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アンドロギュヌス  作者: 勇者ありたま
みんなのラルフ
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シェリルは確かめたい

シェリルは確かめたい



俺は、いつものスーパー「激安スーパー ドラゴン」で買い物をした帰りに通りを歩いていた。



「クゥン(重い)」



「何言ってんだパトラッシュ。その肉、お前の1日分だぞ」



「クゥゥーン(マジかよ)」


「今日は、じゃがいもが特売で、キロ40円だったし、良いことありそうだな」



「クゥン(この芋狂いめ)」



「?」


俺は通りの角に佇む、見たことある少女に目を向けた。淡い亜麻色の髪にブルーの瞳。寂しそうに佇む美少女は、一際目を引く。間違いない。



「シェリル! ブッ殺すぞてめぇ。なんでそこにいんだよ!」



少女は、顔を上げると、気まずそうに声をあげた。



「げっ。ジャン。なんでこんなとこに」



「なんでこんなとこにじゃねぇ。お前、最近俺がお前を人攫いから助けてやったのを忘れたか。仮にも貴族のお嬢様ならな、こんなとこにうろうろしてたら、拐ってくださいって、お願いしているようなもんだ!」


「…だってぇ」



「だっても、くそもねぇ。お前、ヒース父様を泣かせたらな、1 お前を八千年呪う。2 ヒース父様を奪う。3 お前の目の前で、お前の大好物を全部食べるの嫌がらせを全部やってやるぞ。ちなみに、八千年呪うは、お前の魂だからな。輪廻転生なんかで逃れられると思ったら大間違いだ」



「ワンワン(地味にやべぇぞ。こいつ)」



シェリルは、目に涙を一杯溜めると、ぼろぼろ泣き始めた。



「…だってぇ。パパは、ぐすっ。いつも、忙しいって。ぐすっ。シェリルのこと構ってくれないんだもん」



「マジ、言いわけが草でぶっ殺す」



「クゥン(半分女だと、泣き落としが通じねぇ)」



俺は、魔眼でシェリルを黙らせ、家まで強制送還。そのままシェリルの家、ランゲルハンス子爵の門まで飛んでいった。



「おい、てめえんとこのお嬢様を捕獲したぜ」



門番は、ばつが悪そうな顔をすると、澄まして言った。



「これはこれは、クロード様。一度ならず二度とまでもお嬢様を助けてくださり、ありがとうございます」



慇懃に礼をされ、屋敷に通された。次は執事が迎えてくれる。



「お嬢様を連れて来たぜ」



「…私どもも捜していたところでございます。ありがとうございます」



執事は、俺の目を見ようとはせず、屋敷に通し、ランゲルハンス子爵の執務室まで案内してくれた。



「旦那様。お嬢様をクロード様が、捜してきてくださいました」



「ガチャ」



ドアが勢い良く開き、中から慌てた様子のランゲルハンス子爵が。



「シェリル!」



ランゲルハンス子爵は、シェリルを抱き締めて、涙を流していた。暫しの沈黙の後、俺と目が合った。


「ジャン・クロード様でしたね? 一度ならず二度までも…。娘を助けてくださり、ありがとうございます」



「子爵、助けたって言うかですね、私が町で買い物をしていたところに偶然お嬢様と居合わせたのです」



「シェリルはぁ。パパがシェリルと遊んでくれないから、シェリルのことが嫌いなのかと…」



「シェリル…」



「クロード様、大変申し訳ありませんが、明日お時間ございますか? 明日の昼三時頃、また私を訪ねてくれたら助かるのですが」



俺は、跪いて、ランゲルハンス子爵の手を握った。



「はい、死んでも伺わせていただきます」



「ワンワン(ジャン、鼻血が出てるぞ)」



★★


次の日の三時頃、俺はピンクのワンピースにレースのカチューシャを着け、いそいそとランゲルハンス子爵の屋敷まで出掛けた。


「クロード様! ? そ、その格好は? あなたは男ではないのですか?」



驚きに目を見張るランゲルハンス子爵。心なしか若干引いている。



「同衾してくれたら、俺…私の秘密を話します」



「バシッ!(即物的な口説き方をするな)」


パトラッシュに肉球パンチをお見舞いされた…。



「と、とりあえず、執務室の中へ。お話があります」


執務室のソファーへ、ランゲルハンス子爵と対面するようにこしかけた。


憂れいを帯びたランゲルハンス子爵は、うつむき加減で話し始める。


(イケメンは、悲しんでても絵になる)


俺は、鼻血に気を付けながら、ランゲルハンス子爵の話に耳を傾けた。



優しい音楽のように、ポツリポツリとランゲルハンス子爵が話し始める。高めの優しい声が辺りの空気を優しく震わせていく…。


(声までイケメンかよ)


「お恥ずかしい話なのですが、私は孤児院出身で、両親の顔も知らないのです。孤児院では、虐待が当たり前で、私は、お腹が空いていない日と殴られなかった日を数えるのが難しいくらいで…」



「だから、シェリルが産まれた時に同じ思いをさせまいと、必死に働いて、なんとか平民のどん底からここまで這い上がって子爵になったのです」


「私は、何か間違っていたのでしょうか…」


ランゲルハンス子爵の青い澄んだ瞳から涙が滲む。窓から射し込む太陽の光が子爵の金糸のような髪を輝かせる。その光景は、そのまま名画にでもなりそうだ。



(この光景を目に焼き付けねば)


「ワン(おい、相談されてるだろ。邪念を消せ)」


「…おこがましい相談ですが、私に書類仕事を手伝わせていただけないでしょうか? 子爵のお仕事が減ればその分、娘さんとの時間に充てられるかと」


「え!」


目を見開いた子爵は、後ろの執務机を見た。執務机には、1メートル近く積もった書類が三セットあった。



「本気と書いてマジと読む」


子爵は、嬉しさに目を輝かせながら、俺の手を握った。


「是非! 今すぐお願いします!」


★★

「いやぁ。ジャンさん、明日も9時に来てね」



「…はい」


俺は、死ぬ気で書類を手伝ったが、1セットしか終わらせられなかった。今は、子爵の家で夕食をご馳走になっている。



「ワフン(この肉超絶うめぇ!)」


「シェリルたん、パパがいなくて寂しかったのかい? はい、あーん」


「…」



俺は今目の前で、シェリルと子爵のいちゃつきを見せつけられている。



「…シェリル…殺す」







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