11話 クレイフェルト③
トビオのお屋敷は街の中でも随一の大きさだった。最近建てたのだろう。門はピカピカに光っていた。
お酒の販売でどんだけ儲かっているんだよ。畜生俺もこのくらい金欲しいよ。
トビオの屋敷の扉をたたくと、50歳くらいの口髭の男がでてきた。
「家主のトビオです。なんですか。あなたも昨日の銀髪の方のように買い付けですか?」
ああ、昨日ディックがきたのか。ホントに余計なことしかしないな、あいつ。
「ええ、あなた様の素晴らしい酒造りにほれ込みましてちょっとだけ拝借したく訪ねました」
「中にお入りください」
トビオは疑うそぶりなどなく、すんなりと俺たちを屋敷の中へ案内してくれた。
中は思った以上に広い。新築で申し訳ないが、ここで少し暴れても問題なさそうだな。
【ターフェルミ・アラ・ドーラ】
そう唱えて、床を触れると、ところどころひかり始めた。
かすかだが、魔力の痕跡が……少し前まで魔王軍がいたはずだ。
その瞬間、トビオの目がギロッとこっちを向くのが分かった。
気づくのが遅いんじゃないか。屋敷に俺を入れた時点で終わってたよ。
「であえ、であえ」
その瞬間、部屋にひそんでいたゴブリンが10体近く湧いて出た。
「一体いつから計画に気づいていた?私が綿密に時間をかけて作り上げた計画だぞ。」
「今日、それもさっきだ。おおかた街の衰退化、資金を回収してのっとるつもりだったか?」
「クッッッ」
図星ですか?浅い計画だったな。
ふと後方へ気配を感じた。
「ルナ危ない!!!!」
ルナの後方に忍び込んだ、一体のゴブリンが襲い掛かってきた。
ルナはヨッと避けたかと思うと、ゴブリンの体に触った。
するとゴブリンが頭をたれるかのように地面へたたきつけられた。
「言ったでしょ。僕は喧嘩強いんですよ。僕は触れたものの重力を自在に操れます。見ててください」
そういったかと思うと、ゴブリンに向かって、銅貨をなげた。当たったゴブリンは次々と地面に這いつくばった。
ルナも能力者だったのか。直接手で触れなくても、間接的でも一定の時間は効果が発揮されるタイプか?いかんせん遠距離攻撃の強力なスキルだ。副隊長だったら自分の部隊に勧誘してたところだ。
ルナのスキルにトビオが焦っているのがみえる。
「くそ。私の触れたものを爆発させる能力を味わうといい」
トビオはいきおいよく向かってくると俺のおなかを拳で殴った。
「破壊拳。」
バァァァァァァンッ
屋敷にすごい爆発音が響き渡る。ルナの表情は焦ったように見えた。
「勝った!!!完全にとらえた。」トビオは高らかに笑う。
「誰をとらえたって?お前がとらえたのは俺の分身だ。」
「なにいいいいい」
俺はトビオの背後にまわりこみ、背中を殴りつけると、トビオは吹っ飛んだ。
「う・・・動けん。」
「俺のスキルは動きをとめる能力だからな」
そのまま拳で何度もトビオの顔面に叩き込んだ。
数秒後には顔の原型をとどめていないトビオができあがった。
「君の敗因は俺に触られたことだ」
あまり爆発能力には期待できないが、一応ストックしておくか。両手の三本指の先端を胸のまえで合わせた。
爆発 イン。
カリストの風のスキルに、デルピムロの分身スキル、そしてトビオの爆発スキル。一応ストック3つそろった。なにかと使えそうだ。
ルナを見ると周りにたっているゴブリンは一体もいなかった。当の本人は当たり前といった感じに見える。
この猫耳自分で言うだけはある。いっそスキルコピーしてやろうか。
それから屋敷のトビオとゴブリンを領主のもとにひきずりだした。
それにしてもルナのスキルは便利だ。重くするだけでなく、軽くもできる。
トビオとゴブリンを空気くらいの軽さにして一気に二人がかりで領主のもとへ運んだのだった。ゴブリン5体も一人で担いで街を歩いたのだから、まわりから視線が痛かった。
俺たちからの報告を聞き、領主は大変お怒りになり、トビオたちは王国へ輸送、投獄することになった。お酒も回収がすすみ、禁止令もだされた。
「この度はこの街を救ってくださり、ありがとうございました。私も良かれと思ってやったことだったのですが、もう少し街の様子にもみるべきでした。それにしてもこんだけの数をよく二人で倒せましたね。さすが冒険者様です」
今回俺はトビオをぶっ飛ばしただけだ。こいつもやはり魔王軍幹部ではなかったらしい、それほどのことをしたわけではないのだがな。
「少ないですが、報酬です」
小さな袋をのぞくと、金貨が詰まっていた。
領主から報酬をもらった帰り道。もう太陽は沈みかけており、街を歩く俺とルナの影がひときわ伸びていた。
あー疲れた。早朝に宿をでて、結局事情聴取や現場を見てまわったりしたから遅くなった。
「僕、決めましたよ。冒険者になります」ルナがぽつりとつぶやいた。
「そこそこ強かったし、危険はないかもな。頑張って」
「頑張ってて。僕も一緒についていくっていっているんです」
ルナが少しむすっとした。
「ついていくって俺たちが何やろうか知っているのか?」
「知らないです。でもきっと今日みたいに楽しいことでしょ。僕はわくわくしますね」
銀髪美少女に猫耳っ子、きっと楽しいパーティーなりそうだ。これがハーレムというやつですか。
「アリアさん、治っているかな?朝すごかったですものね」
「きっともう治っているでしょう。それにしてもルナは全くだるさはなかったのか?」
俺なんてトビオとの戦闘中もだるさで調子でなかったというのに。
「はい。全くなかったです。姉もだるそうにしてないので種族的な問題かもですね。」
ルナの手にはいつの間にか大きなこってりとした肉が握られていた。
「たくさん食べてもらって、はやくアリアさんに元気になってもらわないと。」
いや、たぶんそんな脂っこいのは二日酔いには拷問かと……
さてアリアを起こしに行くか。
クレイフェルトの夜は今日もにぎやかに違いない。
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