19,徒然なる旅
街に戻った私は初期装備の状態で、掲示板や運営からのメッセージを確認しながら、今後どうするかを考えていた。
へぇー、新しい街かぁ…ナナさんが帰ってくるのにまだ時間があるし、他の街に向かってみてもいいかなー、バトルロワイヤルはどこにいても参加できるみたいだし。
四人組とフレンドカードを交換したい、っていう気持ちはあるけど、コボルトの時みたいに単独行動をとりたいってなった時になかなか難しくなっちゃいそうなんだよなー…四人にはわるいけど黙って出て行ってしまおう…ごめん…
バトルロワイヤルとかで出会った時、フレンドカードを交換しなくていい言い訳を考えておかなきゃ…うっ罪悪感がすごい…
私はこの場にいないあの四人組に頭を下げながらバトルロワイヤルの詳細を確認する。
へぇー、一つのマップに200人ぐらいプレイヤーが解き放たれて最後の一人になるまで争う、そしてそれを繰り返すのか。初回は一対一の試合はないみたい。というか、このゲーム現時点で5万人いるけど、サバ分けどうするつもりなんだろ?一応、参加は任意だけどどこまで人数が絞られるんだろうなぁ、プレイヤー。
まぁ、ゲームの仕様は運営に任せておくとして。考えなけゃいけないのは、私がこれに参加するかどうかだ。
正直、参加して勝てるとは思わない。もちろん「本気」を使うことができれば勝つことは言わずもがな、優勝することだって目じゃない。でもなぁ………
私は、負け戦になりそうなイベントに参加するかどうか悩む。
いや、これは初公式イベントだよ?参加しとかなきゃ損じゃないか。せっかく、初版に当たったんだし。やれることはやってみよう。意外といいとこまで行けるかもしれないし。
私は運営からのメッセージに参加する旨を返信し、もう一度掲示板の周辺マップが記載されているところを見る。
農業の国に、ダンジョンの国に魔法の国か…帝国は…誰かが行ってからでいいか。なんか人気なさそうだし、特色がわからないと判断しにくいよね…
このなかで私が一番気になるのはダンジョンのある国かな!もちろん新しい魔物を見てみたいっていうのもあるけれど、ボス戦があるならそれも楽しみ。ボス部屋はパーティー単位で入室ー、とかなら私は単独で入れるかもしれない!まだ誰も行ったこと無いみたいだからどんな仕様なのかはわからないけど、「手探り」とかのスキルも成長させられるかもしれないしね、探知系であれだけレベルが低いの気になってたんだよね。農業も魔法もできない私は、ダンジョンの国に行ってみよう!
そうと決まればすぐに出発だ!
朝になったら「暗視」を持っていないであろう四人組も動き出してしまうだろうし…うぅ、ごめんよ……
彼らのことを思い出すだけで罪悪感がたまらなくなってくる私はそそくさとセントラン王国の東に向かうことにした。
……
「嬢ちゃん…その金で乗車は無理だ…すまんがあきらめてくれ…」
私の呆けた顔をしり目に、本日の始発馬車はガタガタと荷台を揺らし進んで行ってしまった。
…所詮この世は金が全てってことですか…上等だコラ!いつか私が貸切ってやる!!
馬車に乗っていた恰幅のいい男たちに浴びせられた嘲笑交じりの視線を思い出しながら、私は大股でハイルの東門から出て行く。
東門をくぐる際、衛兵さんからも憐みの視線を貰ったことを私は忘れない。絶対に忘れんぞ!!
財布の中身が心もとない私はもちろん装備も心もとない。
何せまだ初期装備だ。
ただ唯一潤っているこのインベントリの中身をどこかに吐き出すことができれば私も装備を整えられるというのに…
そんな妄想をここまで幾度しただろうか、コボルトの毛皮は腐るほどあるのでせめて次の街で装備を更新しようと心に決める。
現在朝の5時少し前、この時間では装備屋さんも開いてないし、そもそもハイルの装備屋さんを今使うことは危険が過ぎた。
はぁ、とため息を吐きながら私は馬と馬車の車輪で踏み固められた街道を歩く。
自分で選んだ道とはいえ、こうも独り身が多いと気が滅入る。やっぱり、あの四人と行動を共にすべきだったか…
再びため息をつき、辛気臭い空気のまま私のさみしい一人歩きは続いた。
……
街道沿いに歩き続けてどのくらいたっただろうか、比較的安全な道を通っているためか、魔物の姿は一切見ずにぴょこぴょことその辺を跳んでいるウサギを見る程度だった。今の私では経験値の稼ぎにもならないと思い放置していると、そのまま何も起きることなく村にたどり着いてしまった。
運営さんよぉ…いくらリアリティを求めるったって半日近く歩いてこれはないんじゃないかい?えっ、道すがらこなせる依頼を受けとかなかった私が悪い?勘の良いガキは嫌いだよ…
次に遠出する際はきちんと依頼でも受けておこうと心のメモ帳のさらに片隅に書き込んだ私は、とぼとぼと村に入り、一応あの因縁の馬車がここで休憩をとったのか確認する。
長ったらしく休憩をとって、今もまだここにいるってんだったら私はそのまま歩いてやる…せめて私の無意味なプライドに置いて行かれるがいい…
そんなことを考えていたのだが、先の馬車はここで止まることはなかったようだ。
そしてまさかの吉報が舞い込んできた。夕時になるとここに行商人が停車するというじゃないか!それもその行商人の行き先はイーストンだと言う!
しめた!と思い私は村長らしき人に行商人にどれほど払えば同乗させてもらえるかと、コボルト素材がここで売れるかを聞いた。
村長さんはコボルトの毛皮は使えることが多いから買い取ってくれると言ったものの、行商人がお金を払ったとて同乗させてくれるかはわからないと言っていた。
うーん、コボルトの毛皮はたくさんあるから、同乗に必要なお金の分だけ売っちゃおうと思ってたんだけどお金がわからないかぁ…行商人に直接売るか?
とりあえず、行商人と話をしてみようと考えた私は村長に毛皮を30枚ほど売り、6000Gを手にいれた。
マザーコボルトがいなければ集落近くから動くことが少ないコボルトだからだろうか、毛皮の値段は思いのほか高く、私はほくほく顔で行商人を待った。
……
「―――ほら見て嬢ちゃん、あの人が行商人だよ!」
さすがに夕時まで何もせずに待っていることなどできず、村のおばちゃんと世間話をしていた私は、おばちゃんに言われて行商人さんのほうを見る。
行商人さんはすでに村長と何か取引でもしているのだろうか、その顔は馬車と村長に隠れて見えなかった。
ようし、あの人が行商人さんだな…
私は一つ、腕まくりをするとおばちゃんに礼を言い、行商人さんのほうに歩き始めた。
笑顔で、下から、腰を低く!
何とかしてこの長く変化のなさそうな旅に彩を加えたいと、断固たる思いで行商人さんとの交渉に向かう。
「あのぉーすみません。私ハイルからやって来ました冒険者の者なんですが……」
町内会の集金見たくなってしまったが構わない。とにかくこの行商人を逃がしてなるものかと笑顔で話しかける。もちろん両手は顎下でこすり合わせている。
「―――おぉ冒険者殿。商人様、こちらが先ほどお話しした冒険者殿です。老骨はここでお暇いたしますので、あとは若い女性同士、お二人で。」
村長さんが話をしてくれていたようで、私はスムーズに行商人さんの前に立つことができた。村長さんは去り際のウィンクをしていったが激励だったのだろうか、なぜかとても決まっていた。
って若い女性!?
村長のウィンクなど一瞬で頭から消え去り、腰を低くしていたせいでよく見れていなかった行商人の顔を、おもわず見上げてしまう。
「あら、あなたがわたくしの『行商戦馬ブルジョワジー』に同乗したいって言う貧乏冒険者ね。いいわ!わたくし、貧民には施しを授ける質なの。あなたを無償で乗らせてあげるわ!オーッホッホッホ!!!」
そう言って高笑いするのは、茶髪縦巻きロール(旅服)という濃すぎる行商人だった。




