6話 北地区へ
「リエト様のこともっと知りたい。リエト様のいたところってどんな感じなの?」
「そんなに特別なこともないさ。ここのみんなが働いているのと変わらないよ。食べているものも変わらないし。毎朝同じ時間に起きて、同じ仕事をこなす。そして同じ時間に寝る。それの繰り返しさ」
「そうなんだ。もっと王宮は優雅だと思った」
アリアにとってみれば、南地区以外にでることはないから、王宮の話は新鮮なのだろう。
アリアの興味に答えて、ひとしきり思い出話に花を咲かせたあと、俺たちは床に就いた。
ん?アリアさん。アリアさん。なんで当たり前のように俺の布団に入ってきているの?こっちを向くな。こっちを。
俺がベットに入ったあとすぐに同じベットにアリアが入ってきた。お風呂に入ったあとの少し濡れた銀色の髪はさきほどと比べて妙に色っぽい。
「あー。わかった。わかった。今日は俺がしたの布団で寝るよ。」
これ以上、ここにいられると俺の方も我慢できなくなってしまいそうだ。
「ごめん。ごめん。冗談よ。私が布団で寝るわ。」アリアはそういうと布団のほうへ去っていた。
ゴソゴソ・・・ゴソゴソ
ん?なんだ?アリアはもう寝たと思ったが、音が聞こえる。俺に隠れてなにかしているな。まあこの時間に女の子が隠れてやることはひとつしかないよね。アリアだって女の子だし。よし、見て見ぬふりが本人のためだろう。声が聞こえたら・・・咳払いでもしてやろうか。
☆
翌朝、俺たちは地区長の家に向かった。
地区長はアリアの姿を見るなり、泣きながらよかった。よかったとアリアを抱きしめていた。
「このかたは?」
「このひとは私を魔王軍から救ってくれた命の恩人」
そういうと地区長は俺のもとに歩み寄った。
「ありがとう。地区を代表して、この子を昔から知る一個人としてお礼を言うよ」
すごくアリアはかわいがられていたんだな。
「それで相談なんだが、北地区への通行許可証を見せてほしい」
「ああ、少し待っておれ」
アリアからの紹介で絶大な信頼を得たのか。すんなりいった。
しばらくすると家の中から地区長が木造の手のひらくらいのサイズの許可証を持ってやってきた。
「北地区も同じものを使っておる。偽造できないようにどこかに目印があるとか噂まである」
俺は許可証を素手で触れた。
「よくできていますねー。これは偽造のしようがありません。ははは」
「ありがとう。じゃあ、アリア帰ろうか」
「もう帰るのかい。これを持っていくとよい」そう言って地区長は袋にはいった大量の銀貨をさしだした。
「おばあちゃん、こんなに、申し訳ないわ」アリアは遠慮がちに言った。
「いいのよ、地区を救ったにしては少なすぎるくらいじゃ」
俺たちは銀貨を手にして地区長宅をあとにした。
☆
「それでは行きましょうか。リエト様」
家に帰り荷物をまとめ終わったアリアがそういった。
やはり少し寂しそうだ。それもそうだ。ここはアリアが南地区にきてから母とすごしたすべてだ。簡単にふんぎりがつくはずもない。
「ほんとにいいのか?ひきかえせないよ。」
「ええ。ここの家ではたくさんの思い出がつまっているもの。いつか帰ってきたいわ。」
アリアは家のドアを閉めて外へ出ると、ずっと暮らしてきた家を懐かしそうに眺めているのが見えた。
「行ってくるね、お母さん」
☆
南地区と北地区をつなぐ連絡路の横幅は何十人も通れるくらい広いが、いつも人通りがまばらである。
連絡路は王宮を中心として外側をぐるっと一周しており高い壁に覆われている。もちろん王宮側へはより高い城壁と警備で入ることは容易ではない。
俺も昔はここの警備していたんだよなー。
連絡路へ入る入口に警備がたっており、そこで通行許可証の提示が求められる。
「というか、俺はある程度顔知られているし、通れるのかね」
南地区の人々は情報がやってくるのが遅いだけで、もう警備や北地区の連中には知れ渡っているだろう。
「じゃーん」アリアが二人分のローブとカツラをとりだした。
えええ、まさか昨晩布団の中でごそごそしていたのはこれを作っていたのですか。
「ごめん。」
「ごめんってなに?なんで謝るの?」アリアは怪訝な顔つきでこちらをみる。
いいんだ。俺が不純だっただけだ。謝った理由は言えない。言えないよぉ。
連絡路へつき、警備の兵士に二人分の許可証を見せると、すんなりと通してくれた。
アリアは二ヒヒと笑ったまま、こちらにVサインを送った。
俺は一つ疑ったことがあった。デルピムロの能力は実は分身ではなく、複製なのではないかと。
デルピムロの持っている槍まで3つに分かれたのがきっかけだ。
そこで地区長の通行証に触れたときこっそり複製させていたのだ。
北地区にいくまでの連絡路を歩いている最中にアリアはたびたび横にいる俺の手を握ろうと試みてきた。
俺がアリアの手を払いのけるたびに、ぶうううとふくれた表情をみせる。
ここで疑われる行動をとってほしくないんだが……
そんなことを考えていると、もうすぐ北地区への出口だ。
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