13,VSコボルト
誤字報告ありがとうございます。
修正させていただきました。
私たちはコボルトを探して、森の深部に向かった。
斥候役の私が先頭となり、その後ろにハルキ、ナツ、フユ、アキと並ぶ。敵が飛び出してきた時にはハルキが私を守る手はずとなってる。私は紙装甲なので一撃貰うと飛びます、ハルキ、たのんだぞ。
先ほどまで、探せば結構な数を見つけることのできたウサギはほとんど姿を見せなくなった。この辺りがエリアの境目だということだろうか。
私は常に「嗅覚」と「聴覚」を発動させているが、コボルトの情報を把握していないため、花の匂いや鳥の羽音まで拾ってしまい視界がごちゃごちゃだった。前方に何かがいるということは把握できるのでそのまま先頭を進んでいるがあまり役にたっているのかはわからない。
ならば「手探り」で…とも思ったが、レンジャーや狩猟の経験があるわけでもない私にはそもそも動物の足跡がわからない。いくつかそれらしいものを見つけては触ってみるのだが反応は芳しくない。スキルのレベルが低いのか、何か探知の条件があるのか、はたまた足跡ですらないのか、現時点ではわからないことだらけだが、やらないよりはましなのでとにかく触っている。
「手探り」が何度目かの空振りに終わり、再び進み始めようとすると「嗅覚」が茂みの先に何かがいることを教えてくれた。
「茂みの向こうに、何かいる。」
手短に伝えると私のすぐ後ろにいたハルキが反応する。
「また、鹿とか鳥か?」
ウサギと全く出会わなくなると今度は浅瀬で珍しかった鹿とよく遭遇するようになった。そのため、スキルに鹿が反応することはあったのだ。
「違う、これは今まであったやつじゃない。」
しかし、今回は違う。これまで出会った野生の動物たちはスキルが勝手に記憶してくれるため、範囲内に入ると「この情報の主は鹿である」というように教えてくれるのだ。しかし、今回の視界には何の情報も示されていない、そのことが何を示すかといえば…
「ついに来たのか!?」
ハルキが声を潜めながらも嬉しそうに言う。戦いたそうだったもんな。
実際、現時点では謎の存在の正体がコボルトであるかはわからないが、待ちわびていたものに出会えるかもしれないとなるとワクワクしてしまうのもわかる。ハルキ以外の皆も心なしか楽しそうな表情をしているし、もちろん私もワクワクしている。
「それじゃあ、行ってくる。」
「おう、頼んだ。」
「気をつけてね。」
ハルキとアキに声を掛けられ私は謎の存在の正体を確かめに行く。
なぜ、私だけでいくかというと単純に私の足が一番早いからだ。
先行して私が謎の存在に接近し、森に自生していた長めの蔦の両端を私とハルキが持っているので、コボルトだったら二回、それ以外の勝てそうな敵なら四回、やばそうだったら6回蔦を引く手はずとなっている。ハルキはわかったら一回、わからなかったら三回だ。
一番リスポーンのリスクがある役割なのでみんなからは交代制にしようと案が出たが、「私がやる」と押しきった。ここまで一緒にレベリングもしてくれた皆にたいするお礼というのもあるが一番はちゃんと斥候として役に立ちたいからだった。
いいとこ見せるんじゃい!
皆から一人離れた私は茂みをかき分け、スキルの情報を頼りに接近していく。コボルトは顔が犬で体が人間の魔物。正直、匂いで気づかれそうだができる限り慎重に進んでいく。
『スキル「隠密」を取得しました。』
恩返しってやっぱりいいことなんだね。お天道様はちゃんと見ててくれたよ。
スキルを確認している暇はないが、自分の足音が急に消えたので大体スキルの効果は把握できた。つい最近、スキルはきちんと確認しようと誓ったばかりなのにすぐそれを破るのは心苦しいが状況が状況なので仕方ない。お天道様も見逃してください。
お天道様というか運営様がそんなに優しいものなのかはわからないがそれも今考えることではない。
私は色濃くなる視界に緊張を覚えながら対象にさらに近づこうとする。そして、ついに視認可能な距離まで近づけたため私は茂みの中からばれないようにその存在を確認する。
「グルルルルル……」
謎の存在は私たちのお目当ての相手だった。あれが、正真正銘コボルトに違いない。
ドベールマン種の顔立ちに引き締まった細身の体、殺した冒険者の遺品だろうか、かなりぼろぼろの装備を身にまとい、手に剣を携えている。
匂いでこちらの存在に気づいていたのだろう、明らかに私の隠れている方向を威嚇している。
飛び掛かってこなかったのは突然消えた音に違和感を覚えたから?理由はわからないが紙装甲ゆえラッキーだったと思っておこう。
手はず通り、私は持っていた蔦を二回引く。
ハルキから「了解」の意を込めた一度の引っ張りを返され、私は蔦を捨てる。ここまで来たら邪魔になりかねない。また縁があったら使わせてもらおう。
ハルキたちが来るまでにコボルトがこちらに飛び掛かってこないとは限らない。もし襲い掛かってきてもいいように逃げる準備を整える。と言っても気持ちの準備だけだけど。
「グルァァァ!!」
自分を観察するかのようにその場にとどまる匂いにしびれを切らしたのだろうか。コボルトがその剣を振りかざしこちらに突っ込んできた。
私は隠れていた茂みから飛び出すようにしてその一撃を回避する。コボルトの一撃は茂みを切り裂きはしたものの私には届かなかった。
みたところスピードは私が上、避け続けるだけなら何とかなりそうだ。
「またせたなぁ!!」
ハルキが威勢のいい声をあげながらコボルトに切りかかった。私が慎重に進んでいたからか、思っていたほど距離は離れていなかったようだ。
コボルトより私のほうが早いとは言え、コボルトも遅くはない。ハルキの攻撃を飛び退くことで回避する。
「ガァ!!」
しかし、飛び退いた先にナツの矢が放たれる。矢はコボルトの腹に突き刺さり、きちんとダメージを与えたみたいだ。
「ウィンドボール」
ナツに続けてフユも魔法を放つ。しかし、こちらは避けられてしまった。
コボルトは遠距離から攻撃してくる二人を優先して倒そうと思ったのか、フユとナツに向かって走りだした。
「やあ!」
しかし、そうはさせまいとアキが割り込む。
アキの攻撃をコボルトは剣で受け止め、自前の牙でアキを食い殺そうとする。が、横からハルキが突っ込んできたため、再びその場から飛び退く。
飛び退いた先に魔法よりも速く、避けることの難しい矢が放たれることはコボルトもわかっているらしく、ハルキの攻撃を避けた時点でコボルトはナツに剣を構えていた。
ナツは先ほどのリプレイかのように飛び退いたコボルトめがけて矢を放つ。
「ガッ!ガッ!ガッ!」
構えていた剣でそれをはじいたコボルトは嬉しそうに笑う。が―――――――――
「ガッ―――――――――」
背後から忍び寄っていた私に首を刎ねられ絶命する。
コボルトの首がゴトリと落ち、コボルトは青い光となって消えていった。
スキルと称号のおかげだろうか、コボルトは最後まで私に気づくことはできなかった。
うん、暗殺者は集団戦でもやれるね!暗殺者になった者は個人プレイしかできなくなる、なんてことがなくてよかったよ。
「皆やったね!初見ノーダメ討伐だよ!」
私は笑顔で皆に振り返る。
「あ、あぁ、そうだな確かにノーダメだったな…」
「まぁ…そうだね…」
「ノーダメはうれしいけど…チョコはそれどうするつもり?」
「なんかこわい…」
「へ?」
な、なんだ?皆がこちらを向いてちょっと引いてる?
もしかして私が特殊なスキルを持っているのばれた!?暗殺系の行動って何かエフェクト出てるの!?まずい!だとしたら私の秘密が皆にばれちゃう!!
「いや、その血……」
どうやったらごまかせる…暗殺スキルがばれていない以上別の未発見スキルと言って取得情報には黙秘権を………って血?
「あぁ…ど、どうしよう洗えば落ちるかな……」
私は素人のセリフ読みのような調子の声を出してしまう。
そうだった、フィルタを入れていない皆には血が見えてるんだった。今の私はどんな姿なんだ?コボルトの首を刎ねた時にどれだけの血が噴き出たかわからないから自分の汚れ具合も想像ができない。
「いや、血はほっとけば消えてくと思うけどよ…」
「さすがにグロテスクだね…」
「すごかったけど怖い。」
皆がそれぞれ私の現在の外見についてコメントしてくれる。
皆しっかりと引いてくれてるじゃないですかやだー。
血がほっとけば消えていくのは防具の錆とかに関係するのかな。そこまでリアルだとただ面倒なだけだからね。攻撃を受けた時に耐久値が減るぐらいがちょうどいい。
あと、ナツ。サイコパスにグロいといわれる筋合いはない。貴様はもっとおぞましいことを好んでいると勝手に妄想しているのだぞこっちは。
まぁ、いつまでも皆に引かれているのも体裁がつかないしこの辺でネタばらしを―――――
「ほんとよチョコ、それでよく平然としていられるわね、ある意味感心するわ。」
「まぁね。いろいろな事情があって慣れてるんだ。」
バ カ た れ が。
なに「平然としている」「感心するわ」とか言われてうれしくなってるんだ!いくら今まで血が苦手だったからってチョロすぎるだろ!撤回だ!撤回!今ならイタイ子で間に合う!
しかもなんだ事情って!あるのは血が苦手っていう事情だろうが!なぁに「家庭の事情で」みたいな雰囲気だしてんだ!事実がないからただのイタイ子だよ!いくら仕様で肉体的ダメージがなくても、心の傷は消えないんだぞ!!
「そ、そうか…まぁリアルの話はタブーだからな。これからはあんま話題にしないようにするわ…」
おいハルキ。お前が気を使うなより惨めになる。てか、この言い方「マジの事情」でも「イタイ子」でも対応できるようにしてるじゃねぇか!ハルキのくせに小賢しいんだよ!
ハルキのいたたまれない視線に私が憤慨していると周りの皆も同じような表情で私を見つめていた。
あぁ…見栄ってよくない………
私たちの初討伐は、私に二重の意味で「複雑な事情がある子」というイメージを付け幕を閉じた。