28,荒野の塔 7
誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきました。
「…おはようございます………」
気絶の状態異常から回復した私は窓際でカラスと戯れる先輩?に恐る恐る声をかけた。
気絶によるプレイヤーへのマイナス効果はすさまじかった。一定時間行動不可とかやばすぎる。
気絶中にすることもなかったので掲示板を調べてみたところ他にも経験者がいたが私と表示された待機時間が違ったため、ダメージやダメージを受けた原因によってそのあたりが変わるのだろう。
「あー、おきたぁー。ダメだよー、あんまり無警戒だとー」
カラスと戯れるのをやめた先輩がこちらに指さしながら言ってくる。
「アハハ…すみません…」
だからって腹パンはないと思う。
「…ちゃんと反省してるのー?」
先輩が可愛い顔でこちらをじろりとにらんでくる。
お腹のあたりに少しひやりとした感覚を感じる。
このまま説教ムードになることを恐れた私は、ダンジョンの攻略にも行けなくなってしまうので話を逸らす。
「あ、あの!ギルドの先輩…でいいんですよね?まだ名前とか聞いてないんで教えていただきたいんですけど…」
私がそういうと先輩は少し納得いっていなさそうな顔をしたものの、これ以上言っても仕方がないと思ったのかこちらの話に乗ってくれた。
「私はドリー、あなたと同じあのギルドのメンバーだよー。いきなり殴ったりしてごめんねー、さっきあなたが言ってた名前は聞かなかったことにするからー。よろしくーシャルロッテー。」
『チョコ』のことを言っているんだろう。ナナさんも知らない名前だからそうしてくれるとありがたい。そのうちわかることだとは思うんだけどね。
「お気遣いありがとうございます。こちらこそよろしくお願いしますドリーさん。
それで…なんで私をここに?」
気になっていたことを投げかける。
なんで私がギルドの一員だって気が付いたんだ?
「ギルドの初心者用の外套ー。あれ、テントの中で持ってたでしょー。あれ見て色々思うところがあったからー声かけただけだよー。」
ああ、あの時見られてたのか、手に持ってただけなんだけどな…ってやばい!また怒られる!!
怒りの鉄槌二発目が飛んでくると思った私は思わず身構える。
が、お咎めはなかった。なんでもわかったのは自分も使ったことがある、かつたまたま目に入ったからだそうだ。
よかった…私のお腹は守られた。でも今度からはもっと気を付けよう、私だってギルドの一員なんだから!けして腹パンが思いのほか怖かったとかではなく…
とはいえ、先輩の鉄槌を貰わないですみ、私は心の中でホッと息を吐く。
「そういえばー、聞いてなかったけどー、シャルロッテはなんでこの国にいるのー?
ナナが勧誘してーしばらく面倒見るって書いてあったけどー?」
ドリーさんも私に聞きたいことがあったのか質問してくる。
というかナナさん自分に仕事が入ったこと書いてないのか…腹パンされたことあるのかな…
「ああ、それはですね―――」
腹パンにおびえるナナさんを思い浮かべながら、私はここに来た経緯を話す。
思えばギルドのことをぼかさず話せるのは初めての経験で、気を使わずに話せることの気楽さを知った。
その相手がNPCだっていうのはなんだか味気ないけど…ないものねだりをしてもしょうがないけどさ。
私が旅のいきさつを話している間ドリー先輩は再びカラスをいじくっていた。
現実のカラスが人になつくかは知らないが少なくともこのカラスはドリーさんに懐いているように感じた。撫でられていて満足げだ。
このカラスをどこから呼んだのかってのも聞けば答えてもらえるのかなー。できることなら触らせてほしい、真っ黒な体がかっこかわいい。
「それじゃあー、シャルロッテはこの国のダンジョンを攻略したいってことー?面倒なことするんだねー。渡り人同士の殺し合いってのもそうだしー。」
あらかた話をし終わると先輩がバトロワのことをえらく物騒にいう。
「殺し合いって、そんなに血なまぐさいものではないですけどね。というか、ドリーさんはダンジョンとか戦いとかあまり好まないんですか?
いや、そんな「え?」みたいな顔されても…。こちらに非があるとはいえ、いきなり殴りかってくるものですから戦いがお好きなものだとばかり…」
先輩がどえらく整った顔で可愛く首をかしげるので思わず気絶しそうになる。先輩の拳が相手しなくとも顔はいつでも臨戦態勢だ。
なんて恐ろしい顔なんだ…破壊力はあの拳に勝るとも劣らない。しかし、この戦いを喜んでいる私もいる…私もまたジャンキーだったか…
「私は基本的にギルドの仕事以外動きたくないんだー、あなたに声をかけたのも仕事の一環だしー。聞いてない?ギルドに害をなしそうなやつに対する対処方法ー。」
くだらないことを考えているとドリーさんがかなり重要そうなことを話していた。
そういうのはまだ聞いてない。それらを教えてもらえるであろうチュートリアル的なクエストをこなしている時にナナさんが所用で出ていっちゃったから致し方あるまい。
「いや、聞いてないです。」
「そうなんだー。じゃあ、簡単に教えとくねー。疑わしい奴がいたらとっちめて情報を吐かせる。以上ー」
私が教わっていないというと先輩は本当にざっくりと教えてくれた。
暗殺って時点でわかってたけどこのギルド物騒すぎやすぎませんかね…というか、そのとっちめるって時に顔見られたらどうするんだ…いや、大体わかりますけど…
「その…疑わしいやつが渡り人だった場合はどうするんですか?私たちは殺しても死にませんよ?」
渡り人用の証拠隠滅方法がわからなかったので聞いてみる。
「まぁー、やりようはあるよー。その辺は皆各自工夫って感じだけどー。というか渡り人じゃなくても殺さないよー、ちょーっとお薬のんでもらうだけだから…」
先輩が黒い微笑を浮かべる。
自白剤あるんか…もしかしたらそれ以上の記憶操作系の何かかもしれない。殺すよりやべぇよぉ…というか渡り人対策もこれでしょ。このゲーム法的に大丈夫か?
私がギルドの情報収集法とゲームシステムに震えているといつの間にかカラスがどこかに消えていたおり、先輩も立ち上がってどこかに行こうとしていた。
「あ、ドリーさん。どこかに行くんですか?」
「もう用は済んだしねー、仕事に戻るよー。」
「仕事ってダンジョンですか?」
私は先輩に肩を組まれたテントを思い浮かべながら聞く。
あんなところで暗殺のお仕事ってできるのか…これも私にはわからない強者のやり方って奴があるのだろう。
「そうだよー、素材収集のお仕事ー」
あら、暗殺の仕事ではなかったようだ。
理由を聞いてみたところ金策だそうだ。どこの世界も世知辛い、ギルドは工面してくれないのか…
「まぁねー、私はカラスの世話とかもあるしー。暗殺の依頼って言っても色々だしねー。殺す時期とかタイミングとか決められてるやつもあるしー。一攫千金ってわけにもいかなかったりするんだー。
っていうことでー私は行くけどー、シャルロッテもダンジョン行くって言うなら一緒に行くー?」
「えっ、いいんですか?」
「私たちは知り合いってことになってるしー別にいいよー」
「じゃあお願いします。」
暗殺者なんだから常に気を使って行動しろとか言われると思ってたらそうでもないのか。それとも私がそんなに器用にできないと思って?なんで知ってるんですか?
どちらにせよいっしょに行けるというならありがたい。ドリーさんがあそこを狩り場にしていたというなら対処法も聞けるかもしれない。
私とドリーさんは一緒にダンジョンに向かうことになった。
次の投稿は土曜日です。




