102_隣に立つ資格
「コンヨウさんはどこなんですか!!」
「落ち着くのじゃ、パフィちゃん。彼は眠っているだけじゃ。」
司教様を見送った後、信じられない速さで孤児院へと向かったコンヨウさん。ぼくも急いで後を追ったのですけど、孤児院でルクちゃんにその場に待つように言われました。
コンヨウさんとクズミさんは大事な話をしているからと言う事でしたが、暫く待って戻って来たのはクズミさんだけ。
心配でヒステリックに叫ぶぼくをクズミさんが穏やかな声で宥めます。
「眠ってる!!また倒れたんですか!!」
「いや、本当に疲れて眠っただけじゃ。心配いらんのじゃ。」
「本当ですか!!ちょっと様子を見てきます!!」
「いや、今はそっとしておいてやって欲しいのじゃ。」
「なんでですか!やっぱり!!」
なおも取り乱すぼくにクズミさんは、
「パフィちゃん。君にとってコンヨウ殿は何なのかのぅ?」
「……」
優しくて穏やかな、でも有無を言わさないその口調にぼくは思わず言葉を詰まらせます。
「コンヨウ殿はおそらく君を庇護対象として見ておるのじゃと思う。」
「……」
「もう一度問う。君にとってコンヨウ殿は何かのぅ?」
ただならない雰囲気に周りにいたルクちゃんや子供達、今しがた戻って来たスフィーダさんがざわつきます。
改めて問われると色々あり過ぎて、逆に答えが出てきません。
大事な人なのは間違いありません。恩人・困ったお兄ちゃん・超人・物知り・ガッカリ残念さん・守銭奴・基本下衆・小悪党・腐れ外道・おっぱい星人。考えれば考えるほど碌なモノが出てきません。
でもあの人とずっと一緒にいたいという思いは嘘じゃありません。でも何故一緒にいたいのかはうまく言葉に言い表す事が出来ません。
庇護対象、コンヨウさんは僕をそう思っているのだとしたら、ぼくは守って貰えるからコンヨウさんと一緒にいるのでしょうか?
そう考えて沈みかけるぼくの心を察した様にクズミさんが優しく語り掛けてきます。
「まずは、自分の気持ちに向き合ってみる事じゃのぅ。コンヨウ殿が心配なのは分かるがこれはある意味いい機会じゃ。
彼が眠っている少しの間でも、自分に語り掛けてみるとよいのじゃ。これは神父としての忠告じゃよ。」
「……」
「さて、スフィーダちゃん。子供達と一緒に散歩にでも出かけようかのぅ。今なら公園に大道芸人がおるじゃろぅ。」
「エッ!本当!俺行きた~い!!」「私も!!」「僕も!!」「僕は残っても…」「あんたはお呼びじゃないのよ。一緒に行くわよ!!」
「…わたくしは残ります。コンヨウ君が目覚めた時に誰かいないといけませんし、パフィちゃんの様子も見たいですので。」
「そうか、ルクちゃんはどうするかね。」
「ウチは…一緒に行ってもえぇですか?」
「勿論じゃよ。君は優しい子じゃ。じゃあ行くかのぅ。」
それだけ言ってぼくとスフィーダさんを残して、クズミさんと子供達は外へとお出かけして行きました。
「…スフィーダさんにとってのコンヨウさんってどんな人ですか?」
少しの間呆けていたぼくは何気なくスフィーダさんに問いかけてみました。
するとスフィーダさんは少し考えこみながら、
「優しくも厳しい人、でしょうかね。」
その言葉はぼくの胸にストンと落ちました。
確かにあの人はそういう人です。基本的には自分で動こうとしないモノに手を貸したりしません。
勿論、どうすればいいかは教えてくれますけど、それにしたって老若男女問わず手加減抜きですし、絶対に貸し付けた分は請求します。
でも本当に困った時やお腹が空いてどうにもならないときは迷わず助けてくれますし、完全には見殺しにしたりはしません。
もっともそれは味方に対しての話で、敵と判断した相手に対しては情け容赦のない一面もあります。
「…スフィーダさん。コンヨウさんと司教様が険悪になった時にどちらの味方をしましたか?」
「……司教様ですね。」
ぼくは今、ぼく自身が分からなくなっていました。
「ぼくも…司教様の味方をしていました。」
そう、どう考えてもあの遣り取りはコンヨウさんらしくなかった。
コンヨウさんは初対面の司教様を敵認定していた。
普段敵を作らない様に小者に徹しているコンヨウさんには本当にあり得ない行動です。
例えあの時に言い訳した通り、お金持ちが気に入らなかったとしても、商売と私情をしっかり切り分けられる人です。
あの司教様はコンヨウさんにとって敵となり得る何かがあった。
そしてぼくはそれに思い至る事が出来なかった。
その上コンヨウさんが眠っていて、会いに行く事も止められた。
「スフィーダさん。ぼくは…コンヨウさんの隣に立っていていいんでしょうか?」
以前ドクさんにもした質問をスフィーダさんにも漏らしてしまいました。
ぼくは今だにコンヨウさんの全てが分かっていないからです。
その質問にスフィーダさんは少し考えこみ、
「あの~、パフィちゃんはコンヨウ君が嫌いなんですか?」
首を傾げながらの答えにぼくは戸惑いました。
「えっと、どういう意味ですか?」
「いえ、誰かの隣に立ちたいかどうかなんて相手の了承が必要なんでしょうか?
自分が立つと決めたら、それはもう自分の領地だと思いますけど。」
「………」
その余りにも自分勝手な言い分に思わず黙り込み、大きく目を見開くぼく。そこにスフィーダさんが畳みかけます。
「わたくしにだって隣にいたい人はいます。でもわたくしに勇気が無くてなかなか立てません。
今の関係が居心地がいいからそれを崩したくないのでしょうね。一歩踏み出せばもっといい関係になるかも知れませんけど、逆に今の関係のままではいられなくなる。そう思うと足が竦んでしまうんです。」
「相手に踏み込んでもらうという選択肢は?」
「あり得ませんね。その人の隣に立ちたいというのは手前の勝手です。その願望を相手に望むのはただの依存です。」
何とも男前な…自分の気持ちに正直なスフィーダさんらしい答えです。
「自分が望んだのなら自分の手で掴み取れ、っという事でしょうか。」
ぼくの言葉に無言で笑みを返すスフィーダさん。
彼女はドクさんとは違う方向からぼくの為すべき事を提示してくれました。
ぼくは静かに頭を下げ、その場を後にします。向かう場所は勿論、コンヨウさんが眠る教会です。
コンヨウさん。ぼくはあなたの隣に立つのに相応しいかどうかは分かりません。でもあなたの側にいたいと誰よりも思っています。




