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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

とんずら勇者のデタラメ英雄譚 ~勇者として異世界に召喚されたけど所持スキルが【とんずら】しかないのになぜか強キャラ扱いな件。【死】と【敗北】から逃げているだけなんだが?

作者: 虎戸リア
掲載日:2020/12/17

【あらすじ】

飽き性で、全ての事を途中で投げ出し逃げてしまう癖があった高校生、高木駿――シュン。

しかし死からは逃れられず、死んでしまった。そして気付いたら異世界にいた。


4人の勇者の一人として召喚されたシュンはしかし、勇者の証であるスキルが一つしか付与されなかった上に、それは【とんずら】という、逃走が必ず成功するだけのスキルだった。


 最弱……のはずなのだが、なぜか周囲から、最強の勇者と勘違いされてしまう。唯一の味方である召喚主の巫女ルーナまでもが、シュンが最強の勇者であると信じ込んでいる始末。


 しかし、勇者の役割、巫女の運命。そういった物を知るうちに、シュンは負けられない戦いがある事を知る。


「今度は――逃げない!」


 自身の弱さからは逃げるのを止めたシュンはやがて、【とんずら】のスキルを極め――ついに最強へと至る。


 逃げ足の速さと、最弱スキル【とんずら】を駆使した、一風変わった勇者のデタラメな英雄譚がここに開幕する。


 【死】からは逃げ切れなかった。


 高木(たかぎ)駿(しゅん)、18歳――つまり俺は、それが何よりも悔しかった。


 逃げ足の速さとシュンという名前の響きから、〝逃げのシュン〟なんて、まんまなあだ名を付けられたが、内心嫌いではなかった。


 俺は飽き性で、やる気がなく、最初は熱中してやるし、それなりに出来るようになるのだが、途中で急に冷めて、止めてしまう事が多かった。


 勉強も、スポーツも、恋も、全部そうだ。俺は、ずっと何かから逃げていた。


 だけど、突然の発症した遺伝性の不治の病から、俺は自慢の俊足をもってしても逃げ切ることは出来なかった。


 そして俺は家族に見送られながら死んだ。



 はずだった。



 突然頭の中に女性の声が響く。


*スキル【とんずら】が発現しました

 

「なんで生きてるんだよ!」



 俺の叫びがこだまする。そこは石造りの部屋だった。さっきまでいた病室ではない。

 見ると足下には、アニメかマンガでしか見ないような魔法陣が光っている。


「召喚、成功しました! やった!」


 可愛らしい声が聞こえ、そちらを見ると、薄い生地のローブを着た銀髪の美少女がぴょんぴょん跳びはねていた。目は金色だし、なんか賢者が持ってそうな杖をブンブン振っている。わーお、べりーファンタジーですね。


「あー、えっと。君は? ここどこ?」

「勇者様!!」


 その美少女は俺を見て勇者と呼ぶと、そのまま抱き付いてきた。柔らかい感触と高めの体温、そして甘い匂いに俺は頭が一瞬で沸き上がった。この子、見た目に反して乳がデカいぞ!? いやそんなことはどうでもいい!


「いやいや、待て待て! なに? どういうこと!?」

「えへへ……勇者様! 私はルーナです。私の呼び掛けに応えてくださりありがとうございます!」

「待ってくれ、状況が理解できん」

「私は、このレイン王国の【予言の巫女】で、来たるべき深淵に備えて異世界から勇者を召喚する秘術を使ったのです!」


 そういって、その美少女――ルーナが嬉しそうに俺に抱き付いたまま見上げてきた。上目遣いなのが、たまらんな。初対面で好感度マックスなのもいかにもそれっぽいね!


「俺が勇者?」

「はい! その証拠に、ほら――【サモン・ミラー】」


 そう言ってルーナが杖を振ると、空中に姿見が出現した。


「うお! 今の何!?」

「魔法ですけど?」


 その姿見には俺の姿が映っていた。白い患者衣を着ていたはずだけど、なぜか、これもまたマンガかアニメで見た、勇者みたいな格好をしていた。ただしよくある剣とか盾とかない。格好だけだ。


 少し伸びた黒髪の下には、かつての痩せこけていた顔はなく、健康だったときのままだ。だけど、良く見ると右目から右頬にかけた、三日月と竜を紋章にしたようなタトゥーが入っている。


「なんじゃこりゃ」


 俺が思わず右頬をペタペタ触っていると、ルーナが嬉しそうな声を出す。


「それが勇者の証ですよ! 召喚主である私の紋章――三日月と、勇者の紋章である竜が合わさっていますね」

「俺の優男フェイスが厳つくなっちゃってるよ! これはこれでありか?」

「かっこいいです!」

「マジで?」

「はい!」


 無邪気な笑顔を浮かべるルーナを見て、俺も悪い気はしない。


 話を信じるなら、どうやら俺は異世界とやらにやってきたという事らしい。


「それで、勇者様、お名前は?」

「ん? ああ、俺は高木駿。シュンで良いよ」

「良い名前ですね! では、勇者様! スキルをお披露目に行きましょう!」


 名前で呼ばんのかい! というツッコミはやめておいた。勇者様という呼び方がなんだか可愛いからである。しかし、スキルか……。なんだっけ【とんずら】? だったか? なんか弱そうなのがちょっと心配だな。


 そして俺はルーナに連れられて、その部屋を出た。どうやら地下にあった部屋らしく、階段をズンズン登っていく。


  その後、廊下を渡り、辿り着いたのは玉座だった。いや、本当は違うかもしれないが、ゲームかなんかで見た王様のいるところにそっくりだったのだ。

 

 そして、王様っぽい王冠を被ったおっさんがいるので、やっぱり玉座で合っているのだろう。俺は物珍しいせいで、キョロキョロと周囲の様子を窺ってしまう。すげー高そうな彫刻とか絵画が飾ってあるね。あの剣かっこいいなあ。


 壁に立て掛けてある剣を振る妄想をして、俺はフッ、と笑ってしまった。何を子供じみたことを考えているんだ俺は。


 という感じに俺が落ち着き無く辺りを見渡していると、そのおっさんが口を開いた。


「……ようやくか」

「は、はい!」


 ルーナが緊張気味に答えた。


「他の巫女は1日も掛からず召喚したというのに……1か月も掛かるとはな、よほどの男なのだろうな?」


 え? 他にも巫女はいるの? しかもその言い方だと勇者もいっぱいいそうだな。


「もちろんです! さあ、勇者様! 王様にスキルを見せてください!」


 見せてください! と言われてもね。俺はそもそもスキルってなんだっけと思っていると、またあの声が響いた。


 *現在保有しているスキルは【とんずら】のみです。


 ですよねえ。というかどういうスキルなの?


 *【とんずら】――スキルレベル1:敵からの逃走が必ず成功する。


 ……え、それだけ?


 *スキルレベル1:敵からの逃走が必ず成功する。


 うん、それは分かったから。というかスキルにもレベルがあるのか。もしかて俺にもレベルとかあったりして。


 *……


 なさそうね。というかスキルについてしか教えてくれない感じなんだな。

 

 仕方ない。


「あー、俺のスキルは【とんずら】ってスキルらしくて……」

「とんずら? どういうスキルなのだ?」


 おっさん……じゃなくて王様が首を傾げていた。どうやらとんずらという言葉はこの世界にはないらしい。まあ俺もゲームで初めて知ったクチだ。無理もない。


「えーっと……敵から逃げるのに便利? なスキルみたいです」

「……ふむ。まあ時に逃げるのも選択肢の一つだろう。それ以外は?」

「ないです」

「ん? もう一度聞くぞ。そのトンヌラ? とかいうスキル以外は――」

「ないです」


 食い気味に答える俺。王様が困ったようにルーナへと話を振った。


「……ルーナよどういうことだ。来たるべき深淵の闇に対抗する為に召喚したのだろ? それが逃げるだけなぞありえないだろ」

「あ、いや、えっと……勇者様! 他にスキルはないんですか!?」

「ないんだなこれが。まあ俺らしいっちゃ俺らしいスキルだが」

「……えっと」


 めちゃくちゃルーナが困っている。だけど、無い物は無い。


「ははーん……なるほど。そういうことか」


 お、なんか違う奴がいきなり出てきたぞ。


「騙されてはいけませんよ、王。この男と巫女は、【勇者祭】を見越して、あえてスキルを隠しているのです」


 出てきたのは、なんだかキザな男だった。金髪碧眼でイケメンだが、声は粘っこいし視線がうざい。何より顔に、紋章が入っている。


「……なるほど。ふ、騙されるところだったぞ! 中々の策士ではないか」


 王様がその言葉に納得する。いや、違うってば。


「まさか僕達がこっそり覗いているのに気付くとはね。その男、ただ者ではないですよ。なんせ【インビジブル】で隠れている僕を見て、笑いましたからね。お前……言っておくが、これはテストだからね。ある程度の強者なら気付るレベルまで隠蔽度を下げているんだ。僕が本気を出せば、絶対に気付けなかったさ」


 ペラペラとキザ男が喋っているうちに、気付けば王座の周囲には、男女二人組のペアがキザ男と合わせて3組立っていた。


 男の方は皆、位置や紋章が違うが顔に紋章がある。なるほど、横の女が巫女で、それに呼ばれた勇者ってことだな。


 めっちゃいるじゃん勇者。というか俺はただ単に、部屋の中が気になってキョロキョロしていただけだぞ。


「あわわわわ……お姉様達がいたなんて……」


 目を白黒してあたふたしているルーナを見て、俺が癒やされていると、キザ男が嫌みったらしく俺を睨む。


「とにかく、隠したところで、僕らには勝てないさ。この1か月、我々はきっちりとスキルを使いこなせるように鍛錬を積んでスキルレベルを上げたからね」


 あー、やっぱりスキルレベルってあるんだね。


「では、四人の勇者が揃ったということで――ようやく【勇者祭】を開催できるな。次の満月は?」

「3日後ですわ、王様」


 キザ男の横に立つ、エロい格好をしたエロいねーちゃんがエロい声でそう王様へと囁いた。あれがキザ男の巫女か。羨ま……けしからんな。


「ならば、3日後に【勇者祭り】を開催する! そこで優勝した者を真の勇者と認め、王家が支援しよう。では、解散!」


 こうして、俺は訳も分からないまま、真の勇者を決める祭りとやらに参加することになったのだった。


 ……もうすでに逃げたい気持ちでいっぱいなんだが、どうすればいいんだ?



☆☆☆



 城から出た俺とルーナの目の前には、いかにも中世ヨーロッパ風(実際の中世ヨーロッパがこうなのかは知らないけど)な街並が広がっていた。


 ルーナが、宿泊用の宿屋があるということで案内してくれた。二人で並んで歩いていると、様々な者達とすれ違った。人間以外にも、二足歩行する犬や猫やトカゲのような獣人がいて、ああ異世界なんだなあって感じさせる。更に少なくない数の人が剣やら槍やらで武装していた。


「さあ、勇者様! 3日後に向けてビシバシ訓練しましょう!! まずは宿屋で作戦会議です!」

「お、おう」


 ルーナは鼻息荒く、やる気満々だが、ぶっちゃけ俺にはやる気はない。だって明らかにあの玉座にいた奴ら強そうだもん。


 俺なんて、戦いのたの字も知らない素人で、しかも良くあるチートスキルとかステータスMAXとかレベルカンストかとかそういうのないし。


 【とんずら】だけで勝てるわけがない。


「ふふふ……しかし流石勇者様ですね。私がすっかり【勇者祭】の事を伝えるのを忘れていたのに、しっかりとそれを予測して他の勇者を騙すなんて」


 あー、この子まで勘違いしてる。


「いや、ルーナ。違うんだ。俺はほんとに【とんずら】しかなくて――」

「皆まで言わなくても分かりますよ……お姉様達が持っている能力【精神感応(テレパス)】を警戒してわざと嘘を教えているのですよね?」

「え、【精神感応(テレパス)】?」

「はい。相手の感情や思考、記憶を読み取る力です。当然、勇者には効かないのですが……巫女には通用するので、パートナーの巫女から情報を読み取って対策するというのは常套手段なのです」


 ルーナが、ドヤ顔でそう解説する。え、【勇者祭】ってそんな情報戦まで駆使するガチ系の奴なの?


「だから、大丈夫ですよ。私には嘘をついてくれて構いません。でもお手伝いできるところは言ってくださいね!」


 そう言って、百点満点花丸な笑顔を向けてくるルーナを見て、嘘をつけるわけないじゃないかと思う俺氏であった。


 そんな感じで、楽しくルーナと会話を楽しみたいところだが……。

 俺は過去の経験から、あとを付けられる事には慣れていた。だから分かった。


 俺とルーナを尾行している存在がいる。


「んで……お前ら、何?」


 俺は振り返りながら、そう言って、あとを付けている二人組の男を睨んだ。

 一人は犬のような姿の獣人で、もう一人は普通の人間の男だった。ちなみに人間の方はハゲだ。


「ほう……流石は、我が主が警戒するだけはありますな。まさか我が追跡術に気付くとは」

 

 獣人がドヤ顔でそんな事言うが、モロバレだったぞ。とりあえず〝あの長身黒髪の男で間違いないか?〟みたいな会話をデカい声でするなよ。この道を歩いている奴で黒髪なの俺だけだよ。


「わわわ……やはりもう始まっているんですね」

「何がだルーナ」

「【勇者祭】は3日後ですが……ルールとしては、勇者が揃った時点で、()()()()()()()()()()()のです」

「つまり?」

「今、殺しておけば、当日が楽という事ですね」


 ルーナさんがしれっと殺しておけばとか言ってますけど、怖いよ!! 全然正々堂々じゃないし、勇者って名称が泣いてるよ!!


「まあ、というわけで……強くなる前に殺しておく」


 もう一人のハゲがそう言って、剣を抜いた。おー、ロングソードって奴だろ? 俺知ってるぜ


「くはは……我ら暗殺兄弟【噛み付く奴ら(バイティング・ワン)】に狙われた不幸を嘆くが良い!!」


 あ、こいつら馬鹿だ。

 自分で暗殺なんとかとか言うアサシンがいてたまるか。


 とはいえ、獣人の方は、両手にナイフ持ってるし、ハゲの方は剣持ってるし怖いよね。

 怖いはずなんだ。


 ……。


 なぜだろう。全然怖くない。


「さあ勇者様! こんな雑魚敵シュバババってやっつけてください!!」


 ルーナも怖がっている様子もなく、興奮している。ボクシングとかプロレスが好きな女の子って試合前はこういう感じよね。


「よし、戦略的撤退だ」


 俺はそう言って、ルーナの手を取ると、走り出した。


「あ、()()()()()()!!」


 獣人がそう言った瞬間に……身体が驚くほど軽くなった。そして力が奥底から湧いてくる感覚。


 俺は普通に走るのがまどろっこしくて、ルーナを抱きかかえた。


「ふえ!?」

「飛ぶぞ、しっかり掴まってろ」


 歯が浮くようなくっさいセリフを吐きながら俺はお姫様抱っこしたルーナと共に、地面を蹴って飛翔。


 そのままレンガ造りの建物の壁を蹴って屋根の上へと着地。


 流石に撒いただろうと思った俺はやはり、まだまだ甘ちゃんだった。


「まさか、俺様に気付くとはな。やはりケイネ様が警戒していただけはある」


 屋根の上には、全身黒タイツのエロいねーちゃんが立っていた。赤髪短髪の美人さんでめちゃくちゃエロい身体付きを惜しみなく披露している。


 手に、なんか刀身が蛇みたいにぐねぐね曲がった剣を持っていなかったら、なお良かった。


「あ、あれは! 有名な暗殺者である【曲がりくねる蛇(フラン・ベルジュ)】です!! 勇者様()()()()()()()!! 流石の勇者様でもあれには勝てません」


 ルーナがなんやら言っているが、元よりあんな斬られたら痛そうな武器を持ってる奴と戦う気なんてさらさらない。というかこの世界の暗殺者って自己主張激しすぎだろ。


 それに先ほどよりも身体が更に軽くなっているし、感覚が怖いぐらいに冴え渡っている。今なら飛んでる小バエさえも爪楊枝で射抜けそうだ。


 これなら逃げ切れる。


「言われなくても逃げるさ!」

「俺様が()()()とでも?」


 気付けば、そのフランなんとか……フランでいいか。フランが俺の背後に立っており、あの曲がりくねった剣を俺へと振っていた。


 俺は生まれて初めて、殺気という物を感じた。マンガとかのアレって本当なんだーとか思っているうちに刀身が俺の首のすぐそこまで迫っていた。


 あ、死ぬ。


 俺は引き延ばされた時間の中で、冷静にそう思考した。


 いやだって俺、素人だし。有名な暗殺者だかなんだか知らないけど、そんなんに狙われたら終わりでしょ。


 あーまた死ぬのかー。

 嫌だなあ……。前は病気だし逃げ切れなかったけど……。


 ……あれ、今回は逃げ切れるんじゃない?

 

 だって――()()()()()()()()()でしょ?


 そう俺が思った瞬間に、あの声が脳内に響いた。


*【とんずら】のスキルツリー解放条件を満たしました。

*【とんずら】のスキルレベルが2に上がりました。

*【とんずら】――スキルレベル2:()()()()()()()()()()()()()()()


 へ? 迫る刃からの逃走って何?


 と思っていると。


「馬鹿な!!」


 目の前にいたフランが驚いたような表情を浮かべた。

 まあそりゃあそうだろうさ。なんせ、俺の首の薄皮一枚まで迫っていた刃が不自然なほどに軌道が変わり、明後日の方向に飛んでいったからだ。


 端から見れば、まるで刃が不可視の壁に弾かれたように見えただろう。


「くっ! ならば我が奥義を喰らうがよい!【蛇神乱舞(スネークダンス)】!!」


 フランが刃を高速で振りながらくねくね踊ってこちらに迫るが、俺の肌に触れる前に刃が弾かれてしまう。


「なぜだ!?」


 いや、うん。俺が聞きたいよね。


「く、ここは引かせてもらおう。流石は勇者……」


 そう言ってフランが去っていった。


「なんか知らんが、助かった」

「流石勇者様です!! あの【曲がりくねる蛇(フラン・ベルジュ)】を撃退するなんて!」


 ルーナがそう言って尊敬の眼差しで俺を見てくるが、いや、何もしてないんだが……。


 結局その後もあれこれ、暗殺者っぽい輩に襲われたが、俺は【とんずら】を駆使して見事、宿屋の部屋まで逃げ切ったのだった。


 相手を倒す事は出来ないが……逃げるだけなら凄く便利なスキルだな、これ。



☆☆☆



「勇者様、今後はどうしましょうか?」


 宿屋について、俺とルーナは部屋の中で作戦会議を行っていた。因みに同じ部屋で寝泊まりする事になってしまった。


 いや、俺は反対したんだぞ!! でも、ルーナが〝万が一暗殺者に私が襲われたら勇者様にご迷惑をおかけしてしまいますので〟と言って聞かないからだ! 


「どうするって言ってもなあ……」


 【勇者祭】当日は、闘技場で1対1で戦うらしい。四人いるから、それで勝った者同士が更に戦い、優勝した者が正式に勇者として認められるという。


「あーそういえばさ、負けた勇者はどうなるんだ? 死刑とか?」


 嫌すぎるけど、この世界の感じで行くと有り得そうで笑えない。


「そんなまさか~。真の勇者の奴隷となって、その旅を補佐するだけですよ」

「もっと嫌だよそれ!!」


 奴隷って! 死んだ方がマシ案件じゃねえか! しかも暗殺者寄こしてくるようなガチな奴らの奴隷になんかなった日には、何をさせられるか分かったもんじゃねえ。自爆技とか撃たされるんだろどうせ。


「安心してください! 大体の勇者が祭までに、もしくは当日に死にますので」

「どこに安心要素があるんだこら」


 ニコニコとそう話すルーナを見て、やはり異世界だけあって価値観が違い過ぎることに俺はため息をついた。


「とにかく、死ぬも嫌だし、奴隷はもっと嫌だぞ」

「勝てばよかろうなのです!」


 ぐっとガッツポーズをするルーナを見て、こっちの世界にもそういうポーズがあるのね、とかいうどうでもいい感想を抱いた俺であった。


 いやしかし、その通りなのよね。


 勝つしかない。しかもこの【とんずら】だけで。

 いやー無理だな。無理。適当にどっかで逃げよう。


「そういえば、勇者なんだからさ、こう伝説の剣とかそういうのはないのかな?」

「あ、忘れてました!!」


 忘れてた?


「すみません……実は、勇者を召喚した巫女は、その勇者に相応しい武器を一つだけ魔法で召喚できるのですよ! 勇者達は皆、それを装備して戦います! 中には凄い力を秘めた武器もあるとか……」

「おお! いいねそれ! ワクワクする!」

「じゃあ、早速……【サモン・ブレイブウェポン】!」


 ルーナが杖を、まるで空中をかき混ぜるかのように振ると、七色の滴が床へと落ちた。おおーソシャゲのガチャみたいな演出だな。


 滴が床の上で跳ねると魔法陣となり、光が溢れてくる。


「おお! なんか凄いぞ!! これはSSR引いちゃいましたか!?」


 光が収まるとそこには――


「は?」

「可愛らしい武器ですね」


 それを端的に表現するなら、ナイフ、といったところだろうか。


 刀身は30cmもないぐらいで、銀色に光っているが、先端から背の半分ぐらいのところまで波打っており、その部分だけ赤く染められている。更に柄の部分は金を使っているのか黄金色に光っていて……なんというか、トサカが立派な雄鶏の頭をモチーフにデザインしたとしか思えない見た目だ。刀身に目みたいな穴が開いているせいで、余計にそう見えた。


 その、ニワトリナイフに向けてルーナが杖を向けると、目をつぶってウンウン唸り……そして口を開いた。


「えっと……むむむ……分かりました!! これは……【臆病者の勇気(チキンズ・ナイフ)】という武器ですね。これを装備して()()()()()()()()()力が溜まっていき、それを斬撃として解放できるようです!……更に身体能力向上の加護も付いていますね。ソレ以外にも何かありそうですが」

「チキンズナイフ! そのままだった!」

「凄いですよ!! 大概こういう武器って、力を溜められる回数に上限があるんですが……これ、ないっぽいです」

「えっとつまり?」

「逃げれば逃げるほど、無限に力が溜まります。ただ、一回その力を使うとリセットされるみたいですが」


 めっちゃ強いじゃん!! 俺、そういうトリッキーな武器とか使うの好きよ!! いや、現実に使うとかじゃなくてゲームとかの話な。


「リセットしてもまた溜めればいいし……ニワトリナイフ……恐るべし」

「ですね。流石勇者様です!」

「だけどなあ……いくら武器が凄くても俺、逃げる事しか出来ないからなあ」


 逃げないとなると俺はもはや、ただのがきんちょだ。こんな剣と魔法の世界で生きてる奴らには勝てない。


「大丈夫ですよ! 勇者様のあの凄いスキルがあれば!」


 ああ、そうだった。そういえばルーナも勘違いしているんだよなあ。


「いや、だからだな。俺は逃げることしか……」


 俺がそう言っても、ルーナは、全部分かってますよ顔を浮かべるだけだった。


「……まあいいか」


 その顔が可愛くて、俺はついそう思ってしまったのだった。


「じゃあまあ、とりあえずこの武器をどう使うかは一旦置いておいて……飯でも食うか。腹が減ったよ」

「はい! 宿泊代も飲食代も全て国持ちなので遠慮無くやっちゃいましょう!」



☆☆☆



 【勇者祭】当日。


 俺は、息絶え絶えだった。


「昼夜問わずに暗殺者に襲撃者にモンスターに……お前らガチ過ぎるだろ!!」


 俺は思わず、闘技場で行われていた開会式みたいな奴の途中で、思わず他の三人の勇者にそう叫んでしまった。


「ふ、やはり生き延びたか。どうやら貴殿が強者という噂は本当のようだな」


 ガチムチの軍人みたいな青髪短髪の男がそう言って、俺にニヤリと笑いかけた。そんな噂知らねえし、笑いかけるんじゃねえ。野郎の笑顔で喜ぶ趣味はねえ。


「僕の計算によると、彼が今日まで生き延びる確率は……97.34%でしたね。ふ、やはり僕の計算は狂わない」


 今度は栗毛の眼鏡がそんな事言って、くいっと眼鏡のブリッジを上げた。自分で暗殺者けしかけておいて、なんだよその計算。眼鏡割るぞこら。


「やはり生き残ったか……僕が睨んだ通りだ」


 キザ男までそんなこと言っている。


「では、祭を開催する! 厳正なる抽選の結果……第一試合は、シュン対ケイネ! そして同時にライラス対ドラン!


 わああああって観客席は盛り上がっているけど、俺はまじで嫌になってきた。


「ぐぬぬ……いきなりケイネ様とは……」


 ルーナが唸る中、俺の前へとやってきたのはあのメガネ野郎だった。 


 余裕そうに俺を見つめている。


「ふふふ、残念ながら、君が勝てる確率は……」

「はいはい、0%だろ」


 分かってるよもう。


「……そうだ。だから、戦う前に降伏したらどうだい? まあどちらにしろ奴隷として巫女共々こき使ってやるがね」


 嫌に決まってるだろ。というか、うん? 今、なんか引っかかるような事を言ったような。


「勇者様! ファイトです! 修行したのできっと大丈夫です!!」

「あー、うん。そうだね……」


 修行といっても逃げ回っていただけだけどな。まあ、おかげでスキルレベルも上がったし色々出来るようになった。何よりも、俺のナイフにもかなり力が溜まっている。


 なんせ逃げれば逃げるほど溜まるからな。お陰様でこの3日間でかなり溜まった。


 問題は……俺にこのナイフを上手く使える技術もなければ、まともな戦闘の経験もない点だ。


 正直不安しかない。あー、逃げたい。


「では、第一試合、それぞれ始め!!」


 王と言葉と同時に、背後で、あのガチムチとキザ男が激突していた。めっちゃ凄い音が聞こえてきて怖いんですけどおお!?


「勇者様、ケイネ様は魔法が得意な勇者です! 気を付けてくださいね!」

「ああ、さんきゅ」


 まあ、あのメガネ、ローブ着てるし木でできた杖を装備しているからどう見ても魔法使いっぽいよね。


「ふふふ、僕の魔法に君が恐れをなす確率は!! 100%だ!!」


 メガネがそう叫びと同時に杖を掲げた。


 杖の先から炎が放たれて、それはやがて巨大な竜のような形になっていく。


「喰らうが良い! 僕の【ブレイズ・ドラゴン】だ!!」


 竜となった炎が俺へと飛んでくる。


 いや、うん。

 正直言おう。足が動かない。

 滅茶苦茶怖い。だって炎だよ? あんなのどうすりゃ良いのよ。


 確かに今日まではなんやかんや逃げ切れていた。なぜかと言えば、逃げても良かったからだ。


 だけど、今は違う。


 そう、これまでが雑魚とのエンカウントだとすると……今はボス戦なのだ。


 そして古今東西、大体のゲームにおいて、ボス戦は――()()()()()()


 つまり、俺のスキルは全く役に立たないのだ。


「ああ、やべえ。これ喰らったら痛いよなあ……」


 目の前に迫る炎がその熱気だけで俺の肌を焼いていく。ぶっちゃけめちゃくちゃ痛い。


 だけど、俺の足は竦んで動かない。ああ、あのメガネの言う通りだ。俺は恐れをなしている。


 俺は何となく昨日まで調子に乗っていた。刃なんて効かないぜ~と高をくくっていた。だけど、こんな魔法を使ってくるなんて聞いてない。逃げたい。でも逃げられない。


 背中に視線を感じる。見なくても分かる、ルーナの視線だ。


 ああ、俺が死んだらがっかりするだろうなあ……。悲しむだろうなあ。


 嫌だなあ。せっかく仲良くなれたのに。


 また……死ぬのか。


 俺が無意識で流した涙はすぐに蒸発し――炎の竜が顎を開けて、俺を飲み込んだ。

 

 視界が紅くなり、全身が焼ける痛みに俺は立っていられず、地面へと倒れ込みそうになった瞬間。


 あの声が脳内で響いた。


*【とんずら】のスキルレベル上限解放条件を満たしました。

*【とんずら】のスキルレベル上限をアンロックしました。

*【とんずら】のスキルレベル6に上がりました。

*【とんずら】――スキルレベル6:【死】からの逃走が必ず成功する。

 

 パキンッ……という何かが割れる音と共に、俺は倒れそうになるのを右足を出して、踏みとどまった。


 会場が――どよめく。


「馬鹿な……僕の最強の魔法を喰らって、なぜ生きている!!」


 メガネが叫ぶ。

 俺は服もボロボロで、火傷もめちゃくちゃ痛いが……なぜかまだ死んでいない。


「勇者様!!」


 ルーナの声が聞こえる。ああ、やっぱり俺は生きているみたいだ。


「ありえない……ありえない!!」


 尻餅をついたケイネへと俺が歩み寄る。


「く、くるな!! くるなあああ!!」


 氷の槍やら、電撃やら、喰らったら間違いなく()()魔法が飛んでくる。それらは全て俺に命中するものの、俺の歩みを止める事はできない。


 この戦いからは逃げられないけども……【死】からは逃げられる俺相手に、即死するような威力の魔法は意味を成さない。


「いやあ、痛かったぜ」

「や、やめてくれ!! 殺さないでくれ!!」


 杖を投げ、俺を制止させようと差し出して手を見て、俺は、どうしたもんかと思った。


 勿論、殺す気なんてない。だけど、痛かったし、何もせずに降参を認めるのはアンフェアだ。


「俺さ――男のメガネキャラ、嫌いなんだわ」


 そう言って俺は手に持つナイフを一閃。


「ひいいいいい!!」


 キンッ! という音とメガネの悲鳴と共に――奴が掛けている眼鏡のブリッジが切断された。


「はい、俺の勝ちな」

「……は、はい」


 眼鏡が落ち、俺の勝利宣言で、会場が沸いた。


「勝者!! シュン!!」


 いやあ、なんか勝てちゃったよ。


 背後を見ると、向こうの勝負も終わっていた。


 立っていたのは――あのキザ男だった。



☆☆☆




「最終戦! シュン対ライラス! 始め!」


 どうやらキザ男はライラスという名前らしい。まあどうでもいい。


「くくく……やはり、僕の相手は君になったか」


 キザ男は腰に差している剣を抜かず、そんな事を言い始めた。


「やはり、君の実力は本物だ。結局、どれだけ探りを入れても君のスキルも、その一見するとふざけているようにしか見えない武器の力も分からなかったよ」


 そりゃね。逃げてただけだし。


「だが、僕には分かる。君は強い。だからこそ――僕が勝つ」


 あー、ボス戦前のムービーってめんどくさいよな。しかもスキップできない系。


「なんでそんなに勝ちたいんだよ。そもそも、真の勇者になって何をするんだよ」


 そう、そうなのだ。そこなのよね。ルーナに聞いても、来たるべき深淵に備える為です! としか答えてくれないのだ。


「おいおいおい……君は何も知らないのか? それともそれまでもがフェイクかい? まあいい、あえて乗ってやるさ。良いかい、真の勇者となると、この国の支援を受けて、光の勇者となる旅に出る事になる」

「それは知ってるよ。んで負けた勇者が奴隷になるんだろ」

「そうだ。お前も、あの雑魚二人も、そして()()()()()()()――全員だ」


 え?


「くくく……楽しみだよ、お前らの目の前で、お前らの巫女を嬲ってやるのが」

「ま、まて。それはどういうことだ?」


 俺の言葉に、キザ男が首を傾げた。


「どういうこととは? 巫女とは勇者を補佐する役割を持って生まれた者で、勇者の為ならなんでもする存在なんだよ。お前もあの巫女をこの三日間、散々使()()()()()()? 間違っても情を移すなんて事はしてないよな?」


 キザ男が下卑た笑みを浮かべている。


「……使う、ってなんだよ」

「あははは!! え、何、君、マジで言っているの!? そんなもん、()()()()()使()()に決まっているだろ!! 真の勇者になれば、手垢が付いているとはいえ、四人の巫女を自分の物に出来るんだ! そして国の金使い放題で旅が出来るんだ。最高だろ!?」

「……最低だな……お前」

「お前のその反応、まさか、あの巫女、使ってないのか?」

「当たり前だろ」

「……嘘だろ……マジかよ。新品の巫女が使えるとか最高かよ! ぎゃはは! やる気が出てきた!!」


 醜悪な表情を浮かべるそいつは、とてもじゃないが、勇者なんかには見えない。糞だ。立って喋っているだけの糞野郎だ。


 俺は、言いようのない怒りがフツフツと沸いてきているのを感じる。


「いや、お前がさ、お喋り糞野郎で良かったよ」


 俺はそう言って、キザ男を睨む。


「は?」

「全然、やる気なかったし、死ななければもういいや逃げようって思ってたけど――サンキュー、()()()()()()()()


 俺は、ずっと逃げてきた。多分きっとこれからも逃げ続けるだろう。


 だけど、今だけは――逃げない。


「お前みたいな糞野郎に、ルーナは渡さん」


 俺はそう言って、ナイフをキザ男へと向けた。たった3日間だと笑うかもしれない。だけど、俺はずっとルーナと共に過ごした。笑って泣いて怒って。


 だから、はいそうですか、じゃあどうぞ。なんて言える訳がない!!


「良いね!! お前の巫女を使う時は必ずお前も同席させてやるよ!! 殺さないように手加減してやる!!」


 キザ男が剣を抜くと、地面を蹴った。


「まずは手だ!!」


 キザ男が俺の腕を斬ろうと剣を振った。だけど避けるまでもない。


「っ!!」


 剣が俺の腕から弾かれた。ああ、刃からまた逃げてしまった。そして持っているナイフに力が注がれていくのが分かる。


「ふん、やるね! ならこれはどうだ!!」


 今度は足を斬ろうと下段へと振るキザ男。が、それも無駄。俺の肌を傷付けることさえ出来ずに弾かれる。またナイフに力が注がれる。


「物理に対するスキルか! ならばこれはどうだ!! 【サンダー・ボール】!!」


 キザ男が左手を俺に突き出し、そこから雷球を放った。奴の言葉からすると、おそらく威力は抑えていて、即死する火力ではないはずだ。だったら、喰らうのはまずい。


 ナイフの能力で身体能力が上がっているおかげで、見て避ける事が出来る。さっきの眼鏡の魔法に比べると全然迫力がないしな。


「くくく、僕の真の力を見せてやる!!――【インビジブル】」


 そういうと、まるでカメレオンのように、すーっとキザ男が背景に溶け込んでいく。


 完全に姿も気配も消えた。


 俺は周囲を警戒する。ザリ、という砂を踏む音に反応して背後へと振り向くと目の前には雷撃。


「くっ!」


 俺は手を上げて顔を守る。全身が感電し、手が灼けて痛い。だがその程度で済んだということはやはり威力は抑えているようだ。


「まだまだ!! じっくりいたぶってやる!!」


 そこからは、キザ男の独壇場だった。


 どこから現れるか分からない雷球を俺は避けきれず、全身に受けてしまう。


「痛え……」

「勇者様!!」


 思わず膝をつきかけて、俺は何とか踏みとどまった。


「勇者様……もう良いんです! 降伏してください!!」


 ルーナの声が聞こえる。視界が赤くて、どこにいるか見えないな。


「私の事は気にしないでください! 巫女とはそういう存在なのです! どうせ最後には――」

「うるせえ!!」


 俺はルーナの声を遮って、叫んだ。


「うるせえ! 巫女がなんだとか知るか! 俺は、俺は……」

「くはは、そろそろくたばれ!! 【ヴォルテック・ブレード】!!」


 雷撃纏う剣が俺の足へと迫る。


 ああ、あれ当たったらめちゃくちゃ痛いだろうなあ。しかも足を斬られたら終わりだ。


 だけど、俺は負けるわけにはいかないんだ。


 逃げ出すわけにはいかないんだ。だから――


「アアアア!!」


 俺は力を込めて、デタラメにナイフを振り、力を解放した。それはまるで明後日の方向だったが、キンッ、という澄んだ音が響いた。そしてそれと同時に、ナイフから力が抜けていく。


 雷剣が俺の手前で止まっており、キザ男がなぜか俺がナイフを振った方向へと目を向けていた。


「な……んだそれは……」


 俺がそっちを見ると……()()()()()()()


 空だけではない。その空へとまるで線が繋がるように、闘技場の床と、壁と天井までもが斬れている。


 観客席のない場所で幸いだった。


「ははは……凄えな」

「ありえない……なんだその力は……」

「さてな……予測してみろよ」


 俺は痛む身体にムチを打って背を伸ばすと、ナイフを構えた。


「次は、お前が斬られる番だぜ」


 俺はそう言ってナイフの切っ先をキザ男へと向けた。


 それだけで、キザ男が俺から離れる。


「ま、待て! 落ち着け!」

「待たない。降伏か、それとも死か。どちらかだ」


 ハッタリだ。既にナイフは力を失っているのが分かる。もうあの一撃は放てないだろう。


 だが、それでも構わない。


「待て待て! 話し合おう! そうだ! 二人で勇者になればいい! そうだろ!?」

「ほら、早くあの消えるスキル使えよ。まあ、もはや見えてようが見えてまいが一緒だけどな。俺は、()()()()()()。それが俺のスキルの正体だ。だから、お前という存在を斬ると決めた以上、お前が逃げようが、消えようが関係なく――斬れる」

「嘘だ……そんなスキルありえない!!」

「なら、試してみればいい」

「嘘だ……嘘だ!! 僕は信じないぞ!!」


 発狂したキザ男の姿が消えた。


 それで良い。


 俺は、背後から俺の頭へと振り下ろされる雷剣を感じた。


 そう。あのハッタリで、奴が降参すれば良し。もし信じずに俺を攻撃しようとしたとしても――奴は絶対に本気で俺を殺しにくる。


 あんな攻撃を見せられた以上は、手加減なんて出来ないはずだ。


 奴は必ず、必殺の一撃を使ってくる。だからこそ――俺には効かない。


「悪ぃな、()()()()。俺は嘘つきで、逃げる事しか能がなくてね」


 雷剣は俺の頭へと触れた瞬間に消えた。雷剣による【死】から逃れた俺は、振り向くと同時に、驚きの表情を浮かべているキザ男の顔面を思いっきり――殴った。


 ナイフの身体能力向上は消えていないおかげか、綺麗に決まった右ストレートで、キザ男が吹っ飛ぶ。


 そして、奴が起きあがる事はなかった。


「――勝者……シュン!!」


 その言葉に俺はようやく安堵し……気絶して、床へと倒れたのだった。

 


☆☆☆



 俺は気付くと、柔らかく温かい感触と甘い匂いに包まれていた。


 目の前に、大きな山が二つ。その先には天井があった。


「っ!! 勇者様!?」


 山の間から覗くのは、ルーナの綺麗な顔だった。

 ああ、そうか。


 どうやら俺はルーナに膝枕されているようだ。


「勇者様!」

「ああ……ルーナ、おはよう」

「はい! 勇者様! 勝ちましたよ! 勇者様が、真の勇者様になりました!」

「……そうだな」


 俺は身体を起こした。そこは、医務室のような場所だった。どうやら城の中のようだ。


「あれからどうなった?」

「勇者様が気絶している間に、閉会の儀は終わりました。この後、このお城で晩餐会と儀式が始まります」

「儀式?」

「そうです。勇者様を真の勇者にする為の儀式です! 封印魔法が使えるようになるんですよ」

「封印魔法?」

「来たるべき深淵……まだ覚醒には至っていませんが、覚醒したが最後……この世界は終わります。だからそうならないように真の勇者は巫女と共に旅をして、最後は巫女の命を使って封印魔法を使うのです。それが勇者の、そして巫女の宿命(さだめ)なのです」


 ……やっぱな。なんかそれらしい事を言っていた気がするんだ。


「巫女の命……つまり」

「私ですね!」

「なんでそんなに明るいんだよ!」


 にこりと笑うルーナに思わずツッコミを入れてしまう。


「へ? だってそうせよと産まれた時から言われてましたし。そういう物なんですよ巫女は」

「……なんだそりゃ。おかしいだろ、人の命を犠牲にする前提の救いなんて」

「ふふふ……勇者様は優しいんですね」

「普通だろ。あー、どうせ、そのシステムもなんか欠陥があるんだよ。うっし決めた」


 俺は、首を傾げているルーナを見て決意した。勇者がどうとか、巫女がどうとか、興味もないし旅なんてする気もサラサラなかった。だけど、決めた。


「俺は、その宿命とやらが気にくわねえ。どうせ、一回封印したって時間経ったらまた封印が解けるパターンだろ。俺、そういうシナリオ大っ嫌いなんだよ。世界を救う為に一人を犠牲にする系。安易すぎるっていつも思ってたんだ」

「えーっと、勇者様」


 俺は立ち上がると、ルーナの手を取った。


「ルーナ、()()()()

「ふえ!?」

「勇者も、巫女も、宿命とやらも――全部投げ出して逃げよう!! その来たるべき深淵はまあ、何とかなるだろ。いざとなったらそれによる、世界の終わりとやらからも逃げれば良いんだ!」

「で、でも!」

「知ってるか、ルーナ。俺の世界の偉大な奴がこういう言葉を残しているんだ〝三十六計逃げるにしかず〟ってな!! さあ逃げようぜ!!」


 俺はそう言って、ルーナの手を握って、勇者だとか何だとかを全て置き去りに――その城を飛び出す。


 それは、後に【とんずら勇者】と呼ばれる俺らしい結論だった。


↓ハイファン×ミステリー短編書きました。ネクロマンサーが推理する系です。自信作なので是非!

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死霊術士は欺けない ~死者の記憶を視るネクロマンサー、冒険者ギルドの保険調査員になる。その【死因】、本当か視させてもらおうか~

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ハイファン新作です! かつては敵同士だった最強の魔術師とエルフの王女が国を再建する話です! こちらもよろしくお願いします。

平和になったので用済みだと処刑された最強の軍用魔術師、敗戦国のエルフ姫に英雄召喚されたので国家再建に手を貸すことに。祖国よ邪魔するのは良いがその魔術作ったの俺なので効かないし、こっちの魔力は無限だが?



興味ある方は是非読んでみてください
― 新着の感想 ―
[一言] スキルが有効なら、それこそ無敵ですわね。 のちに二つなが残るのだから、きっとこれからも活躍していくんでしょうね。 面白かったです。
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