15,思惑
アキたちとコボルトの集落を発見した翌日、私は久しぶりに単独行動をとることとなった。ゲーム内では二日ぶりとなる。
ナツが掲示板に今回の情報を書き込んだといっていたので昨夜、掲示板を確認してみると、偵察隊が組織されるかもしれないということが分かった。
そのため今日の朝にも掲示板を見てみるとすでに偵察隊の募集はされ定員にも達しているようだった。
しかし、そんなことは私に関係ない。
何を隠そう私はあのコボルトの集落に単身で突っ込むつもりなのだ。
理由は二つある。
一つは、私の見栄によって皆から私の戦闘をほめてもらえなかったこと。
せめて自分で納得のいく戦果を挙げられることができれば慰めになるはずだ。
二つ目は、私の「本気」を知りたかったっから。
ここ最近パーティー単位での行動をしていたため私は「集中」や「本気」のスキルを使用することができなかった。そのため、いくら魔物と正面向かって戦ったといっても、自分の実力をしっかりと把握することができなかった。
自分の力をしっかりと把握しておくことは、前回のリスポーン時に自分に課した目標でもある。それを達成するためにも今回コボルト集落のソロ狩りに踏み切ったのだ。
今となっては、フレンドカードを交換していなかったことがむしろいい方向に働いている。もしも交換していたら今頃私は偵察隊の先導をすることになっていただろう。
けど、私がそれをやらないってことは他のメンバーが先導するってことで…
コボルト集落を攻略するうえで私の正体は極力ばれないようにしなければならない。これは、偵察隊よりも早く戦場に行くことで、もし「本気」スキルがばれてしまったとしてもNPCとして偽装ができるからだ。
それなら外套を着ていけばいいじゃないかと思われるかもしれないが、今回は違う。偵察隊のメンバーに先導役としてあの四人組のうち誰かがついていくことが予想されるからだ。
オッズにはエリアマップや自動マーキング機能が存在しない。地図が欲しいなら作り、同じ場所に行きたいのなら覚えるしかない。
そのため、今回のような場合、発見者が先導役として必要となるのだ。
もしもあの四人に私の姿を見られたら、さすがに外套を装備していても口元や武器でばれるだろう。そのため私は今、武器の新調に向かっている。
現在、私の所持金は2480G。コボルト狩りの報酬としては多すぎると思われるかもしれないが、集落を発見したことで衛兵長より追加でもらえた。
さすがに2000G足らずでよい武器が買えるとは思っていないが、初心者用の武器よりほんの少し上の武器ならば買えるだろう。
フードでは口元を隠すことができないが、口元を隠すすべはもう考えてある。
偵察隊の出立時刻までもう時間があまりない。私は少しばかり急ぎながらNPCの武器屋に向かうのであった。
……………………
「その金で買える武器って言ったらこれぐらいだろうなぁ。」
武器屋についた私はおっちゃんに自分の所持金と要望を伝えそれに見合った武器を見せてほしいと頼んだ。
その結果出てきたのがこの武器だ。
―――――――――――――――
『鉱物のナイフ』
何かしらの鉱物によって作成されたナイフ。
鉄製のナイフに比べると脆く、修理もできない。
金額:1500G
―――――――――――――――
うん…かなりあれなのがでてきたね…。でも初心者用ナイフと違って威力についての言及はないからいいのかな?
というか、何かしらの鉱物って何?絶対武器の作成で出た端材でしょ…
しかし、そんな武器だからなのか、おっちゃんもこれを商品としては並べていなかった。つまりこれは非売品であり、今の私には最適解なのである。なぜなら誰もこの武器を見て初心者防具店で購入したと気づけないからだ。
まぁ、大切だから売らないとかではなく、売ることが恥ずかしいって意味で非売品だけど…
「お前さんがこの金しかねぇっていうもんだから一応見せはしたけどよぉ?あともうちょっと金があればちゃんとした物が買えるんだぜ?」
本当にこのナイフを売りたくないのか、おっちゃんは私に考え直せと言ってくる。
非売品が存在していることもそうだけど、NPCにそれぞれAIが積まれているってやっぱりすごい。皆が自分自身の感情を持って判断して動いているんだから。
それでもおっちゃんには悪いがこのナイフは買わせてもらう。必要不可欠だからね。
いやいや言っているおっちゃんを押しきり私はナイフを購入した。
偵察隊の出発は今日の午後10時。それまでに準備を整え出発しなくては。
……………………
「やっとついた…」
時刻は現在、夜の9時。
もろもろの準備を整えコボルトを避けながら進んでいたら集落にたどり着くまでに随分時間がたってしまった。
武器屋でナイフを買った後、私はそのまま雑貨屋に向かった。
思いのほかナイフが安く手に入り、口元を隠す布を手に入れることができそうだったからだ。
元々は外套を千切って口を隠そうとしてたんだからよっぽどいいよね。
ポーションも買おうと思って魔法具店にも寄ったのだが、こちらは値段が高く買えなかった。
よって現在の私の装備はこうなる。
――――――――――――――――
装備品:『暗殺初心者の外套』『布』
武 器:『鉱物のナイフ』
――――――――――――――――
正直お世辞にも万全の体制とは言えない。それでもこれが今の私の最善だ、このままいくしかない。
外套のフードで耳が折りたたまれているため「聴覚」が使えないが、傍から見たら私はヒューマンに思えるはず。フードの効果と布のおかげでプレイヤーは私の顔を認識することができない。たとえ4人組の一人が来たとしても武器が変わっているため気づくことはないだろう。
偽装行為は十分した、あと必要なのは敵の場所だ。
私はこのコボルトの異常発生にコボルトの上位種が絡んでいると推測している。理由は正直勘としか言えないが、あの男が絡んでいないであろうことと、突然のモンスター倍増が仕様上あり得ないことから割といい線をいっていると思っている。
だからこそ、私はおそらく存在しているであろう親玉の居場所が知りたいのだ。しかし、これは案外簡単に見つけることができる。私の「嗅覚」はここまでの道のりでさらにレベルが上がり現在はLv6だ。スキルレベル4の時点では詳細にかぎ分けられなかった匂いを今はかぎ分けることができる。
そのおかげだろうか、以前数が多すぎることもあってわからなかったがコボルトの中に一体だけ識別ができないものがいた。
おそらくこいつが親玉だろう。こいつを討伐するといっても、戦闘状態になって外套を傷つけられるとまずい。忍び込んで一撃で殺すしかない。要は暗殺の始まりだ。
久々の暗殺に胸が躍る。血が怖くて戦えなかった私だが本来はどちらかといえばハルキよりの人間だ。
夜に溶け込み、一人ターゲットを仕留めに向かう。これほど暗殺に向いたシチュエーションはそうそうないだろう。
無性に興奮してきた私はもう一度ターゲットである推定親玉を確認する。
まってろよぉ!今あんたを屠ってやるぜ!
私はフードをよりいっそう深くかぶり、夜の闇に溶けていった。