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101_懺悔室の告白

「お帰り~コンヨウお兄ちゃん、エライ疲れてはるみたいやけど。」


「はぁ~はぁ~…うん、ちょっとお店が忙しくてね。」


これは市場から孤児院まで全力疾走してきた僕とお出迎えしてくれたルクちゃんの会話だ。

僕はあの腐れ司教フリージアと護衛のジルベールさんと別れた後、急いで孤児院まで戻って来た。パフィさんとスフィーダさんは悪いけど置き去りにしてきたから今は僕だけだ。

何故そこまで急いだかと言うと、あの女が聖者教の関係者で僕と孤児院の繋がりを知っているなら、こちらにちょっかいを掛けている可能性が考えられたからだ。

何故あの女が僕に敵対行動を取ったのかは分からないけど、ゲッスの関係者である可能性についても考慮する必要がある。


「どうしたんじゃ。そんなに息を切らして?」


「お兄ちゃん、凄い汗だよ。お水いる。」


「いや、今はいいよ。それよりクズミ様。少し二人でお話をさせて貰ってもいいですか?」


「あぁ、構わんが…」


ヒツジの女の子メリーの申し出を断りながらクズミ様に話を切り出す。

僕の剣幕にクズミ様もただならないモノを感じたんだろう、すぐに求めに応じてくれた。

クズミ様はガキどもに2、3指示を出した後に僕と一緒に隣の教会の懺悔室まで移動…えっ?懺悔室?


「さぁ、コンヨウ殿。ここにはワシと天におわす聖者様しかおらん。何をやったかは知らんが存分に告白するのじゃ。」


「クズミ様…もしかして僕が何かやらかしたと思ってますか?」


「…違うのかのぅ?」


うわぁ~~、これは結構ショックだ。まさか善人そのもののクズミ様からそういう目で見られていただなんて。いや、そんな行動ばっかりしてるけど。

これはあれか!アイツはいつかやると思ってました、ってボイスチェンジャーで声変えてインタビューされる犯罪者の近所の人か!他の人ならともかくクズミ様にそういう扱い受けたら僕だって流石に泣くよ!

するとそんな僕の心情を読み取ってか、クズミ様が懺悔室越しで見えない表情を緩ませながら優しい口調で語り掛けて来る。


「少しは落ち着いたかのぅ。何か困り事なのじゃろう。ここなら誰にも聞かれんから遠慮なく話して下され。」


「…感謝します。クズミ様。」


クズミ様のお茶目に思わず表情(かお)が緩むのを感じながら、僕は先ほどの出来事をかいつまんで説明する。


「…と言うわけです。」


「…なるほどのぅ。しかしにわかに信じられんのぅ。まさかあのフリージア司教がそのような事を。」


「まぁ、普通はそう思いますよね。」


そうだよね。まさか自分の宗教の上司が一般人にスキルを向けるなんて普通は信じないし、信じたくないだろうと思うよ。

僕がクズミ様の反応に納得しているとそのクズミ様が珍しく声を荒げる。


「まったく嘆かわしい!聖職者ともあろう者が一般人に手を出すなど!」


あれ~?この人、僕の言葉を全く疑ってないぞ~。大丈夫か、組織に属する者としてそれは色々と問題じゃないのか?もうちょっと自分の上司を信じてあげようよ。

といった具合にむしろ僕は困惑しながら、


「えっと~、僕の言葉を信じるんですか?」


「当たり前じゃろう。お主はワシらの恩人なのじゃから。」


「相手は教会の偉い人ですよ。」


「関係ないのじゃ。コンヨウ殿が大事な事で嘘をつかない事くらいワシにだって分かるわぃ。」


「……」


僕はこの筋金入りのお人好しに呆れ半分、尊敬半分の眼差しを向けながら思わず黙り込む。聖職者のあるべき姿を体現している様で彼の事が心配になる反面とても眩しく見えた。

そんな黙ったままの僕にクズミ様が言葉を紡ぐ。


「ではワシらに何をすればいいかのぅ?司教殿に真意を問い質せばいいかのぅ。」


この言葉に僕は面食らう。


「ダメです!それではクズミ様の立場まで危うくなる。」


まったくこの人はどこまでお人好しで自衛が出来ないんだ。


「いいですか。その司教が来たら僕の情報を素直に相手に渡した上で、孤児院と僕は無関係だと主張してください。

そうすれば少なくとも同じ聖者教の関係者に手出しをしようとは思わないでしょう。」


「……コンヨウ殿。」


この瞬間、クズミ様の雰囲気が変化する。


「この…大馬鹿モ~~~~~~~~~~ンッ!!!!!!!!!!!!!!」


震える大気、響き渡る怒号、この瞬間、僕は自分がやらかした事に思い至る。


「ワシを…ワシらを見くびるでない!!わが身可愛さに恩人に後ろ足で砂を掛ける様な真似をするとでも思うたか~~~~~~~!!!!!」


「えっと、そんなつもりは…」


「いいや!お主は何も分かっておらん!!何故お主は大人に甘えるという事ができんのじゃぁああああああ~~~~~~~!!!」


「………」


「お主は一体何を抱えておる!!何故死に掛けたワシに差し伸べてくれた優しい手を自分に差し出してやれん!!!何故人が差し出す手を簡単に払える!!何故それだけの力がありながら自分を救ってやろうとしない!!」


顔を真っ赤にしながら激情に任せてまくし立てるクズミ様。僕が会った人達の中でもぶっちぎりのお人好し。真の聖職者。そんな彼が願ってくれた。


……僕が救われる事を。


「神父様、僕は…人殺しです。」


「……」


「僕は…許されていいのでしょうか?父さんは、母さんは、ノーラ様は僕を許してくれるでしょうか?」


「…分かりませぬ。でもワシと聖者様はあなたを許しましょう。」


(私もあなたを許しますよ。コンヨウさん。)


僕に許しを与えてくれたクズミ様の後ろに銀髪銀目の羽の生えた少女の微笑む姿が見えた気がした。

その瞬間、僕の中で何かが崩れ去るのを感じた。


「…ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」


僕は自分の内から溢れ出す衝動を抑えることが出来なかった。その後泣きつかれた僕は気づかない内に懺悔室の机でうつ伏せになって眠っていた。

そして起きた時には背中に薄い毛布が掛かっていた。

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