10,リスポーンとリスタート
「ただいま………」
私はリスポーン地点である中央広場の大きな木の前にいた。
広場にはサーバーが統合されたのか、いまだにそれなりの人数がいて、中にはパーティーの募集をしているところもあった。
初めてのリスポーンを経験して虚無に襲われていたが、ここでぼーっとしていても仕方がないので、私はとりあえず依頼の納品を済ませてしまうことにした。
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納品場所である夫婦の家にたどり着くまでの道のりでさっきの戦闘のことを考えたが、結局、何にしてもナナさんに聞くのが一番早いので今は何も考えずにゲームを楽しむことにした。
何回も言ってるけどまだ一日目だから!あんなよくわかんないNPCのことで悩むより、絶対ゲームを楽しんだ方が得だ!
「いよっし!」と頬を軽くたたき、物理的にも区切りをつけ、今度はクエストの報酬を貰いに暗殺者ギルドに戻る。
まぁ、暗殺者ギルドにナナさんがいたらまたあの話をしなくちゃいけないんだけど。
区切りをつけたはずなのに、同じことを思い返してしまいため息をつく。
あっ、依頼のほうはきちんと納品することができた。旦那さんも喜んでくれたみたいでよかった。
報酬でもらった鶏肉だが正直使い道が決まっていない。
掲示板でも見れば使い方がわかるかな…ってそうだ掲示板も森から戻ったら見ようと思ってたんだ。あとスキルと称号も。なんだ、私、いっぱいやることあるじゃん、ごめんね、素早いお兄さん。あなたの相手をする余裕は私にはないみたい!
心の中で少しばかり勝った気になる。こういう気持ちの方向転換が大事なんだ。たぶん。
こんどこそ、あの男の案件に区切りをつけ、私は帰路に就いた。
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「ナナさん、ただいま戻りました。」
ナナさんに出発前に教えてもらった道順を逆走し、私は暗殺者ギルドに戻ってきた。
「ってあれ、ナナさんいない?」
しかし、暗殺者ギルドにナナさんの姿は見えず、パッと見た感じ他のメンバーも戻っている様子はなかった。
あの男のこともあり、心細くなってギルド内を探し回ろうとすると机の上に置いてある手紙と布らしきものが目に入った。
「なんだろこれ。」
私は机の手紙を手にとり、差出人を確認する。
手紙には「ナナ」と書かれてあり、どうやらナナさんが私宛に書いたもののようだ。
『ナナ
シャルロッテ、すまないけど急な仕事が入ってしまった。
私はここを出るけれど、そこの装備は君のものだから好きにするといい。有効に使ってくれ。
多分2週間後ぐらいには戻ると思うから、それまでは自分なりに頑張ってくれ。といっても今日加入したばかりの君には荷が重いかもしれないね。渡り人同士の親交を深めておくのもいいと思うよ。
それじゃあ、僕はもう出るよ。お互い頑張ろう。
P.S.
初めての暗殺おめでとう。
動物だけじゃなく、魔物まで殺してくるとはね。やっぱり君をスカウトして正解だったよ。
あの男の件も把握しているから安心してほしい。君にとっては初めての死だったかもしれないけど、今回の場合幸いだったといっていい。あそこで彼のナイフを避けようものなら君は一生付きまとわれていたよ。君たち渡り人は死体が残らないから、彼は君が生きていると知っているだろうけど、すぐには襲ってこないはずだよ。彼は強い人と戦うことを生きがいとしているからね。』
なるほど、ナナさんは仕事が入ってしまったからここにいないのか。よかった、あの男がナナさんを殺したから化けることができた、なんてことも考えていたから彼が生きていると知れたことはうれしい。
いや、これをあの男が書いて置いていった可能性もあるんだけどね。でもたぶんそれはない、勘だけど。ナナさんは少なくともあの男と同じぐらいには強い。戦った後に私のもとに来たのならば、あの男に傷一つなかったのはちょっと腑に落ちない。回復薬だのなんだの言われたらお手上げだけどね。とにかく何となく大丈夫な気がする。
しかし、あの男バトルジャンキーだったのか。道理で私がナイフで刺されて膝をつかなかったのを見て喜んでるわけだ。私がスキルを手に入れたのを見て、たまらずに襲い掛かってきたのか?結構やばそうなスキルを手に入れたもんなぁ…早く確認しなきゃ。
私は心の予定帳に再度「スキル」の三文字を書き込む。
ナナさんが暗殺のことを知っているのはなんでなんだろう。ギルドに入った時点で何か仕掛けられていたのかな?どちらにせよ把握していてくれるのはあんなことがあった後だと頼もしい限りだ。嫌だったらはっきり嫌だと言おう。きっとやめてくれる。
それと、渡り人との交友ね。まぁ、積極的にかかわる必要はないと思うけど、できた縁は大切にしていきたいと思う。レイド戦とかあるかもしれないしね。
私はナナさんの手紙をインベントリにしまい。(「ナナからの手紙」という固有アイテムだった。すごい。)報酬である装備を手に取った。
『暗殺初心者の外套』
暗殺初心者のための外套。伝統的に先輩や師匠より譲り受ける。
初心者に限りその力をサポートする働きがある。
フードを被ると顔を隠すことができ、所有者が認可しない相手に顔を見ることをできなくさせる。(プレイヤーに限る)
外套の内側には、複数のポケットがついていて、小物をしまうことができる。
おお、かっこいい。
外套は綺麗な黒に染められていて夜に溶け込むにはちょうどよさそうだ。
内側にポケットもきちんと備え付けられており、もらった爆弾のサイズに調節されている。説明文に譲り受けるって書いてあるから元々はナナさんのなのかな。だったら爆弾がぴったりなのも頷ける。
このフードの顔隠し機能はフードがついている装備すべてに付与されるみたいだ。おそらくRPやPKをしたい人向けだろう。私の暗殺にも有効なのでありがたく活用させてもおう。
説明文を見終わった私は、早速外套を装備をしてみる。
少し大きそうに見えた外套は私が両袖を通すと、すっと私のサイズに縮んだ。
うんサイズは自動で調整されるみたい。私の毛色にもあっていてびしっと決まっているんじゃないかな。皮鎧とかの軽い装備がまだないけど外套があるだけで全身のバランスが整ったね。報酬とはいえ本当にありがたい。
よし!それじゃあちょっとスキルと掲示板を確認して休憩しよう。
初日から色々ありすぎた、またゲーム内で朝になったらログインして行動し始めよう。大体現実で3時間ぐらいたったらログインかな。
メニューの電子時計を見て休憩時間を決めたら、私は掲示板とスキルを確認し始めた。
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『ジャイアントキリング』:自身のステータスと相手のステータスに大きな差がある時、保持者の能力を上げる。
『暗殺の才能』:暗殺の才能を得る。暗殺に関わる全行動の経験値が上がりやすくなり、すべてのスキルが強化される。
『称号:暗殺者』
暗殺を成功させたものへの称号。
闇に紛れ獲物をしとめるその姿はターゲットを恐怖のどん底へ叩き落す。
暗殺系スキルが取得できるようになる。




