14話 ミランダ①
「いよいよですね、リエト様」
遠くの方へミランダの街が見えてきた。
数時間歩き続けたせいかアリアとルナはさきほどまで元気がなかったが、ミランダの街が視界にはいると急に元気になった。
ミランダに俺が最後に訪れたのは5年ほど前。その時とはだいぶ変わっていた。
以前きたときは街を囲う外壁なんてなかったぞ。
ミランダの街を一周するように王宮ほどの高さはないが立派な外壁がそびえていた。
「僕わくわくしますね」
「観光ではないいんだぞ」一応ルナに釘をさす。
「わかってますよ。幹部と魔石探しでしょ。ミランダの水まんじゅうは名産なんですよ。一度食べて見たかったんだな」
ルナのテンションが一段とあがる。
いや、絶対わかってないでしょ。街に入ったらまた釘をさしておこう。
「水まんじゅう!?それ私食べたことないんだけど」
アリアが隣で乾パンをもそもそと口に運んだ。
いや、それはランツで買った非常用の食料。また買わないと非常時になくなってそうだ。
そんな会話をしながら、しばらく歩くと街への入り口である門の前にたどり着いた。門には2人の兵士が警備していた。兵士の一人に尋ねる。
「俺が最後にきたのは5年前ですが、そのときと比べ、街の雰囲気かわりました?城壁ができてしまって中の様子がわからないんだよね」
「ああ、変わったさ、英雄ヘルマン様がきてからというもの街は平和になったさ。ゆっくりしていくといいよ、旅人さん。失礼、冒険者さん」
兵士は俺たちの装備をみてあわてて言い直した。
英雄ヘルマンか…前来た時はいなかったな。
そんなことを考えながら俺たちは門をくぐった。
街の中にはいると、以前とはさほど以前来た時と変わらない街並みと人ごみがつづく。
とりあえず、今回は魔王軍幹部を探してからの魔石の取り返しが第一だ。
「こんなに人が多いと、長期戦になるかもしれない。さきに宿をとるか」
「はーい。」
二人の元気な返事が聞こえた。
「いいか。魔王軍幹部は最近きた旅人か商人、冒険者になりすましている可能性が高い。王宮からミランダまでは馬車でも結構な距離だ。数日前に到着しているはずだ。数日前に奇妙な人が街を訪れなかったかと聞き込みをするのが妥当だろう」
「はーい。」
二人の元気な声が再び聞こえた。
本当にこのポンコツ二人に聞き込みを任せていいのか?俺がついてないと墓穴をほって敵に悟られそうだ。
「くれぐれも魔石を探してここにきていることを悟られるんじゃないぞ」
俺の言葉が終わらぬうちにアリアは露店のパン屋のほうへ駆けて行った。
遊びじゃないんだぞ、でもああしているほうが自然かもしれないな。
宿に荷物をおろした。
「俺は今から領主様のところに行って協力してくれないか事情をはなす。以前お世話になったので挨拶もしておきたいしな」
まだ俺の悪名が領主様の耳にはいってないとよいのだが…
「わたしもいきたーい」
「僕もです」
この二人を宿に放置すると勝手に宿をでてトラブルに巻き込まれそうだ。一緒に領主のところにいったほうが無難かな。
「じゃあ日が暮れないうちにいきますか」
3人で宿をでた。領主のお屋敷へは宿屋から少し離れており、途中噴水のある石畳の大きな広場を通る。
だいたい街の地理は覚えている。まあすぐお屋敷につくだろう。
しばらく歩くと急に視界が開けてきて先のほうに噴水が見えた。
広場に案外早く着いたな。
広場ではなにやらひとだかりができており、その中心に背の高いほっそりとしたロン毛の男が3人の男たちに囲まれていた。
うわー。人相悪い人たちに囲まれているな。喧嘩か?3対1は卑怯だから、ロン毛が一方的にやられるようなら助けてやろうか。
「へいへい、俺たちの邪魔はしないでくれよ」
「痛い目にあいたくなかったら金だして消えな」
「まあいまさら金出しても助けてやらんがな、ハハハ」
ロン毛の男は散々ないわれようだ。ロン毛の男は左右にわかれている前髪をかきあげると、急に眼付が険しくなった。
「10秒もいるかな…」
「あのー、喧嘩ですか?」俺は騒ぎを観戦しているおばさまに話しかけた。
「いいえ、まさか。ヘルマン様はお店が盗賊へ襲われていたところを助けてくれているのよ」
「あーあの英雄の」
俺は門兵との会話を思い出した。
「そうよ。この街にヘルマン様が3年前に来てからこの街は平和になったわ。以前はこの街に魔獣がでで被害がでることが多かった。ヘルマン様はもともと名のある商人らしいわよ。稼いだ全財産をつぎこんで、街に壁をつくったわ。それから魔獣はこなくなったわ。また、こうして街がトラブルになったら必ず助けてくれるの」
おばさまの話が終わらないうちに決着はついていた。3人の盗賊は地面に倒れていた。
ヘルマンは拳を高突き上げた。
「街に害を与える魔獣、人間は俺が排除する。徹底的にだ!」
「ヘルマン!ヘルマン!ヘルマン!ヘルマン!」と観衆が声をあげた。
「へーずいぶん人気なようですね」
ルナが横でつぶやいた。
街が平和になったのだから、英雄扱いだろう。
「きゃあああ」
歓声に紛れてひときわ大きい悲鳴が上がった。
見るとひとりの男が女性の首元にナイフを突きつけていた。周囲の観衆はさっと離れていった。
「よくも仲間をやってくれたね。動くなよ。仲間と金を引き渡してもらおうか」
男はヘルマンの方を見てニヤッと笑った。
もう一人いたのか。英雄さんは……ああ、へたに動けないってわけね。
ヘルマンを見ると両手をあげている。
しかたないなあ。喧嘩をするときは敵の人数をあらかじめ予測しないとね、英雄さん。
俺は人ごみをかき分け前に出る。
あんまり目立つと魔石探しがやりずらくなるから、なるだけ目立たないようにしよう。
「いやー、ちょっと、ちょっと。かわいい女性にナイフ向けてなにするつもり?」
「なんだ、おまえ」男が俺のほうをみる。
「強そうな男じゃなく女性を人質にとるところが小物っぽいよね。そんな考えじゃもてないよぉ」
俺は男にゆっくり近づきながら煽った。
怒ってる。怒ってる。
「さて、君は今から牢屋にはいるわけだが、君の最後の言葉を教えてやろう。う…動けんだ」
さらに煽った。
「なめるなよ。そしてこれ以上近づいたら本当にこの女を刺す」
「あー、もう刺していいよ」
男はナイフ勢いよく女性の首に刺そうとしたと同時に観衆から悲鳴があがる。
「う…動けん」
それもそのはずだ。分身したもう一人の俺が背後から君の背中に触れたんだからな。
男の異変にいち早く気づいたのか、分身の俺より先にヘルマンが男からナイフを取り上げていた。
「へーやるね。英雄さん」
観衆がヘルマンに見とれている間に俺はひとごみへと紛れた。
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