4話 南の大門での戦い
目を覚ますとあたりは真っ暗だった。
夜まで寝ちまったんだな。明かりはどこだ?なれないところだからわからないな。
俺はやっとの思いで部屋の明かりをつけた。アリアの姿はない。
またお風呂か?
「アリア、いる?」今度はノックしてお風呂場のドアを開けた。
いない。結局家のどこにもいなかった。
窓から外を除くとあかりはほとんどなく、あたり一面静寂に包まれていた。
こんな時間に出歩くのか?今日の昼間にアリアはなにか言っていなかったか?嫌な予感がする。
慌ててドアを開けて外に飛び出した。
俺はアリアの家を見上げると、かやぶき屋根のてっぺんのほうに白い旗がついた矢が刺さっていた。
「畜生ぉぉぉ。そういうことかよ」
嫌な予感は的中した。今夜の奴隷として連行されるのはアリア自身だったのか。なんで言ってくれないんだ。俺が頼りないのか?
「まだ間に合う」俺は急いで駆け出した。
王国の他の地域への移動は警備が厳しく許可証もいるはずだ。魔王軍は南の大門からやってきて、そこから連れ帰る可能性が高い。たしか南の大門はこっちのはずだ。
まだ戦闘のダメージで体が痛い。思うように動かない。でも今度は俺がアリアを助ける番だ。
自分の体に鞭をうって必死に走った。深夜ということもあってか貧民街にはひとっこひとりおらず、おまけに街灯なんてものもない。
間に合ってくれ。大門を出られると手のうちようがない。
南の大門まであと数百メートルというところで、荷馬車が見えた。
怪しいな、魔王軍か?
このあたりまでくると家が一軒もなく、小さな草が少し生えているだけで見晴らしがよかった。
「おい。こんな時間にこんなところで何をしている?」
荷馬車の主に追いつき、俺は声をかけた。
荷馬車の主は背の低い小太りのおっさんが一人だけで、奇抜なピエロみたいな姿に大きめのシルクハットをかぶっていた。
直観的にこいつが怪しい。
ギロッとした目でこっちをみた。
「すぐにされ、若いの」
「積み荷をみてもいいか?」
「貴様に関係なぁぁぁい」荷馬車の主は声を荒げた。
ついに本性をだしたか。殴って一気に片をつけてやろうか。
「リエト!!!」
荷馬車から顔をだしたアリアがいた。
「ごめんね。これが運命なの。定められた運命からぬけだすことができなかった。3日前私の家に矢が立ったときから、一生魔王軍の奴隷として働くことは決まっていたの。私はほっておいて、逃げて。あなたまで連行されちゃう」
目には一筋の涙が見える。
「そんな運命なんて俺がぶっ壊してやる!!!」
ハッしたアリアの表情があった。
「貴様は私が魔王軍の一人デルピムロと知っての反逆か。貴様もひっとらえて奴隷にしてやる。」
デルピムロは馬車から降りると、持っていた槍をかまえた。
俺はズボンのポケットに両手をつっこんだ。
「なんのまねだ」
「だって、君魔王軍の幹部じゃないでしょ?みるからに弱そう。」
「愚弄するか」デルピムロ槍を突こうと走ってきた。
うん。遅いね。遅すぎ。
俺はデルピムロのおなかを蹴り上げた。俺としては軽く蹴ったつもりだったが、デルピムロがおなかを抑えてうずくまるのが見える。
「ううう、貴様は私を怒らせた。分身。」
するとデルピムロは三体に増えた。
こいつもスキル持ちか。ではこちらもスキルを使うとしよう。
俺はポケットから手を出すと黒の手袋をはずした。
一体のデルピムロが槍で突こうとした。
遅い!学習しないねぇ。
すかさず俺は一体の懐に忍び込むと渾身の一撃をお見舞いした。
しかし残りの二体はにやにやとしたままこちらをみている。
妙だな?
「本体うち1体にしかダメージは通らないのさ。貴様が攻撃したのは偽物さ。貴様に本物がわかるかな」
「ではこうしよう。」
俺は両手の親指、人差し指、中指の三つの指を胸のまえであわせた。
分身 イン。
なっっとデルピムロの驚いた表情が見える。
そりゃ俺が3体に分身したのだからなぁ。驚くのはまだ早いぜ。
「蓮風かまいたち」
三人の俺が放った攻撃は三体のデルピムロを同時にとらえた。
「ぬあああああああ」
デルピムロが血しぶきとともに倒れると同時に分身の能力も消えた。
「本物みっけ。」
俺はニタニタ笑いながら、地面に這いつくばるデルピムロを見下ろす。
「ひいいいいいい助けて。命だけは」
「質問に答えたら命だけは助けてやる。魔石を盗んだのは誰だ。どこにある?」
「魔石を盗んだのは幹部のひとりだ。国をでて北のほう。ミランダの街にいる」
デルピムロのゼイゼイとした息づかいが聞こえる。
「今回は見逃してやる。二度と南地区に現れるな。次に見つけたら容赦はしない」
そう俺が脅すと、荷馬車を捨てて大門の方へと去っていった。
さっと荷馬車から降りたアリアが俺のところへ駆け寄り、バッと抱き着いてきた。
「怖かった。もう運命に逆らえないと思っていた。」
泣いているのであろう。ところどころ鼻をすする音が聞こえた。
「アリアは俺を初めて信用してくれた。副隊長の地位にもいない俺を初めて味方になってくれた。どうしても守りたかった。アリアも俺を頼ってくれないか」
うん。とアリアがうなずくとさらに強く抱きしめられた。
「いたたたたた。まだ傷が治ってない。」
アリアが泣き止むころにはもう太陽が昇り始めていた。
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