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アンドロギュヌス  作者: 勇者ありたま
みんなのラルフ
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ジュリヤンの握手会

ドゥブロブニク町のとあるお屋敷。ジュリヤンは、お気に入りの雑誌「薔薇族」を見てナニかをしていた。それがナニか気になったかたは、Webで「薔薇族」を検索するといいと、これを書いた人が言ってました。笑


「あっ♥️」


「ガチャ」


「パパ開けるタイミングが最悪」


無断で父親が部屋に入ってきた。これが母親なら、思春期の少年達は死ぬ理由になる。


「ジュリヤン、ジュリヤンローズの新しいデザインのラフ画はできたか?」


「まだ」


「ジュリヤン、明日の12時までにできなかったら、お前が欲しがっていた、ポケモンの新作ゲームの予約キャンセルしとくからな」



「パパ…。それだけはらめぇ…」



「バタン」


勝手に入ってきて、勝手に出ていった父親。ジュリヤンは、父親が経営する道具屋の研究開発者として働いているが、家から出ないため、働かなければただの引きこもり。父親は、ジュリヤンが欲しいものはほぼ何でも買ってあげる代わり、小遣いなど生易しいものは渡さない。ジュリヤンをしっかり働かせるためである。実に抜け目のない父親である。



ジュリヤンローズとは、ジュリヤンの父親が経営する道具屋「トゥットゥ クァント」で展開する化粧品のオリジナルブランド「ジュリヤンシリーズ」の目玉商品である。ジュリヤンの唇や頬の血色の色味を再現した「ジュリヤンローズ」は、毎年色味やパール、ラメなどの配合をほんの少し変えて、パッケージを変えるだけで、飛ぶように売れる。この町だけでなく、世界中でうれまくるので、父親はこの商品に特に力を入れている。商品開発から、パッケージデザインまで自分たちでやれば原価を抑え、儲けが死ぬほどでる。なんとあこぎな!



ジュリヤンは、憂鬱だった。只でさえ生産が追い付かないくらい売れるジュリヤンローズをもっと売ろうと、父親は口紅三万本限定で、「ジュリヤン握手券」を忍ばせている。口紅に付いたシリアルナンバーから抽選なので、口紅の売り上げは毎年恐ろしいことになる。製造工場は委託で、その時期の町内外の工場は「死人が出る」という噂がまことしやかにささやかれる。



工場の方々の苦労を思うと、手を合わせるしかないが、ジュリヤンの憂鬱の原因は、「握手会」そのものにある。



「俺、女嫌い…」


ジュリヤンは、「ドゥブロブニクの宝石」と呼ばれる程の美少年の為、町を歩けば確実に拐われる。その為、ジュリヤンの家は、全て顔認証のセキュリティーで守られている。不審者は、直ぐにSECOMが駆け付けて捕まえてくれる仕様だ。



★★

次の日の夜11時。


「パパぁ。できたよ」


「ジュリヤン、良くやった。お前がもう一つ欲しがってたBTSのブルーレイも付けるから、今日はもう寝なさい」



ほぼ丸一日徹夜で作業したジュリヤン、ボロボロである。睡眠不足はお肌の大敵なのよ。


★★


さらに数日後。試作品をいくつか持ってきてもらい、直ぐにポスター撮影。このポスターも、むちゃくちゃ売れる。過去の奴はヤフオク!でプレミアが付きまくり、ジュリヤンが初めて撮影されたポスターは、去年500万ギルの値段が付いた。



化粧品は、もちろん今年新作の「ジュリヤンローズ」で統一、身に着けるジュエリーも、宝石屋と提携。服は「ジャン・クロード」ジャンは、服屋と提携して自分の名前を冠したブランドを持っており、そこのモデルでもある。ジュリヤンのポスターは、発表されるとすぐに問い合わせが殺到するので、提携会社も首を長くして客を待っているのだ。もちろん、提携会社の売り上げも半端ではない。



ポスター撮影では、パトラッシュに協力してもらう。ジュリヤンのパトラッシュに対する流し目が、これまた得も言われぬ美しさ。遠い外国のある女帝が「妾より美しい者などいるのか」と部下に質問したところ、ジュリヤンのポスターを見せられて驚愕したという逸話もある。


今年は、エメラルドと淡水パールのロングネックレスを軽く咥えたジュリヤンが、胸元が大きく開いた生成り色のシャツをわざと気崩して、エメラルドの瞳を潤ませながら、色っぽくこちらに流し目を送っているデザイン。左隅には新作のジュリヤンローズの口紅。今年は、透明感のあるラメピンクを基調にしたデザインである。


「…俺の息子じゃなかったら、なんかしてしまいそうだな」


そのポスターの画像を見て、父親が悩ましくため息を吐く。このポスターが世に出回る頃には、町の人々は、こぞってジュリヤンと同じデザインを着る。幼気な子どもまで同じ服なのは…。


★★

ジュリヤンは、震えていた。とうとう年に一回のこの日が来てしまった。朝からジュリヤンは、数人の執事に羽交い締めにされ、風呂で体を綺麗に洗われて、今化粧をプロのメイクアップアーチストに施されている。今日の衣装も「ジャン・クロード」のもの。この日は、ジュリヤンの強い希望で露出は少なめ。光沢のある瑠璃色のフリルが贅沢に付いたシャツ。ズボンは白で王子様感を。しかし、ジュリヤンは身長が157センチで体重も40キロくらいしかない。少し大柄な女なら、お姫様抱っこで拐える。服はもちろん女物なのはここだけの話である。


綺麗にネイルまでやられて、ジュリヤンは涙声になる。



「パパぁ…」


「化粧が崩れるから泣くな」



★★

安全性を考え、檻に入れられたジュリヤン。顔は青ざめ、震えている。



「ちゃんと守ってやるから」


「ワフン(俺もいるよ)」



厳重な警備態勢の中、ジャンとパトラッシュも警備員として参加。ジャンは、手を離さない客を魔眼で剥がす要員。パトラッシュは、威嚇用である。


「では、先頭の方からお願いします。ジュリヤンさんを怪我させないように、優しく握手してあげてください」



「ひぃぃ…」


ジュリヤンの握手会という名の公開処刑が始まった。



「わだす、この日をだのしみにしてただ」


農業従事者か。黒く日焼けした、グローブのような手に恐々触れたところで、ジュリヤンの意識は途切れた。



★★

「!!!なんか、手に白いどろどろしたやつが付いてる!」


握手会のお約束? らしい手にナニかを付着させた男もいたらしい。偏見かもしれないが、美少年ではなさそうなので、知らぬが仏。気絶していたジュリヤンは幸せだったかもしれない

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