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アンドロギュヌス  作者: 勇者ありたま
みんなのラルフ
7/83

マリアの憂鬱

「ジャン、明日仕事が終わったら、今帰仁城跡の麓の『強欲ババアの宿』まで来て。飛べるわよね?」


マリアから、ショートメールがきた。


「ワワン(なぜ、今時LINEじゃない?)」



「マリアは、LINEが良くわからないんだ」


一部の人にわかっていただける? と、思うが最近の文明の利器の発展は目覚ましすぎる。「私は、常に機械に置いていかれている」と、誰かが言ってました。


ジャンも、はっきり言って、機械は苦手である。機械相手に魔眼でキレたのも一度や二度ではないのは、ここだけの話。


最近は、ランゲルハンス子爵の家に住み込みで働いている。



「家に帰るのが面倒」


と、ジャンがぼやくと、優しい子爵は、



「では、空いてる部屋とかいかがですか?」



と、即オッケーしてくれたのだ。あの人こそ、「現人神」だと、確信しているジャンである。



「クゥン(でも、ジャンの荷物が多すぎて、引っ越しがまだ完了してないよね)」


「…」


お洒落が好きな俺は、家にある服や化粧品やアクセサリー類をメルカリで売ったり、断捨離してる途中である。挫けそうな量。笑



俺が案内された部屋は、使用人部屋だったため、ベッドと小さい収納しかないワンルーム。家賃がただなので、文句は言えない。泣


★★


約束の日の夜。



「パトラッシュ、行くぞ」


「ワン(うん)」



俺は、頬を染めて俺を見上げるパトラッシュを見る。モフモフの身体がさらに巨大化したような…。


「パトラッシュ、横になって」



「クゥン(なんで?)」



文句を言いつつ、パトラッシュがごろんと横になる。樽のようなお腹は、洋ナシのようにぽこっと出てしまっている。



「…」


俺は無言で、パトラッシュの首輪を掴み、持ってみようとした。明らかに前より目方が増えている。


「パトラッシュ、体重計乗ってる?」


「クゥン(この前、針が振り切れちゃって)」



…100キロを優に超えてきたか。120キロはありそうだ。最近は、ランゲルハンス子爵でうまい飯を食らってるせいか。



俺は、魔眼でパトラッシュに命令した。


「パトラッシュ! 『強欲ババアの宿』まで、飛んでいけぇ!」



バビューン!


「ワワン(なんか、今回扱い雑!)」


…パトラッシュは、星になった。



「パトラッシュ、いい奴だった…」



「じゃなくて、俺も追いかけるべきだ」


俺は、バサバサと翼をはためかせながら、子爵家を後にした。



★★

「強欲ババアの宿」に着いた。ここは、客によって値段を変える。なので、ババアとのファーストコンタクトが肝心だ。


「足元を見る」という慣用句がある。本来の意味とは違うが、接客業に於いては、客の「裕福度を見るバロメーター」であり、本当に「足元」の靴を見ているのだ。


ジャンは、ケチなので、ボロボロの靴を履いていく。笑


雑巾のように店の前で蹲るパトラッシュがいた。


「クゥン(ジャンがひどい…)」



「ごめんて」


パトラッシュを宥めながら、マリアを待つこと30分。


「ごめーん、待ったぁ?」


「あ、今来たとこだから」



「クゥン(この場面デジャヴ)」



マリアは、お風呂上がりの上気した頬で、やってきた。


ババアの店でチェックインする。


「あんた、どこかで見たことあるね。…モデルと、子爵家で働いて金は持ってるだろう? そんなボロボロの靴で私をごまかすなんて、100年早いよ」


…強欲ババアは、予約した者の下調べを念入りにしてる。「今帰仁の富岳」と呼ばれるババアの頭の良さと抜け目の無さは、「実はアンドロイドではないか」と言われている。



★★

「こんなボロクソ宿で、一泊二万とかあるか」



「まぁまぁ、明日は花見だから。パアッといこうよ」



…強欲ババアの宿では飯も出てこない。マリアにその辺で買ってきてもらった食事でつかの間の休息。


「この餃子旨い。ニンニク効いてる」


「ワウワウ(肉美味しい)」


★★

翌朝、今帰仁城跡にやってきた。今帰仁城跡は、14世紀後半に三山時代の北山王統の居城となった。今でもその跡をとどめており、2000年から世界遺産だ。


毎年「今帰仁グスク 桜まつり」が開かれており、整備された道が歩きやすい。桜も密集しているため、親子連れが多い。


「パッキンの子どもは、なぜあんなにかわいいのか?」



「パッキンって…」


色が抜けるように白い、金髪の子ども達が溢れている。薔薇色に染めた頬の笑顔で走り回る子ども達は、「天使もかくや」と思われる程だ。本当に天使かもしれないが。天使は、金髪青目が多い。


「ジャンも、半分天使じゃない」



「そういえば、そうでした」


「ワウワウ(ジャン、あの焼き鳥買ってぇ)」


桜はピークをすぎ、葉桜も交じっていた。寒緋桜は、ソメイヨシノとは違い、ハラハラと舞い散らず、椿のようにボトッと花ごと落ちる


寒緋桜は、木によって花の色合いが違う。群生していると、ピンクのグラデーションが非常に美しい。


「マリア、そっちは危ないから」



幼い子どものように、崩れそうな石垣に足を掛けようとするマリア。普段から、注意力がある方ではないが、この日はいつもより周りの景色に貪欲に反応した。まるで、それはこの世に別れを惜しむようでもあった。


「パトラッシュ、マリアを捕まえてくれ」


「クゥン(今アイス食べてるのぉ)」



城なので、小高い丘になっている。低い柵からは海が見える。吸い込まれそうな青のグラデーションが、ふと「向こうに行ってみたい」という気持ちにさせられる。海が見える崖では自殺が多い。それは、ちょっと「向こうに行ってみたい」と思っただけの人もいるかもしれない。


柵にぴったりと身を寄せたマリア。


「マリア、危ないって」


振り返ったマリアのキャラメルブラウンの瞳から、一筋の涙が光る。静かに泣くマリアが美しく、俺は息を呑んだ。


「私、お父さんの病気がうつったかもしれないの」


今世界中で疫病がはやっている。致死率はそこまででもないが、確実な治療法がない。俺は、目の前が真っ暗になった。


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