36,荒野の塔 15
壁から剥がれ落ちた私はとりあえず、サンショウウオの死体に近づく。
サンショウウオの遺体があったであろう場所は砂が吹き飛ばされ、深さ4メートル級のアリジゴクとかしていた。
とんでもない威力の爆弾だった…、ナナさんはあんなもんを使った自爆攻撃を勧めてたのか。やっぱ、サイコだよあの人。サンショウウオの遺体も消し飛んじゃってるし、ドロップアイテムあるのかな……
あきらめ半分でアリジゴクをのぞき込むと、中央になんだか豪華そうな宝箱が落ちているのを見つけた。
アリジゴクをズサーッっと降りていき、宝箱にたどり着く。
衛兵やら殿下やら色々苦労してレベル差のあるボスを倒したんだ!さぞおいしいものが入っているに違いない!
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【荒野の塔の宝箱】
『ゴブリン隊長のお手伝い券』×1
『ブッチャー』×1
『ギガントリュートの皮』×3
『力強い根』×1
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う、うそでしょ?あんなに苦労したのに、っていうかこの「ブッチャー」って私の?
そんな馬鹿な、とあたりを見渡すとアリジゴクの中腹あたりに突き刺さったブッチャーを発見。
なんだ、私のはここにあったのか、と引き抜くと刀身部分が融解して無くなっていた。
は、ハハ。いいんだよ、新しいの手に入ったんだし…、愛着とかないし…。ないし……
思いもよらない武器の転生に少しばかりさみしさを覚えながらも、他の戦利品の確認をする。
『ゴブリン隊長の券』
あなたはゴブリン隊長に貸しをつくることに成功した!
この券を使えば、たちまちゴブリン隊長とその子分が集まり、君のお願いを1つだけ聞いてくれるぞ!ただし、相手はゴブリン。あまり難しいお願いはご法度だ!要するに、マンパワー!いや、ゴブリンパワー!戦いは数だよ兄貴!
おぉ、ファンタジー。
こういうアイテムは遊びがあって嫌いじゃない。なにか人数が必要そうな依頼でもあったら使わせてもらおう。
でも、これ使用する場所に制限とかないよね?使用方法は確認しておくことを肝に銘じなければ‥‥
『ブッチャー』
以下略
…帰ってきてくれてうれしいよ……でも、できれば…ね…元のやつを……
『ギガントリュートの皮』
ギガントリュートの分厚い皮。
砂をものともせず進むことのできる体表は特殊な構造をしており、環境への適応力が高い。
その分厚さ故、打撃系に対し高い耐性を備えているが、斬撃系には弱い。
これは、ドロップアイテムみたいなものなのかな。だいぶ使い道がありそうな素材ってかんじ。っていうかあのサンショウウオはギガントリュートっていうんだね。サンショウウオってサラマンダーじゃなかったっけ?よく覚えてないけど。
しっかし、遊び心、モブドロップの武器、ボスのドッロップ素材、ってちょっと渋すぎない!?無理やりアイテムで突破したから入手制限とかかかってるのかなぁ?
思っていたよりもさみしい報酬に落ち込みを隠せないが、最後まで見ないことにはどうしようもないのでとりあえず、「力強い根」も確認することに。
でも、根って…。有用だったとしても私じゃ扱えなそう。
『力強い根』
水分の少ない荒野で、それでもなお生き延びることのできる遺伝子を色濃く受け継いだ根。あらゆる環境に適応し、その命を次代へと繋ぐ。
灰に加工し畑にまくことにより、無条件で作物を栽培することができるようになる。
「どういうこと??」
『力強い根』のテキストを見る限り、ファーマー系で使えそうなアイテムなんだろうけど…
無条件で栽培ってなに?作物ってそもそも無条件で育てるんじゃないの?やっぱりちょっとわからない。
「ってことは、結局これだけか…」
期待をかけていた最後のアイテムも謎アイテムだったためがっくりと肩を落とす。まぁ、ダンジョンに入ってくる時、報酬目当てではなかったけどさぁ。
私は空っぽになった宝箱を手に入れたばかりのブッチャーで恨めしそうに小突く。
そういえばこの宝箱、中身取り出したのに消えないなー。記念に持ち帰っていいんだったら持ち帰るけど、結構どっしりしてるよね、持ち上げられるかな?
とりあえず、目に見えた成果物を持ち帰りたい気持ちになっている私は宝箱を眺めてそんなことを考える。だが、持ち帰って換金する前に宝箱は光輝き、自らの姿を金貨に変えた。
「おぉ!!本当ですか運営様!ありがたき幸せ!!!」
降って沸いた金貨のおかげで、成果は武器と新アイテム3つに結構なお金となった。決して十分とは言えないが期待感を下げられたのちの金貨だったので精神的には得した気分になった。
これで新しい装備品とかを買って戦力アップだ。アクセサリー系はまだ手を付けていなかったからね。ってそうだ、レベルも上がってるんだった、確認しとかないと。
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チョコ Lv21 ↗
種族:獣人(猫)
職業:盗賊
HP:34/34 ↗
MP:25/25 ↗
力:33 ↗
守:30 ↗
速:56 ↗
頭:22 ↗
器用度:1
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「嗅覚」:Lv6 「聴覚」:Lv4
「集中」:Lv3 ↗ 「本気」:Lv2
「ジャイアントキリング」:Lv2 「隠密」:Lv6 ↗
「威圧感」:1
「手探り」Lv3 「バックスタブ」:Lv5 ↗
「投擲」:Lv3 「アンチロック」:Lv1
「生活術」:Lv1 New! 「受け身」:Lv1 New!
「暗視」:Lv3 「一騎当千」:Lv1
「暗殺の才能」:Lv1
「ブラッディフラワー」:Lv1
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称号:暗殺者
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ボスとの戦いを経たことによって一気にレベルが4も上がった。これにアクセサリーも付けることができたら大会でも結構いい線行けそうだ。
ステータスの伸びは順調そのもの、結構いい感じに伸びていっているはずだ。
スキルは「集中」と「隠密」、「バックスタブ」か。隠密は殿下たちとのいざこざあたりも経験値に入っているのかな?先輩の魔法だよりだったけどどうなんだろ、あとで検証スレでも覗いてみようかな。
「集中」のスキル自体は特に変わりないみたい。効果時間とか延ばしてほしいなー、なんて。既に壊れてるから期待はしないけどね。
「隠密」「バックスタブ」はそれぞれ効果が上がっている。両方、組み合わせて使うことが多いからこれからもどんどん使って伸ばしていこう。
新しく手に入ったスキルは「生活術」と「受け身」だ。
双方ともに盗賊のレベルが20になったことで手に入ったスキルで、「受け身」の方は名前の通り、受け身をとるような行動に補正がかかるようだ。軽装の盗賊や暗殺者にはもってこいのスキルだね。
「生活術」は「錬金術」の超お手軽バージョン。その辺の枝とかをナイフで削って即席の武器をつくったり、針金を曲げてピッキングアイテムを作ったりできるみたい。盗賊は基本的にサポート的な立ち位置だもんね、細かいところを抑える係というか。暗殺者プレイをしている私はソロで動くことが結構多くなるだろうし、できることが増えるのはありがたい。起用度が上がっていないのを見るに、大したものはできないんだろうけど。
ステータスを確認し終わり、どうやってアリジゴクを上がろうものか考えていると私の頭にワールドアナウンスが響きわたった。
『ダンジョン:「荒野の塔」 が攻略されました』
へー、ダンジョンをクリアすると全プレイヤーに通達されるんだ。うーん、攻略者探し、なるよねー。特に隠したいこともないし、匿名で掲示板に書き込んじゃおうか。名前出したくないってこともアピールできるし、ファーマーがいたら「力強い根」のこともわかるかも。
『また、ダンジョン:「荒野の塔」 を攻略したため称号「荒野の塔」を入手しました。』
お、称号ももらえちゃった。
えーっと、とくには効果はないみたいだね。攻略証明みたいなものかな。メダルみたいなものだと思えばうれしいね、ありがたく頂戴しよう。
『ダンジョン:「荒野の塔」 が攻略されたためダンジョン:「荒野の塔」 は崩壊します。
今後、ダンジョン:「荒野の塔」 はダンジョン:「試練の洞穴」 より挑戦することができます。』
え?消滅?
このダンジョン消えちゃうの?まじか、大会までは経験値上げとかしようと思ってたのに。
というか、ダンジョンなんて目立つもの突然消していいんだ。この街のシンボルみたいなものだろうに、街の人たち困惑するだろうな…って、街の人たち!?街の人たちどうすんの!?ここってダンジョン都市っていうか国自体がダンジョンからの利益で運営されてたような………
頭の中に、突如あったことも話したこともない住民たちの笑顔があふれだしてくる。
わ、私は何も知らんぞ!知らないからな!!!
は!!!!もしかして、先輩がボス部屋についてなんか言いたげだったのも…あぁ、言ってよー!!
「悪気はないけどほんとにすみませんでしたーーーーーーー!!!!」
崩壊の光に包まれるダンジョンの中で私の懺悔がこだました。
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『ギガントニュート』
生体になってからも成長し続け、巨体を手に入れたニュート。砂の中を水中のように泳ぎ回り、獲物を狙う。しかし、嗅覚がないため、時折、砂の中から顔を出しているところが確認される。
戦闘時には滑らかな体と、分厚い皮で攻撃を防ぎ、そのまま敵をなぎ倒す。
怒ると体が赤く染まり、より攻撃的になるが、その分、攻撃がワンパターンになる。
サンショウウオ → サラマンダー(陸生)
↓
リュート(水生)
らしいです。




