4
朝食を終えた遊佐たちは世界を渡り、森の中を歩いていた。
「…そういえばなんで森の奥に向かって走ってたんだ?魔物の巣窟なんだろ?」
辺りを見渡していた遊佐は不意に世愛へと目を向ける。
「魔物を見れば追ってきた人たちは逃げていくんじゃないかなって思って何も考えずに奥へ…今思えば危険な行為でしたね」
前を見て遊佐の隣を歩いていた世愛は遊佐へと目を向け、苦笑する。
「なるべく危険な行為は避けろ。俺は戦えない」
遊佐は世愛から視線を外す。
「わかりました!なるべく気をつけ…遊佐さん?」
世愛がなるべく気をつける言いかけた時、急に遊佐は立ち止まった。そしてこれ以上前に進むなというかのように世愛の前に手を出したのである。
「……魔物ですか?」
立ち止まり、不安そうな表情で世愛は遊佐のことを見つめる。
「いや…人の気配だ。しかも複数」
遊佐は近くにあった樹に隠れるように立ち、その先を見つめると少し離れたところに少年と少女が一人ずついて、二人はまるで隕石が落ちたかのように凹んだ地面を見つめていた。
「あの凹みは…」
自分を追っていた者たちではないことに安易しつつ遊佐の後ろに隠れていた世愛は、こっそりと凹んだ地面を見つめる。
「あれは昨日、エリザベスが作ったものだ。あいつは世界を渡る時、稀に空に出現することが多いからな…それよりもあそこにいる二人の会話に耳を傾けるぞ」
遊佐は世愛の疑問に応えた後、耳を済ませ始める。
「昨日、凄い音がしたから来てみたけど凄いわね。これ…」
少女はしゃがみ込み、観察するように地面を見つめている。
「きっと魔物の仕業だな!これだけ凄いと大型の仕業かな?被害が出る前に仕留めないと…」
少年は探しに行こうと動き始める。
「待ちなさい!隆彦!」
少女は少年のことを呼び止めようと名前を呼んだ。
「なんで止めるんだよ。瑞樹」
少年、隆彦は足を止めて少女、瑞樹へと目を向ける。
「だって大型が通ったにしては周りの草木がそんなに乱れていないんだもの。魔物や隕石のような物が落ちてきた可能性もあるけど隕石なら残っているだろうし、魔物なら地面を見る限り死ぬまでには至ってはいないにしても負傷しているはず…でもその痕跡がないわ。だからこれは力強い魔物が出たって可能性が高いわ」
瑞樹は周囲を見渡した後、隆彦へと目を向ける。
「おお!流石は瑞樹だな!」
隆彦は納得し、にっこりと微笑む。
「隆彦が馬鹿なだけよ。周りを見れば分かることでしょう?少しは頭を使いなさいよ」
瑞樹は馬鹿にしたように隆彦を見つめる。
「俺、戦うことしか能がないからそういうのは瑞樹に任せるよ」
隆彦は馬鹿にされてもニコニコしている。
「あたしがいない時のことを少しは考えなさいよ…」
瑞樹はそんな隆彦を見て呆れる。
「大丈夫。ずっとそばにいるから」
隆彦は突然、真顔になって瑞樹を見つめる。
「っ…馬鹿なこと言ってないで行くわよ!あたしたちは授業の一環で森に立ち入ることを許可された学生なんだから…今、複数の魔物に出会したら厳しいわ」
瑞樹は頬を赤く染め、それを隠すかのように隆彦へと背中を向けた。そして足早に歩き出したのである。隆彦はそんな瑞樹のあとをにこにこしながら追い始める。
「…エリザベスが魔物扱いされてる・・・まぁ百キロ以上あるにも関わらず、やらかしたから仕方がないのか」
瑞樹たちの姿と見送った遊佐は遠い目をする。
「え!百キロ以上もあるんですか!」
世愛はエリザベスの華奢な体つきを思い出し、驚きの声を上げる。
「ああ。そのお陰で動きはゆったりだが力が強すぎる。そして少しでも動きに勢いがついたら急には止まれない。そのせいでよく物を破壊する」
遊佐は昨日の扉の件を思い出し、呆れた顔をする。
「なんでもご存知なんですね」
世愛はそんな遊佐を見てにっこりと微笑む。
「無駄に付き合いは長いからな」
遊佐は昔のことを思い出し、苦笑する。
「そう、ですか…」
呼べば直ぐ来るし、喧嘩するほど仲が良いともいうし、二人は恋仲なのでは?と思った直後、急に胸が締め付けられて世愛は胸に手を当てる。
「……魔物?」
遊佐は何かに気が付き、瑞樹たちが向かった方向へと目を向ける。
「っ…魔物ですか?」
何故胸が締め付けられたのだろうと俯き加減で考えていた世愛は、遊佐の声に反応して胸から手を離しつつ顔をあげて不安そうな顔で遊佐を見る。
「ああ。人の気配とは違うから恐らくそうだ」
遊佐は小さく頷き、答える。
「さっきの人たちが向かった方向ですね。大丈夫でしょうか?」
世愛は遊佐の視線の先を見てとても心配そうな顔をする。
「この森に入ったってことは身を守る術くらい知ってるだろ。俺がいかなくても問題ない」
遊佐は瑞樹たちの安否などどうでもよさそうにしている。
「ならいいんですけど…」
世愛は瑞樹たちが向かった先を心配そうに見つめ続ける。
「……だが魔物がどういったものか興味がある」
遊佐はそんな世愛をチラッと見たあと、口を開く。
「それじゃ…」
世愛は期待に満ちた目を遊佐へと向ける。
「行ってやってもいい。たださっきも言ったように俺は戦えないから危険だし、あいつらにとって足手纏いになる可能性がある。それでも行くのか?」
遊佐は世愛へと目を向け、じっと見つめる。
「…何か出来ることがあるかもしれませんし、足手纏いにはなりませんよ!いざとなったらエリザベスさんです!」
世愛は少し考えたあと、真剣な表情で遊佐を見つめる。
「エリザベスだってそこまで暇じゃないんだがな…まぁいい。今回みたいにこっそり見る形をとろう…で、やばそうだったらエリザベスな」
遊佐は小さく息をついたあと、瑞樹たちが向かった方向へと歩き出す。
「ありがとうございます!」
世愛はにっこりと微笑み、遊佐のあとを追ったのだった。
続きが気になるという方は下の評価ボタンで評価、ブックマークなどしていただけると励みになります
また感想や誤字脱字の報告も随時受け付けていますので、よろしくお願いします