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30,荒野の塔 9

「ブモォォォォ!!」


 ミノタウロスがなかなか距離を詰めさせてくれない先輩にしびれを切らし、突進していく。

 地響きを立てながら突進してくるミノタウロスを、先輩は焦ることなく見据え魔法を行使する。


 一発、また一発と魔法はミノタウロスに吸い込まれるようにして当たる。



「ブモォォ…」


 数発の魔法を受け、力尽きたミノタウロスが倒れこむ。

 やはり先輩はすごい。こんなに簡単にミノタウロスを討伐できてしまうんだから。


 私は先輩の足元から今回の戦闘を見ていて先輩の強さを再確認する。



「どうだったー?全然気づかれてなかったでしょー」


「はい、チラリとも見られませんでした!」



 今私は先輩の魔法によって「影」になっている。

 魔法名は「シャドウ」周囲の影に潜むことのできる魔法だ。習得方法も聞いてみたが教えてくれなかった、基本の魔法からでは習得できないということだろうか。


「シャドウ」は影に潜むことのできる魔法だが一度潜んだ影から移動することはできないし、影の中から攻撃することはできない。影の中を自由に動くことのできる魔法も存在するようだが他者にかけることはできないようだ。

 よって私は今先輩とともに動く影となって移動している。



「先輩はMPのほう、大丈夫ですか?」


「問題なーい」



 私の影に潜んでいる状態は先輩のMPが残っている限りは強制解除されることはない。

 先輩にとっては微々たるものかもしれないが私のわがままのためにこうして体?を張ってくれるのは本当にありがたい。



「そっちも問題なさそうだねー。じゃあー、このまま最下層に向かうけどー、行き方は大丈夫ー?」


「はい、ギルドでもらった情報はきちんと記録してあります!」



 ゲームの機能としてだけどね。

 影の中から元気よく声を上げる。



「わかったー、それじゃあとっとといこー」




 ……



 先輩一人に戦闘を任せておけばダンジョン攻略は簡単だった。

 ミノタウロスを利用しないとクリアできない仕掛けであっても、先輩は魔法でミノタウロスを吹き飛ばすことによって解決していた。

 結構な轟音と被害を出してはいるものの他の冒険者と会うことすらなかった。これも先輩の魔法だろうか。

 かなり広い範囲を索敵できるはずの私の「嗅覚」「聴覚」でも確認することができなかった。



「よーし、ついたみたいだねー…」



 そんなこんなで、私たちはダンジョンの最下層にたどり着いた。

 最下層は中層の広間よりも二回りほど小さく、ボスがいるであろう門の前には武装した兵士らしき集団と明らかに質の良さそうな装備に身を包んだ若そうな獣人の男が立っていた。



「貴様らと祖国が戦争になろうがどうでもいいと言ってるだろう、さっさとそこを退けろ。」


「で、殿下、そうはいいましても戦争になりましたら民にも被害が及びます。現在、上層部で獣王国と連絡をとり、その文も折り返し届けられている最中にございます。何卒文が届くまでは…」


「我らが民は戦いを恐れたりはしない。わかったらそこをどけ、もう二日も待たされている。私の気が長いと勘違いしていられるのも今のうちだぞ?」


「な、なにとぞぉ……!!」



 ライオンなのだろうか、猛々しい鬣をたなびかせ殿下と呼ばれる獣人がそう言うと、兵士の一人はついに頭を地面にこすりつけて懇願しだした。



「なんかー、もめてるみたいだねー」



 そんな兵士さんと獣人殿下?の会話を眺めていると先輩が興味なさそうにつぶやく。



「そうですね…あの門の中に入れない、みたいなこと言ってますけど、それがほんとだったら私も困りますね…」



 私の目的は一応ダンジョンボスだ。どう考えてもあの奥にボスがいるのでそこを封鎖されているとなると非常に困ったことになる。



「門ー?あぁ、あのでかいのー………んー??」



 先輩が今更気づいたのか、門をじっと見つめて動きを止めてしまった。

 先輩?と呼びかけてみてもぶつぶつと独り言をつぶやきながらなんの反応も示さない。


 これ私がひとりで事情を聞きにいくパターン?なんか国やら殿下とか言ってるし嫌なんだけどな…急にどうしちゃったの先輩。


 仕方がないので一人で兵士さんたちのもとに行くことに。

 兵士さんは獣人殿下の方に忙しくしているのか私が近づいて行っても気が付かなかったようで、むしろ獣人殿下の方がこちらに気づいた。

 遠目から見てもわかったが殿下の体は非常に大きく、私なんぞがぶつかったら吹き飛ばされそうなほどに鍛え上げられていた。



「見ろ、貴様らが私にとやかく言っている間にまた一人勇敢なものが現れたぞ?」



 獣人さんが大きく腕を広げて私の方を指し示す。

 獣人さんは私を全く見ていないはずなのに正確に指さして見せた。



「あ、こ、これは、んゔん、冒険者の者だな。よくぞたどり着いた、ここがダンジョンの最奥だ。あそこに立っているものは連れか?そうか、ではこれが褒美だ。二人で分け合うといい。」



 兵士さんはそう言って、ずしりと重そうな小袋を私にくれた。


 奥地?この先にはやっぱり行かせたくないってことな?うーん、お金は先輩も欲しがってたしありがたいことはありがたいんだけど、私は奥に行きたいしなー



「褒美?これが褒美か人間?金銭を渡し義務は果たしたと言わんばかりにひた隠しにしているその門を開かないのが褒美か?笑わせる!このものは冒険者だろう?だったら気のすむまで冒険させてやるというのが一番の褒美ではないのか?」


「で、殿下…」



 ひとまず先輩と相談してから決めようと思い小袋を受け取ったところに獣人殿下が口を挟んでくる。

 この様子だと殿下も門の中に入りたいようだ、うまくこの人が兵士さんを説得してくれるとありがたいんだけど…



「おまえもそうは思わんか?…ん?」



 すると、殿下がまさかのこちらに話題を振ってきた。

 突然のお声がけに一瞬反応が遅れると、初めてを私の顔を見た殿下がニヤリと笑った。



「フハハ!冒険者とは我らが同胞だったか!もしや、お前が王国からの使者か?存外早かったなぁ、さぁ父上の返事を聞かせてくれ!」


「なにぃ!!は、早すぎる!報告ではまだ……き、貴殿は本当に獣王国からやってきた使者だというのか?」



 成人男性二人に迫られてその圧力で倒れそうになる。

 迫られるんだったらもっと別の迫られ方をしたかったよ!!



「い、いえ…私は一介の冒険者にございます……」



 嘘をついたら国家犯罪者として通常のゲームプレイに支障をきたしそうだったので正直に答える。

 すると殿下は「知ってた」という落胆を隠さない顔をし、兵士さんは安堵にうなだれるというそれぞれの反応を見せた。

 なにその狙った女がそこまでタイプじゃなかったみたいな反応…運営に報告したら君たちの存在がどうなうかわかっているのか!!いや、被害妄想なんですけどね。



「そうか。だが、この門のうちに入りたいという思いはあるのではないか?お前も我らが王国民!気高き意思と共にこの腰抜けどもを食い散らかしてやろうじゃないか!!」



 ちょっ!殿下?!私のことを巻き込まないでください!兵士さんも怖い顔でこっち見ないで!私もこの中に入りたいのはやまやまあですけど国の問題に巻き込まないで!!!



「いえいえいえいえ!!わたくしめは獣王国?の出身ではなく渡り人ゆえ…殿下のご希望には添えられません!」



 私がそう言って頭を下げたが殿下は「渡り人」という部分に興味を持ってしまった。



「ほぉ…お前は渡り人だったか。我らが祖国には渡り人を見たというものがおらぬ、私自身も初めての経験だ。神に導かれこの地に舞い降りた存在によもやダンジョンで遭遇できるとは。それも獣人の者に…フハハハハ!なかなか興味深い…!」



 門の奥の話はどこえやら。そこからは殿下による質問攻めが始まってしまった。

 やれ渡り人どこからやってくるのか、やれこの世界の秘密を知っているのか、やれ神にあったことがあるのか、やれ獣人はどれぐらいいるのかと私がわからないことまで聞かれて大変だった。


 この殿下は他人の事情というものをもう少し…あとそこの兵士ども!私が時間を稼いでくれそうだからって喜んでるんじゃない!どっちにしろ私だって君たちが邪魔だと思ってるんだからな!言ってないけど!



「セシルー、どうしたのー?そろそろ帰ろー」



「せ、先輩……!」



 殿下の猛攻に私が困っていると復活したのか、先輩が助けに来てくれた。偽名で呼んでくれるあたりさすがの配慮だ。

 その光景を見て兵士さんたちは絶望の表情を浮かべている。すまんな!連れがいるもんで!!



「ん?連れがいたのか。私が気が付かないとは、それほどまでにこのわからずや達に苛立っていたという…こ……と………」



 兵士隊をにらみつけ、私を助けに来てくれた先輩を視認した殿下の動きはなぜかぴたりと止まった。

 一瞬の静寂。この場にいる誰もが空気が変わったと肌で感じた。



「ほぉ…門の中には入れずともなかなか刺激的な日じゃないか…久しいなスカアハ、私を殺しにでも来たか。」



 殿下は傍から見てもヤル気ビンビンの獰猛な笑みを浮かべ先輩を見つめる。

 その覇気はすさまじいもので、先ほどまでのやり取りが全くの戯れに過ぎなかったと理解させられるものだった。



「すみませんー、どなたかと勘違いなされているのではー?」



 しかし、先輩はそんな殿下のプレッシャーもなんのその、いつも通りの間延びした口調でひらひらと対応する。


 そんな様子を見て、殿下も先輩にやる気がないとわかったのかその覇気を抑える。



「フフフ…まぁ、そういうことにしておいてやる。」



 殿下はそう言うと薄く笑みを浮かべながら私たちに背を向けてしまった。


 もう私たちに興味はないということだろうか。少なくとも先輩はそう判断したようで私と先輩はなんだか機嫌がよさそうな殿下から離れダンジョンを後にする。



 結局なんでもめてたんだ??



 騒動の原因を何も知らないままに……


次回の投稿は金曜日です。

それがなかったら土曜日になります。しかし、その後は月曜日で変わりありません。


34部 金or土

35部 月


でよろしくお願いします。

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[一言] 結局放置かい
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