3,遭遇&勧誘
白い光がようやく消え、目を開けると大きな木の目の前に私は立っていた――――
「鏡ィ!」
が私は顔を写せるものを求めて走り出す。
ちぃ!!「目を開けるとそこは噴水でした♡」
みたいのを想像していたのに!木じゃ私の可愛らしい顔が見えないじゃないか!
人が大勢いる場所だが獲物を求めてすり抜けていく。関係ない。いくら行方を阻まれようとも私の顔面にはかなわない!
ゲーム開始直後からラン&ガンだったので周りの人間(PCかNPCかさえわからない)から驚きの声や静止を求める声が聞こえるが今は気にしない。あ、鏡持ってきてくれたら止まりますわよ。
しかし、こんなスタートを切っていたらまともにプレイできないかもしれない。チュートリアルとかスキップされてたらまずいよ。ラン&ガンどころか乱&ガーンだよ。
だんだんと正気に戻り少し怖くなってきた私はその辺のNPCを捕まえてあのでかい木のもとに帰ることにした。
えっと~誰か話しかけやすそうな人…この際PCでもいいんだけど…おっ、あそこのヒョロイお兄さんとか優しそうじゃん!NPCだかPCだかわかんないけど声かけてみよ!
「あの、すいません。道に迷ってしまって。」
「おや?道にですか。どちらに向かっておいでで?」
お兄さんは見た目道理優しく対応してくれる、やったね。ありがたいことこの上なし。お金がたまったら何かおごりますぜ!その体に肉を付けてしんぜよう。
「はい、名前はわからないんですけど大きな木のあるところで…」
「ああ、中央広場のことですか。」
「あ、はい。多分そこだと思います。」
「ははっ、中央広場から道に迷うなんてねぇ。君見たとこ渡り人だろう。もしかしてまだ広場のおじさんから説明受けてなかったりする?」
わたりびと?プレイヤーのことを言っているのかな。だとしたらこの人私のことプレイヤーだってわかっているのか。なんで?どうやって?というかやっぱりチュートリアルおじさんいたんだ、あの時の声の中に混じってたのかな?あとで謝って説明をちゃんと聞こう。それにしても、何者なんだこの人。この人もプレイヤーだったりするのかな。
「あの…もしかしてお兄さんも渡り人なんですか?」
「いや、私は渡り人じゃないよ。ただの一般人。君が腰に獲物を携えておきながら中央広場がわからないっていうもんだから。この町じゃ引っ越したての冒険者だってあの木の場所はちゃんと把握してるっていうのに。だから、あのおせっかいやきの説明を聞かなかった渡り人なのかなって。」
おおぅ、なんだかお叱りを受けた気分だ。
腰に獲物か、気が付かなかったな。サバイバルナイフ大の刃物か…多分盗賊用の短剣なんだろうな。説明受けてないからこの短剣をどう調べればいいかもわかんないや。ごめんおっちゃん。
しかも、このお兄さんNPCかよ。察しのいいお兄さんNPCとか掲示板をにぎやかしそうですね。
「すみません。我を忘れて飛び出してしまったもので…」
お兄さんに謝っても何にもならないが、何となく謝罪をしてしまった。
「ははは、まあ渡り人には結構変な人が多いって聞くしね。ああ、君を変な人って言っているわけじゃないよ。ただ面白いことを考えていたんだろうなって。なかなかいい走りっぷりだったよ。」
ラン&ガン見られとりますやん!恥っず!周りの制止も聞かず一目散に飛び出しって行ったの見られてた恥っず!変な人ですよ私!疑いなく!でも、まてよ。私がこのお兄さんを見つけたのは正気を取り戻した後だから走る姿は見られてないはずなんだけど…
「なんで私が君が走っていたことを知っているか気になっているね?」
なんでわかるんですかね…
「はい…」
おいおいおい、私もしかして遭遇しちゃならないNPCとか引いとらんよな。なんか圧を感じるんですけど。
隙を見て逃げ出したい!でも隙なんてわかんない!わかったとしてもたぶんないよ!ごめんねチュートリアルおじさん…生きて帰ったら何時間でもお話聞くよ………死んでも聞くよ…
「ふふっ、まぁそれは君もわかっているとおり見ていたからさ。中央広場からずっとね。」
「中央広場から!?」
「そうだよ、話も聞かずに飛び出していくものだから強盗かそのたぐいかと思って眺めていたらいい走りをしていたものだからこうして話をしているのさ。」
「いや、でも私から話しかけたんですけど……」
「それでも君と話ができることはわかっていたよ。」
な、何なんだ…思いっきりストーカー発言されたけどなんだか清涼感を感じる…多分ほんとに話ができるってわかっていたからなんだろうな。
「…いい走りをしていたってどういうことですか。」
先ほどから気になっていたことを投げかけてみる。いい走りってなんだよ。ドタバタは走っていたら話しかけなかったのかい?
「いい走りっていうのはね、あの広場から抜け出す時、君は誰一人として接触を許さなかったんだよ。服一枚もね。それを見て君に才能を感じたんだ、いい走りだなって。だから話しかけた。」
は、はぁ…まったく身に覚えがないから多分偶然だなぁ…。あそこの広場はサービス開始直後ってのもあって人でごった返していたから今回のはかなり奇跡的なんじゃないかな。というかなんでそんなのがわかるんだ…
「そして話しかけた理由は勧誘がしたかったからなんだ。」
お兄さんが話を続ける。
「ねえ、もしよかったら…」
お兄さんがこちらに目を合わせてくる。細い目に、しゅっと伸びた鼻筋、かなり整った顔だといえよう。思えばきちんと顔を見たのはこれが初めてかもしれない。
失礼なことした――――
「暗殺者ギルドに入らないかい?」
「はい????」