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お昼過ぎ。遊佐が気配を読む事で魔物に遭遇する事なく森を抜け出し、地面のことを森の入り口にいた警備兵に報告した。その際、警備兵には無断で森の中に入ったことを咎められたものの隆彦はなんとか誤魔化して先へと進み、森から少しだけ離れた場所にある学園の前にいた。


「……この先が学園の敷地内なんだけど思えば関係者以外立ち入り禁止なんだよな…入れていいのかな?」


隆彦は学園の入り口である大きな扉やその扉の両側にある高い塀を見て難しそうな顔をする。


「…編入とかないのか?」


一度扉を見た遊佐は隆彦へと目を向ける。


「編入?」


隆彦は聞きなれない言葉なのか首を傾げる。


「学園に途中から入ってくる奴はいないのか?」


遊佐はじっと隆彦を見つめる。


「うーん…そういうのはないかな?大人子供関係なく少しでも魔法の適性があれば春にある入学式を待って一斉に入ってくる感じだから」


隆彦は首を傾げるのをやめて顎に手を当てて少し考えたあと、口を開く。


「…まあいいか。怒られたら怒られただ」


隆彦は顎から手を離し、その手を扉へと当てた。すると扉の枠が光り、自動でゆっくりと開き始める。


「さ。入って入って」


扉が完全に開き切ったのを見た隆彦は遊佐たちへと目を向ける。遊佐たちは隆彦に言われるがまま学園の敷地へと足を踏み入れた。だがその瞬間、けたたましい警報音が辺りに響き渡る。


「ゆ、遊佐さん…」


警報音を聞き、その煩さに思わず両手で耳を塞ぎ、立ち止まる遊佐。そんな遊佐の服を世愛は不安そうな顔をして掴む。


「侵入者だ!侵入者!」


その音を聞いて一番早く駆けつけてきたのは世愛と同い年くらいの顔立ちがよく似た少年と少女で二人は遊佐たちの姿を目にするなり、同時に声を上げる。


「侵入者は排除だ!」


少年が警戒するように遊佐たちを見つめ、声を上げると少女は魔法を放とうと杖を構えて目を閉じ、意識を集中させ始めた。


「ま、待ってください!こいつらは敵じゃありません!」


そんな二人を見て隆彦は慌てて声をあげる。


「警報音が鳴った時点でこの侵入者は敵だ!敵は排除しなきゃならない!…ね?雨」


少年は隆彦に向かって反論すると少女、雨に向かって同意を求める。


「ファイアーボール」


雨が同意するように唱えると先程、瑞樹が放ったものよりも大きな炎の塊が杖から出現し、真っ直ぐ遊佐たちへと向かっていく。それを見てギュッと目を閉じる世愛に対し、冷静に対応しようとした遊佐は警報音の煩さを我慢しながら片手を耳から離した。そして相殺してしまおうとその手で懐から拳銃を取り出し、向かってくる炎の塊に照準を合わせて引き金を引いた。すると銃口に青色の魔法陣が出現し、そこから水を纏った水色の弾が飛び出した。弾は炎の塊に当たるなり大量の水となって飲み込むように炎の塊を消失させたが、水は消えずにそのまま真っ直ぐ少年たちへと向かっていく。


「っ」


それを見た遊佐は珍しく表情を崩し、しまったという顔をして焦ったが水は少年たちの目の前にあった見えない壁にぶつかり、亀裂を入れたあとで消えてなくなってしまう。


「っ…よくも僕がはった結界にヒビをっ!」


水がなくなった事で表情を戻し、内心ホッとした遊佐に対して見えない壁…結界に亀裂が入った事で少年は怒りを露わにする。


「申し訳ない。警報は誤作動によるものなんだ。だから余計な戦闘は避けてくれないか」


少年の怒りを感じて雨は魔法を放とうと目を閉じた時、青年が一人姿を現した。青年は遊佐よりも頭一つ分、身長が高く細身で仮面をつけていた。


「で、でもこいつは僕の結界を!」


少年は苛立ったように青年へと目を向ける。


「雷様。君がこの学園に多額の寄付をしてくれる家の一人娘の従者だ。私的な理由で戦闘をし、万が一負けたとなれば姫咲さまの名を汚すことになりますよ」


青年は少年のことを雷と呼び、真っ直ぐ見つめる。


「それはだめ…行こう。雷」


目を開けた雨は雷の手を掴んで引っ張る。


「くっ…行くよ」


雷は悔しそうに表情を歪め、雨の手を引いて足早にこの場から去っていった。


「…失礼した。警報は本来、魔物にしか反応しないんだが、誤作動のせいでとんでもないことに巻き込んでしまって…彼らはそれぞれ攻撃魔法と防御魔法に長けた使い手で学園内で右に出る者はいないんだ…怪我はなかっただろうか?」


雷たちを見送った後、青年は遊佐たちへと目を向ける。


「ない」


遊佐は小さく首を振り、拳銃を懐にしまうとその手で塞いでいない方の耳を塞ぐ。


「それはよかった。この度は誤作動による警報のせいでご迷惑をおかけした。誤作動は学園の雑用係である僕が直しておくので気にせず中へ…おや。君たちは見たところ学園の関係者ではなさそうだね。いったい何の用なのかな?」


青年は遊佐を見て首を傾げる。


「事務員さん。この人たちは…」


だが遊佐は何も答えず、直せるなら早く直してこの音をどうにかしてくれとじっと青年を見つめていた為、代わりに隆彦が青年を事務員と呼び、経緯を説明する。


「なるほど…でも申し訳ない。急に入学することはできないんだ」


経緯を聞いた事務員は申し訳なさそうに答える。


「…そうか。なら仕方がない。帰るか」


遊佐は食い下がることなく素直に受け入れ、事務員へと背中を向ける。


「っ…待って待って!せっかくきてくれたんだし、部屋を用意するから入学までそこに滞在するといい」


事務員は慌てたように声を上げる。


「いいのか?部外者だが」


遊佐は事務員へと目を向ける。


「そこは問題ない。だからここにいてくれないだろうか?」


事務員は遊佐を見つめ、首を傾げる。


「…わかった」


遊佐は小さく頷いたあと、事務員へと体を向ける。


「よかった。妹さんを連れて帰るのは大変だからね」


事務員は遊佐を見て安易する。


「案内するからついてきてくれるかい?」


そしてその後直ぐに事務員は遊佐へと背中を向けて歩き出し、そんな事務員のあとを遊佐は一定の距離を保ちながらついていく。世愛は一度、隆彦へと頭を深々と下げた後直ぐに遊佐のあとを追い、隆彦はそんな三人の姿を見送ったあとでその場から立ち去ったのだった。



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