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次の日の朝。情報収集を終え、帰ってきた遊佐は休む事なくキッチンで朝食の準備をしていた。


「良い、匂いがします…」


そこへぬいぐるみを片手に抱えた世愛がもう片方の手で眠たそうな目を擦りながら朝食の匂いにつられて現れる。


「起きたか。おはよう。もうすぐサンドイッチとスープが出来る。そこにある樽の中にある水はついさっき川で汲んできた綺麗な水だ。それで顔を洗って着替えてこい。服はエリザベスが作ってくれた物がソファーの上に置いてある」


遊佐は手を止めて世愛へと目を向け、樽を指差す。


「おはようございます…わかりました…」


世愛は眠たそうに挨拶をし、樽へと近づいた。そしてぬいぐるみを置いた後で世愛は目が冴えるまで顔を洗い始めたのである。


「う…」


目が冴えるまで顔を洗ったお陰で眠気がなくなった世愛だったが、顔についた水滴のせいでちゃんと目が開けられずにいた。


「…ほら」

 

遊佐はそんな世愛の手の近くに未使用のタオルを差し出す。


「あ、ありがとうございます」


世愛はタオルを受け取り、顔を拭き始める。


「着替えたらお手伝いしますね!」


そして顔を綺麗に拭き終えた世愛は遊佐にそうつげるとぬいぐるみを持って着替えに行ってしまう。遊佐はそんな世愛を見送った後、朝食作りを再開する。


「お待たせしました!お手伝いします!」


動きやすく可愛らしい服へと着替え、ぬいぐるみをソファーの上へと置いていた世愛は慌てた様子で戻ってくる。 


「…もう出来た」


皿や器にサンドイッチやスープを綺麗に盛りつけた上で使った物を全て片づけ終えた遊佐は世愛へと目を向ける。


「っ…手伝いもせずにすみません!」


世愛は申し訳なさそうに深々と頭を下げる。


「最近ゆっくり眠れていなかったはずだし、寝る子は育つって言うだろ?だから気にする事ない」


遊佐は世愛から視線を逸らすと朝食をトレイの上に乗せ始める。


「私が運びます!」


そんな遊佐の行動に音で気がついた世愛は慌てて頭を上げ、遊佐へと駆け寄った。そしてトレイの上に全て載せた後でそのトレイを両手で持ち、歩き始めたのである。


「っ…きゃ!」


だが急いでいた為、足元を見ていなかった世愛は本に躓いてしまい、トレイを持ったまま前へと倒れ始めるが、世愛のあとを着いてきた遊佐が片手をお腹に回す形で世愛の体を支え、もう片方の手で料理が落ちないように支えてくれた為、回避される。


「っ…あ、ありがとうございます」


体に触れられ、ビクッと体を震わせる世愛だったが直ぐに助けて貰っただけだと理解して遊佐へと目を向け、お礼を言う。


「いや」


遊佐は世愛をちゃんと立たせてから世愛の手からトレイを取るとテーブルに置き、料理を並べ始める。


「え、あ…」


慌てたように遊佐の手伝いをしようとするが全て遊佐が終わらせてしまった為、世愛は申し訳なさそうに俯いてしまう。


「…食え」


遊佐はそんな世愛に向かって声をかける。


「はい…」


世愛は俯いたままソファーへと腰掛ける。


「…ってあれ?エリザベスさんは食べないんですか?」


次からはちゃんと手伝おうと思いながら顔を上げた世愛だったが、食事の席だというのにエリザベスの姿がないことに気がつき、辺りを見渡す。


「あいつは人形だから不要だ。それと今いないのは用事があって帰ったからだ。明日以降の服も後から持ってくると言っていたし、何かあった時には遠慮なく呼んでくれて構わない。手が空いていたら駆けつけると言っていた」


遊佐はテーブルを挟んで世愛がいる反対側のソファーに腰掛ける。  


「そうなんですね…」


世愛は挨拶や服のお礼がしたかったと落ち込んでしまう。


「……悪かったな」


遊佐はそんな世愛に向かって軽く頭を下げる。


「え?」


世愛はどうして謝られるのか分からず、困惑する。


「…大人で男の俺と二人っきりになるよりも女には見えるが人形のエリザベスと二人っきりの方が安心できるだろ?」


遊佐は頭を上げ、世愛へと目を向ける。どうやら遊佐は世愛が落ち込んでいる理由を勘違いしているらしい。


「ゆ、遊佐さ…」


「だが万が一の場合は担ぎ上げたりすることがあると思う。そこは頑張って耐えてほしい」


世愛が否定をしようと口を開いた時、遊佐はその声を遮って真剣な眼差しで世愛を見つめる。


「…大丈夫ですよ。触られたりすると反射的にビクってしちゃうけど遊佐さんは私を助けてくれた恩人です。だから遠慮なく担ぎ上げてください!」


世愛はそんな遊佐に向かって柔らかく微笑んだ。


「そ、そうか…あ、そうだ。食いながらでいいから俺の質問に答えてくれるか?」


世愛の微笑みを見て遊佐は軽く目を見開き、動揺するも直ぐに頭を横に振って目を細め、世愛を見つめる。


「はい!いただきます!」


世愛は大きく頷き、手を合わせた後でサンドイッチを手に取る。


「チビがいた世界は魔物の脅威に晒されていて魔法を使って駆除しているであっているか?」


遊佐はじっと世愛を見つめる。


「ふぁい」


世愛はサンドイッチを口一杯に頬張りながら肯定するように頷く。


「事前に情報収集にいた時に読んだ本に書いてあった通りか…だが結構な時間、人探しで歩き回っていたが魔物になんて遭遇しなかったな」


遊佐は器を手に取り、スープを一口飲む。


「それは恐らく森にしか出ないからだと思います」


世愛は口にあるものを飲み込んだ後、答える。


「森って俺たちが出会ったあの不気味な森か?」


器をテーブルの上に置いた遊佐はサンドイッチを手に取る。


「はい。魔物の被害を最小限に抑える為、森の周囲に結界を貼っていると聞きました。あの森にしか魔物は出ないらしいので…ただ稀に結界を破って街などに出現するらしいです」


世愛は知っている情報を素直に話す。


「……結構な本を読み漁ってきたけどそんなこと書いていなかったな…まあいい。今日はこの後、森に行って調査をしよう」


サンドイッチを食べようとした遊佐だったが、何を思ったか食べずに皿の上へと置いてしまう。


「食べないんですか?」


そんな遊佐を見て世愛は不思議そうな顔をする。


「ああ」


遊佐は小さく頷いた後、器を手に取って一気にスープを飲み干す。


「あ!もう行くってことですね!出来るだけ早く食べます!」


なぜ食べないのだろうと疑問に思った世愛だったが直ぐに自己完結してサンドイッチを頬張り始めたのだった。


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