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34,荒野の塔 13

「っっっ~――――!!!!」



 とんでもない威圧感を放っていた殿下から何とか逃れた私はほのかに灯りの見える一本道に飛ばされていた。



「はぁ、はぁ、何なんだあの人…私ちゃんと陰になってたよね?」



 先輩にかけてもらった魔法のおかげで私の体は影となり、きちんと身を潜めて入れたはず。もちろん、兵隊さんや陛下の従者には気付かなかったからきちんと隠れることはできていたんだろうけど…


 先輩の魔法が殿下には効かなかったってことだよね…でも、先輩は殿下にあったことありそうな感じだったし、それならなんで効きめのない魔法を…?それに、体が動かなくなったのも気になる、あれも殿下が何かをしていたってことだよね。だとしたらどんなスキルなんだろう、私がこれから暗殺者としてやっていくためにああいう足止め系のスキルは厄介の極みだ。またナナさんにも聞いてみよう。


 ひとまず、殿下案件は置いておくとして。次はこのダンジョンだ。



「ボス部屋…」



 殿下一行とのあれこれで急いで入ってきてしまったがここはおそらくボス部屋。このダンジョンの主であり最も強い存在が鎮座する場所…



 そもそも私はミノタウロス一匹倒すのがやっとなわけで…



 ずーっとダンジョンボスを倒す!と息巻いていたが、私がこの階層まで降りてこられたのはすべてドリー先輩のおかげだ。ばったんばったん敵をなぎ倒し、陰になる魔法をかけてくれたりして私をここまで導いてくれたのだ。故にここに一人でいる私はこのボスにほぼ100%勝てない。ミノタウロスの一撃で昇天させられる私がそのミノタウロスの主に勝てるわけがない。先ほどのいざこざで「本気」スキルを一度も使っていないため、今日の私は戦闘力を温存している。しかしながら、その「本気」を使ってミノタウロス一匹なのだ。無茶にもほどがある。



 しかし!ゲーマーとして挑まないのはナンセンス!



 そうなのだ!負けるとか勝つとか正直どうでもいいのだ。挑むことに意義があるのだ!

 だってさ、まだダンジョンボスを発見したプレイヤー他にいないと思うよ?そんなダンジョンにボスに挑まないのは私には我慢ならない!

 掲示板にダンジョンの記載があった時点でこの場所か、別のどこかでダンジョンが発見されたことは確かだ。しかし、ダンジョンボスについての記載はまだなかった。口外していないだけかもしれないが、せっかくボスにたどり着いたのだ、一番乗りを信じてボス討伐をやってやろう!


 まぁ、ドリー先輩が若干ダンジョンのことを気にしてたのは気になるけど、今先輩はここにいないんだししょうがない。私はダンジョンボスに挑むぞ!



 ほんのりと明るい通路を進んで行くと、まるで闘技場を思わせるかのような広い広間に。

 広さで言うとダンジョンの休憩地点ほどだろうか。人がテントを張って祭りでも開けてしまいそうな広さだ。

 岩肌が露出した壁で囲まれたボス部屋にはまだその主が姿を現しておらず、私の緊張感も自然と高まる。

 ボス部屋のフィールドは一面が砂。これでは荒野のダンジョンというより砂漠のダンジョンだがそんな人間の都合をダンジョンは考えたりしないだろう。


 フィールドの砂を踏みしめ、戦闘中に足をとられぬよう気を付けようと考えていると、余震のような振動があたりに響いた。



 ボス…?



 体勢を低くし、武器であるブッチャーをぎゅっと握りしめる。

 大丈夫…こっちは死に戻り上等…ここで倒す必要は全くないんだから…


 振動は徐々に大きくなり、VR機器がその感覚をリアルに伝える。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 大きくなった振動は騒音を奏で、フィールドの中心が盛り上がる。

 まだ砂地に足を踏み入れたばかりのところで止まっていた私はその何かが飛び出してくるであろう場所を注視した。



「グシュゥゥゥゥルルルルルルゥ………」



「…ミノタウロス関係ないんかい!!!」



 飛び出してきたのは砂漠に似つかぬ滑らかな巨体。

 平べったい頭に小さな瞳、体長の30%は占めるであろう平べったい尻尾と前後で数の違う指。体を地に這わせて四本足で移動するこのモンスターは、現世界のサンショウウオに酷似していた。


 現実のサンショウウオと違う点は二つ。

 一つはその体躯。もう、とにかく大きい。全長ゆうに40~50メートル。平べったいとはいえ、体高は3メートルほどはあるだろう。完全に化け物だ。ゲームじゃなかったら見つけただけで卒倒している。

 二つ目は指。私の記憶が正しければサンショウウオに爪などなかったはずだ。かなり鋭利そうに見える爪は一撃で私を切り裂くことなど容易そうに見える。というか、爪以前にあの巨体で来られたら私は確実に墜ちる、全攻撃、全回避は必須だろう。



「どうすんのこれ…」



 ミノタウロスのような人型を想定していた私にとって突然の大怪獣バトルは想定外のさらに外。何とか首に致命傷を、と考えていた作戦も今のところパーだ。あの体だと私のブッチャーを完全に突き刺すでもしなければ傷にはならない。

 さらに言えば、そもそもあの体に刃物が通るのか。見たところ肌はつるりとしていて、斬撃系に耐性はなさそうだが、実際どうなのかは試してみなきゃわからない。ひとまずは攻撃をよけまくって敵のパターンを割り出す。そんでもって、余裕が出てきたら攻撃してみる。こんな感じでいこう。



 ギョロ!



 サンショウウオの丸い目がこちらを捉える。

 私を認識したのか、ダンジョンのボスとして役目を果たすつもりなのだろう。体をこちらに向け突進の構えをとる。



 まずは「本気」も「集中」も使わない!素の力で回避を試みてそれから考える!



 武器を構え、心の準備も完了したところで、敵も完全に臨戦態勢に入ったのか、四本の足をドタバタと動かし、砂を巻き上げながらこちらめがけて突っ込んでくる。


 私はそれを横に飛んで回避する。


 突進のスピードはさほどでもなく、素早さ特化である私には普通に避けられる範疇だ。しかし、その体のでかさによってこちらも身を投げ出す形でしか回避が取れない。


 砂を体にまとわりつかせ、転がりながら起き上がった私は通りすぎていったサンショウウオの方を見る。


 一度の突進から、振り返るまでは………それなりにかかってる…。歩くのが苦手なのかな?さっきも泳いで(?)砂から飛び出してきたもんね。もしかしたら残HPによって行動パターンが変わるタイプなのかも、砂の中にもぐりだしたら注意しよう。


 私が今後の戦闘を思案している間に、サンショウウオは体勢を整え、再び突進。

 私ももう一度回避し、その後それを数度繰り返した。


 ボスの行動に特に変化が見られないため、今度は、突進終わりに追撃を敢行。

 迫りくる巨体を避け、転がらずにそのまま敵に向かって走りこんだ。



「ジャイアントキリング」「バックスタブ」「投擲」発動!!くらえ!!!



 先日、鍛冶屋で防具を買った際、ついでに購入しておいた「初心者用投げナイフ」を投げつける。

 カリーナから送られてきた礼金は150000G。防具代を差し引いてできた12000Gの3分の1を私は投擲武器に費やした。これが課金の力だ!!くらえ!!



 突進を避けられ、よたよたと体勢を向き直していたサンショウウオの背中に私のナイフが深く突き刺さる。



「‥‥‥‥‥グシャァァァァァ!!!!」


「全然効いてないじゃん!!!」



 サンショウウオに突き刺さったナイフはダメージを負わせるには値しなかったらしい。切っ先がブッチャーより短いからそんな気はしてたけども!

「ジャイアントキリング」と「バックスタブ」が発動していてこれか…。「集中」や「本気」は3分の制限があるため、出し惜しみしてきたけどなにふり構っていられないかもしれない。…って、あぶない!!



 先ほどより、速度が上がったボスの突進をすんでのところで躱す。



「グラァァァァゥ!!!」


 

 こ、攻撃したら怒って速度が上がるの!?いや、そりゃ背中にナイフ刺されて平静を保ってたらそれはそれでおかしいけど、まだ一回しか攻撃してないじゃん!そっちは何回も突進してるのに!


 避けられたボスはそのことにもご立腹なのか怒りながら体勢を立て直す。私は、そんな荒くなったボスの攻撃を警戒してさらに距離をとる。

 投げナイフが効かなかったから、今度は近接でって考えてたけどこれは無理そうだね…。流石にミノタウロス相手に素で戦えなかった私がボスに出し惜しみできるわけないってことか…腹くくるしかないみたい。


 ダメで元々。今回負けても、またレベルを上げてから来ればいい。殿下や兵隊さんが通してくれるかはわかんないけど、それもレベル上げで何とかしてやる!いや、無理だと思うけど!



「グギャァァァオォォォォゥゥウ!!」



 いまだに先ほどの攻撃にお怒りのサンショウウオはこちらに向かって咆哮し、頭と尻尾を無意味に振り回す。元のモデルがサンショウウオのこともありその行動は若干可愛らしく見えてしまう。


 だが、そなたはモンスター!!いくらツンデレキャラのプンプン怒りみたいなことをしても私はあなたを狩る!!

 短気は損気!!自らの行いを顧みず傍若無人を繰り返すあなたは、この正義の暗殺者が成敗してくれる!!



「集中」「本気」発動!!



 私のステータスが著しい上昇を見せ、全力の3分が始まる。



「おい、両生類さんよ。ウル○ラマンって知ってるか?」



 激昂する敵に相対し、両の手を膝に乗せ、低い体勢でにらみつける。

 お相手もこちらの雰囲気が変わったことに気づいたのか、平たい体をより低くし、唸り声を上げながら私とにらみ合う。


 モンスターと私、相いれない存在だが思っていることは同じようだ。



 こいつをぶっ潰す



 現実世界では味わえないひりひり感が私の脳を刺激する。

 おいおいおい、楽しくなってきたじゃん!!!



 完全にハイってやつである。そしてそんな時こそ人間は調子に乗ってしまうものである。



「三分だ……」


「グリュゥゥ…」


「三分でお前を倒す。」



 モンスターと私しかいないこのボス部屋。何を言っても恥ずかしくはないのだ!!

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[一言] お久しぶりです! 更新ありがとうございます!
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