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35,荒野の塔 14

 自身の使える全てのスキルを使用した私は、喚き散らしながら突進してくるボスを避ける。


 先ほどまでは横に飛んで、さらに転がりながら回避をしていたが、素早さの数値が超上昇している今はそんなことする必要はない。サイドステップ数回で敵を躱すと、顔の横を通りすぎる尻尾めがけてブッチャーを振り下ろした。



「ギャォォォォォ!!!」



 すると、先ほどの投げナイフではびくりともしなかったサンショウウオがはっきりと痛みを露わにした。



 よし!肉感が比較的薄そうな尻尾なら、って、攻撃してみたけどビンゴだったみたい!このまま、尻尾を重点的に攻撃してやる!



 斬りつけられた痛みで一時距離をとろうとするサンショウウオを追撃する。

 巨体ゆえの歩幅でそれなりの走行速度を誇るサンショウウオだったが、今の私はそれよりも速い。

 一回、二回、三回と斬りつけ、サンショウウオが地団太踏んで私を遠ざけるまで追撃を加えることができた。



「へっ!痛かろうて!!」



 三分の時間しか残されていない私は追撃の手を緩めない。

 このボスは、あのミノタウロス軍団の頂点に立っている存在だ。しかし、にしてはいささか弱いような気がする。それはつまり奥の手や際限ない体力とか別の強みを持っているという事。



 削れるときに削っとかないと勝ち目が無くなる!!



 相手のスピードが私よりは遅いと判断し、今度は自分から敵に突っ込む。

 サンショウウオの方は私から突っ込んでくると見るや否や、初めて爪を使った迎撃を試みた。

 しかし、その攻撃は私からすれば避けれる緩い動き。するりと爪を躱すとサンショウウオの眼球にブッチャーを斬り入れようとする。しかし、さすがのサンショウウオも急所への攻撃には反射的に動くのか、超反応を見せたため、刃先の着地点がずらされ敵の顔に斬撃が入った。



「ギョォォァァァァァアアァアア!!!!」



 ブッチャーなら尻尾以外でもダメージを与えられてる!だったら、このままめった斬りにして…あ、あれ、抜けな、って、うわぁ!!!


 サンショウウオに斬りかかったブッチャーはそのまま刺さって抜けなくなり、その攻撃でサンショウウオが暴れたため、私はそのまま宙に吹っ飛ばされてしまった。



「いや、ちょ…ま…」



 一瞬の混乱、その後に浮遊感と次々に変わる状況に体が追い付かない。

 数秒の滞空時間と、数十秒にも思える思考。意思と体が合致した時、既に地面は目の前で、このままではなすすべなく落下するだけだった。

 私はせめて抵抗をと両手で頭を覆い、砂が体を守ってくれることを祈りながら目をつむって落ちていった。



 ボスっ



 空から砂に落っこちた私の上半身は完全に埋まってしまったようだ。

 うぅ……い、痛みは…、な、無い…よ、よかった…臨死体験するところだった…いや、何度か死に戻りしてるけど。って、そんなこと考えてる場合じゃな…フガ!!


 自分が戦闘中だということを思い出し、砂に埋まった体をもがいて引き抜こうとしたところ、なぜかバランスを崩して倒れてしまった。

 まずいと思ってサンショウウオがいるであろうあたりを見ると、サンショウウオも私を見失っており、見当違いの方向をキョロキョロと見まわしていた。



 チャンス!!



 これは!!と思い、身を起こしながら、素早くインベントリから以前使っていたナイフを取り出すとそのまま…



 ドサッ…



 しかし、またもや私は立ち上がることも、ナイフを取り出すこともできず、そのまま砂に倒れこんでしまった。

 あれっ?と思い、自分の利き手である右手を見てみると…



「えっ…!?」



 私の右手は肩から先が無くなっていた。



 いや、ちょっ!!



 私がグロテスク設定を軒並みオフにしているからだろうか、断面の右肩は何かポリゴンのようなものに包まれていて見えなくなってるが、今はそんなゲームの描画のことはどうでもよかった。



 利き手が使えない!?



 思わぬ窮地に動転するも、自分が「本気」「集中」スキルを使用中だということを思い出し、左手一本で意地になって体を起こす。



 右手がなんだ!相手はダンジョンのボスなんだ、五体満足で帰れる方が甘ちょろいってもんでしょうが!!



 突然圧倒的窮地に放り込まれたが、腹など既にくっくっている。私は慣れない手つきで左手にナイフを装備し、いまだ私を見つけられていないサンショウウオの下へ駆けた。



 さっきから全然私を見つけられていないところを見るに、あなた‘鼻’が利かないでしょ!だったら!



 私は「暗殺初心者の外套」をまといボスの尻尾を斬りつける。

 この外套には多少の視覚阻害がついてる、鼻が利かないってんなら私が見つけずらいはず!私も多少動きずらいけど、既にでかいハンデしょってんだ、やるだけやってやる!!



「グギャァ!?」



 っち!さっきの斬った後を狙ったのに当たらない!!左手じゃ力も入らないし、刃もブッチャーほど通らない!それでも!!



 私はそこから「本気」「集中」が切れるまで全速力で飛ばし続けた。このナイフでダメージを与えられるのは尻尾か眼球ぐらい。顔の方に回って見つけられては外套の効果はないも等しいため、常に後ろに回って斬りつけ続けた。



 斬って、斬って、斬って、斬って、斬りまくった。しかし…



「ああああああっっ!!」


「ギャォォォォォァァァァッッッッ!!!!」



 最後の渾身の一撃と共に、サンショウウオは切れんばかりの悲鳴を上げる。

 だが、時間切れだ。


 私の三分間の猛攻でサンショウウオの尻尾はズタボロになった。もうまともには動かないだろう。

 しかし、他の部分にはほとんどダメージは入っていない。

 もちろん、手足を斬りつけてはみたもののこのナイフでは切り傷を付けることがやっとだった。



 ふぅっ、と息を吐きだし、私は外套を脱ぎ去る。

 後ろに逃げる必要も、逃げることのできる足もなくなったのだから足かせになる外套などいらない。そして、私が足を止めることでようやく補足することができたサンショウウオは目を血走しらせてこちらを睨んでいた。



 まぁ、そりゃ怒るよね。



 完全にブちぎれ状態のボスを見ながら私は考える。

 どうする…結局、ブッチャーも回収できないまま三分が過ぎてしまったし、このナイフじゃあまともな傷は望めない。せめてボスがHP制だったら望みはあるけど、生き物みたいに主要部位の欠損でもしない限り倒せないとかだったら…だいぶ積みだ。それに。



「グギャアア!!!ギャアアアアアア!!!!ガァアァァァァァァァァ!!!!!!!!!」



 めちゃくちゃご立腹なさっている…



 サンショウウオの体表は真っ赤に染まりその怒りを体全体で表しているようだった。


 これ絶対強化入ってるよね…むしろ、ボス戦はここからが本番って感じなのかな。

 強化の入ったボスと満身創痍の体とスキル。これはなかなか…



「グルァァァ!!」



 ウーパールーパーも真っ青の赤いサンショウウオ見て、私が途方に暮れていると、サンショウウオは地面に向かってものすごい勢いで潜っていった。



 新しい行動パターン!!?なに!?砂の津波でも起こすつもり??それとも砂ごと突進とか…?



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!



 私がボスの新しい行動に身構えていると。サンショウウオの潜った地点が隆起し、その場にできた砂の丘がこちらに向かって突き進んできた。



 これは…まさか……



「か、カチ上げだぁぁぁぁぁぁ!!!!」



「ガァァァァァ!!!!!!」



 バクン!!!



 すんでのところで全力で身を投げ出すと、先ほどまで私がいた場所はサンショウウオに飲み込まれてしまった。

 私を食い損ねたサンショウウオは、首をブルブルと振りながら口にいれた砂をそのまま飲み込んでいく。そして、私がまだ生きていることを確認すると、苛立ったように咆哮をした。



 おいおいおいおいおいおいこんなのどうするんだ!全力回避必須の即死攻撃もちボス!?私、素早さだけならプレイヤーの中でも多分上位だよ!?それでもあんなにギリギリって、やっぱりレベルが全然足りてないじゃないか!!!



 現実世界で全体に見ることのない光景に私は唖然とする。

 くそ!なんとかならないか!こちとらブッチャーをとられたままなんだ!このままじゃお金だけでなく武器までロストだよ!それに強化状態に入るってことはしっかりHPは削れてるってことでしょ!?衛兵や殿下がどんな動きをするかわかったもんじゃない以上、ここまで来て引き下がれないよ!



 ボス部屋に入った当初は楽観的な気持ちでいたが、いざロストが迫ってくると焦りが出てくる。しかし、サンショウウオはそんな私をあざ笑うかのように私を見据えると再び砂に潜っていった。



「連発できるの…」



 本来の推奨レベルならば、おそらくギリギリで耐えることのできる攻撃なのだろう。だからこその連発。しかし、私はまだ一人で下層の攻略もできないひよっこ。それ故の即死攻撃連続発動に絶望感を感じる。



 え、え~い!!こうなったらやけくそだ!!なんか、なんかないか!…そうだ、でっかいなんかをあいつの攻撃地点において、それにぶつけて…って、そんなもの持ってるわけないし!!そうじゃなくてもなんか毒物とか…でっかい刃物でも…いや、だからでっかいのはないんだって!!



 慌てたドラ○もんよろしく、インベントリの中をひっくり返し、何とか逆転の手立てはないものかと焦り散らかしている中、再び砂の丘が突進を開始した。

 迫りくるその丘は死の宣告であり、私の冷汗はいよい止まらなくなる。



 なんか、なんかないか!!ドリー先輩からなんかもらってないっけ!?カリーナからお金だけじゃなく何か送ってもらったりだとか、ナナさんから何か貰ってたりだと…か…って、それだぁ!!!


 ってってれー!ナナ爆弾~!!

 こいつでも食らえ!!!両性類!!へっ!手間かけさせやがって!おめぇさんの命もここまで、めちゃくちゃやってくれた落とし前をこれで、って、どうやって点火すんのこれぇ!!!!



 打開策が見つかったと思えば、その先には初歩的なミスが待っていた。まさかの説明書未読である。最近は説明書が紙媒体じゃなく、電子だから仕方ないね☆

 じゃ、ねぇえよ!!どうすんのこれ!!!!って、あっつ!!勝手に点いたぁぁ!!!あっつう!!なんで爆弾まであっつくなってんのさ!って言ってる場合じゃない!!!設置ーーー!!!設置ーーーーーー!!!!アンド退散ーーーーーーー!!!!



既に隆起しかけている足元に爆弾を設置しギリギリのタイミングを見計らう。そして…



「にげるんだよぉ!!!!!」


「グギャアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」




 バクン!!









 ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!



「うぎゃあああああああ!!どんな威力に設定してんだあのサイコパ、うぐっゃ!!」


 爆発死散。

 そんな表現が似合うほどに、サンショウウオは跡形もなく消し去られた。現場に残されたのは仄かに光るポリゴンと壁にたたきつけられた哀れな猫。

 びたーんと壁に貼りつけられたその猫の姿は奇しくも両生類の代表格、カエルそのものだった…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました!!!! ようやっと続きが読める!
[一言] 芸術は爆発だよね
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