23話 オドロの谷②
ロレッタは不安そうな表情で俺を見つめていた。
「ん?どうした?寝れないのか?」俺が尋ねた。
「ち、違うの……ト、トイレに行きたいの」
ロレッタが少し震えたように見えた。
「じゃ、行っといで」
なんだ?このパーティーはトイレ行くのに俺の許可がいるのか?
「ついてきてほしいと言っているの!!!」
ロレッタは少し声を荒げた。
「それは人にものを頼む態度とちがうな」
少し意地悪だったか?いつも元気なロレッタがしおらしかったからつい……
「お願いします。トイレについてきてください」
さきほどとはうってかわって恥じらいが混じったような声だった。
「わかった。わかった」
俺はしぶしぶ起き上がった。
どうやらルナの怪談話の影響をうけたのはロレッタのほうだったらしい。
俺たちはテントからでると、少しはなれたシゲミのほうへとむかった。
テントの外は街灯などあるはずもなくあたり一面闇に包まれている。
まあ魔獣が出る危険もあるし、俺がついてきて正解だろう。領主様にああ言った手前、ロレッタにもしものことがあったら……怖い怖い。
シゲミにつくとロレッタがこっちを振りかえった。
「このことは絶対みんなに内緒よ。一人でトイレいけなかったなんて知られたくないの。特にルナには」
「じゃあいい、私は用をたすから、あっちのほうをむいてて、見たら怒るわよ」
「はいはい、ロリの体には興味ありませんよーっと」
少しロレッタが怒ったかのように見えた。
しまった。うっかり心の声がもれてたか。昼間だったらロレッタの顔が真っ赤にみえていたに違いない。
「いいから。あっちむいてて」
俺はくるっと明後日の方角をむいた。
しばらくすると、液体が地面に落ちる音が聞こえた。
今夜は少し冷えるのか…それともよほどおしっこを我慢していたのか…音と一緒にロレッタの吐息まで聞こえる。
なにかの拷問ですか。こんな夜中になにやっているんだよ、俺は。
「キャッ」
なんだ?魔獣か?
俺が振り返るとそこには下半身を露出したままのロレッタの姿が…ついでに上着に小さな虫がついていた。
ロレッタと視線がぶつかる。
「ご、ごめんね」
「きゃあああああ」
ロレッタは大きな悲鳴を上げた。
「なにがあったの?」
「大丈夫ですか?」
ロレッタの悲鳴を聞きつけたであろうアリアとルナが向こうから慌てて走ってきた。
アリアは到着すると開口一番に問い詰めた。
「リエト様、一体これはどういうことですか?」
どうもこうも運がよかった?いや、悪かっただけだよ。
「こういう女性がタイプだったのですね。僕にも勝機ありますね。うんうん」
ルナがうなずいた。
君は相変わらず的が外れている。
ロレッタが服をきたあと、さんざん事情聴取された。最後は納得してもらえたようだ。
結果、ロレッタは今度からひとりでトイレに行くこととなった。
翌朝俺は昨日の一件で寝不足な眼をこすりながら起きた。
「あーあ、昨夜はさんざんだった」
テントから出ると外は晴れており、絶好の登山日和だった。
今日でオドロの谷にはたどり着きたい。
三人とも起きて準備はすませていたらしく、俺の支度を待っていた。
「よし。いくか」
途中で何度か休憩を挟みながらも、しばらく山の中を歩くとだんだん視界が開けてきた。道が途中でとぎれているように見えたが、近くまで行くとそこは大きな谷であることにきずいた。
「へーこれがオドロの谷ですか?話に聞いていたのとイメージが違いますね」
隣でルナが声をあげる。
確かに、谷の幅はあるものの、谷底が見えないということはなく、せいぜい底まで数百メートルくらいだ。谷底にも太陽が届いていて明るく見えた。
「さてここからどうやって降りるか」
そこは浅いとはいえ、ここから落ちるとただでは済まなそうだ。まあ俺一人なら問題ないのだがな。
ふと俺は思いついた。
瞬間移動で一人ずつ運ぶか。
昨日の瞬間移動の実践中に気づいたことのひとつは、瞬間移動には自分だけでなくて触れた物や人まで一緒に飛ばせるということ。
そして一度に人一人くらいの移動しかできないこと。移動距離は一回につき200メートルが限界であること。
「瞬間移動」そう言って俺は急にアリアの肩に触れてみた。
その瞬間、谷底へ俺たちは移動した。一回では谷底まで到達できなかったため、一度途中で瞬間移動がきれ姿を現した。その瞬間アリアと一緒にものすごい勢いで谷底へ落ちていった。
「きゃあああああああ」
アリアは今までで一番の悲鳴をあげた。再び瞬間移動すると、次は谷底へ無事に着地できた。
「ハァハァ、死ぬかと思った」
アリアが腰をぬかしてその場にへたりこんでいる。
だろうな。やっている俺ですら初めて瞬間移動で急降下したのだからな。
「よし、ほかの二人もつれてくるから、まっといて」
座り込むアリアを谷底へ残し、再び地表へ瞬間移動した。
帰ってきた俺を見るなり、二人とも恐怖に満ちた表情をみせた。
俺がジリジリと詰め寄ると、二人ともあとずさりを始めた。
「さあ始めようか」
俺はわざと悪そうな顔つきをしてみせた。
「ひいいい」
二人はしばらく抵抗したものの、なんとか谷底へと運ぶことができた。
谷底は案外、草花や虫がみられ地表とさほど変わらないように見えた。
呪いの谷か……誰かが勝手につけた名前に違いない。
しばらく歩くと、向こうのほうから歩いてきたおじいさんが声をかけてきた。
「冒険者さんかい?」
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