア司教様ですかのぅ?」


クズミは今、子供達と一緒に街の公園に大道芸人を見に来ていたのだが、そこで予期せぬ二人組と遭遇した。

一人は金髪碧眼、白に豪華な金の刺繍があしらわれた法衣とベールを纏った15歳くらいの少女フリージア司教。

もう一人は紫の髪と黒の瞳で燕尾服、腰に剣を佩いた鋭い眼光の20半ば~30歳の紳士ジルベール。

クズミから見れば同じ聖者教の上司に当たる人物達。そして一般人であるコンヨウ達にスキルを向けた許し難い者達。


ここは大道芸人を見る観衆で人混みとなっている為、無茶はしないだろうが、子供達もいるこの状況では警戒が必要だ。

必要なはずなのだが…何故かクズミの内側の方から警戒心が湧かない。その事を不思議に思いつつも子供達には聞こえない声で質問を切り出す。


「今は子供達と大道芸を見ている最中でのぅ。この場で宜しいなら話を聞きましょう。」


「そう警戒なさらないで下さいませ、クズミ神父。わたくしめはただあなたとお話がしたいだけでございますわ。」


「年端も行かない子供にスキルを向けるような人間をどうやって警戒するなと仰るのじゃ。」


「それはどこで聞いたのでございますか?よもや聖職者がそのような事をするなど。」


「ワシは基本的に高位の聖職者と言うものを信じてないのですじゃ。今の聖者教の腐敗は目に余る。」


「同感でございますわね。わたくしめも自分以外の高位聖職者を信じた事はございませんわ。クズミ神父。」


クズミの静かだが険のある言葉にフリージアは飄々と切り返す。

二人の言う通り、教会とはいえ人の集まり。放っておけば腐敗するし、腐るのは必ず上からだ。

もっとも彼等に見解の相違があるとすれば、そこにフリージアが含まれているか否かぐらいだろう。

そんな二人の遣り取りに辟易した男が一人、彼等の話に割って入る。


「クズミ神父。私はフリージア司教付きの護衛騎士、ジルベールと申します。まずは我が主の話を聞いて頂けないでしょうか。」


「ワシは聖職者ですじゃ。話がしたいと仰るのでしたら何者も拒みませぬ。」


「流石は聖職者の鏡と名高いクズミ神父様でございますわ。それでは早速。」


クズミは言い知れない不快感に苛まれていた。目の前で胡散臭い笑みを浮かべる美少女に警戒心が働かないからだ。

頭では気を許してはいけないというのは分かっている。でも心は信用しろと言っている。その落差が心身に混乱を招いているからだ。


「まず確認なのでございますが、わたくしめが子供にスキルを向けたというのはどちらで?」


「知り合いの子供に聞いたのじゃ。」


「クズミ神父はそれを信じたのでございますか?」


「その通りじゃ。」


「それはもしかしてコンヨウと言う黒髪黒目の小さな人族の子供ではございませんか?」


「…その通りじゃ。」


オカシイ、自分は何とかはぐらかそうとしているのにフリージアに問われると素直に答えてしまう。

クズミは警戒心が更に上昇させたにも関わらず、彼女の言葉に抗う事が出来ない。

目の前でナイフ投げをする大道芸への歓声が沸き起こる中、クズミは一人冷や汗を流しながら、隣に立つ女の言葉に抗う術を模索していた。


「ではその少年に変わった所はございませんでしたか?些細な事でも結構でございます。」


「人とは違う知識を持っているようじゃった…ワシのスキル『大豆製品加工』についての全容を知っておったのじゃ。」


「ジルベール、如何でございますか?」


「『大豆製品加工』…これは用途がいまいち分からないスキルに該当しますね。大豆を加工するスキルのようですが、『大豆油』以外は何の事かさっぱり分かりません。」


「つまりコンヨウさんはそれを知っていたと…そう言う事でございますわよね。クズミ神父。」


「……その通りじゃ。」


クズミは焦っていた。必要以上にコンヨウの情報を相手に渡してしまっている。

そんなクズミの苦悩とは裏腹に愉快そうに笑いながら考えこむフリージア。


「つまり、コンヨウさんはアンノーンスキルの使い道を知っている。ますます可能性が濃厚になってきたのでございますわね。」


「我が主。そろそろ我々の目的をクズミ神父に明かしては?」


「そうでございますわね。」


ここでフリージアはその見た目とは似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべながらクズミの耳元に唇を近づける。


「クズミ神父。わたくしめ達の目的はアバドン教団を追う事でございますわ。

クズミ神父とのお話でコンヨウさんが白だと分かりました。ご協力ありがとうございましたわ。」


耳元にフリージアの甘い吐息が吹き掛かるたびに、老人クズミの背中にゾクゾクと得も言われぬ快感が襲いかかる。

クズミはアバドン教団という単語にも驚愕したが、それ以上にたかが15歳程度の小娘の色香に自分が屈しそうになったという事実に絶句した。

この女は間違いなく何か他に目的を持っていると確信できたのに、それを問い詰める事が出来なかった。クズミの理性が本能に膝を屈したのだ。


大道芸人の演目が終わり、拍手が巻き起こる中、招かれざる客はその場を後にする。

クズミがホッと胸をなでおろす中、今まで背景に徹していたジルベールが振り返る。


「クズミ神父。コンヨウ君に伝言です。

『ご迷惑をおかけして申し訳なかった。我々は本部があるメルロまで向かいます。時間を置いて改めてお詫びに参ります。』っと。

それからアバドン教団の事はご内密に。」


主とは違う護衛騎士の誠実な言葉にクズミの意識は現実へと引き戻される。

はしゃぐ子供達に囲まれながら、クズミの背中は汗でぐっしょりと湿っていた。

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