100_激動をもたらす者
「ふぅ~、終わった!二人ともお疲れ様。」
「死ぬ~…なんでコンヨウさんはそんなに平気そうなんですか?」
「まったくです。わたくしは『カロリーブースト』を使って無理矢理動いたから何とかついて来れましたけど…」
僕らは無事、焼き芋を2000個売り切ったので今日の所は店じまいにした。うん、今は生成量の上限が5000だからスキル疲れも無くて楽ちんだね。
やっぱり経験の差かな、二人はまだまだだね。でも仕方ないよね、2000個を3人で2時間足らずで売り切ったんだから。ナプールの住人、どんだけ焼き芋好きなんだよ。
以前エレフさんが言っていたお客が殺到して大変な事になるって本当の事だったんだね。さて、益体の無い事を考えるのはこの辺にしようかな。
「さて、それじゃ僕らもお昼にしようか。エレフさんがお弁当作ってくれたんだ。」
「本当ですか!わたくし、エレフさんのお料理って初めてなんですよね。ゼブラさんがとっても美味しいって言ってました。」
「やった~!今日は何ですか?」
おっ!流石食いしん坊ガールズww食べ物チラつかせたらすぐに復活したよww
こんなにチョロいと色々不安になるな~。飴に釣られて誘拐犯に捕まったりしないでよね。
「なんか失礼な事考えてますね。それよりお弁当はなんですか?」
「おっと、ゴメン。今日はレタスとトマトとチーズのミックスサンドとグレートボア肉の一口カツとネイチャンさん手摘みの木苺のシャーベットだね…それから飲み物にレモネード…」
「ちょっと、待って下さい!これって…」
「どうしたんですか?パフィちゃん。」
メニューを聞いて、人より大きなぱっちりおめめを更に大きくするパフィさん。
気持ちは分かるよ。スフィーダさんの怪訝な表情なんか無視して騒ぎたくなる気持ち分かるよ。だって、
「ケチャップにマヨネーズにチーズ、それから砂糖に氷。そして極めつけはシャーベット。」
この弁当、まったく自重せず、例の強化スキルを惜しむ事無く使っている。
それに砂糖は高級品だし、グレートボアはモンスター肉だし、チーズとかクリームとか乳製品はウチでしか作れない。そしてケチャップとマヨネーズのレシピはこの間僕が教えたやつだから、僕とエレフさんにしか作れない。
その上トドメのシャーベットは氷で冷やしているので溶けてない。この世界で氷を入手する方法は天然の氷を切り出すか、強化スキルの冷蔵庫で作るかだ。
ちなみにこれは余談だけど、家電の冷蔵庫だけじゃなくて、電気を使わない気化熱を利用した冷蔵庫っていうのがあって、それもエレフさんのスキルで作れたりする。
作り方は大小2つの素焼きの鉢植えを用意して、その大きい方に砂を敷き詰めてそこに小さな鉢植えを入れ、すき間を砂で埋まる。そして砂に水を入れて濡らした後に布等で蓋を被せれば完成。
水が蒸発した時に内部の熱を奪うから小さな壷がガンガンに冷えるという寸法らしい。これをエレフさんに教えてスキルで再現して貰った時にはマジでビビったよ。
まぁ、これだけでは氷は作れないけど、それでもスキル無しである程度食材が保管できるようになったと喜んでいた。
おっと、だいぶ話が逸れたけど、要するにウチの集落以外では氷を手に入れるのは至難の業という事だ。
この世界のスキルに氷属性とかは存在しないらしいから。
さて、この異界の知識タップリのお弁当をどうするかと言うと、
「ではいただきましょうかね。せ~の。」
「いただきます!!」×3
当然気にせず美味しく頂きます。さて、このお弁当の実態を知らないスフィーダさんの反応は、
「う~ん、変わった食材と調味料を使ってますけど、とっても美味しいですね。しかも食後に甘いモノまであるだなんて。」
全く気にしてない模様。前にも言ったけど美味しいモノの前にその出自など些末な事なんだよね。
「はぁ〜、久しぶりのマヨネーズにケチャップ。やっぱり調味料のバリエーションって大事だよね。」
「チーズって生で食べるとこんな味なんですね。これはこれで美味しいですけど、やっぱり火を通した方が一段と美味しくなる気がします。」
「なるほど、パフィさんはとろけるチーズ派か。僕もそっち派閥だから気持ちは分かるよ。」
「ちょっと、わたくしの知らない美味しいモノの話をしないで下さい。」
「もう、ウチの集落に嫁入りしますか?強面の王子様もいる事ですし。」
「ハッ!どうしてそれを……」
顔を真っ赤にしてもじもじするスフィーダさん。チキショ~!完全に恋する乙女のリアクションじゃねぇかよ~~~~!!!!!ちょっと試しにカマかけてみたらまさかのビンゴだよ!もうあのシマウマで確定じゃねえかよ!わずかな望みに賭けてみたけど、ダメだったみたいだ~~~!!!
クソ!あの裏切りシマウマ~!僕を置き去りにして彼女を作る気か~!ヤラはたで魔法使い一歩手前のくせに~~~!!!
「…コンヨウさん。あなたは性格がクズなんですから、近場の理解者で満足してればいいんですよ。」
「パフィさん。心の声、読まないでくれる。」
パフィさんの蔑みの視線が痛い。だいたい近場の理解者って誰だよ!僕みたいな人間失格にいや~ん事してくれるボインのお姉さんなんてどこにもいないよね。
「……本当に心底クズですね。呆れてモノも言えませんよ。」
「だから心読まないで下さい。」
僕だって思春期なんだからいや~んな事に興味を持って何がいけないんだ!
おっと、これ以上ごねるとパフィさんの蔑みの視線が絶対零度の到達してしまう。黙って食事に舌鼓を打とう。
モグモグ、モグモグ……
「はぁ~、ごちそうさまでした。」×3
大満足で食事を終えた僕ら。ちなみにスフィーダさんは宣言通りお弁当とは別に焼き芋を20個平らげた。どんだけ食うんだよ、この人。
今回の売り上げは…『紅音姫』が500個と『甘納芋』が1500個で625000フルール。どうもここの住民は甘味感覚で焼き芋を食べているみたいで、とにかく甘い方が人気のようだ。
とは言っても『紅音姫』の需要もちゃんとあるので、最初から500個と1500個用意していたという体でやってる。
ほら、毎回注文通りの数をあらかじめ用意出来ていたら流石に怪しまれるから。その場でスキルで作っているなんて他人には分からないし。
二人にバイト料として10万フルール渡して、これから撤収しようとした矢先、
「あら、もしかしてもう売り切れでございますか?」
「その様ですね。我が主。」
15歳くらいの人族の美少女と同じく20半ば~30歳くらいの人族の紳士が僕らに声を掛けて来た。
少女の方は金髪碧眼、白に豪華な金の刺繍があしらわれた法衣とベール。おそらく宗教関係者で高位の役職持ちだろう。整った顔立ちに立派過ぎる服。しなやかな身体つきは栄養状態完璧で、全てを持っている感が僻みっぽい僕を苛つかせる。
紳士の方は紫の髪と黒の瞳で燕尾服に腰に剣を佩いた鋭い眼光の持ち主。引き締まった身体と身のこなしから相当の手練れである事が窺える。おそらく護衛だろう。少女から一歩下がった所に立ってはいるけど、何があってもすぐに対処できるように、常に周囲の警戒を行っている。
僕が訝しむような目で二人を観察していると、少女の方が笑顔で僕に語り掛けて来る。
「もし、こちらの焼き芋屋台の方でございますか?」
「…はい、そうですけど。」
「本日はもう、売り切れでございましょうか?」
「…はい、そうですけど。」
柔らかな表情と透き通るような声、蠱惑的な少女の言葉に、感情0、興味0で応じる僕。
その態度を流石に拙いと思ったのか、パフィさんが慌てて僕と少女の間に割って入る。
「すみません。今日はもうお芋が残ってなくて。」
「そうですか?それは残念でございますわね。」
「そう言うわけですからもうお帰り下さい。」
「ちょっとコンヨウさん!!」
僕のあんまりな態度を咎めるパフィさん。いや、気持ちは分かるよ。確かに初対面の相手にこれはあんまりだよね。
でも理由はないんだけど、はっきり言って僕はこの女が『嫌い』だ。自分でも本当に分からないんだけど見ているだけでイライラする。
基本的に他人を疑ってかかる性質の僕だけど、今回は疑いじゃなくて確信をもって言える。こいつらと関わると碌な目にあわないと。
だが、そんな僕の意志を無視した様に、女の方が魅力的な笑顔を更に深めこちらに話し掛けて来る。
「コンヨウさん、と仰るのでございますね。次は何時ごろ販売なさるのでございましょうか?」
「……」
「次は紫の日(土曜日)です。焼き芋販売は基本的に緑の日(水曜日)と紫の日にやっております。」
僕が黙っているとスフィーダさんが割って入り、笑顔で女に応じる。
その様子に女は先ほどの笑みのまま、スフィーダさんに応じる。
「ありがとうございます。リスのお姉さん。もし宜しければお名前を伺っても?」
「はい、わたくしはスフィーダと申します。そちらのクマの女の子はパフィちゃんでそちらの無愛想な黒髪の子がコンヨウ君です。司教様。」
僕はスフィーダさんと満足そうに微笑む女を交互に見比べながら困惑する。
はぁ?司教様?マジっすか、スフィーダさん。こんなチンチクリンのガキンチョが司教様!
なるほど、僕がイライラしていたのは権力者に対する僻みセンサーが働いたからか?僕って結構嫌いなタイプの権力者が近づいて来た時は敏感に反応するんだよね。
つまりコイツは裏で悪い事をしてるって事でファイナルアンサー。うん、自分でもヒドイと思えるくらいの言いがかりだね。イライラの正体が見えて来るとちょっとは落ち着く…
いや、違うな。もっと別な何か…ん?そう言う事か。
じゃあ、このイライラは相手に気取られない様にしないと。
「スフィーダさん。司教様って言うと聖者教の?」
「えぇ、そうですよ。この人クズミ神父様より偉いんですから。コンヨウ君は色々常識が欠けているからそういうところ注意しないと。」
「そうでしたか。知らないとはいえ失礼しました。」
僕は意外な事実に驚いた様な顔をしながら、いつもの媚びを売る感じで女に詫びを入れる。
すると女の方も穏やかな笑みで満足そうに受け答えする。
「いえ、分かって頂ければいいのでございますよ。」
「いや~、僕らが一生懸命働いている最中に良い服を着て、立派な護衛を連れて、庶民のささやかな楽しみを上から目線で見物に来たどこぞのお嬢様だと思ったのでつい。」
「コンヨウさん、初対面の人にそれだけの偏見を持てるってある意味凄いですね。」
「パフィさん。僕の想像力って凄いでしょう。尊敬した?」
「相変わらずの根暗っぷりに軽蔑しました。」
「わぁ~!パフィさん、いつにも増してツッコミきつくない?」
「いえ、コンヨウさんのクズっぷりがいつにも増して際立ってたので、相応のツッコミをしたまでです。」
僕がいつものクズムーブでおちゃらけているとパフィさんのドギツイツッコミが炸裂する。
その様子に女は相変わらずの笑顔だが、護衛の紳士の方は苦笑い。
場の空気が若干ぎこちなくなったところで僕は意識的に明るく振る舞いながら言葉を紡ぐ。
「分かりました!今回は完全に僕の早とちりでした!司教様と護衛の方にはこちらを贈呈します。」
ここで僕は自分のポーチに手をツッコみ『甘納芋』を2つ生成し、それを二人に手渡す。
「あら、これをわたくしめ達に…宜しいのでございますか?」
「はい。これは後で僕が食べようと思っていたモノですけど、今回はお詫びです。
司教様ともなると、色々お忙しいでしょうし、わざわざご足労頂くのも大変でしょうから。」
「お気遣い感謝致しますわ。さぁ、ジルベールも。」
「では少年、ありがたく。」
僕から『甘納芋』を受け取った二人は一礼した後、そのまま僕らに背を向けて歩きだす。
僕がホッとしている所に女がすぐさま振り返りながら、静かに僕にだけ聞こえる声でこう呟く。
「申し遅れましたわ。わたくしめの名は『フリージア』でございますわ。また会いましょうね。コンヨウさん。」
舌なめずりをしながらこちらに艶かしい表情を向けるフリージアに、僕は思わず誰にも聞こえない声で呟く。
「もう二度と会いたくないってメッセージは通じてないみたいだな。」
僕はフリージアがその場を去るのを見送ると、思わずその場にへたり込む。
パフィさんとスフィーダさんがそれを心配そうに眺めているけどそれどころじゃない。
何故ならつい先ほど、僕の頭の中にスキル強化の時と同じ声でとんでもないメッセージが流れてきたからだ。
『現在、敵対的スキルにより攻撃を受けております。特殊スキル『運命神の加護』を発動します。』
まったく、あの女フリージアの目論見が何かは分からないけど、エライのに目をつけられたもんだ。
特殊スキル『運命神の加護』…なんかいい事あるかも。
良い事その1、敵対スキルに対しての自動防御機能。運命神ノーラより高位の者以外の能力は問答無用で無効化、その際不快感として危険を知らせる。
あの銀髪の女神様。とんでもない置き土産してくれたもんだ。まぁお陰で助かりましたけど。




