12話 ランツ①
クレイフェルトを旅立って2日ほどでランツという街に到着した。
ミランダの街の手前のほうに位置しており、ここをすぎるともうすぐだ。
今日は雲一つないほど空は晴れわたっているが、外へ出る人は少なく、中心地でも人はまばらだ。
ちょうどお昼をすぎたあたりで俺たちは街のおしゃれな店のテラスで昼食をとることにした。
こうして椅子に腰かけて、空をながめていると、魔王軍から魔石を取り返す最中だということをわすれそうになる。
「あー私の分のお肉、ルナがとったあ、返して、返して」
横からアリアの悲鳴が聞こえる。
「いつまでも残しているから、嫌いなのかと思いましたよ。あーおいしいですね、このお肉」
ルナはこれみよがしにアリアから奪ったお肉をほおばる。
「ルナがいじわるしてくる、助けてリエト様!!!」
半ば冗談ぽく俺に助けを求めてくる。
「ご、ご主人さまに助けをもとめるとはずるいのですよ、アリア。」
クレイフェルトをでてからというもの、二人はずっとこんな調子だ。次第にルナにアリアがいじられるという構図ができつつある。それだけ仲が深まったということだろう。
いいのか?いいよな。
「では、こうしましょう。ゲームで決着をつけるというのは、もしアリアが勝てば、ここ3日間すきなおかずをゆずりますよ」
「もし負ければ?」
「負ければ逆に3日間好きなおかずをいただきますよ」
「よし乗った!」
アリアは机に前のめりになり、ルナの賭けにのってきた。
賭けの内容を聞く前に条件をのむとはこの段階から負けているようなものだ。どんまい、アリアさん。
「これはですね、僕の故郷イーハドープ村に古くから伝わる遊びです」
ん?ルナはてっきりクレイフェルトの生まれ育ちだと思っていたが…たしかイーハドープ村は国から西にすすんだところにある小さな村のはずだ。亜人たちも多く住んでいる。昔教科書で勉強したが、これ以上は思い出せない…
ルナはポケットから同じくらいの大きさの2つの石を取り出してみせた。
「ここに小石が2つあります。これを1つは僕の小石として机の端にぎきぎりに置き、もう一つはアリアの手元に自分用の小石として置いてください。そしてアリアは自分の小石を指ではじいて、机の端にある僕の小石を一発で落とせるかどうかというゲームです」
「僕の小石だけが落ちたら僕も負け。アリアの小石も一緒に落ちたり、僕の小石を落とせなかったらアリアの負けです。チャンスは一回です。親友であるアリアには特別サービスです。好きな位置に自分の石を置いてもかまわないですよ。僕の石に近いほど有利ですよ。」
ルナは笑いを抑えられていなそうだ。
あえてアリアに圧倒的に有利な条件をつけさせて今更勝負からおりれなくしているな。ルナはなんか隠しているな。
「言ったわね」
アリアは手元の小石をここぞとばかりにルナの石に近づける。2つの石はほとんど距離がなくわずか数センチだった。
えいっ
アリアが小石をはじくと、ルナの小石に命中し、机の下に落ちる、落ちるはずだった……
机の端から出た小石はそのまま宙に浮き始めたのだった。
おいおい。ここで能力はきたねーぞ。
ぽかーんとするアリアを横目に
「かっかっか、僕は机から小石を落とせたらといった。落ちていないので僕の勝ちですね。僕のスキル重力操作の前に敵はない!!!」
「能力使うなんてインチキよ」
「この勝負に乗って、僕に小石を触らせた段階で勝負はついていたのだよ、アリア君」
ルナはちっちっちと人差し指をたて横に振りながらご満悦そうだった。
「あほらし」
そういうと俺は席を立った。
「どこにいかれるのですか?リエト様」
「先にお金はらってくる。すぐ戻ってくるから、おとなしくしとけよ」
そういうと店内にはいった。
俺のパーティーもにぎやかになったもんだな。
お金を払っていると、外からきゃあっというアリアの声が聞こえた。
すぐに店内をでて、テラスへ駆けつけるとそこにはアリアに詰め寄るディックとそのパーティーの姿があった。
「ねえねえ、姉ちゃん俺といっしょにお茶しない?」
ディックはアリアの顎をくいっとするとそう語りかけた。
「いえ。お連れのかたがいますので、結構です」
「そんなこと言わずにさぁ。奇麗な銀色の髪だね。君にとってもお似合いだ」
ディックはアリアの顎から手をはなすと、今度はアリアの髪を手で上から下へとなめまわすようになで始めた。
「やめてください」
遠目からでも嫌がっているのがわかる。ルナもそろそろ我慢の限界だといわんばかりに威嚇している。
女とみれば、手当たり次第に手をだしやがって。あげくには俺のパーティーメンバーにも!!!くそ野郎が!!!
「おい。ディック、その汚い手を離せよ」
アリアはハッと俺に気づくと、俺のほうに走っていき、後ろに隠れた。
「ああ、生きていたのか、てめえ」
キッとディックは俺のほうをにらみつける。
ここで嫌なやつに見つかってしまった。クレイフェルトのときからもしやと思っていたが、俺と同じルートで、同じ目的地にいくのではないか……
「姉ちゃんもこんな無能の下にいないで、俺様のパーティーに入りなよ」
アリアは俺の後ろのほうから顔をだし、べーっと舌を出して見せた。
「どうしたら入ってくれるかな。次いでにそこの猫の亜人も入れたいな。うう~ん」
ディックは演技するように形だけ困ったポーズをし、すぐにポンっと手をたたいた。
「ああそうだ、ここでリエトの野郎をぶち殺せば、はいってくれるよねえ」
ディックの目は殺意に満ちていた。
【ブックマーク】や【評価】をしていただけると嬉しいです。
少しでも面白い、続きが読みたいと思いましたら広告のしたにある☆☆☆☆☆で評価できます。
とても作者の励みになります。ぜひよろしくお願いいたします。