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30話 オドロの谷~リルル視点


 それから数年後、大人になった私たちは育った家をでて、王宮の部隊へ入隊した。


 私は自分のスキルを制御して、多くの国民を救うため…リエちゃんはなんで入隊したのかは話してくれない。


 それからの日々は毎日、毎日が訓練と職務で忙しかった。訓練を重ねるたびに私のスキルも徐々に制御できるようになった。リエちゃんとも次第に顔を合わす機会が減っていったが、たまに王宮の屋上で会うのが唯一の楽しみだった。


 リエちゃんはしばらくすると副隊長まで上り詰めていた。昇進した日の夜も王宮の屋上にリエちゃんはいた。


「リルル、きたんだ?」


「たぶんいると思ってね。昇進おめでとう。さすが、リエちゃんね。昔から強かったもんね。まわりは無能、無能ていっているけど、私はリエちゃんの真のスキルを知っている」


「まあ、大したことではないよ。隊長になるのが今の目標かな」


 リエちゃんの横顔は少し大人びてみてた。



 その一年後、私にも二番部隊副隊長への昇進の話きた。現在は姉のメルルが二番部隊隊長を務めている。


 周りからは、身内びいきだの、シスコンだの、私と姉に対する陰口がしばらく続いた。そのたびにお姉ちゃんは笑い飛ばしていた。


「お姉ちゃん」


「リルル副隊長。ここではメルル隊長と呼ぶようにいったはずだ。私は魔王軍を壊滅させるために、この二番部隊へ入った。職務を忘れるな。特に副隊長になったからには。私情は捨てておけ。隊のこと、魔王軍討伐のことだけを第一に考えろ」



 姉ちゃんはいつも私にそう言い聞かせた。



 ある日、王室に隊長、副隊長が集まるように命令がくだった。


 六人全員集まると、国王から直々に昨夜魔石を奪われたことが伝えられた。


 三番部隊のカリストの証言によりリエちゃんが魔石を盗んだ犯人ということになった。



 嘘だ!!! リエちゃんがそんなことするはずがない。


 リエちゃんは追い詰められたようにあたりを見渡し、最後に私の名前を呼んだような気がした。


「リエッ」


「リルルやめておけ」


 そばにいたお姉ちゃんがぼそっと警告した。私はそっと下をむくことしかできなかった。


 それから、リエちゃんとカリストとの戦闘がはじまり、レオポルド隊長の介入により、リエちゃんは倒れてしまった。


 なにやっているんだ。また見殺しにしたのか。私が困っているときにいつも手を差し伸べてくれたのは、リエちゃんだった。


「つらいのはわかるが、任務を優先しろ」ポンとお姉ちゃんが後ろから肩をたたいた。


「さあて、俺様が始末するかな。ここで息の根を止めてやろうか。よろしいでしょうか?王様」


 ディックが言い放った。


「追放するなり、殺すなり好きにするとよい」


 もう国王は興味がなさそうにその場を去って行ってしまった。


 ディックはリエちゃんのそばまで行くと笑いながら見下ろした。


「やめて、もうじきに放っておいてもリエト副隊長は死ぬのよ。私が北の地区に埋めてくる」


「ハァ、俺に指図してんじゃねーよ」


 ディックが少し威圧してきた。


「お願いします」深々と頭を下げた。横をみるとお姉ちゃんも同様に頭を下げているのが見えた。


「ああ、わかったわかった。もうしらけちまった」ディックは去っていった。


私はお姉ちゃんとともにリエちゃんを抱えて医務室へと向かった。


「リルル、北地区への入り口はこっちではない」


「まずは止血をしないと」


「助けるつもりか?」


「ええ、私の大切な家族よ。助けたいの。いいでしょ?お姉ちゃん」涙ながらに訴えた。


「いいだろう。リルルは言ってもどうせ聞かない。第一止血してもこのままじゃ死ぬわ」


 それから、リエちゃんの応急措置をはじめ、なんとか止血はできた。



 その後、北地区の貧民街へとお姉ちゃんとふたりで運んだ。大人になったリエちゃんの体は重く、これまで必死に生きていることを実感した。


 外はぽつりぽつりと雨が降っている。


 貧民街の通りに誰か見つけてくれることを願って、意識のない、死にかけのリエちゃんの体を優しく置いた。


「誰か。優しい人に拾われてね。あのとき私を助けたリエちゃんのような人に。ごめんね。今は私にはこれしかできない。できないよ……」


 私の頬は濡れていた。私の涙を北地区の雨が優しく洗い流した。


「リルル、もう行くぞ。あまりいると怪しまれる」


 お姉ちゃんの声で我に返る。


 「うん」


  「さよなら。リエちゃん」



                          ☆




 毒の攻撃をうけた瞬間、頭の中を今までの光景が駆け巡った。


 ララちゃんが見える。血でまみれた姿だ。



「痛いよ…親友だと思っていたのに…痛いよ、痛いよ痛いよ」



 両親の姿が目に映った。がれきにうもれている最後の姿だ。死んだはずの両親はいきなり立ち上がった。



「お前が……お前がスキルを使わなかったばかりに、私たちが死んだんだ」


 村の人たちも現れた。


「お前が返ってくるのが早ければ、あそこでトロールを足止めすれば、私たちはこんな目に合わずにすんだんだ」



 最後にリエちゃんの姿も現れた。


「ねえ、なんであのとき助けてくれなかったの? 俺は信じてたのに。最低。君のせいで追放されたんだ…」



「お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ…お前のせいだ…」



「死ねばいいのに…死ねばいいのに…死ねばいいのに…死ねばいいのに…死ねばいいのに…死ねばいいのに…死ねばいいのに…」



頭の中で延々と姿を現しては、この言葉が鳴り響く。




「そんな目で私をみないで…ああああああああああああああああああああああああ」




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