みんなのラルフ
★★
「ワワンワン(ゆうべはおたのしみでしたね)」
「…ごめん。ごめん。まじ楽しかった。聞こえた?」
「ヴヴ~ワンワン!(まじうるせぇ。町中に聞こえる声でよがるな!)」
「仕方ないだろう? お前もマリアと寝てみれば分かるぜ」
「ご飯できたよー!」
昨日、家に泊まってくれたマリアが、朝ごはんを作ってくれた。
「ワン!ワフン!(いつものご飯より、千倍はうめぇ! なんだこの肉の柔らかさと旨味!)」
「オークの肉だけど、パイナップルに一晩漬けて、スパイスで臭みを消したの。美味しい?」
「クゥンクゥゥーン。(結婚してくれ…)」
「マリアは、あげねぇ。シェアはしても。しかし、このじゃがバターうめぇ」
「ジャンは、じゃがいも好きだから、素揚げして、ローズマリーとベーコンとで炒めたの。どう?」
「マリア、帰らないでくれ」
「うーん、でもぉ。今マリアのお父さんが病気なの。仕方ないでしょ。もう帰るから」
粘る俺をひっぺがして、マリアは帰った。次はいつ会えるのか…泣
★★
俺は、ラルフ・ローレン。何か聞いたことあるって? どうやら、固有名詞考えるの面倒って誰かが言ってた。俺、まぁまぁ主要人物のはずなんだが。
まぁ、俺は最近嬉しいことがある。めちゃくちゃ半端なくモテる。しかも、二年前から。
「ピロン♪」
ちょい高めだけど、通信魔道具が売ってる。誰かから、LINEだ。どれどれ…。
「ラルフ、今暇? 私のとこに今すぐ来てぇ」
アマンダ・リシャールからだ。茶色の髪に浅黒い肌。今駆け出しアイドルで、かわいいのはもちろん、スタイルが半端じゃなくいい。特に胸。グラビアアイドル上がりのアマンダは、胸でナニを挟む技術が秀逸。よいこは真似しちゃだめ。
「今すぐいくよ♥️」
俺は、いそいそと、アマンダの家に急いだ。
★★
アマンダの家にて。一通り事が終わった後。
「アマンダ、俺の事好きか?」
アマンダは、茶色のウェーブのかかった豊かな髪を揺らし、先程の情事の名残である上気した顔を俺に向ける。潤んだ赤い瞳が潤んで揺れる。…美しい。
「え?」
「え? じゃなくて、俺の事が好きだからこうやって、時々会ってくれるんだろう? さっきまであんなによがってたじゃねぇか」
「…そうねぇ。通りの肉屋のおじさんよりは」
「? なんか、俺に対する愛が薄くない? さっきのは何?」
アマンダは、面倒そうに、ドアを指差した。
「ねえ、終わったら帰ってくれる約束でしょ。私、アイドルだし、誰かとこういうことになってるのがばれたら面倒なの」
「…」
俺はそそくさと帰り支度をして、アマンダの家を後にした。
「何なんだよ。全く」
…俺はモテる。モテるが、みんな俺に対する愛が薄いような気がしてならない。
ラルフは知らない。ラルフの恋人は四人いるが、その四人から、陰で「ピザ屋」「ウーバーラルフ」「デリヘル坊」と呼ばれていることを。しかも、ラルフのスケジュールは、グループLINEによりがっちり管理され、四人のスケジュールが被ることもない。ある意味かわいそうな男。ラルフ。
★★
アマンダ「ラルフ、今帰ったわ」
ジャン「今日はラルフいいや。一週間後の土曜日」
ジュリヤン「俺も今日はいい。来週の月曜日」
ミミ「ミミは、明日!」
アマンダ「了解。私は、来週の金曜日にするわ」
★★
俺は、また別の日、ジュリヤン・モローのところにいた。ジュリヤンは、道具屋の息子で、男だが、すんげぇ美少年だ。
「ジュリヤン」
「何?」
ジュリヤンは、肩まで伸ばした金髪をかきあげて、めんどくさそうに返事をした。伏し目がちの翠の瞳が美しく、こんな美少年とナニかするのは、背徳的な悦びを感じさせる程だ。肌は、抜けるように白く、上気して、頬を薔薇色に染めた姿は、そのまま絵画にできそうだ。
「俺の事が好きか?」
「微妙」
「…」
俺は何かがおかしいと感じ始めていた。俺に彼女?(男含む)は四人いるが、みんな愛が薄くないだろうか?
★★
そのまた別の日。俺は、ミミ・プティのところにいた。ミミは、ロリってやつで、小さく可愛く、そして胸がでかい。
ミミは、意外とスキモノで、アニメ声でよがる。しかも、割りとしつこく求められる。俺は、みんなにぶつけている疑問をミミにもぶつけてみた。
「ミミ…。俺の事好きか?」
「? ミミは、チョコレートケーキが好き!」
ミミは、自慢の巨乳と緑の美しい髪を揺らしながら、笑顔で答えた。ミミは、ブルーのクリクリした目も愛らしく、町でファンクラブができる程の美少女だ。
「…。次来るとき買って来るよ」
★★
ジャンの家にて。ジャンは、激しめがお好みなので、正直疲れるが、まぁいい。俺はお決まりのセリフを吐いた。
「ジャン、俺の事好きか?」
「? 便利だとは思ってる」
「? 便利? 俺さっき滅茶苦茶頑張ったよね?」
ジャンは、銀髪を揺らして、面倒臭そうに俺を見た。その目はブルーだ…。
「ジャン、事が終わったら、そんな冷めきったブルーになるのかよ。さっきまでのは一体なんだったんだ」
ジャンは、スタイルが彫刻のように美しい。均整の取れたという言葉を具現化したようだ。顔も、半分天使なだけある。見とれてしまうくらいには美しい。
「ま、お前俺の他にも誰かいるだろ?」
「!?」
…俺は青ざめた顔でジャンの家を後にした。
俺を心から愛してくれる人はいるのか?






