9,暗殺の余韻
*この先は今までのストーリーのネタバレが含まれています。
まだ1~9話をご覧になっていない方は閲覧しないことをお勧めします。
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第8話においてストーリーの若干の変更を行わせていただきました。
変更箇所として「ウサギを倒した魔法使い」を「熊」に変更させていただきました。
変更した理由はストーリー展開上問題が生じるためです。
第9話部分の女性プレイヤーの発言は変更しないのか、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんがあちらは既定路線なので問題ないです。
この度は急な変更、誠に申し訳ありませんでした。
『レベルが上がりました!』
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チョコ Lv3 ↗
種族:獣人(猫)
HP:14/14 ↗
MP:7/7 ↗
力:6 ↗
守:6 ↗
速:11 ↗
頭:4 ↗
器用度:1
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「嗅覚」:Lv1 「聴覚」:Lv1
「暗殺の才能」:Lv1 「ジャイアントキリング」:Lv1
「集中」:Lv1 「本気」:Lv1
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称号:暗殺者
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や、やった……やってやったぞ!!!!!!
「うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
私は青白い粒子の中で、雄たけびを上げた。
さいっこうの気分だ!晴れて私は暗殺者!正真正銘の暗殺者だ!!
フィルター機能を使っていない人からすると、血まみれの女がハイになっているかなりまずい画ずらなのだが、私にはそんなこと関係がない。
今までどんなゲームをやってきても、敵を倒すことができなかった。もちろん、血を出すことなく敵を倒すことのできるゲームもあったがそんなものは中学生で卒業した。ほのぼのゲーや、まったりゲーも肌には合わず、ただ自分の体質のせいで、楽しそうなゲームを指くわえて…いや、目をふさいでみることもできなかった。だからこそ、今、この瞬間は。ゲームで敵を倒すことのできたこの瞬間は。私にとって何ものにも代え難いものだった。
もう一度あの瞬間を味わいたい。
知ってしまった快楽からは逃れられない。
極限の集中状態から繰り出される必殺の一撃で、敵を屠りたいという欲求が止まらない。
誰か、だれかいないか。私のこの欲を満たしてくれるモノは。
「やっぱり、君をギルドに誘って正解だったよ。こんなにも早く才能を開花させてくれるだなんて。」
高ぶっていた私の体に冷や水をぶっかけるような、飄々とした声が響く。
「ナナさん…」
ギルドで別れたはずのナナさんが、ニコニコと軽薄な笑みを浮かべながら現れ、こちらに近づいてきた。
私が極度の興奮状態にあったからだろうか、ナナさんに声をかけられるまでその存在に気が付かなかった。
ナナさんはこちらを一瞥すると、煽るような笑みを浮かべる。
「おやぁ…、さっきまであれほど闘争を望んでいたというのに、自分より強くて自由な相手を前にしたとたん随分と大人しくなるじゃないか。」
そう言って、ナナさんはクスクスと笑う。
「っ…!い、いえそもそも私はそんな戦闘狂みたいなこと思ってません!さっきここに来たばかりなのに何を言っているんですか?」
正直、私がずっと見られていたことは、ナナさんの先ほどの発言で予想がついている。だが、それでも乙女があんな姿を見られてごまかさないわけにはいかない!
あと、「弱い者いじめしかできない雑魚」って暗にいわれたのも恥ずかしいし悔しい。しっかりしろ成人女性。自分ぐらい律しろ。
私が羞恥と戦っている間もナナさんは微笑みながらこちらを見ていた。
「ふふっ、まあ、今はそのぐらいでいいと思うけどね。殺すことを躊躇する人間だっているんだから。
それと比べれば君は凄く優秀さ!なんせ一つの命を奪ったにもかかわらず次の殺しを考えているんだからね!!」
ナナさんが柄にもなくケタケタと笑い声をあげながら、私を嘲る。
ぐぅ!!ゲームなのに命を奪ったことに言及してくるのか。リアルなゲームだから後味の悪さがすごいぞ!運営が戦いを許容してるていうのに!FPSだって敵を倒してすぐ別の敵を狙うじゃないか!
ナナさんの言葉に対するカウンターを持ち合わせてはいるものの、彼の言葉は私の良心を傷つけるにあたいするものだった。
が、同時に私はこのナナさんの調子に違和感を覚えてしまった。
いや、言ってること自体はナナさんも言いそうだし、私にダメージを与えてはいるんだけど、ここまで意気揚々としてないでしょナナさんは。一番ナナさんの感情が揺れ動いていたのは私の勧誘をした時だぞ。あの時も品性は失っていなかったし。
目の前のナナさんは何がそんなに面白いのか、いまだに、ニヤニヤとしながらこちらを見ている。
このニヤニヤ顔もそうだ。ナナさんのニヤニヤ顔はこんなに下品じゃなかったはずだ。
「あなた…、ほんとにナナさんですか…」
半信半疑だけど、思い切って投げかけてみる。この人が本物のナナさんだったとしても、このぐらい笑って許してくれるはずだ。案外何かの試験だったりして―――――――
「あれぇ?気づいた?やっぱりばれるもんだねぇ~!!」
ナナさんに化けていた何ものかは、一切の粘りを見せることなく偽物であることを認めた。
っちょ、まじですか…。いきなり敵キャラ登場?まだサービス開始一日目だよ?いや…暗殺者ギルドの先輩って可能性もあるのか。だったらナナさんに化けて出てきたのにも頷ける。
どちらにせよ警戒するに越したことはないので、数歩ほど後退する。
「僕とナナは性格が真逆だからねぇ…、ばれるとは思ってたけどこんなに早いとは思わなかったよ。すごい!すごい!」
男はナナさんの体で小さく拍手を送ってくる。
どうしよう、敵か味方なのかがわからないから警戒が解けない、情報が足りなすぎる。何かこの人の素性を知る情報が欲しい。
「どうして、ナナさんに化けていたんですか。」
なんでもいいから情報を得ないと!とりあえず聞きたいことは全部聞いてしまえ。会話の中で何かわかることがあるかもしれない。
「えぇ~?それは僕とナナが知り合いだからだよ?知らない人のまねをするなんて無理だよねぇ?」
男は口元に手を当て、首をかしげる。
ナナさんの顔でそれをやると、間抜けに見えるからやめてほしい。笑っちゃう。
「なんで、私の観察をしていたんですか。」
「そりゃあ、ナナの奴が新しい人間をスカウトしたって聞いたからどんな奴なのかなって思ったからだよ。」
男は両手を挙げて「何を言ってるの?」と言わんばかりのジェスチャーで、再び首をかしげる。
なんだそういうことか、そりゃ新人が入るとなれば気にもなるよね。
というか、うちの情報伝達速度早すぎない?私がナナさんと出会って半日立ってないよ?他のメンバーはギルドから出払ってるんじゃなかったの―――――――――
「なぁんてね」
目の前の男が踏み出したと同時に、腹のあたりに違和感が生じた。
目線を下げ、自分の腹を見るとそこにはナイフが突き刺さっていた。
「ぐっ…」
ナイフが腹から抜かれ、私はよろよろと後ずさる。
「へぇ!腹を突かれて、そんなに血が出ても膝をつかないのかい!」
男は再び手をたたいて称賛する。
今、一体何をされた!?速すぎて刺されたのがわからなかった。こんな速さ、序盤のプレーヤーじゃありえない!
明らかに高レベルNPCであろう男は私を見て満面の笑みを浮かべている。
倒れなかったのだってゲームの機能がきちんと働いたからだ。
見えないほどの速さを持つ男に命狙われてどうやって逃げればいいんだ!!
思わず悪態をつきたくなるほどにこの男と私の強さはかけ離れている。
しかも、体は大ダメージ時の行動デバフかなにかか、刺された痛みや出血のエフェクトはないが動きずらい。
この状況でこいつから逃げる?無茶いうんじゃない!そんなのできるわけないだろ!今はもうこいつに大人しく殺されるか、気まぐれで見逃してもらえるかのどちらかしかない!
くそっ!こんなことなら新しく手に入ったスキルをちゃんと確認しておけば―――――――――
「それじゃあ、バイバイ」
男のひと振りと共に、私の視界は真っ黒に染まった。
*前書き部分と内容は全く同じです。
*この先は今までのストーリーのネタバレが含まれています。
まだ1~9話をご覧になっていない方は閲覧しないことをお勧めします。
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第8話においてストーリーの若干の変更を行わせていただきました。
変更箇所として「ウサギを倒した魔法使い」を「熊」に変更させていただきました。
変更した理由はストーリー展開上問題が生じるためです。
第9話部分の女性プレイヤーの発言は変更しないのか、と思われる方がいらっしゃるかもしれませんがあちらは既定路線なので問題ないです。
この度は急な変更、誠に申し訳ありませんでした。




