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29、荒野の塔 8

 ドリー先輩とダンジョンに向かっている途中にダンジョンの話をした。

 その中で私が下層の攻略に困っていると言うとドリー先輩が一緒にダンジョンに潜ると言ってくれた。

 正直、先輩に利点がなく申し訳ないし、報酬でも要求されたら何を求められるか怖かったので断ったのだが、自分の仕事を手伝ってくれればいいということなので、ついてきてもらうことになった。

 めんどくさいことは極力したくないと言っていたが私の世話をすることはめんどうのうちに入らないのだろうか。なんにせよありがたい限りだ。



「シャルロッテはー、下層に降りるのは初めてなのー?」



 下層に降りる門の順番待ちをしている最中にドリー先輩が話しかけてくる。



「はい、下層の情報を仕入れた時点でちょっと進める気がしなくて…。ドリーさんは下層に入って長いんですよね?私でも行けそうですか?」


「どうだろー、シャルロッテがどの程度できるのかとかー、私実際にみたわけでもないしー。ここじゃあそんな話もできないしねー。」



 ドリー先輩がテント内の人を見まわす。

 現在時刻はお昼少し前。ピーク時よりはましだが十分賑わいを見せている。

 こんなところで自分の手の内をさらけ出すにはいかないだろう。まぁ、先輩なら「ギルドメンバーにも手の内は明かすな。」っていう意味で言ってそうだけど。


 だんだんと列がはけてきて、私たちの順番が回ってきた。

 門の前で説明を行っていた強面のギルド員からダンジョンに初めてはいる時と似たような説明を受け、その後、私は初めて下層に足を踏み入れることとなった。



「なんだか、雰囲気が変わってますね…」

 


 下層に来ると、私は今まで感じたことのない雰囲気を不気味に感じる。

 ダンジョンの中には上層、中層と変わりのない光るキノコが生えていたがその光り方が「淡い青」から「淡い赤」に変わっていた。

 視覚の変化だけではない、同じ階層に自分よりも強いモンスターがいるとわかっているからだろうか、肌に感じる温度すら低く感じた。



「そおー?時期になれると思うよー。」



 先輩はどこから呼び出したのかいつものカラスをなでながらあっけらかんという。



「ドリーさん…最初は飛んできてたんで使い魔か何かだと思ってたんですけど、その子召喚獣か何かですか?そんなスッと洞窟内に現れるものじゃ無いと思うんですけど。」



 ずっと気になっていたが質問する機会が無かったため聞けていなかったことを聞いてみる。


 サバ分けがされていないダンジョンの入ってすぐの地点でこんな手の内に関わることを聞いていいものなのかと思われるかもしれないが、下層は門に入った時点でランダムに転移する仕組みになっている。転移する場所は18か所と決まっており、ある程度時間がたったタイミングで門の前に立ってた職員さんが冒険者を入門させる手はずとなっているためしばらくは二人だけで話すことができる。下層をどうやって攻略するか最終確認をしたい冒険者への配慮でできたこの仕組みは冒険者に大変好評なためギルドがダンジョンの門を管理していても苦情が出ることはないらしい。



「この子は一応使い魔だよー。特別な契約をしてるからここに呼び出せるけどー。」



 特別な契約!なんかそそられるワードが出てきましたよ!



「あのー、それって私もできたりするんですかね?」


「うーん、今はシャルロッテから才能を感じないから無理だと思うよー。」



 私の期待を込めたまなざしはバッサリと切り捨てられてしまった。


 でました才能!生まれ持った不平等!ゲームの中に現実世界の理不尽を持ち込まないでください!トラウマ持っている人もいるんですよ!私はないけど!


 とは言えそこはゲーム、先輩が「今は」と言っていることからも、条件を満たせば先輩のように特別なスキルを手に入れることができるらしい。現実でできないことをゲームで誰にでもできるようにしてくれる、やっぱ運営って神っすわー。



「シャルロッテはどうやって戦うのー。見たところ獲物がそれしかないけどー。」



 先輩が私のブッチャーを指さして聞いてくる。



「いや、私は基本的にこれだけで戦ってます。ナイフとかも投げてみたいんですけど手持ちがなくて…」


「へー、そうなんだー。てっきり魔法も使えるんだと思ってたー。

 それ、ミノタウロスから奪ったやつでしょー?一人きりで戦ったって言ってたしー、聞いてたほど戦闘ができないわけじゃないんだねー。ほらー、下層をためらってたみたいだしー。」


「あ、いや、まぁ…どうなんでしょう…」



 私の歯切れの悪い物言いに先輩は不思議そうな顔をしていたがそれ以上追及することはなかった。


 その後、ある程度準備が整った私たちはまずは先輩の依頼を片付けようとミノタウロス狩りに向かった。




 ……




「シャルロッテってさー」



 先輩が今日何匹目かのミノタウロスを倒し私に声をかけてくる。



「はい…」



 先輩の戦闘力はすさまじく、正直私の手伝いなんて一切必要のないレベルだった。

 しかし、いや、だからこそ…



「結構弱いんだねー」


「うぅっ!!」



 こうして本来の実力が浮き彫りになったのだ!!

 そう!先輩は自分自身に助けがいらないことがわかっているため、私に残りのミノタウロスを引き付けておかせようとしたのだ!それも1匹じゃない!2,3匹だ!


 私がいけないんだ!初めの1、2戦でいいとこ見せようと「集中」使ったかったのがいけなかったんだ…その1、2戦は何とか引き付けることができたけど3戦目はダメだった!!時間切れでミノタウロスから必死に逃げている私を見た時の先輩の「ギョッ」とした顔といったら…。本当に申し訳ない…



「最初の内はよかったのにねー、なんかあったー?体調悪いとかー?」



 先輩が私の頭をポンポンと軽く叩きながら言う。

 いや、違うんすよ。体調とかそういうのじゃなくて、なんていうか…仕様?仕様のせいにしていいですか?


 無力感感じる私と相対して先輩の戦いはすごかった。ぴかぴかどっかーんって感じ。ほんとにこんな風だった。


 私を腹パン一撃で落とすことのできる先輩の職業は魔法使い。カラスを使い魔としていることから普通の魔法使いではないんだろうけどミノタウロス戦では特殊なことをせず、四人組のフユみたいに魔法を撃って戦っていた。

 しかし、それでも先輩は十分強かった。魔法に2、3発でミノタウロス一匹分だ。もう私が引き付ける必要もないんじゃないかってぐらい。この人が本気で狩りに来ればこのダンジョンのミノタウロスは確実に一日で死滅する。



「あんまり自分の手の内に関わることは言ってほしくないんだけどさー。最初の方のシャルロッテはどっちなのー?通常ー?それとも強化ー?」



 先輩の問いかけに同調するように、いつの間にか両肩に乗っていたカラスが交互に翼を広げる。



「強化です…」


「そっかー、シャルロッテがどんな能力を持っているのかはわからないけどすごいねー。格上を一時的とはいえ同時に相手できるようになるんだからー。一撃必殺にはもってこいだねー。」



 先輩がいつも通りのテンションで私を慰める。あぁ、惨めよい…



「私最終的にはさっきの能力を使わずにここを抜けて最下層に行きたいんですけどどうにかできませんかね…?」


「それって渡り人の殺し合いの前にー?」


「できることなら」


「うーん」



 私の言葉に先輩も悩むように考え込む。

 私の想像通りならこのダンジョンにはラスボスがいる。ギルドでは説明されなかったがきっといるはずだ、中ボスがいてボスがいない可能性はないでしょう。

 だからこそ、ボスまでは「集中」を残しておきたい。しかし、それではこの階層の突破など難題中の難題だ。



「じゃー、シャルロッテが絶対に戦わないようにしよー」



しかし、先輩には何か考えがあるようだ。



「えっ?ドリー先輩が一人で戦うってことですか?そこまでしてもらうのは…」


「大丈夫ー、シャルロッテ一人でも行けるようにするからー」



 先輩はにこりと笑い、私に魔法をかけはじめるのだった。

次回の投稿は火曜日です。

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