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21,東へ

「―――わかりましたわ。こちらの品に関することは一切他言しないと誓いますわ。」



 カトリーナはそう言って私から魔石と爪を受け取った。


「はい、これで、カトリーナ様が話を漏らさない限り私はカトリーナ様の活動を支援します。金銭的にはできないですし、具体的になにをすればいいのかわからないですけど…」



「えぇ、金銭的なものは求めていませんわ。やってほしい事と言ったってちょっとした手伝いと、私の店の評判を流してくれればそれで…」



 カトリーナも私に金銭的な支援を求めるつもりはないようだ。

 お金持ってたら行商人に同乗させてくれって頼まないもんね…



「それで、どこでこれを?」



 カトリーナは茶髪の縦巻きロールを揺らしながら、私にマザーコボルトの爪を見せる。


 まぁ、そりゃ気になるよねこの爪は。

 カトリーナの差し出したマザーコボルトの爪を見て私はコボルトの件についてどこまで話していいのか考える。


 うーん、マザーコボルトを私が倒した、とまで言っていいものか…。私としてはこの在庫処理ができればいいんだけど。普通にごまかす?いや、あのコボルトを崩壊させた黒装束の話はいずれ商人たちの耳にも絶対に伝わる、下手にごまかして危険視されたら店の評判を捨てて私のことを言いふらすかもしれない。しれないのかなぁ…?

 正直私に難しいことはわからんよ…。何が正解なんだ…倒した人にもらった?いや、倒した人間がプレイヤーだってばれるじゃないか。現場で拾ってきた?うーん割とありなのか?プレイヤーなら睡眠はいらないからあの場所にいても不思議じゃないし…いや、コボルトの事情を知ってればわざわざ偵察隊の出る日に森に行かないか?野次馬根性で…とか?いや、これは私だから駄目だ。私はあの集落の発見者なんだから、集落を見たいなら偵察隊が使うであろう門で出まちして4人組の誰かと偵察を変わるはずだよ…でもこのことをカトリーナは知らないからいける?でももし、あの四人組がカトリーナと出会ってコボルト集落発見の時のことを伝えたら…名前と容姿でばれちゃうなぁ…うーん、わかんないぃぃぃ!!アイテム見せたの失敗だったか!?


 私が頭から湯気が出そうなほど悩んでいると、肩にポンっと手が置かれる。

 驚いて見上げると、カトリーナがしょうがないなぁという顔をしていて。



「わかったわ、何か言えない事情があるなら話さなくてもいいわ。あなたの機嫌を損ねるのはわたくしもごめんですし。ですが、次にこのような機会があるのなら、もうちょっと後先考えて行動してくださいまし、わたくしのパトロンならね。」


 カトリーナの発言に私は驚いたような顔をし、


「…私が危ない人間かもしれないんですよ?」



 相手がいいと言っているのに思わず口を挟んでしまった。

 こういうところを直せって言われてんだろ!!


 しかしそんな私の思いと裏腹に、カトリーナはフッ笑い胸を張る。



「かまいませんわ!あなたが危険な人物だとしても乗りこなして更生させてあげますわ!!」



 そう言うとカトリーナは出会った時のように高笑いをする。

 自身に満ち溢れていて、強気で行動力もあって、でも、優しい。


 なんか、このゲームいろんな意味で美しい女性が多いなぁ…


 私は彼女自身が危ない存在である、という可能性を完全に忘れ、彼女の生きざまをただただカッコいいと感じてしまった。






 そこからは彼女とも打ち解けることができ、他愛もない話やパトロンとして何を求められているのかを聞きながら馬車に揺られた。


 その話の中で彼女の素性を知った。

 彼女は平民と言っても商家の出らしい。それならばなぜ行商を、と思ったら彼女は二人の兄がいるため自分の家を継ぐことができなかったようだ。家は継げずとも、このまま嫁に出るなり店で働くなりするだろうと両親や兄は思っていたようだが、彼女が行商の道に行くと言ったため、そんな危険な事させられるかと大慌てで止めたらしい。それでもといって行商人としての道を歩み始めた彼女の胆力はすさまじいものだろう。

 行商がある程度軌道に乗り始めた今でも、家に顔を見せると囲んで旅立たせないようにしてこようとするためしばらく家に帰るつもりはないだとか。彼女が私にパトロンになって欲しがった理由はこれにもありそうだ。自分の名を轟かすことによって家族を安心させたいのだろう。


 彼女がパトロンとして私に求めてきたのはやはり掲示板への宣伝だった。

 私は出会った時のキャラの濃さや現時点で少なくとも一往復行商をこなしていることから、彼女をNPCだと断定していたが、実際に掲示板だのVRMMOだの言っても理解していなかったのでNPCで間違いないだろう。NPCプレイがしたいプレイヤーのためにプレイヤーとNPCの区別がはっきりとはつかないようになっている仕様はこういう時に不便だ。


 時刻はすでに午後六時、ゲームの世界に四季があるのかはわからないがあたりがだんだんと薄暗くなって来た。

 野営をすることになった時、睡眠を必要としない私が、彼女の代わりに見張りをしていようと思ったのだがどうやら街についたようだ。


 街に近づくにつれ、外壁もより大きく見えてくる。

 外観はハイルとあまり違いがないようだ、セントラン側だからかな?イーストン側はさすがにがっちりとしていそうだ。


 プレイヤーの初期リスポーン地点であるハイルはかなり東寄りにあったようで、セントランの最東端に位置するここの街までたった一日でついてしまった。

 正直この辺りでログアウトしなければ現実世界で睡眠が必要になっていたので助かった。


 ゲーム内時間の加速を考えると、私が一度寝てしまうとこちらで一日近くたってしまう。ので、その旨をカトリーナに告げると彼女も越境の準備があるそうで一日開けるつもりだったようだ。実にタイミングがいい。

 私はカトリーナの宿をとった時点で一度別れ、また明後日に合流することとなった。


 正直一日中移動ばっかりだったけど楽しかった!イーストンまでどれぐらいかかるかわからないけど今度は野営もできるといいな!暇つぶしの方法考えておかなきゃ!



 まだまだ、ゲームをやりたい気持ちが湧き上がってくるが睡眠もとらなければいけない私はログアウトして床に就いた。




 ……




 時刻はゲーム内のAM7時、ハイルから出る時も思ったがこの世界の商人は早起きのようだ。


「よし、それじゃあ私たちも出発するわよ」


 カトリーナはそう言うと前方の馬車に追従するように馬を走らせた。


 今、私たちはイーストンに向かう馬車団の中にいる。

 なぜこのような団が結成されているかというと、それにはセントラン王国とイーストンの間にある荒野が関係している。

 この荒野、広さは馬車で3,4日(おそらくプレイヤーが一日で行ける距離に設定されている。)と何ら不思議な点はないのだが魔物の量がかなり多い。そのため、馬車一台に冒険者一組という一見十分そうな編成で挑んでしまうと簡単に行方不明になってしまうらしい。

 そんな状況を憂い、連合国が考えた交通手段がこの船団だ。お国公認の組織とあってその人気は高く、前日までに申し込んだ馬車や冒険者がこの団に入れるので今ではこの移動方がスタンダードのようだ。カトリーナの言っていた準備とはこれだったんだ。

 現在、団には馬車10数台に、私を抜いた冒険者パーティーが15組、合計した人数は80を超える大所帯だ。さすがに武装したこの人数へ突っ込んでくる魔物はいないらしく、一行は人外の巣窟である荒野を悠々と進んでいる。


 カトリーナが私以外の冒険者を雇わなかったのもこれが理由だろう。

 今回、馬車の護衛の依頼を受けていない冒険者パーティーは5組、彼らはただ単にイーストンに行きたいだけの勢力だ。彼らのような余剰戦力が出ることはいつも通りらしく、カトリーナもそれを知っていて戦力追加をしなかったみたいだ。一度通ったことがあるのかな?また、聞いてみよう。



「チョコ、ちょっと…」



 ちょうどカトリーナのことを考えていると、彼女が御者台の上から私を手招きしてくる。



「なに?」



 敬語は彼女の申し出でやめた。お嬢様プレイは嫌いではないがパトロンになってもらった手前、分別を付けたいようだ。

 私としては、いまさらなれなれしく話すのはこっぱずかしくもあったが、一日も話していれば慣れた。今では名前も呼び捨てにしているぐらいだ。


 そのカトリーナが私のことを呼ぶので近づくと、彼女は声を小さくして私に告げた。



「あなた、この団の中では渡り人ではなく私たちのようにふるまいなさい。あなたが渡り人だってわかったら周りの商人連中が喧しいことになるわ。」


「げぇ、わかった、大人しくしているね。」


「そうしときなさい。」



 そういうとカトリーナはまた前を向いて黙ってしまった。

 うーん、なかなか面倒なことになったね、ゲーム内で何もしないで起きているとか結構複雑なんだけど…まぁ、仕方がないか、カトリーナにも迷惑かけちゃいそうだし。


 面倒ではあるがカトリーナにいらぬ迷惑をかけてもいけないので野営の際は大人しくしていることにする。

 それにしても、この道中はもっと索敵に戦闘にと忙しくなると思っていたのになかなか暇だなぁ。この船団を知らなかったプレイヤーは死に戻りしながら荒野を突っ切っていくのかな?わかんないけど。



「カトリーナ、私も馬車に乗りたいんだけど。」



 ただ歩いているだけなのは暇なのでせめてカトリーナとおしゃべりしていることにした。



「別にいいわよ、他の冒険者の中にも馬車から出てこない人もいるようだし。」



 ラッキー。もう、イーストンにつくまでは暇な旅だなこりゃ。

 私はいそいそと馬車に乗り込みカトリーナとのたわいもないおしゃべりを再開するのだった。



話が全然進まなくてイライラしている皆様。安心してください、私もイライラしています。


次回にはイーストンに到着する予定なので許してください…

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