3話 出会い
目を覚ますと見知らぬ天井がみえた。
地面か・・・いやそこまで硬くない。
俺は横をみた。
ああ、ベットか。どうりでふかふかしているわけだ。丁寧に掛布団までかけてくれている。
どこだ。ここは、確か俺は決闘中に隊長の攻撃を受けて・・・痛たたた。
突然肩と足に痛みが襲い掛かる。
槍が2本も連続で刺さったのだ。生きているだけで奇跡か。
傷口をみるとふさがっている。
痛み自体はあるが、こんなにも一瞬で・・・というより俺が数日間目を覚まさなかった可能性もあるぞ。
そんなことを考えながらベッドから起き上がる。自分の恰好をみると防具や剣、隊章までなかった。おまけに来ている服はやぶれており、ところどころ血がついている。
ネックレスは???
いつも下着のしたに隠すようにつけているネックレス。先のほうに緑色に輝く大きな宝石がついている。これは父からもらった大切な遺品だ。最後に会った5歳くらいの時受け取った。父の顔ははっきりと覚えていないが、困っている人がいたら助けなさいといつも言っていたことだけは覚えてる。
見ると下着のいつもの位置にネックレスがあるのを確認できた。
よかったー。これだけは見逃してくれたのかな。
部屋を見渡した。
知らない部屋。王宮の中ではないだろう。俺は追放されたんだな。一夜にしてすべてのものを失ったのか。王宮での生活。名誉。信頼。
お世辞にも奇麗とは言えない内装だった。掃除はされているようだが、壁も床も長年の生活での劣化なのかぼろぼろだ。ものは少なく整然としている。
ははーん。俺を助けてくれたのは男だな。そして一人暮らしとみた。
「家主は俺を置いて留守か」
俺は右足を引きずりながら、部屋の右手のドアの前へいった。
この部屋は物置かなにかか?
ドア開けた。
「きゃあああああああああ」
見るとお風呂場で銀髪ロングヘヤーの美少女が裸で体をふいている最中だった。
「すまんっ」
俺はすぐにドアを閉める。
しまった。家主は女の子でしたか。気まずい。でも向こうはもっと気まずいだろう。あとでもう一度謝ろう。
美少女は着替えてきてテーブルへ案内し、お茶をふるまってくれた。
「先ほどはすいませんでした」俺は深々と頭を下げる。
「いえいえ私も不注意だったもので」少し申し訳なさそうな顔が見えた。
「ところでここはどこなんです?」
もう一度家全体を見渡した。
「ここは王国の南側よ。みんな近寄らない貧民街。私の名前はアリア」そう答えるとアリアはにっこり微笑んだ。
吸い込まれそうなくらい奇麗な緑色の瞳だ。年は俺より少し下か。
貧民街は王国の南地区全体を侮蔑した名前だ。昔からみんな近寄りたがらない。俺でさえ任務で数回きた程度だ。
「俺の名前はリエト。助けてくれてありがとう」
「そう。リエトね。全身血だらけで街の通路で倒れていたわ。見るに貧民街にいる格好ではないでしょ」ここまで担ぐの大変だったのだからねと少し冗談がまじったような口調で話しかける。
「はは。ちょっとやっかいごとに巻き込まれまして。アリアの助けがなかったら生きてはいなかったかもしれない。こんな奇麗に包帯までまいてくれて」
俺は左肩にまかれた少し血がにじんだ包帯を右手でなぞる。
「包帯を巻いたのは私じゃないわよ。それと見つけた時には血はとまっていたわ。」
一体だれが。王国には敵しかいなかったはずだ。
「それで?やっかいごとってなんなの?」
「そこ掘り下げるんだね」
まあどうせ信じてもらえないし話してみるか。助けられて事情を話さないのもなんだしな。
俺は今までの経緯を説明した。魔石を盗まれたこと、誰にも信用してもらえずに追放されたこと。正直、初対面の女の子の前で気恥しい気持ちが最初はあったが、アリアの前ではなぜか最後まで話せた。
「大変だったね。あまり王宮の人たちのことはわからないけど、私はリエトを信じるわ」
そういうとコップに口づけた。
「会って少ししか話していないのに信じるって?」
「でも少し話してあなたが嘘を言っていないと思ったわ。私、人を見る目はあるのよ」
えっへんと胸をたたいてみせた。
信じる―俺があのとき一番欲しかった言葉だ。そう思うと涙がこみあげてきそうになった。
「ところで俺は何日くらい寝ていたのかい?」
「んーとね、ここにきて3日くらい?」
3日間!!!ずいぶん長い間横になっていたのか。
「ところでアリアはひとりで生活しているの?」
俺は家を見回すと、ベットは見た感じひとつしかない。
「ええ。ひとりよ。もともと西の地区に家族三人で暮らしていたけど、父を亡くしてから南のここに流れ着いたわ。」
アリアは一息つくと少し話すのをためらったかに見えたが話を続けた。
「最初はそれでもよかった。母とのここでの二人くらしも楽しかった。五年前のあの夜までは……」
それからアリアが話してくれた。魔王軍の手下が奴隷を求めて月に一回南の貧民街へ出没すること。5年前に母も連れていかれたこと。
「どうしようもなかった。連れていかれる母の前で私はなにもできなかった。三日前に家の屋根に白い旗印の弓矢が刺さったら次回の奴隷として連行される目印なの」
アリアの目には一筋の涙が流れていた。
「王は……国王はなにやっているんだよ。このことを知っているのか」
「国王は見て見ぬふりよ。南の貧民街にヘイトが集まると、北地区の上流階級の国民に喜ばれるんだもの。私たちは国王の評判かせぎにすぎないわ」アリアは自嘲気味だった。
確かに……南地区を除く地区の護衛には部隊が警護にあたっていた。俺はてっきり南地区の警護もあるのだと勝手に思い込んでいた。
「そういうことかよ」俺は唇をかみしめた。
「いたたた」
また痛みが襲ってきた。やはり傷口はふさがっているが痛みがある。
「まだまだ、完治していないのだから、しばらく横になったほうがいいかも。しばらくうちにいるといいよ。お風呂も調理道具も勝手に使ってかまわないし、食材も料理も好きに食べていいわ。」
アリアの言葉に甘えてベットに横になった。
しばらくすると眠気が襲ってきた。
さようなら・・・そう聞こえた気がした。
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